連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』41杯目(七彩/八丁堀)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共97年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

「今日の対決は『ワード当てゲーム』!」
「待ってました!」
「京子さんの大好きな心理ゲームですね。孤独なタテルさんには馴染みのない」
「余計なこと言うなよ、大石田さん」
「話し手の方はくじ引きで選ばれた3つの指定ワードを盛り込んだエピソードトークをしてください。解答者はそれを聞いて、その3つの指定ワードをズバリ言い当ててください。例えば、指定ワードが『星空』であれば、『星』とか『星空のディスタンス』ではなく『星空』と正確にお答えください」
「めっちゃ得意です私」
「京子の言うこと全部ウソくさいからな。まあやってみようじゃないか」

  

まずは京子が話す。
「私って運動音痴だとかインドア派みたいなイメージあると思うんですけど、意外と体動かすの大好きなんです。休み時間は体育館で眼鏡かけた女の子と肋木で対決したり、放課後は近くの公園でみんなで鬼ごっこしたり缶蹴りしたり。である日かくれんぼしていたら、何とお札が落ちていて!いきなり樋口一葉ですよ?樋口一葉。ね?びっくりしません?」
「ツッコミどころ色々あるな。でも絶対に京子の口から肋木とか樋口一葉とかいうワードは出てこないだろ。アホだから」
「やめてそれ。私そこまでバカじゃないから」
「いや出ないね。あと『眼鏡かけた女の子』もとってつけた感がある。ハシヤスメみたい」
「さあどうでしょう」
「よし、『眼鏡』『肋木』『樋口一葉』でお願いします!」
「では京子さん、タテルさんが何個正解したか発表してください。ワードは発表しないで!」
「正解は…0個です!」
「マジかよ…」
「タテルくんまだまだね」
「クッソ…絶対に騙しきってやる!」

  

続いてタテルのトーク。
「京子さんが1つも答えられなかった場合はサドンデスとなります。どちらかが交互に1つずつワードを言い、先に1つでも当てた方が勝利です」
「よし、サドンデスに持ち込んでやろう」

  

「突然だけど、京子ってUFOの存在信じてる?」
「信じてない」
「俺ね、見たことあるんだよ。宵の口郵便局行った帰り、振り向いたら碁盤の目状の無機質な物体が空に浮かんでて、でも再び見ようとしたら消失して」
「いやいや、疲れていただけだって」
「あと最近帰宅すると矢鱈と空が光って。稲光かなと思うけど雨雲レーダー確認したら雷のマーク無いし。これも間違いなくUFOなんだろうなって」
「何か語彙力ありますアピールしてるんだよな。比較的簡単な言葉が指定ワードだとみた」
「それでは京子さん、お答えください!」
「『UFO』『郵便局』『雷』です」
「…全部当てられた」
「ウソ⁈やった!」
「ああもう!何でバレるんだ」
「よくわからない言葉が多かったから、逆に正解が目立ってたよ。このゲームの指定ワード、そんな難しい言葉ないし。高級なことやろうとするから負けるんだよ、タテルくん」
「悔しい…」
ちなみに京子の指定ワードは「体育館」「かくれんぼ」「お札」であった。

  

「タテルくん、ちょっといい?」
「どうした?」
「タテルくんの人気、どうやったら上げられるか。色々考えたんだ」
「それは嬉しい」
「名付けて『タテルくんイメージアップ大作戦』!」
「わーい!…なのか?」
「タテルくんが多くの人に愛される存在になるように、私が色々プロデュースします!」
「何だよプロデュースって」
「まあまずは痩せなきゃだね。今日は八丁堀まで歩く!」
「は⁈結構あるよ。ひぃ、ふぅ、みぃ…9駅分歩くの?」
「そう。ざっと6kmちょい。全然歩けるね」
「そう言われたらいけなくはないけど」
「私も最近太り気味だからさ、一緒に頑張ろう」

  

