連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』124杯目(砂田/庚申塚)

人気女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」の元メンバー・京子と、綱の手引き坂→TO-NA特別アンバサダーを務めるグルメ芸人・タテル。2人がラーメンについて語り合うYouTubeチャンネル『僕たちはキョコってる』が人気を博し、結婚も前提に交際を続けていた2人だったが、最終的には別れを選び、チャンネルも3月末で更新を停止することにした。それでも2人は、最後まで仲良く駆け抜けることを心に決めた。

  

リヴィングには2人の思い出の写真が数点、可愛らしい写真立てに飾られている。エスコヤマのCHOCOLOGYを味わいながら、写真を眺める2人。
「自分達の写真飾るのって最初は気恥ずかしかったけど、京子の鶴の一声で飾ってみたら意外と良いもんだと思ったよ」
「私鶴じゃないよ」
「そういうことじゃないってば。いいからやれ、って感じ」
「そんな怖い言い方してない」
「冗談だよ。飾ってみたら良いもんだね、思わず見入っちゃうよ」
「でしょ。タテルくんはどれがお気に入り?」
「これかな。ソロライヴ終わりの楽屋前で撮ってもらった」
「いいね!2人とも明らかに泣いた跡がある」
「歌で涙する、という感覚を学んだんだよな京子の歌で」
「この時は恋愛に発展するなんて思いもしなかったよね」
「バリバリ現役のアイドルだったもんね京子。俺もやけに劣等感を覚えていたし」
「垢抜けたよねタテルくん。もう少し素直になってほしいけど」
「またそれ〜。改めるから!」
「あそうだ、藤原紀香さんからプレゼントが届いてるんだった!一緒に開けよう」

  

中身は写真立てであった。お揃いのものが丁度2つ入っていた。
円満なお別れとうかがいました。それならば最後にちゃんと写真を撮ってもらって、離れてからもお互い家に飾ってみるのはどうでしょう?夫婦にこそなれなくとも、2人はとてもお似合いだと思います。2人で過ごした日々を忘れずに…
「紀香さん…ありがとうございます、すっごい泣けてくる…」
「絶対忘れない…」
「写真誰に撮ってもらおうか?」
「私良い人知ってる。がが屋のガガさん」
「ガチのカメラ好き芸人だ!確かに適任かも」
「連絡先持ってるからお願いしてみるね」
「俺も持ってるから、挨拶だけしておくよ」

  

ガガは2人の申し出を快諾した。知り合いが経営する巣鴨の写真館でスペースを借りて、撮影を行う運びとなる。

  

「今日はガガさんにもラーメンを奢るということで、3人分の自腹を懸けた対決となります。対決と言ってももう既に結果は出ていますけどね」
「もしかしてあの水彩画…」
「はい、2人が描いたとある店のラーメンの絵がキョコってる公式SE○にアップされております。どの店のラーメンを描いたものか、リプ欄にて回答を募りました。全リプ数に占める正解リプ数の割合が低い方が自腹です」
「これは俺が勝ちました。プレバトの水彩画観てるので」
「いやいや私が勝ちました。タテルくんすぐ面倒臭がるから絵描きには向いてない」
「…図星で言い返せない」

  

「まずタテルさんの絵がこちらですね。このラーメンのポイントは?」
「焼きトマトですかね。デフォでは載ってなかったと思うんですけど、この店の名物トッピングという認識です」
「はい、ということでこちらは阿佐ヶ谷CiQUEの焼きトマト塩ラーメンでございます」
「タテルくん、下手じゃないけど上手くもないね」
「そんな気してた。一番面白くないやつだよね」

  

「続いて京子さんの絵が…」
「ハハハ!何この絵独特すぎる!ハハハハ」
「何ゲラってるの!一生懸命描いたんだけど!」
「タテルさんお静かに。京子さん、ポイントは?」
「中央の薄いチャーシューの塊、そして右奥の玉ねぎですね」
「良いでしょう。こちらは上北沢にあるらぁめん小池の煮干ラーメンです」

  

