グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共97年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。
泣きながら八幡山駅へ歩いて行くタテル。声を上げてわんわん泣いていたため通行人たちが好奇の目でタテルを見てくる。
一方その頃、綱の手引き坂メンバーはいつもと違う京子とタテルの振る舞いにやきもきしていた。
「ヒヨリちゃん、最近タテルくん元気ないよね」
「グミさん、私も思ってました。明らかにやつれていますよね」
「正直ちょっとお酒くさい」
「相当嫌なことあったんでしょうか」
「京子と何かあったんじゃない?あれだけ仲良しの京子と、会っても全然話してない」
「そういえば京子さん、この前タテルさんに話しかけられていたのに気づかないで私のところ来ましたね。京子さん、わざと無視するような人じゃないと思うんですけど…」
「そうだよね。気にしすぎないようにしようか」
八幡山駅に辿り着いたタテルは次の目当て「しろくろ」を訪れる。店周辺はスペースが狭く行列を成せないため、整理券を取り近くのスーパーで時間を潰す。呼び出し状況をスマホで確認できる現代的なシステムであり、他のラーメン屋も見倣うべきだと思う。
この店の主力商品「汐そば」は出汁だけでなく身も使用した貝好きのための一杯。美食家のくせして貝を好まないタテルは「節そば」を選択した。鰹節や鯖節など6種類の節から出汁をとる。それはそれで、節ベースのラーメンは麺と絡まないだとか、最近近所の町中華が中華そばのスープを鰹節ベースに変えて味落ちたなとか余計なことを考えるタテル。
しかしこの一杯はそんな不安を払拭した。多種多様な節が考えられて配合されているから、旨味がちゃんとあるし麺ともしっかり絡む。具材は全て隔離されているから、しっかり出汁に向き合うことができる。フライドオニオンや香味油の味変は邪道に思うかもしれないが、変化があった方が最後まで美味しく食べられるしスープにもちゃんと合っているのだ。
そして店主は物腰が柔らかく、店内は暖かな安心感に包まれている。抑えていた涙が再び溢れ出した。
「またラーメン2杯も食べたの?」
家に帰ったタテルは母親に注意されていた。
「アンタさ、健康診断で悪い結果出てたよね」
「だけどさ…」
「だけどじゃないでしょ!中性脂肪も悪玉コレステロールもγ-GTPも基準値以上。まだ若いんだから気を遣いなよ」
「…」
「しばらくラーメンは控えるんだね」
身体と精神の健康を保つため、京子およびラーメンYouTubeとは距離を置くことに決めたタテル。綱の手引き坂46全メンバーに対し、京子の前でタテルの話題を持ち出すことを禁止した。それでもさよならくらいは言いたかったから、タテルは京子とのミーグリを申し込んだ。
「京子!」
「あ、こんにちは〜」
「…」
タテルは二の句が継げなかった。誰にも見せない姿を見せてくれていた京子はそこにおらず、ただのファンと同じようにしか接してくれないことに衝撃を受けた。
「あのさ、俺らとく…」
ここで時間切れ。特別な関係性は完全に断たれていたことが証明されてしまった。かつて親友が恋に破れた時、タテルは慰めつつも、失恋で落ち込む気持ちを理解できず心の何処かで馬鹿にしていた。しかしいざ同じ気持ちを味わうと、馬鹿にした自分を殴りたくなるくらい、辛いことを実感した。
「もう恋なんてしない」
タテルはウォッカを呷り心の穴を塞ぐ。
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