連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』16杯目(八五/東銀座)

グルメすぎる芸人・TATERUと人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(旧えのき坂46)」のエース・京子。2人共25歳の同い年で、生まれも育ちも東京。
ひょんなことから出会ってしまった2人の、ラーメンと共に育まれる恋のような話。

  

朝8時。タテルは目覚めてすぐLINEをチェックする。
「おはようタテルくん、あなたの負けよ」
「はっ?負け?どういうこと…?」
「今回の対決は『早起き対決』でした〜!」
「ハメられた!なんそれ!」
「早く支度して。すごい行列店なんだからね」

  

東銀座駅を出て、歌舞伎座の前で待ち合わせる。先に待つ京子の前に、隈取を施した大男が現れた。
「もう、タテルくん!何それやめてよ恥ずかしい」
「せっかく歌舞伎座に来るからさ…」
「だいいちアンタ寝坊してるんだよ!メイクする時間あったら早く来てよ」

  

京子と大ボケタテルは喫茶YOU、イマカツ、花山うどんなどの行列店が並ぶ通りを抜ける。そして築地警察の方へ曲がると、ラスボス級の行列が2人を待ち構えていた。
「うぅわ、すごい行列。50人くらいいる」
「ほら言わんこっちゃない。早く来るべきだったのよ」
「並ぶのやめない?」
「これ以上文句言うんだったら帰って!」
「…ごめんよ」

  

約2時間の行列を、配布されたカイロでしのぎながら待つ。食券は前の人が購入して列に戻って来たタイミングで買いに行く。買ってしまったら、もう後には戻れない。タテルの懐にも、寒風が吹きすさぶ。
「オー、リアルカブキヤクシャ!Take a picture!」隈取タテルは、列の大半を占める外国人達に大ウケだった。

  

一方の京子は、とっておきの道具を取り出した。
「じゃん!梅グループのDVDプレーヤー」
「マジ⁈買う人いるんだこれ…」驚嘆するタテル。
「長い待ちには欠かせないアイテムだよ。何のドラマ観ようかな?スタアの恋、だめんずうぉ〜か〜、ギネ…」
「全部藤原紀香。藤原紀香マニアか」
「芸能界の母ですから」

  

ようやく順番が来た。日本料理店のような高級感あふれる内装に、天と地の差を覚える2人。少しよろよろとした爺さんが厨房を回す。

  

タテルは自腹ではあったが、折角の機会だからと、肉飯も注文した。ラーメンが提供され、まずスープを味わおうとするところで肉飯が登場。店主の爺さんは恭しく肉飯の食べ方を説明し始め、タテルは「ラーメンはさっさと食べる」と「人の話を聞く」という2つの正義の板挟みにされる。そこへ京子が叫んだ。

  

「あ!カップラーメンだ!」

  

白い目で京子を見る客。
「おいなんだその感想!どんだけ食リポ下手なんよ。すみません皆さん、この子変なんです」
京子は平気の顔をしていた。実は彼女の言うこともわからないわけではなく、このスープはコンソメのような洋風の仕上がりでわかりやすい。あまりにも化学調味料に敏感な人を除いて、市販の顆粒でできたものとの違いはわからないのかもしれない。

  

隈取タテルは爺さんの話が終わるや否やがっついた。白みを帯びた一流の麺にわかりやすい味のスープが絡み、これを不味いと言う人はまずいないであろう。チャーシューは脂がとろける柔らかさでこれまた一流。この良さは肉飯にて殊に発揮され、肉の味だけでご飯があっという間になくなる。西洋わさびと絡めろ、スープを入れておじや風に、という爺さんの指示なぞ忘れそうになった、いや完全に忘れた。

  

こうしていつも以上に考えを巡らせ食べたのはきっと、2時間という長い空白を埋めるためだったのだろう。2時間と少しあれば新幹線のぞみで東京から京都まで行けるし、逃走中が1本撮れる。そんな長い時間を何もせず待つという罪悪感を打ち消すために、何とかしてこの1杯に込められた「意義」を感じ取ろうとし、正当化する。表面上では隈取という大ボケをかましていたタテルだが、思考は半分哲学的であった。

  

「タテルくん、何ボーッとしてるの?」3分遅れで食べ終わった京子が問いかける。
「あぁ、色々考えてしまって」
「タテルくんの美味しそうに食べる姿が見れて嬉しいな。よし、次行こう」

  

銀座六丁目にある次の店に向かう道すがら、次の対決が行われた。
「次の対決は、『プライベートゴチになります』です!」

  

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