連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』66杯目(びぎ屋/学芸大学)

グルメすぎる芸人・タテルと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のようなお話。

  

〜第15シーズン:東急沿線〜

  

ある日、スタッフの大石田に呼び出された2人。
「明日から密着入ります」
「密着⁈何の?」
「聞いて驚かないでください、NHKのプロフェッショナルです!」
「嘘でしょ⁈」
「俺らでいいの⁈」
「明日から2週間くらい、YouTube撮影風景、お二人の日常にカメラが入ります。ありのままの自分をさらけ出してください」
「画になるかどうかわからないけど、やってみるよ」

  

カップルラーメンユーチューバー『僕たちはキョコってる』。人気女性アイドルグループ・綱の手引き坂46のエースメンバーとして活躍する佐藤京子と、お笑いコンビ・ガンダッシュのボケを担当する渡辺タテル。2人の息の合った掛け合い、そして真剣にラーメンを語る姿が人気を集め、チャンネル登録者数は50万人を突破。まずは2人の動画撮影の様子をご覧いただこう。

  

「今日の自腹を懸けた対決は、愛してるゲームです!」
「いいね。最近流行ってる」
「めっちゃやりたかったやつ」
「お互い目を見つめて『愛してる』と交互に言ってください。先に表情崩れた方が負け、自腹となります」
「京子すぐゲラ入りそう」
「タテルくんだってすぐとろけそう」
「これは泥仕合になりそうだ」

  

「では京子さんからスタート!」
「愛してる」
「愛してる」
「(指でハートを描いて)愛してる」
「(崩れかけながら)愛してる」
「(囁くように)愛してる」
「あ、あぁ…」
「タテルさんの負け!」
「タテルくん受け身すぎる。張り合いなかったよ」
「京子に『愛してる』なんて言われたら何もできなくなるよ」
「仕方ないね」
「勝負には負けたけど、京子と愛してるゲームできるだけで俺は勝ちだ」

  

この日は学芸大学駅東口から5分ほど歩いたラーメン店を訪れる。
「タテルくんってこの辺よく来るの?」
「あんまり来ないな。中目黒か自由が丘行っちゃう」
「タテルくんそういうところお洒落だよね。ファッションにももうちょっと気遣わない?」
「そうね…」
「まずは洋服のバリエーション増やそう。探すの手伝うから」
「ありがとう…」

  

店に着いたところで、タテルからスタッフにお達しがあった。
「ごめんなさい!カメラは一旦ここまでで!私達は食べている様子を一切映しません!」
2人はあくまで普通の客としてラーメンを味わいたいと云う。20分ほどして出てきたタテルが、カメラの前で改めてその心を語る。その語り口はいかにも東大卒らしい、理路整然としたものであった。
「先ほどは突然のシャットアウトでごめんなさい。理由をちゃんと説明しますと、まず料理というものは出来立てをなるべく早く味わうべきであるということ。そして、大抵の方々は当然カメラも無い状態でフラッと入って、特別扱いされることもなく食べるわけじゃないですか。視聴者の皆様となるべく同じ条件で食べたい、ということでこのシステムをとらせていただいております」

  

撮影基地に戻ると、タテルはスマホにしたためたメモを基に動画で喋る内容を洗い出す。撮影したラーメンの写真を用意し、いよいよラーメン解説パートの撮影に臨む。主導権を握るのはタテルである。

  

「はい、ということでこちらのラーメン食べてきましたけども、食レポの前にまず店の雰囲気どうでしょう京子さん」
「あまり気取らない店だな、と思った。テーブル席もあったし」
「そうね。4人くらいまでなら友達と行きやすいお店だと思う。大学生がちょろっと行けそうなね」
「なぜ大学生限定?」
「まあ誰が行ってもいいんですけど。で注文のシステム、食券制で並ぶ前に購入です」
「ちょっとヒヤヒヤするよね。買っている間に事情知らない人に抜かされそうで」
「ラーメン屋ではよくあるシステムなのでちゃんと心得ましょう。ゆず白醤油スープへの変更などは直接店員さんに支払いです」
「タテルくんゆず白醤油にしたよね。どう、追加料金100円まで払って食べたお味は?」
「悪いことしたみたいな言い方やめろ!めっちゃ美味しいよ。こういうのって柚子が強すぎること多いけど、白醤油のコクもしっかりあるから変な酸味の尖りとかなく自然に飲めた。麺と合わせてもコクが張り合いバランスが取れているし」
「美味しそうだね。せっかくタテルくんが払う回だったから私もそうすれば良かった」
「でしょ。京子のノーマルラーメンはどうだった?」
「美味しかったよ。(略)」
「豚チャーシューは赤身もバラも厚みと弾力があり食べ応え抜群。鶏チャーシューは柔らかいけど豚と比べると弱いかな…」
「そう?私は全部美味しかったけど」
「まあ色々意見はありますからね。しらすご飯も頼みましたが、自慢するだけあってしらすの旨味が感じられます」
「あれ?タテルくん渋い表情してなかった?」
「ああこれね、個人差だとは思うんだけど、魚介の直後に肉を食べると肉の臭みを感じやすいんだ」
「そういえばそんな癖あったねタテルくん」
「何だよ『癖』って…」

  

2人に、動画撮影に対するこだわりを訊いてみた。
「僕はどうしても評論したくなってしまう人間なんで、そこはもう責任持ってやってます。客観的に論を組み立て、良くないところは良くないと言います」
「タテルくん細かいことうるさいからツッコんであげてる」
「京子が俺を軽くあしらうことによって、マイナスなこと言ってもどんよりしない。伝えるべきことは伝えたいけど、自分の好きな店貶された死ね、とか思われるのも嫌。あくまでもショーですから、観てて嫌になるような動画にはしない」
「私も長年ハッピーオーラ振りまいてきましたから、視聴者の皆さんには楽しんでいただきたいと思ってます」

  

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