連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』35杯目(くろ喜/浅草橋)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

ある日、いつものように基地のあるマンションに入ったタテル。入口から養生テープが敷かれており、他所で引越しでも行われるのかと思っていたが、それはなぜか自分の基地まで続いていた。部屋に入って間もなく、大きな荷物が搬入される。
「おい京子、何を買ったんだ」
「何って、ピアノだけど」
「ピアノ⁈いつの間にそんな大きな買い物を…」
「ライヴやって思ったんだけど、何か楽器弾けるといいなって」
「だからってグランドピアノにしなくても」
「どうせやるなら本格的にやりたい」
「ってか自分の家に置けばいいじゃん。そうすればいつでも練習できるのに」
「スペースがない」
「京子の家、石神井で5本の指に入る豪邸でしょ」
「何言ってるの?豪邸じゃないから」
「飽きるなよ。京子すぐ飽きそうだから」
「私そんな飽き性じゃない!」

  

ピアノの搬入を終え、ラーメン自腹を懸けた対決。
「今日最初は謎解き早押し対決!3問用意してあるので、2問先取した方が勝利です」
「俺の得意分野だ」
「ナメないでくださいよ。私も謎解き得意です」
「京子はアホだから無理だろ」
「勉強と謎解きは雲泥の差です」
「『雲泥の差』って…」

  

結局タテルが2問連続で即答し京子を圧倒した。
「ねぇタテルくん、少しは考える時間ちょうだい」
「手加減はしないよ。答えがすぐ見えてきちゃうからね」
「鼻につく〜!」

  

久しぶりとなる京子の奢り。今日の店は秋葉原と浅草橋の中間地点にある「くろ喜」である。平日の昼間だが7,8人ほどの行列。
「それにしても、誰にピアノ習うの?」
「誰がいいと思う?」
「決めてないのかよ。随分無鉄砲な」
「ムテッポウ?何それ?」
「そこ突っかからなくていいから。んー、誰がいいんだろう?」
「カルビちゃん」
「無理無理、忙しい」
「『CHOJO』で優勝した四条畷さん」
「だから無理だって。もっと庶民っぽい人にしなよ」
「天才ピアニスト」
「それは芸人さん」
「いや、清塚さんのつもりで言ったんだけど」
「もっと無理だわ!1億積んでも来てくれないよ」
「じゃあ誰がいいの?」

  

「いいこと思いついた!」スタッフ大石田が提案する。
「今ピアノ系YouTuberがアツい。良さげな人を選んでコラボ動画撮ってもらおうよ」
「いいかも!」
「初心者が上達していく過程見せるのも面白そうだし」
「大石田さん、それでいきましょう!」
「わかった、交渉は任せとけ」

  

20分ほどしてようやくありつけたラーメン。和風だしのスープに生姜を溶かしながらいただく。塩味が麺によく絡む、優しくて美味しいラーメン。しかし食べ進めるに従い単調に思えてくる。

  

サイドメニューとして焼売も頼んでいたタテル。これが肉感あってかなり美味しい。おまけに油飯まで頼んでいて、ペースト状の肉に玉ねぎの旨味もあって箸が止まらない。
「タテルくん、私の奢りだからって調子乗りすぎ。どんだけ頼むのよ」
「その前5回連続で払わされたからいいでしょ」
「…もう1軒行くからね、食べきれないとかなしよ」

  

次の店への道すがら。
「でもピアノ弾けるようになると楽しそうだよね」
「うん。自分の気持ちを音に乗せて伝えられる」
「表現の幅が広がるよね。役者としても一皮剥けるんじゃない?」
「そうだね。よし、ピアノの練習頑張るぞ」
隅田川を前に、新たな才能の開花を誓う京子。天才ピアニストへの道を一歩踏み出した。

  

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