連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』30杯目(よしかわ/西台)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

ラウンドツーに着いた一行だが、30分経ってもタテルは現れない。
「何で遅れてるの?」エイジが送信する。既読はついたが返信は来ない。
「そらみたことか。アイツはすぐ気変わりする」呆れる大石田。
「タテルくん、もう会いたくないのかな…」落ち込む京子の目には涙があった。
「とりあえず撮影許可はいただいたので、京子1人でスポッチャオを…」
「嫌です。1人で楽しいわけがない」
「じゃあエイジさんも参加して…」

  

「ごめんなさい!」
「タテルくん!寂しかったよ!」涙に溢れる京子。
「タテル君、良くないぞ。まず遅刻の理由から聞こうか」
「お腹痛くなって、赤羽からのシャトルバスに乗り遅れました」
「遅れるならちゃんと連絡しようね。で、何で京子のこと無視してた」
「実は最後に会った後、汗だくすぎて電車内でキレられたんです。そこからメンブレしてしまって…」
「でも何か一言言わないと。京子、寂しがってたよ」
「それは本当にごめん。俺みたいなケガレが京子姫といたら不幸になると思って」
「タテル君、自分を下げるなって何回言えばわかるんだ!」
「汚いなんて一言も言ってない。むしろそうやってすぐ消える方が汚い」
2人して詰められるタテルは、不倫を犯したタレントの如く俯いたままだった。
「顔上げろ。君の大好きな京子だ。顔見てあげな」
「はい…」
「やっと目が合ったね」
タテルの目にも、光るものがあった。

  

「じゃあ早速対決やりましょう。負けた方が自腹、というルールですが、エイジさんは参加します?」
「俺は節制してるので大丈夫です」
「じゃあオブザーバー参加ということで」
「わかりました!」
「タテルくん、オブダーバー参加って何?」
「オブザーバー、ね。俺らのゲームには参加しないけど、観客としていてくれる、っていうこと」
「へぇ〜。エイジさん、楽しんでくださいね」

  

ラウンドツーのスポッチャオは内容盛りだくさん。様々な対決案が思い浮かぶ大石田。
「じゃあここで一気に5本撮りしようか」
「え、マジ?」
「でも面白そうじゃん。タテルくん、負けないからね」
「俺だって、全部勝ってやる!」

  

・バランススクーター対決
「これは私の得意分野。家にあるからね」
「でも最近乗ってないでしょ」
「そ、それは…」
「京子って飽きっぽいよね」
「それは関係ない。この勝負はもらったんだぞ」
いざ勝負が始まると、タテルは恐怖で足がすくみ動けず。京子の圧勝である。

  

・キックターゲット対決
2人ともサッカーは苦手。的に当たるどころか、ボールが浮く気配すらなかった。
「なかなかの泥仕合」
「いつ決着つくのかな…」
心配になる大石田とエイジをよそに、京子が的に当てた。
「また負けた!京子、もってるなぁ」
「タテルくんが下手すぎるだけでしょ」
「お互い様だろ…」

  

・バブルサッカー対決
「ちょっとタテルくん、ぶつかって来ないで」
「コントロール効かないんだって!玉蹴れないよコレ」
またもや泥仕合となったが、すってんころりの繰り返しで画にはなる。最終的に京子がゴールを決め勝利した。

  

・ゴーカート対決
「俺は免許あるから勝てるな」
「ナメないでください。私だってスズカから運転の仕方教わってるから」
「でも京子、危ないから運転させられないって皆に止められてるんでしょ?」
「うるさいね、早く勝負しよう」
タテルがしばらくリードを保つも、終盤で京子が一瞬逆転した。タテルは再び抜かすと進路妨害を始め、ゴールした後サングラスをしてゴーカートから降りてきた。
「おい!俺を抜かすとは大した度胸だな」
「タテルくん何やってるの…」
「窓を開けろ」
「窓なんてないでしょ」
「いいから早く!」
「煽ったので、タテルさんの反則負け!」
「は⁈おかしいだろ」
「おかしいのはタテルくんの方」
「そうだぞ。やってること迷惑系だから」エイジからも注意された。

  

・パンチングマシン対決
「そうだエイジさん、ボクシングやってますよね。お手本見せてください」
「…まあやってみるか」
「えっ⁈460kg⁈」
「ぶっちぎりで最高記録だ」
すると4連敗中のタテルが起死回生の提案をする。
「俺がこの記録上回ったら、今までの負けはチャラね。全部京子に払ってもらおう」
「まあいいけど。どうせ上回れないでしょ」
先攻京子の記録は40kg。そして後攻タテルは、出せる力を全部込めてマシンにぶつけようとした。しかし拳はマシンを逸れ空を切った。前のめりに機械になだれ込むタテル。
「タテルくん、大丈夫?」
「イテテ…何kg?」
「当たってないから0kg。また私の勝ちね」
「勘弁してよ…もう一回いなくなろうか?」

  

「ということでタテルさん5連敗。まあ京子さんを寂しがらせた罰ですね」
「反省します。じゃあもう少し遊ぼうか。エイジさんも一緒にどうですか?」
その後4人は心ゆくまでスポッチャオやゲーセンを堪能し、気づけば16時を回っていた。
「じゃあ俺は撮影あるのでこの辺で。今日は色々とありがとうございました」
「こちらこそ、タテルくんを呼び戻してくれてありがとうございました」
「タテル君、もう京子ちゃんのこと悲しませないでね。また明日、いつもの溜まり場で会おう」
「はい!お疲れ様です!」

  

エイジと別れた一行は1.5kmほど北へ歩き、西台のよしかわに到着した。夕食には少し早い時間だが、通し営業のためすんなり入ることができた。
「ねぇ京子、たまには限定いってもいい?すごく惹かれるんだけど」
この店は海鮮を推している。限定メニューには魚介を使った多彩なラーメンが並ぶ。
「いいよ。好きなもの食べよう。それにしてもタテルくん、汗すぐ引くようになったね」
「あれから皮膚科行って、汗抑える薬もらったんだ。前よりはマシになった」
「表情も心なしか明るくなったね。元気になってくれて良かった」

  

京子が一番人気の白醤油煮干そばを食べる隣で、タテルは限定ラーメン「真鯛白湯そば」を選択した。海鮮よりも肉が好きなタテルを引きつけるだけあって、臭みを抑え真鯛の旨味だけを純粋に凝縮している。具材として載っている真鯛の身も汚れのない立派なものである。

  

「ご飯も食べていい?」
「今日はよく動いたから、いいんじゃない?」
刻み海苔とわさびつきのご飯を濃厚な汁にぶち込む。相性悪いはずがない。わさびが海鮮の旨味を引き立てる。
「堪らなく美味いや」
「私も。タテルくんと食べないと物足りない。もういなくならないでよ」
「うん。じゃあこの後どうする?」
「基地戻ろうか」

  

久しぶりにタテルと京子が揃った基地。撮影と編集をしつつ、2人は3時間ほど語り合った。

  

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