残暑厳しい中6km強、主に昭和通りを真っ直ぐ進む。タテルにとっては勝手知ったる道で、京子と喋っていればあっという間に歩ききれた。昼時で内外合わせ10人ほどの待ちが発生していた。
「八丁堀は俺のオトンが生まれた場所だ。いいだろ、江戸っ子だぜ」
「そういえば我らがオーゾウリーのヤスマサさんも築地出身の江戸っ子って言ってた」
「正確には入船だけどね。隣町だよ。江戸っ子仲間だ」
「私も江戸っ子だしね」
「京子は練馬だから違うでしょ」
「どうしてよ」
「江戸は正確には山手線の内側、東側は錦糸町の辺りまで。練馬は全然範囲外」
「ならタテルくんだって、足立区は範囲外じゃん」
「俺はいいんだよ。父方の祖父は台東区根岸の生まれだから。2代続けて江戸生まれだから俺は江戸っ子」
「ふーん」
「興味なさげだな」
「タテルくんイメージアップ大作戦Part2、ダラダラ自慢話しない」
「何よ」
「某グルメサイトの口コミじゃないんだから自分語りは良くない。江戸っ子とか江戸っ子じゃないとかどうでもいいでしょ。私たちは同じ東京生まれ東京育ち」
「そ、そうだな…」
「私だって、名前の中に『とうきょう』って入ってるからね」
「ホントだ」
「私もタテルくんも、東京を愛し東京に愛される人!」
「よっ!」
「まあ私の名前の由来は『京都』なんだけどね」
「ぬぁ⁈」
変な声が出たところで店内に入り食券を買う。

  

「タテルくん、ご飯ものは我慢でしょ」
「ソースチャーハンだってよ。珍しいじゃん」
「歩いた意味」
「じゃあ半分こしよう」
「しょうがないな。いいよ頼んで」
お茶を飲みながら中でもう少し待ち、ようやく着席。ここまで約30分かかった。

  

ソースチャーハンが先にやってきた。京子を説得してまで頼んで良かったと思える絶品。特にチャーシューの脂がとろける瞬間が最高である。

  

町田の一番いちばん以来の喜多方ラーメン。値段こそ高めだが、醤油の美味しさと魚介出汁の美味しさが同居する完成度の高いスープ。チャーハンを食べた後にスープを飲むと、椎茸らしき旨味が立ってまた違う味わいになる。
手打ち感満載の麺は、歯応えある箇所もすぐ崩れる箇所もあってジェットコースターのような食感の変化を楽しめる。肉も少し硬めだが味わい深く、特製にした方がよりこの店の魅力を堪能できるだろう。

  

「美味しかった!」
「タテルくん、カラオケ行かない?」
「えっ?突然だな」
「何か歌いたくなって。タテルくんの歌も聴きたいし」
「行こう…か」

  

〽︎恋が走り出したら 君が止まらない
「タテルくんノリノリじゃん。ストレスでも溜まってた?」
「かもね。職場で同期の子と仲良くなれなくてさ」
「職場でも人気ないんだね」
「なんかすぐ壁作りたくなる」
「気持ちはわかる。慣れてくれば仲良くなれるよ。私も最近になって3期の子達と打ち解けたから」
「そういうもんなんだね」
「焦らなくて大丈夫。次は私の番ね」

  

〽︎You’re everything You’re everything あなたが想うより強く
「うわぁ…やっぱ京子の歌声最高すぎる」
「タテルくんの全てを知りたい。全てを知って、タテルくんを人気タレントにしてあげたい」
「そんな俺のこと想ってくれてるとは。ありがたいよ…」少し泣き顔のタテル。
「この前私の地元来てくれたし、今度はタテルくんの地元行ってもいい?」
「治安悪いけど大丈夫?コンビニ強盗とか日常茶飯事よ」
「でもどっちにしても行かなきゃだし」
「そっか、あそこも百名店か」

  

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