連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』126杯目(鳴龍/大塚)

人気女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」の元メンバー・京子と、綱の手引き坂→TO-NA特別アンバサダーを務めるグルメ芸人・タテル。2人がラーメンについて語り合うYouTubeチャンネル『僕たちはキョコってる』が人気を博し、結婚も前提に交際を続けていた2人だったが、最終的には別れを選び、チャンネルも3月末で更新を停止することにした。それでも2人は、最後まで仲良く駆け抜けることを心に決めた。

  

2回目のレッスン。完成した表現プランを菅井に伝える。
「なるほどね。キョコってるなりの点描、それは尊重します。それから実際に歌ってみました?」
「はい、自分達なりに少し」
「全部じゃない?」
「そうですね…」
「普通だったら説教ものですよ。先生に頼らず一回自分達で通してやってみる、これは当たり前なの。でもまあ2人とも忙しいもんね。とりあえずできたところまで見せて頂戴」

  

〽︎貴方の声で解れてゆく…
「止めて。表現プランを反映させた歌になっていないの」
「えっ…」
「京子殿は力が入りすぎなのよ。貴方の声で『解れて』ゆくんでしょ。力抜いて、はいどうぞ!」
「貴方の声で解れてゆく…」
「まだ強い。いい?喉だけで表現はできないの。体を動かしなさい、体を動かして緩急操るの!」

  

京子がソロで歌う1番Aメロのレッスンだけで1時間近くが過ぎていった。
「タテル殿も他人事と思わないの!」
「す、すみません…」
「だいいち何だこの前の神連チャン?僕の指導を受ける人が『くるっくぅ』は無いだろ」
「あれはお笑いで…」
「冗談でもやめなさい。タテル殿は京子殿以上にハードなレッスンになるからね、覚悟しなさいよ」

  

タテルの課題は高音である。ミセスの曲である以上、男声パートでも女性顔負けの高音を要求される箇所が多い。
「タテル殿、何その体勢?」
「オペラ風に…」
「見りゃわかるわよ。僕そもそもオペラ専攻だし」
「はい…」
「それだと高音は出ます。出ますけど良いハモリにならないんです!こうやって体を動かすの!」

  

地面に寝転ぶ菅井。タテルは戸惑っていた。
「はい、やる!京子殿も!2人とも潔癖症って聞いて靴脱いで上がる綺麗なスタジオ選んだ、恥ずかしがらず寝転びなさい!」

  

菅井の指導は厳しいが、個性的かつ的確な指導である。2人も菅井の発言の一つ一つに真剣に耳を傾け、神経を研ぎ澄まして声の操り方を学ぶ。
「刺激的ですね、菅井ちゃんさんの指導」
「目から鱗ですよ。歌ってそうやって歌うもんなんだな、って改めて学べます。でもちょっと大変」
「タテルくん、最後の共同作業だよ。乗り越えようよ」
「乗り越えるさ。京子とじゃなければ絶対見れなかったよ、こんな景色」

  

ラーメンYouTuberとして活動する2人が最も好きな麺類は、意外にも担々麺だと云う。さらに某チェーン店の冬季限定辛味噌ラーメンも大好きとのことである。レコーディングが終了するまで、こうした辛い麺は我慢することにした。

  

「先生、酒は飲んでも良いですか!」
「そんな堂々と訊くなよ。ダメとは言わないよ、でも節度は守りなさい。いいね?」
「はい!」
こうしてタテルは大好きなウイスキーも我慢することにした。

  

今まで2人が食べ紹介してきたラーメンの数は軒数にして300軒を超える。某グルメサイトが選出する都内のラーメンの名店100軒制覇まではあと2軒。そのラーメンの1杯1杯に、思い出が濃く絡んでいると云う。

  

「これは初めて喧嘩して、仲直りした後に食べたラーメンですね」
「お互い思ってたこと吐き出して」
「ほぼ罵り合いだったけどね。却ってスカッとしました」
「格別でしたね、仲直り後のラーメンは」

  

「そしてこれは大喧嘩で2ヶ月近く顔を合わせなかった後に初めて一緒に食べた牡蠣ラーメン。今は移転したのかな?」
「あの大喧嘩も、今となってはくだらない理由だったと思うんですよね。そんな喧嘩するのって、本当に仲良い者同士じゃないと無いと思うんです」

  

別れを決めた時もそうだったね」
「別れを決めたイコール仲直り、って感じ」
「ずっと仲良しでいるために別れを選ぶ。恋して結婚、は仲良しだけではやっていけない。悲しいけどそれが全てなんですよね…」

