連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』125杯目(やまぐち/面影橋・西早稲田)

人気女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」の元メンバー・京子と、綱の手引き坂→TO-NA特別アンバサダーを務めるグルメ芸人・タテル。2人がラーメンについて語り合うYouTubeチャンネル『僕たちはキョコってる』が人気を博し、結婚も前提に交際を続けていた2人だったが、最終的には別れを選び、チャンネルも3月末で更新を停止することにした。それでも2人は、最後まで仲良く駆け抜けることを心に決めた。

  

別れることが決まっている2人に、テレビ番組から続々とオファーが舞い込んでいた。例えばゴチに2人揃って出演すると、京子は1位でニアピン賞を獲得、欲張りなタテルは頼みすぎてしまったが何とか下から2番目で自腹を回避した(ちなみにビリはレギュラーになったばかりの元希典坂まいこやん)。
ダーハマ歌謡祭では、3ヒントクイズではタテルが最初のヒントのみでの正解を連発。サビトロタイムショックでは京子が10問、タテルがパーフェクトを達成し。メインのサビだけカラオケでは京子もタテルも昔の曲を歌いこなしスタジオを沸かせる。極めつけは令和屈指のデュエットソング『点描の唄』を2人で熱唱し、SNSでも「キョコってる」がトレンド入りした。

  

更に言うと、ここに至るまでプロフェッショナルの密着がついている。前回の密着が好評で第二弾の取材が始まっていたのだ。暫くその様子をお届けすることとしよう。

  

———

  

ダーハマ歌謡祭の収録終わり。
「はぁ〜楽しかった!爪痕も残せたね」
「別れても俺ら出ていいと思うけどね。金田朋子さんと森渉さんみたいな感じで」
「まあね。仲良しであることに変わりは無いし」

  

楽屋に戻ったタテルのスマホに、とある人物からLINEが来ていた。
久しぶり。菅井ちゃんだ。キョコってるが別れると聞いて驚いた。正直言って寂しいぜ。
「どなたから?」スタッフが問う。
「ボイトレの先生です。めっちゃ厳しい方」

  

ラーメンYouTuberの傍ら、歌い手としても活躍しているキョコってる。某局音楽バラエティの音程を外さず歌うゲームで好成績を納めて以降、SEKAI NO OWARIの聖地club EARTHからの配信高校でのミニライヴなどを行い、いずれも大盛況に終わった。そんな2人へ菅井からの提案は、キョコってる解散前にデュエット曲を1つ歌ってYouTubeに上げないか、というものであった。

  

「京子、菅井ちゃんからメール来てたんだけど」
「見たよ。やりたいねデュエット」
「俺もだ。選曲は任せる、って言われたけど何歌う?」
「せーので言ってみよう。せーの、点描の唄!」
「点描の唄!見事に揃ったね」
「決まりだね。菅井ちゃんに返信しておく」

  

曲を即決した2人は早速歌詞の精読を始める。
「怒られるんですよ、読み込んでおかないと。菅井ちゃんは深い洞察を要求してくるので、腰を据えて向き合わないといけないんです」
「まあそれがプロというものなんですけど」
「京子、『プロフェッショナルとは何か?』は最後に言うものだから。ここで出しちゃダメ」
「なんでよ別にいいじゃん」
「大丈夫ですか、スタッフさん?大丈夫だって良かったな京子」
「言われなくても気にしないから」

  

とても別れる2人には見えない仲良しのキョコってるだが、一体何があったのか。スタッフが京子に訊ねてみる。
「ありきたりなことですけど、一緒に暮らしてみたら嫌なところ見ちゃって、やっぱり合わないな、となった。それだけですね」
「具体的にどこが合わなかったのでしょうか?」
「それは…ここでは言いづらいですね。タテルくんを傷つけることになっちゃうので」

  

タテルにも訊ねてみる。
「一番は、俺が京子に変な期待を押し付けてしまったことかな。俺そういうとこあるんですよね、勝手に期待して勝手にがっかりして」
「具体的にどんなことで?」
「それ言っちゃうと京子に迷惑かかるので。すみません」
「失礼しました」
「いえいえ。でも仲良しではあると認識してるので。離れ離れになっても、また何処かで会えると思うんです。ってこれも押し付けなのかな?京子はどう思ってるかわからないけど…」

  

レッスン初回。2人を指導する菅井ちゃん最恐オンリーワンは、普段はホストキャラでお馴染みの芸人。しかし裏では実力派ヴォーカリストであり、あの松任谷由実氏も一目置く存在である。技術だけでなく歌心を重視する彼のレッスンはかなりスパイシーなものである。

