連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』19杯目(勝本/神保町)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

「さあ今日の対決は、広辞苑早引き合戦!」
「出た広辞苑、いつも枕代わりにしてた」早速ボケをかますタテル。
「いやいや、絶対翌朝寝違える」
「京子、ナイスツッコミ。いいぞこの調子だ」
「こちらのボックスから紙を1枚引いて、書いてある単語の見出しを見つけてください。早く見つけた方の勝ちです」

  

追う側が有利だと考え、前回の敗者京子が後攻を選択した。先攻タテルのお題は「サプライズ」。
「よーい、スタート!」
「うわめくれねぇ!何だこのぶっとくてツルツルな指は!」
「クリア!記録、30秒!」
「かかりすぎだね。私勝ったわ」
「後攻京子さん、引いたお題読み上げてください」
「…ん?ゲンセツコ?」
「どれどれ。アハハハ、それ『ハラセツコ』って読むんだよ!」
「何それ?新しいポケモン?」
「違うよ、女優さん。もう70年前に引退したけど」

  

「よーい、スタート!」
「綺麗な手だよな。足も手も可愛いってすごいことだよ」負けを確信したタテルは、せめて京子の手捌きを味わい尽くそうとする。
「あれなんだっけ、原ナニ子だっけ?」
「『セツコ』です!」
「ワンチャン俺の勝ちあるぞ」

  

「フィニッシュ!15秒!」
「タテルくん遅すぎ。そんなんで勝てるわけないでしょ」
「もっと痩せなきゃだな…」

  

今回のラーメンウォーク、舞台は神保町。まずはつけめん勝本に、開店10分前に到着した。開店と同時に店に入る。つけ麺が来るまでの間、タテルは京子のアイドル人生について深く訊ねる。
「大所帯のアイドルグループだと、歌よりダンスの方が重視されるよね。それで良かったんだ」
「まあね。子どもの頃、ダンスの先生になるのも夢だったから」
「じゃあアイドルなんて天職じゃん」
「その通り。本当に楽しいもん」
「でも永遠にやっていられるわけじゃないよね。その後の進路って考えてる?」
まるで高校教師のような質問をするタテル。京子は返答に窮し、そのままつけ麺がやってきた。

  

醤油ベースのスープはやはり透き通りがあって、2種類の麺は整然と艶めいて鎮座していた。スープ旨味が濃く清くスープに絡む。細く色白の麺でスープの旨味を味わい、太く黄色い麺では麺自体の美味しさも感じられる。麺の量が多いため、黒七味などで味変しながら食べると良いだろう。チャーシューもまた綺麗な柔らかさである。あまりにも美しいスープのせいか、2人はこの後もう1杯食べるというのにスープ割りして一滴残さず汁完した。

  

次の店に向かう道すがら。
「俺は京子のその綺麗な声が好きだ。やっぱずっと君の歌、聴きたいな」綺麗なつけ麺を食べたタテルは綺麗事を述べた。
「嬉しいな。でも今はアイドルでいたい。アイドルでいることだけを考えたい」

  

NEXT

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です