連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』22杯目(卍力/西葛西)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。
2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

この日の夜、タテルはヨシモト∝ホールのステージがあった。しかしいつも以上にスベり倒していた。

  

「ウケなかったの京子のせいだ!マジで腹立つアイツ!」
タテルは楽屋でウイスキーを呷りながら苛立っていた。他の芸人達は、コイツに絡むとろくなことがないと考え、しばらくは黙って演説を聞くことにした。

  

「大体アイツ詐欺メイクなんだよ!」
詐欺メイクという言葉に、湯にbath・はらドーナツが反応した。しかしすぐ目を伏せる。
「『おめめ大きくてカワイイ〜!』なんて言われるけど本当はあんな目大きくないし。この前の特番、メイク失敗してて目も当てられなかったよ!最近肌のノリも悪いし、スキンケアちゃんとやってんのかって」
「お前、さすがにイカれてるぞ!」耐えかねた湯にbath・瀬川素人がタテルに掴みかかる。
「何調子こいてんだよ!ウケなかったのはお前のせいだろ!人のせいにするな!」
「そうよそうよ。大体アンタ、何にもメイクのことわかってないわ。東大出てるのに浅はかすぎる」
「本当の相方・O-JIMA君に対してもそうだけど、相方への接し方が本当にダメ。オメェもう誰かとつるむな。何もかも1人でやれ」
「あぁもう徹底的に叩きのめしてやりたい」理性を失ったタテルは人の話を聞いていない。
「はい出た〜好きな子いじめるタイプ〜、じゃねぇんだよ!」しん猫・田辺農園も切り込む。
「それが許されるのは小学生まで!年甲斐もなくそんな態度とるんじゃねぇよ!」元ヤン一家の出であるしん猫・リアンがタテルを追い詰める。

  

そこに突如、伝説の漫才師が目の周りをぐるぐる擦りながら入ってきた。
「え…南波さん⁈なぜこんなところに?」驚く湯にbathとしん猫。
「いやぁ、『南波、動きます』とか言ったもんだから、たまにはお前らの舞台観に来ないとな、って」
「急すぎますって!今揉めてる最中なんですよ。ここに誹謗中傷のカタマリがいるんです!」
筋骨隆々の金髪坊主を前にタテルは忽ち理性を取り戻し、背筋を伸ばして床に正座した。
「おぅタテル、お前…」
「は、は…」息絶え絶えのタテル。
「めっちゃスベってたな」
「それ言わないでください!」
「お前ほんまスベってた。笑いの偏差値ゼロやな」
「もういいですって、傷抉らないでくださいよ」
「コイツさっきから酒呷って、あるアイドルの悪口ばっか言ってるんですよ!」告げ口する芸人仲間一同。
「酒呷って悪口?別にいいじゃねぇか」
「えっ?」
「傷つけた方が悪いとなんで言い切れる?お前らみたいな中途半端な正義が一番の悪」
「ちゅ、中途半端って…」
「『あるアイドル』言うてる時点でお前らその子のこと全然知らんやろ」
「…」
「タテルはその子のことよく分かって言うとるんや」
「でも常識からして…」
「今『常識』言うた?」
「は、はい…」
「『常識』という言葉が一番嫌いじゃ!」南波の激高に言葉を失う後輩たち。
「いいかお前ら」

  

相手の欠点10個言うて、それでも一緒にラーメンすすってくれたらほんまもんの友達や

  

「一重・目小さい・メイク下手・肌荒れてる…既に4つ言ってますね」冷静に確認するはら。
「並べてみると酷いラインナップだけどな」
「あと6つ考えるんだな。頑張れよタテル」
「はい!ありがとうございます!」
「でもお笑いも本気でやれ。じゃないと渡部みたいになるからな」

  

翌日、タテルは西葛西に独りでいた。地上に地下鉄駅がある西葛西。綱の手引き坂46の先輩・希典坂46がまだ売れない頃寮を構えていた地である。そのことを思い出すだけで、隣に京子のいない寂しさを覚えた。

  

13時半過ぎだというのに結構な待ちがあった。麺にありつくまで20分。インド人の街らしくスパイス主体のラーメン。百名店に載るようなラーメンとしてはかなりの変化球である。
スパイシーにも色々あるが、こちらは酸味の効いたスパイシー。多分インド人は受け付けないスパイシーだ。そのスパイシーさを最大限に纏め上げる麺、そして薄味がかえってクセになるもやし炒めと、最初のインパクトは大きかった。しかし徐々に飽きてくる。スパイシーな料理はしばしば奥行きを忘れる。このラーメンもその1つである。

  

「足りない…明らかに足りない!」
タテルは東西線に乗り都心方面へ向かった。

  

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