  

〽︎貴方の声で解れてゆく…
「止めて。これはどういうつもりで歌ってるの?解釈を聞かせてほしい」
「夏休みの間だけの恋を濃密に過ごして、離れたくないこのままでいたい、でも離れなければならない…」
「あのさ、確かにそうよ。そういう曲よ。でもそれだったら作った本人、大森(元貴)さんが歌えばいいことですよね」
「はい…」
「2人がカヴァーするのなら、2人なりの表現をしなさい。2人の歩んできた日々を歌詞とリンクさせるの。じゃなきゃ態々作品として出す必要ないでしょ」
「そうですね…」
「それくらいおやりなさいよ。今日はお終い、ちゃんと表現プラン固めてから次のレッスンね」

  

レッスン終わり、キョコってるの本業・ラーメン店紹介用にラーメンを食べに行く。西早稲田のやまぐち、日曜12時というピークタイムでありながらすんなり入店できた。前の中国人(台湾人かもしれない)が食券購入にもたついている合間を利用してメニューを吟味する。
「ここ前は塩ラーメンが名物だったんですよね。つい最近スープの味を全体的に見直した、と仰っていたのでどんなものかと」
「俺は醤油の方にしようかな。もちろん特製で」
「じゃあ私は塩にする」

  

ラーメンを待つ間、自分達なりの点描の唄とは何か、思いを巡らせる。
「『泣き虫でもいいかな 強がらなくていいよ』ってあるじゃん。京子って、サバサバしてるようで意外と泣くよね」
「それ言ったらタテルくんもじゃん。理屈臭いように見えてすぐ目がウルウルする」
「逆さ睫毛なだけだい。…嘘だよ、意外と感受性ある
「もしかしてちょっとがっかりしてた?私が弱み見せるの」
「ううん。むしろ弱みを知ってもっと魅力的に見えてきた」
「タテルくんの前では強がらないでいられる。親とメンバー以外では初めてだよそういう存在。タテルくんは私にとって特別な人なんだ」
「嬉しい。まさに『出逢えて幸せ』だね」

  

涙ぐむタテルの元にラーメンがやってきた。醤油スープには鶏の出汁が円やかに効いていて、鶏油により優しい味わいとなる。
麺は色白やわやわ系。こういう麺は意外と腹が膨れ飽きが来やすく、積極的にスープと合わせて食べると良いかもしれない。
チャーシューは2種類。赤い方は肉の旨味に加えフルーティな薫香もあり美味しい。一方茶色めの方は解れ方がボソっとしており肉の美味しさを感じにくい。ワンタンは肉一直線のオーソドックスなものである。

  

「鈍感な僕を叱ってほしい…TO-NAが大変だった頃、京子に寄り添えなかったことを思い出した」
「あれ本当に寂しかったんだよ」

  

昨年巻き起こった、綱の手引き坂46の独立騒動。世間の逆風に晒され、改名を余儀なくされた、日本の芸能界史上類を見ないお家騒動。グループの実質的プロデューサーを引き継いだタテルはメンバーのためにと解決に奔走していたが、その間京子のことを置き去りにしてしまったという。
「京子がいたグループを守る、それが俺に課された使命だと勝手に思い込んでいました。でもそれが本当に京子のためだったのか。もう少し穏やかな着地点は無かったのか。そういう気持ちが今溢れ出していますね」
「タテルくんって頑固な人なんですよ。でも愛する人のことは絶対に守る、その信念が揺るがないところは尊敬してます」
「一途だからね俺は。京子と会わない間も好いていた、その事実は変わらない」
「それは伝わってた。歌声だけ送ってくれた時あったじゃん」
「福山雅治さんの『最愛』ね」
「あれめっちゃ染みた。送られてきたとき一晩中泣いてたからね」
「泣かせるようなことしてごめん」
「大丈夫。本気で泣き合える関係性って良いもんね」
「京子…」

  

そしてタテルはふと京子に問いかける。
「もう一緒には居られないけど、また何処かで会えるよね俺ら」
「え?会えると思うけど」
「その時は話しかけていい?」
「もちろんだよ。無視することないじゃん、友達だよ私たち」
「良かった…」

  

タテルは安堵の涙を流す。
「京子が遠くに行ってしまわないか心配だったからさ…」
「そんな寂しいことはしないよ。でもこれから仕事で忙しくなるだろうし、頻繁には会えないと思う」
「それで十分だと思う。京子の中に俺がいてくれさえすれば、それでいいんだ」

  

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