人気女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」の元メンバー・京子と、綱の手引き坂→TO-NA特別アンバサダーを務めるグルメ芸人・タテル。2人がラーメンについて語り合うYouTubeチャンネル『僕たちはキョコってる』が人気を博し、結婚も前提に交際を続けていた2人だったが、最終的には別れを選び、チャンネルも3月末で更新を停止することにした。それでも2人は、最後まで仲良く駆け抜けることを心に決めた。
3月も終わりが近づき、キョコってる解散の時が迫る。上げるラーメン解説動画は残り1本、そして31日には生配信でラーメンランキング発表したと別れの挨拶を行うことにした。
最後に紹介するラーメンは、キョコってると同じく3月末で閉店(定休日の関係上29日が最終営業日らしいが)する早稲田の名店「巌哲」。そこでの自腹を懸けた最後のゲームは、YouTubeの初回でも行った靴下早履き競争である。
「また俺が負けるんだ」
「そう言うと思ってハンデ設けました。京子さんは3回、タテルさんは1回の脱ぎ履きで終わり」
「えちょっと待って、差ありすぎ。絶対タテルくんの勝ちじゃないですか」
「これで勝っても嬉しくないぜ」
「ただしタテルさんだけ五本指ソックスです。そして勿論座っちゃいけません」
「グラグラの体感で緻密な作業…結局京子が有利じゃん」
「くれぐれも諦めて私の素足を眺めることのないように」
「そんな変態ムーヴかまさないよ」
「かましたから言ってんの!」
ゲームを始める。やはり片足立ちが覚束ないタテルは蹌踉いて京子にぶつかろうとする。
「やめてやめてやめて!骨折れる!」
「とっとっと!」
間一髪で躱し事故は回避した。タテルはその後も片足立ちと靴下履きの両方に神経を集中させることに難儀する。
「またよろめいた!おっとっと!」
「今のワザとでしょ」
「ワザとじゃないもん!僕は履けましぇーん!」
「なんで武田鉄矢さんなのよ」
「あなたが好きだから!」
ハッとする京子の手が止まる。その隙にタテルは、さっきまでの苦戦が嘘のように靴下を素早く履き手を挙げる。
「タテルさんの勝利!」
「ずるいよタテルくん」
「急に思いついちゃって。京子への思い叫べて丁度良かった」
「良くない!…ことはないね。好きになってくれてありがとう」
「京子と色々遊べて楽しかった。出逢ってくれてありがとう」
お互い握手を交わし、いつもの仲良しな2人に戻る。
都電に揺られ終点の早稲田で降りる。終点の先へ少し歩くと店が見えてくる。土曜の昼間ということもあり、20人以上の大行列ができていた。
「こうやって行列並ぶことも少なくなるんだろうな。最初の頃はすごく嫌だった」
「タテルくんずっと文句言ってたもんね。とは言いつつ私も30分が限界だったけど」
「今となっては1時間くらい平気だもんね」
「成長したね私たち」
しかし列が進んだところで、食券を買ってから並ぶというルールを知った。列の先頭にはそう書いてあったが、タテルの一秒でも早く列に並びたい衝動により見逃してしまったようである。玄人であれば食券を買うタイミングは必ず確認するものであり、成長してはいるがまだまだ青いまま終わる2人である。
幸い前後の客たちもそのルールを知らず並んでいたため、内々で示し合わせてトラブルを起こすことなく食券を買いに抜けることができた。
入店までは1時間。荷物を置く棚や掛けるフックは足元には無いようで、後ろに上着等と共に掛けておく。すると店員が頻りにそこを往来するので、あまりはみ出してしまうとぶつけられても文句を言えない。

タテルは日本酒を注文していた。久留米の「山の壽」。キリッとした味わいの奥にフルーティさを覚える。

「俺実は3年くらい前にここのラーメン食べた。その時は全然美味しく感じなかったんだよね」
「辛口グルメ批評家時代の話ね。何が良くなかったの?」
「麺とスープがバラバラに思えたのかな。まあ生意気な頃の話だぜ」
「今でもちょっと生意気だけどね」
「それはいいじゃん。若い内は尖っていたい」
「その尖りにすごく悩まされたんだからね私」
「ごめんって」
「大丈夫。そんな怒ってないよ。2人で食べる最後のラーメン、気持ち良く食べよう」

最後のラーメンがやってきた。醤油ではなく肉塩を選択。スープを口にすると、動物系魚介系の出汁よりも塩のエッジを強く感じる。塩ラーメンのあるべき姿であろう。

麺自体にはあまり特徴を感じない一方、たっぷり載った青葱の中に大葉が紛れていて、その香りが良い。肉まみれで疲れた口を癒してくれる。
肉はかなり大きめだが、カチコチにならないよう火入れがなされており、穢れなく肉に喰らいつく悦びを堪能できる。また鮪がひと欠片入っているが、こちらも生臭さ無く硬さ無くの良い火入れ加減。総じて丁寧な漢の仕事である。