  

そして収録本番を迎えた。午前10時スタジオ入り。まずは発声練習とリハーサルを行う。
「2人の前では褒めないんですけど、表現力増していますよね。2人が歩んできた2年と少しの軌跡、しっかり振り返りながら自主練したんだと思います。楽しみだな2人なりの点描。僕泣きそう、もう…」

  

メイクを終え、いよいよレコーディング。白スーツに身を包んだタテルは、爽やかな黒の衣裳でクールに決めた京子の姿を見て惚れ込んでいた。
「可愛い上に格好良くもあって美しい。いつも心震えるんですよね、京子のそういう姿を見ると。ダメだ、泣いちゃいけない。グッと堪えてみる…」

  

収録は敢えて1発録りとする。何回も歌った結果あっちが良かったこっちが良かった、となると締まりが悪く、継ぎ接ぎするのも人工的すぎて嫌だ、という理由で京子とタテルが決めたのだとか。

  

歌唱を終え、抱き合う2人。目には堰き止めていた涙が溢れていた。
「別れたくないよ…」タテルが呟く。
「本当は一緒に居たいよ…」京子が返す。
「素敵な2人のヴォイストレーニングを指導させてもらえて光栄だった。ありがとう…」菅井まで涙する。

  

キョコってるのスタッフ・大石田と合流した2人。
「じゃあ大塚に行こうか」
「まさか鳴龍ですか?」

  

「そのまさかだよ。はい整理券、2人のために15:30の枠を確保しておいたんだ。失くすなよ」
「ありがとうございます!よく取れましたね」
「午前11時くらいに行っても遅い時間なら取れるみたいよ。我慢してた担々麺、楽しんで来てね!」
「嬉しいです…」

  

前の客がゆっくり食べていたため、15:30を少し過ぎての入店。担々麺に加え、よだれ鶏と海老ワンタンまで注文した。

  

よだれ鶏はたっぷりかかった胡麻が力強く香りを放つ。低温調理された鶏はひんやりと分厚く上品な肉質で、酸味もちょっと効いているのが良い。

  

一方で海老ワンタンはよだれ鶏と比べると絡みが弱く印象が薄い。

  

そして担々麺。胡麻ペーストが薄雲のように散らされているが、まず胡麻の支配下に無い醤油ベースの部分から。色味からは想像のつかない、酸辣湯のような酸味を感じる。
そして胡麻と混ぜてみると急に雲行きが変わり、少なく見える量でも豊かな胡麻の香りを覚える。先程の酸味が、胡麻の甘味と合わさり円くなる。辛さも程々で、これらの味が複雑に絡み唯一無二の担々麺となっている。細くぷつぷつとした麺がそれを確と受け止める。

  

「久しぶりの担々麺は沁みるねぇ」
「芸術的な担々麺だった!あぁなんて幸せなんだろう」
「定期的に食べに行きたいね」
「そうだね。もしかして俺ら偶然会っちゃうかも」
「その時はよろしくね」
こうしてまたひとつ、2人の思い出がラーメンを通して点描された。

  

最後の動画で発表するラーメンランキングを作成中の2人へ、あの質問を投げ掛ける。

  

2人にとって、プロフェッショナルとは?

  

「いや、だからその質問は嫌い…」
「タテルくん、同じボケしないの。ちゃんと喋って」
「はぁい。そうですね、運命の人と繋げてくれる鎹みたいなものです」
「かすがい?春日駅周辺のラーメンは…」
「違う違う。ホチキスの針のでっかい版みたいなものだよ。板と板を繋げて固定する。これが無いと脆い関係性になってしまいますからね。一生懸命ものごとに取り組めば、同じ志を持つかけがえのない人がやってきて一緒に道を歩むことになる。それを体感した2年ちょっとの日々です」
「最終的には別れることになりましたけど、絆は永遠だと思ってて。時間が経てば、まだ何が起こるかわからない気がします」
「そうなのか京子」
「まだ人生長いんだし」
「そっか。その時が来ると良いな」

  

現時点で2人の動画は、点描の唄歌ってみた動画の中では竹中雄大兄妹、松浦航大&夏川りみのものに次ぐ3番目の再生回数を記録している。取材している我々から見ても、この2人は未だ何かを起こしそうな気がする。ラーメンを愛し互いを愛する2人の未来を応援すると共に、その道が何処かでまた交わることを期待したい。

  

NEXT(遂に最終話!)

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