連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』40杯目(銀笹/東銀座)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共97年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

「じゃあ今日の対決は『アブandチェンジ』ですね。オシャレワードを設定して、そのワードの最後の文字から始まる言葉を言い合います。先に3勝した方が勝ち。タテルさんがアブちゃん役なので先攻です」
「これは俺得案件だからな、ストレートで勝ってやる」
「あれだけバカにされたんだから、勝つしかねぇので!」
「最初のオシャレワードは『ラーメン』です。最後が『ん』なので、『メン』から始まる言葉を言い合ってください!」
「いきなり2文字…難しいな」
「よっしゃ、俺勝ったな」
「オシャレース、スタート!」

  

「ラーメン、ラーメン、ラーめんたいこ!」
「ラーメン、ラーメン、ラーメン…」
「京子さんの負け!」
「やっぱり初手で負けた。俺に勝とうなんて百年早い!」
「あぁ、悔しい!何今の『めんたいこ!』の言い方」
「村重のマネ。嬉しげ、楽しげ!」
「びっくりするからやめて。何も考えられなくなる」
「じゃあ服交換タイムね。そのワンピースと…」
「やりません!やるわけないでしょ」
「ワンチャンいけると思ったのに」
「バカなの?」
「バカはどっちだい」
「もう!次は負けないから!」
「次のオシャレワードは『レンゲ』です」
「『ゲ』は難しいね〜」
「オシャレース、スタート!」

  

「レンゲ、レンゲ、レンゲマインシャフト」
「レンゲ、レンゲ、レンゲーム」
「レンゲ、レンゲ、レン芸備線」
「レンゲ、レンゲ、レンゲ…」
「またもやタテルさんの勝ち!リーチをかけました!」
「あぁもうムリ。タテルくんあと50個くらい思いついてるでしょ」
「まぁね。俺を倒そうなんて千年早い」
「どんどん遠ざかっていく。まあいいや、今日は私の奢りですよーだ」
「3つ目のオシャレワードは『おもち』です」
「よぉし、圧勝してやろう」

  

「おもち、おもち、おも中央区」
「おもち、おもち、おもチーズ」
「おもち、おもち、おもち○こ」
「はっ⁈」
「タテルさん、下品な言葉はアウトです」
「言ってないって!『ち○ぽ』じゃないもん『こ』だもん」
「どっちもダメ!失格です」
「ダメなの?」
「ダメに決まってるでしょ。私清楚系アイドルなんだけど。反応に困ります」
「蛭子さん並に好き勝手言ってる京子のどこが清楚系なんだ」
「ちょっとそれどういうこと⁈」
「冗談だよ冗談。次は綺麗な言葉言うから安心して」
「次のオシャレワードは『ココア』です」

  

「ココア、ココア、ココア○ル」
「ちょっと!」
「もう一度言います、下品な言葉はアウト!」
「言ってない」
「言ってたでしょ。しかも明らかにその場所指さしてた」
「確信犯ですね」
「ごめんって。俺足立区民だからさ」
「関係ないでしょ」
「そんなの関係ねぇ、そんなの関係ねぇ」急に小島よしおのギャグをやり出すタテル。
「反省の色ゼロじゃん」
「これで勝負は面白くなってきた。俺に感謝しろ、京子が弱いからわざと負けてやったんだ」
「鼻につく。絶対負けねえ」
「最後のオシャレワードは『メンマ』です!運命のオシャレース、スタート!」

  

「メンマ、メンマ、メン町田」
「メンマ、メンマ、メンマラカス」
「メンマ、メンマ、メン摩周湖」
「メンマ、メンマ、メンまくら」
「メンマ、メンマ、メンマンガリッツァ豚」
「メンマ、メンマ、メンまりも」
「メンマ、メンマ、メン松任谷由実」
「…ストップ。えーっとWikipediaに依りますと、人名はアウトです」
「は?聞いてないよ」
「私がルールブックですので。タテルさん自腹決定です」
「好き勝手した罰だね。カッコ悪いよタテルくん」
「ダメだ俺…全裸になろ」
「やめなさいって。何もかも失うよ」
「あぁ…」

  

悲愴感丸出しのまま日比谷線に乗り込むタテル。
「タテルくん、強がってるけど本当は悩んでるでしょ?」
「何のことよ」
「人気がないこと悩んでるでしょ」
「それはそうだけど」
「タテルくんのことなら何でもお見通しだから。隠さなくていいよ」
「怖いよそれ…」
「私、タテルくんのこと何とかしてあげたい。恋仲ではないけど、たった1ヶ月差で生まれたタテルくんと出会えたのって運命じゃん」
「同い年のよしみ、ってやつか」
「何『よしみ』って」
「縁のある繋がり、ってとこかな」
「難しい言葉使わないで。一緒に番組やりたいとか、イベントやりたいとかいう夢があるんだ」
「いいじゃん。やりたいね冠番組」

  

東銀座の駅から汐留方面へ歩くこと10分弱。あっさり系ラーメンの名店「銀笹」に到着。少し遅めの時間に行ったため待たずに入ることができた。向かい合わせに席につく2人。
「何でもお見通しとは言ったけど、タテルくんのこともっと知りたいな」
「いいよ。何でも聞いて」
「じゃあ、キュンとする女性の仕草は?」
「靴を脱ぐ女の子、好きだな」
「どういうこと?」
「座って作業している時、2割くらいの人が靴脱ぐのよ。見ちゃう。靴脱ぐ瞬間から足ブラブラさせたり地面につけたり。椅子の上に正座してくれたらもうサイコー」
「何それ。気持ち悪い」
「もちろん本人には気づかれないようにね」
「そういう問題じゃないって」
「あと髪束ねる所作も好き」
「それ先に言いなよ」
「まさにこの瞬間。ラーメン食べるぞ、と意気込んで髪を束ねる京子、いいねぇ」
「恥ずかしい。でもそれは共感できる」
「よし、じゃあそのサンダル脱いで」
「それはしません!」

  

ラーメンがやってきた。魚介出汁を中心に、少し動物性の出汁も加え若干濁ったスープ。期待しすぎたためか思っていたほど旨味がなく、麺との一体感にも乏しかった。チャーシューも綺麗に焼けてはいるが芸術的な解け具合ではなかったようだ。

  

小皿に盛られた謎の物体。緑のものはあおさ?粒状のものは…齧ってみても謎のままだった。〆の鯛飯も惰性で貪るだけになってしまった。
「何もかもわからなかった」最後まで悲愴感を漂わせるタテル。
「俺って本当人気ないよな。ちょこっとテレビに出ただけで調子乗ってしまった。先が見えなくてつらいよ」
「急にどうしたのよ。そんなネガティブにならなくてもいいじゃん」
「何で愚痴ばっか吐くアカウントが俺よりフォロワー多いんだ!何で鍵アカの方がインスタのフォロワー多いんだ!何で迷惑系YouTuberが俺より人気なんだ!何が正解なの?わからないでいるよ!」
「落ち着いてよタテルくん。でも正直にさらけ出してくれてありがとう。それがタテルくんの本音でしょ」
「うん…」
「私だってもどかしいよ。タテルくんが評価されないの」
「え…」
「タテルくんとYouTubeやっててすごく楽しい。だからずっと一緒にいてほしいんだ」
「京子…」
「当たりキツいとか反省しないで。私ってイジってもらってナンボじゃん。タテルくんとフトーフロさんくらいだよ、私を私でいさせてくれるのは」
「そう思ってもらえるとありがたいな…」
「あとはそのことをどう視聴者さんにわかってもらうかだね。よし、基地戻りながら考えよう」

  

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