連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』74杯目(長男、ほそのたかし/江古田)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。グループ卒業を控えた京子の歩みを振り返り、未来への希望を探しに行く。

  

「京子さん、タテルさん〜」
「ミク⁈」
「今授業終わってお昼ご飯食べに行こうとしてました」
「じゃあ一緒に行こうよ」
「俺達これからつけ麺食べに行くんだ。江古田ですごい有名な店」
「知らないですね…でもお2人がお勧めする店ならきっと美味しいはず!」
「行こう行こう!」
「はい!あでもちょっと待ってください、1つやりたいことがありまして」
「何だろう?」
「2人の写真、撮りましょう」
「おっ!写真学科生の腕前が見れる!」
「いやいや、まだアマチュアですから。でも一生懸命撮りますよ!」

  

まずは京子とタテルのツーショットを撮る。構図に拘りを見せ、愛用のデジタルカメラとフィルムカメラで美しい瞬間を切り取る。そこへ写真学科の教員がやってきた。
「先生、お疲れ様です!」
「ミク、そこはそうじゃない!もっとこうして!」
「はい!」
「構図もこっちじゃない!そっちの方がもっと美しい!…あ、ごめんなさい、熱くなってしまった」
「いえいえ」と言いつつ嫌そうな顔をするタテル。
「その方は…ミクと同じグループの京子さんですよね」
「はい。ミクがいつもお世話になっております」
「グループの特別アンバサダーを務めておりますタテルです。ミク、厳しい指導によくついていって、頑張ってるなぁって感心しました」
「そうなんです。厳しく指導はしていますが、彼女は努力家で芸術センスもある。未来の名カメラマンと一緒のグループにいたこと、誇りに思ってくださいね京子さん」
「ありがとうございます…」目を潤ませる京子とミク。

  

その後も教員の指導を受けながら京子のソロショットを撮るミク。さらに教員も一肌脱ぎ、京子とミクのツーショット、3人の集合写真を撮影する。
「ミク、よくやった〜」
「ありがとうございます!」
「現像もしっかりな〜」
「はい!」

  

江古田駅南口に移動し、商店街にあるつけ麺の名店「ほそのたかし」に到着。13時過ぎであったが外待ち5名。食券を購入して待機席に座るが、案内板が妙な場所に置かれており行列の先頭と最後尾を取り違えてしまう。落ち着いて考えれば列は店の外に向かって延びるべきだとわかるのだが、ちょっと不親切な案内に思えた。

  

「京子がこうやって後輩と仲良くしているなんて、推し始めた頃は思いもしなかった。いっつも仲間とは別の席でサンドウィッチ貪り食ってるイメージだった」
「コードブルーの藍沢先生じゃないですかそれ」ミクがツッコんだ。
「バレた?」
「タテルくんったら、ずっと私のこと藍沢先生みたいだって言ってくるんだよ」
「でも言われてみれば似てる気します。イケメンだし、つっけんどんに見えて身内思いで」
「ミクちゃんまで何よ。嬉しいけど」
「嬉しいんかい!」

  

太麺で12分の茹で時間があるため、行列が短くても回転は悪い。結局20分待って入店し、さらに麺の茹で上がりまで10分待つことになった。クラフトビールも気になるが、健康のため我慢するタテル。

  

薬味。ラー油とネギはスープに馴染むが、鰹節ペーストは下手に酸味を立ててしまい意外と合わない。

「ミクさ、京子は一匹狼だ、って俺散々言ってきたけど、初期の頃とかメンバー内ではどんな扱いだった?」
「それはそれは憧れの先輩で」
「その割にはイジってくるよね。収録終わりから荷物まとめるまでが早すぎるとか」
「それはイジられて当然だよ。イジられた時の顔、満更でも無さそうだよ」
「え〜ちょっとやめてよ〜」
「京子さんよく1人でいて、畏れ多くて話しかけづらかったんですよ。でも他の先輩方が『気軽に話しかけて大丈夫だよ』と言ってくださって」
「京子はドライではないんだよね、ちゃんと皆のこと見てくれている」
「そりゃ素晴らしい仲間だから」

  

漸くつけ麺が仕上がった。太麺は噛むと小麦の豊かな風味が広がる。某つけ麺店店主は「麺だけ食うなんて馬鹿の所業だ」とかほざいていたが、小麦の香りを楽しむ権利は平等に保証されている。
チャーシューは麺に直載せであるが脂は溶け出していないため問題無し。フルーティな脂に焦げがばっちり決まっている。

  

麺を濃厚なスープに絡めると、魚介が香った後鶏・豚のコクが麺に纏わりつく。ただ濃いだけでなく、動物性と植物性の良さを両方活かせているところがハイレヴェルである。

  

「美味しかったです」
「ミクちゃんすごいね。1人で長男盛500g完食するなんて」感服する京子。
「よく食うよな。それでいて太らないし」羨むタテル。
「その分動きますからね」
「えでも私すぐ太るんだけど」
「ちょっと太るくらいいいじゃん。お相撲さんくらいまで太るのはアレだけど」
「アイドル辞めたら踊る機会減るから、激太りしないか心配」
「ならラーメンは1日1杯にしよう。俺も最近2杯はきつくなった。今度は胃腸を壊すよ」
「そうだね。普通に考えたらその通りだ」

  

その後3人は写真を現像するため三ノ輪の基地に向かった。慣れた手つきで作業するミク。
「一度打ち解けてからは何でも悩みを聞いてもらえるようになりました。そして、京子さんの方から食事にお誘いいただくことも増えました」
「俺にはできない。偉いな京子」
「私もこれほどまで仲間を大切に思ったこと、なかったと思う。6年、8年も苦楽を共にする仲間ができるなんて信じられなかった」
「京子さん…」

  

現像が終わり、晴れ晴れしい写真の数々が現前する。
「すごいなミク、完璧だよ、エモい!」
「ありがとうミク。ああ、寂しくなってきた…」
「私もです…」
「皆と普通に会って普通にふざけ合えるのももう僅かか…」
「俺も胸騒ぎが止まらない。今まで感じたことない感覚。卒コンではきっと、涙涸れるくらい泣くんだろうな」

  

卒業写真を目の前に、3人は暫く動けないでいた。来てほしくない別れではあるが、京子の決めた道だから、ミクとタテルは全力で送り出すことを心に決めている。卒業コンサートまで残り6日の出来事であった。

  

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