替え玉を注文して肉と麺のバランスを保つ。最後の1杯を心ゆくまで味わえた2人。
「すごく美味しかった」
「良かったじゃん。3年越しのリベンジ大成功だね」
「性善説で食べ物に向き合えるようになったのって、まず心優しい綱の手引き坂・TO-NAのみんなに関われたからだと思ってる。その中でも、自分をしっかり持っている京子が俺を引っ張ってくれた。改めて感謝しかないよ京子には」
「こちらこそありがとうだよ、ラーメンの魅力知ってもらえて。タテルくんとだといろんな視点でラーメンの面白さを捉えられる。すごく新鮮で刺激的な日々だった」
「佐野に白河、喜多方ラーメン。飯田商店だって行ってない。京子と食べたいラーメンは未だ沢山ある」
「また一緒に食べに行こうね」
「絶対だよ」
「嘘はつかない」
指切りをして、2人は三ノ輪の家に帰っていった。
巌哲の解説動画は、キョコってる史上初の公開初日100万回再生を記録した。そして2日後の3月末日、ついに最後のライヴ配信が行われる。
「京子です!」
「タテルです!」
「僕たちは〜キョコってる!」
「待ってもう泣きそう…」
「だよな京子。でも最後だからね、ここは耐えましょう」
「そうだね。頑張って耐える」
「さあ最後の生配信ということで、今日は僕たちが今まで食べてきたラーメンの中から、各々ベスト10を発表したいと思います!」
「待ってました〜!」
「今まで紹介してきたラーメンは300杯以上」
「よく食べてきたね」
「増えた体重は…」
「そういうこと言わないのタテルくん」
「冗談でした。このフリップにベスト10を纏めてあります。勿体ぶってもアレなので、早速僕タテルの10位から4位まで、一気にご覧ください!」
10位 かめ囲 特製手打中華蕎麦 醤油
9位 ふじさき 特上醤油らぁ麺(当時)
8位 トイボックス 特製醤油ラーメン
7位 MATSUI 特製醤油
6位 時空 塩そば+味玉
5位 とんちぼ 特製中華そば
4位 麦苗 いりこらあ+上トッピング
「順位つけるのすっごく難しかった。印象に残っているもの中心に、ちょっと思い出補正も入ってるかもです」
「麦苗は特にそうじゃない?」
「TO-NA騒動が治まって初めて一緒に食べたラーメンだからね。感極まりましたよあの時は。まあそれを差し引いても絶品なんですが」
一方の京子のランキングには、チェーン店や身近な店の商品が入っていた。
「それでは私京子の選ぶラーメン第1位は…SKY-HI屋の味噌チゲラーメン!」
「おぉやっぱりそれか。変わらないんだ」
「変わらないね。行列店のラーメンも当然美味しいんだけど、味噌チゲは私の原点だから」
「ブレない京子、やっぱかっこいいや。俺なんてハイソなものしかランキングに入れられなかった」
「それはそれでタテルくんらしいけどね。いろんなランキングがあって良いと思うよ」
「自分らしいランキング、自信持ってお届けします!それでは僕のベスト3をどうぞ!」

3位 鳴龍 担担麺
胡麻の風味を色濃く出しつつ酸味も効かせている。複雑な味わいだけど確かに病みつきになる、唯一無二の担々麺。

2位 鴨福 特製中華そば 醤油
鴨ラーメンは多数あれど、鴨独特の味を出しつつ綺麗な味わいに仕上げる離れ業をなすのはここだけ。麺も特徴的だし具材の食べさせ方も一流。

