連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』77杯目(ちゃるめ/糀谷)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」の元メンバー・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。

  

〜第17シーズン:大田区(77〜81)〜

  

綱の手引き坂46を卒業した京子だが、事務所移籍まで暫く時間が空いていた。そんなある日、三ノ輪の基地に集まった2人にYouTubeスタッフの大石田から話があった。
「芝居をメインでやりたいと言っている京子さんですが、歌の上手さを手放す訳にはいかないと思います」
「そうだよね。山崎育三郎さんや昆夏美さんみたいなミュージカルスターになれる可能性もあるし」
「タテルさんも他人事のようですが、今年こそはスターになりたいんですよね?せっかく歌が注目されているのに」
「まあ…」
「タテルくん、はっきりしなさい」
「だからこの期間は2人とも歌を集中的に鍛えましょう。この部屋だとカラオケ室でしか音出せないので、1週間違う場所で缶詰めになりましょう。今回大田区からラヴコールいただきまして、こちらに行ってもらいます」

  

「大鳥居?」
「セカオワじゃん!」勘の良いタテル。
「ライヴハウスで共同生活…憧れてたやつだ!」
「なんと今回はclub EARTHを特別に使わせてもらえるとのことです!」
「いいのそれ⁈」
「え待ってclub EARTHに1週間寝泊まりするっていうこと?」
「あそこライヴハウスだよね?住む場所としてはどうなんだ?」
「個室なし風呂なしです」
「マジかよ…」
「でも近くには銭湯があります」
「神田川みたいでエモいね、タテルくん」
「そうだけど…いいのか京子?せっかくの充電期間なのにプライベート無くなるんだぞ」
「私は仕事がしたい。休みもほしいっちゃほしいけど、長すぎると不安になる」
「さすが仕事人間。頼もしいや」
「2人にはぜひセカオワの気分を味わってもらいたいと思います」
「楽しむぞ!」

  

合宿初日、京急大鳥居駅にスーツケースを引き摺る2人の姿があった。
「何か私たち、変な目で見られてたよね」
「スーツケース持って京急羽田線乗っておきながら、羽田空港まで行かないのって冷静に考えたら変だよね」

  

合宿所であるclub EARTHは大鳥居駅から徒歩5分程の住宅街にある。地下にあり、セカオワメンバーの手によって防音加工もなされているから気にせず音を出せる。そして合宿における課題が発表された。
・既存の曲から7曲を完璧に歌い上げること。曲目は任せるが、男女3曲ずつ+デュエット1曲を目安に。
・そのうち過半数は大田区ゆかりのアーティストの曲を選ぶこと。
・2人のオリジナルデュエットソングを1曲作ること。
・いつものYouTube活動も滞らせないこと。大田区にはラーメンの名店がたくさんあります。

  

「最終日には配信ライヴを行います。それまでにしっかり仕上げてください。歌唱指導については特別講師が2日目より合流します。今日の15時までに曲目を全て決めて共有してください」
「特別講師って誰だ?怖い人やめて…」臆病なタテル。
「パワハラは嫌だけど、ある程度厳しい人の方が良いかな。言うことは言ってほしい」
「まあ京子と一緒なら頑張れる気がするよ」
「よし、じゃあ荷解きしたらラーメン食べに行こう」
「もう?まあ喉潤してから練習した方がいいか」

  

合宿所から最も近いラーメンの名店は、蒲田方面へ歩いて約1km、糀谷にある「ちゃるめ」である。平日だったので少しの待ちで入店することができた。

  

ラーメンが来るまでの間、2人は曲目を考える。

  

京子
まずは明菜さん。他のアーティストさんの曲も歌いたいから1曲だけに絞りたいけど、何がいいかな…
あと調べてみたら松本伊代さんも大田区なんだ。あの曲、可愛らしいよね。歌いこなしたい。

  

タテル
セカオワは高校時代の時にハマったんだよな。今の曲も良いけど、RPG辺りの有名になり始めた頃の曲が好きだな。
マーチンさんも名曲多いよな。まあそろそろ京子と本格的なお付き合いになりそうだから、アレ歌おうかな。
後はダジャレだけど大森といえばミセス。難しい曲であればあるほど燃える。

  

歌いたい曲をあれこれ考えていると、ラーメンはすぐやってくるものである。昔懐かしの醤油ラーメンかと思いきや、麺をすするとキノコっぽい旨味が竜巻のように入ってくる。味玉の黄身を溶かしたスープは小魚のおつまみみたいな旨みを含んでいる。

  

チャーシューは盛りだくさんではあるが硬さが目立つ物も多い。チャーシュー丼も薄味で、ここはスープを楽しむべき店だと感じた。

  

「店主の背番号27ってどういう意味なんだろう」京子がふと気になる。
「憧れの野球選手とかいるのかな?聞いてみようか」
「これは店の開業日(2月7日)ですね。初心を忘れない、という思いを込めています」
「素敵ですね…」
「私たちも初心忘れないようにしないとだね」
「そうだね。調子乗らないようにしよう」
「合宿のモットーは『楽しんで歌う』こと。歌が好きだった少女時代を思い出して練習したいと思ってる」
「俺も楽しみだな。どれだけ歌が上手くなるか」

  

合宿所に戻った2人は早速曲目を決定し自主練を始めた。
♪YOKOHAMAにある遊園地の…
「これはセカオワの曲?」
「そうそう。唯一無二のファンタジーが好きなんだよね。秘密基地でライヴを創り上げる、というシチュエーションにぴったりかな、と思って」
「良いと思う。後はこれをどれだけ磨き上げられるかだね」

  

その他の曲も含め楽しく歌っていると、あっという間に夕食時を迎えた。
「夜ご飯はそんないらないかな。コンビニで何か買ってくるくらいでいいと思う」
「そうだね。俺も最近夜ご飯あまり食べたいと思わなくなってきた」
「合宿でタテルくんはどれだけ痩せるでしょうか、なんてやってもいいかもね」
「2,3kg落とせるといいな」
歌えなくなるといけないので酒は当然禁止。近くのミルク瓶コンビニでおむすび2つだけ買い夕食とした。その後も気が済むまで歌い込む。

  

「意外と寒い。夜はまだ冷えるね」
銭湯への道すがらでは、作詞作曲の方向性を決めるミーティングを行う。
「やっぱ俺ら東京の子だから『東京○○』みたいなタイトルの曲にしたいね」
「ちょっと古臭くない?」
「幅の広さを見せたいんだよね。絶唱系だけじゃなくて穏やかな曲も歌いこなせるんだ、っていう」
「なるほどね。作詞は2人で考えてやろうか。作曲はどうしようか…」
「とりあえず口ずさんでみて、機材入ったら形にしていこう」
「了解!」

  

2人同じ空間にて寝るのは初めての経験であった。
「俺いびきうるさいかもだけどごめんね」
「いびき?まあ我慢できると思うけど」

  

「ああもううるさい!やっぱ無理!」
「何騒いでるんだ。我慢できるって言ったじゃん」
「限度がある。もう最悪、地獄すぎる」
「じゃあお互い見つめ合って寝よう」
「…あんま変わんないと思うけど」
「いいからいいから!」
その後2人は平和に眠れたようである。

  

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