1位 there is ramen 味玉チャーシュー麺
結局脂ぎったものが好きなんだよね。でも煮干しの味もはっきりあって印象に残る。肉もたっぷり載っているのにもたれないのはスープが良質な証。
「素晴らしい。醤油も塩も煮干も担々麺も入って」
「バランス考えちゃったね。塩だと健やかや成城青果、煮干しだと児ノ木や煮干箱もベスト10候補でした。あ、煮干箱に関してはベストチャーシュー賞を。燻しが効きつつしっとりで、具材としては勿論酒のアテにも最適です」
「そんなのもあるんだ。確かにチャーシュー美味しかったもんね」
「豚1頭分のチャーシューは食べたかもね」
「アハハ!すごいねそれ」
「もっと食べてるかな?わかんないけど!」
「アハハハハ…」
「ゲラ入っちゃった…これがまた京子の面白いとこなんですけどね」
「そしてありがたいことに、ラーメンYouTuberの第一人者・SURUSURUさんから贈り物をいただいております!」
「ありがとうございます!SURUSURUさんはもう憧れの存在で、ラーメンYouTube始めた時から目標にしていたんです」
「直接の交流はね、できていないんですけど、今回こうしてプレゼント貰えるだけでも嬉しいです。気になる中身ですが、なんと、SURUSURUさんプロデュース・つけ麺のスープ皿いただきました!そして手紙が添えられております。京子、読み上げましょう」
キョコってるのお2人へ。キョコってる解散と聞き、同じラーメンYouTuberとして寂しい思いで一杯です。2人が仲睦まじく真剣にラーメンについて語る姿、興味深く拝見しておりました。楽しませてくれてありがとう。
私からお2人に、細やかではございますがつけ麺スープ用の丼、そして箸を贈呈します。ラーメン丼とレンゲは京子さんの卒業記念グッズで制作されたと聞いていたのでそれ以外で。お揃いの器と箸です、離れていてもこれを見て2人で過ごした日々を思い出していただければ嬉しいです。
京子さんはかねてより、ラーメン好き界隈では有名でした。SKY-HI屋の味噌チゲが好き、と聞いて、これはガチのラーメン好きだなと思っていました。今でも味噌チゲが一番なのかな?
タテル君は高級な料理ばかり食べていると聞いていて、ラーメンの良さを理解してもらえるのか、という不安も正直ありました。でも今となってはちゃんとラヲタの顔、してますね。
今後も是非ラーメンを食べ続けてください。そして、別々でも、できるのであれば2人揃って、一緒にラーメンをSURUSURUしましょう。お疲れ様でした!お幸せに!
涙に咽ぶ京子とタテル。
「嬉しい…SURUSURUさんも観て下さっていたんだ…」
「一緒にラーメン啜りたいだなんて光栄です。ありがとうございますSURUSURUさん…」
配信も終わりが近づき、2人はスタッフ大石田、視聴者に感謝の弁を述べた。
「何もわかってない、というお叱りを何度もいただきました。京子とは何度も喧嘩をしました。それでも何者でも無かった自分がここまで歩んでこれた。俺は幸せ者です」
「まさかタテルくんとこうして恋をし、YouTubeをやるとは思いませんでした。2人だからこそ見れた景色、それはとても素敵なものでした」
「まだまだやれるんじゃないの、結婚もすればいいんじゃないの、という声も多数戴いておりますが、お互いの幸せのためこの決断をさせていただきました。でも気分が変わって再結成する可能性は1%から99%のどこかにあります。その時はまた、よろしくお願いします!」
「これにて一旦、キョコってるは解散です。観て下さった皆さん、支えて下さった皆さん、ありがとうございました!」
配信が終わり、荷造りを済ませた京子。明朝には家を出ることになっている。最後だからと一緒のベッドに入った2人だが、どちらも眠れないでいた。
「京子、ドライブでもしない?」
「いいよ、行こう。2人だけの時間、少しでも長く過ごしたい」
2人の生まれ育った東京を、京子の運転でドライブする。スカイツリーは深夜の点灯を取りやめて久しいが、東京タワーは煌々と光っていて、湾岸線、そしてお台場の夜景はもうすぐ離れ離れになる恋人同士の心に深く沁みる。海浜公園に車を駐めてレインボーブリッジを眺める。
「車でいろんなとこ出かけたよね。まさか京子が運転するようになるとは」
「私が一番信じられなかったよ。みんなから反対されてたもん」
「京子の知らない一面を見られて面白かった。恋ってこんなに楽しいもんなんだね」
「私も楽しかった。これ以上の恋、きっと味わえないと思う」
「そうだな。10年20年経っても、おじいちゃんになっても、この恋が一番楽しかったと言うと思う」
「タテルくん、私やっぱり別れたくないよ…」
「えっ?」
タテルの頭の中に一瞬の迷いが生じる。別れを切り出したのは京子の方からであり、自分には少なからず未練がある。もしここで自分が額面通り受け取って「別れるのやめよう」と言えば、このまま2人で居続けられるし絶対そうした方が自分にはプラスとなる。しかしキョコってるは完結した。今さら破局を撤回するのも格好が悪い。タテルはグッと堪えて京子を窘める。
「俺も別れたくない。でもダメなんだ。別れないと、お互い幸せになれないから…」
「わかってるよそんなことくらい!わかってるよ…」
声を上げて泣く京子を、タテルも涙しながら抱きしめる。
「俺も心入れ替えるからさ、どこかでまた出逢おうよ」
「会ったらまた一緒に暮らしてくれる?」
「ああ暮らすさ。俺は誰とも恋しないで待ってる」
「私も。約束だよ」

空が青くなり始めた。朝(あした)の訪れである。
「そろそろ帰ろうか京子。俺眠くなってきた」
「そうだね。ちょっと寝て、それから出発するよ」
三ノ輪の家に戻ってきた頃には朝の7時を迎えていた。世の人々が動き出す時間帯、2人は手を繋いで床に就いた。
3時間して目覚める2人。実家で母が昼食を用意して待ってくれているということで、遂に京子が三ノ輪の基地を去る時間となってしまった。
「2年とちょっとの間、ありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました。また会おうぜ」
「じゃあね」
軽く口付けを交わして、京子は家を出ていった。タテルは2脚あった椅子のうち1脚を大事そうにクローゼットに仕舞うと、さっと身支度を済ませ、仕事場に向かった。