「それでは結果を発表しましょう。まずタテルさん、総回答数124に対し正解が37」
「あれ、少ない…」
「続いて京子さん、総回答数72に対し正解42」
「え待ってどうなった?」
「どう考えても京子さんの勝利!今回はタテルさんにゴチになります」
「ああもう!何だよ京子、煽るな明らかに勝負ついてたろ」
「私算数苦手」
「京子のリプは半数以上正解してた。一目瞭然じゃん」
「ちなみにタテルさんのリプですが、半数をインプレゾンビが占めておりました」
「はぁ⁈除外しろよ!」
「基準を定めにくかったので」
「下手に定めるとタテルくんすぐ文句言うもんね」
「大体わかるだろ。ああもう最悪」

  

日曜日の昼下がり、巣鴨駅にてガガと待ち合わせる。
「ガガさん!今日はどうぞよろしくお願いします!」
「こちらこそだよ。2人の写真を撮るの、とっても楽しみ」
「じゃあ早速腹拵えから」

  

目的の店「砂田」は巣鴨と西巣鴨のほぼ中間に位置しており、巣鴨駅から地味に距離がある。
「2人とも、巣鴨はよく来るの?」
「かき氷食べには来ますね」
「そういや言ってたね、京子ちゃんかき氷好きって」
「最近タテルくん全然かき氷付き合ってくれないんです」
「お腹タポタポになるもん。月1くらいで十分」
「かき氷といったらやっぱ夏だよね」
「夏は混むんです。だから冬の方が捗るよね、タテルくん」
「それは同意。かき氷は秋冬の食べ物です」
「2人とも自分を持ちすぎだよ。これは撮り甲斐がありそうだ」

  

日曜の12:55着で外待ち4人。中にも5席待ち椅子があるので見た目以上に待つ。店の反対側に並び、2人はガガに思い出の写真を数点見せる。
「まずは日大藝術学部のキャンパスにて。TO-NAのミクに撮ってもらった写真ですね。写真学部在学中のセミプロです」
「わあ素敵だこれ。やっぱ写真専攻している人は違うね」
「あとこれは自撮りなんですけど、北千住駅のプラットホームで撮ったものです」
「あいみょんの曲か」
「そうですそうです。足立区にある俺の実家に、2人で挨拶行った時の写真ですね」
「仲良さそう。いいね」
「あとこれは石神井公園での写真です。こっちは逆に京子の実家を訪れた時ですね。ケーキ美味しかったなぁ」
「本当に仲良し。別れる2人には見えないよな〜」

  

「こっちは厚木に温泉旅行行った時の写真です。ただ不思議なんですよねこの写真、本当は楽しかったはずなのにやけに顔が真っ白で」
「そんな、心霊写真みたいなことある?」
「TO-NAのスズカも同行してたんですけど、ちょっと様子がおかしくて。妙な旅でしたね」
「でも楽しかったからいいじゃん」
「そうだね」

  

なんやかんやで20分以上待って漸く中待ちの椅子に着席する。
「こんなに待つものなんだね。2人ともよく文句言わず待てるね」
「俺も最初は文句タラタラでしたよ。でも今は1時間くらいなら普通に並べますね」
「すごいな」
「タテルくん寒い日でも上着なしで並ぶんです。寒いでしょ、って言っても大丈夫大丈夫の一点もので」
「それを言うなら『一点張り』じゃない?」
「ガガさんに先に突っ込まれた!ああ悔しい…」
「京子ちゃんよく言い間違えするんだね」
「そうなんですよ。そこがまた面白くて好きなんですけど」
「恥ずかしいんだけど」
「いいじゃん、それが可愛いんだから」
「もう…」
「ハハハ。やっぱり仲良しすぎるよ2人とも」

  

並び始めてからラーメンが着丼するまで、最終的に40分かかった。スープは鶏のみで出汁を取っているらしく、円やかで優しい味である。ただ様々な具材と合わせていく内に舌が慣れてしまい、後半は惰性で食べることになる。

  

手揉み麺もこの類だと真価を発揮しきれていない気がする。
吊るし焼きのチャーシューはまるで優勝がかかった平幕力士のように硬さが目立つ。一方でワンタンの餡は玉ねぎの味が主体であり、肉肉しさが欲しくなる。
「ということは、ワンタンと肉を合わせて食べれば良かったんじゃない?」
「玉ねぎが肉を柔らかくする、というのは一理ありますね。次からはそうしましょう」

  

ラーメンで満たされた3人は愈々写真館に向かう。日常の2人の写真は数多く撮ってきたが、衣裳やメイクをばっちり決めて2ショットを撮ってもらったことは無かった。各々のスタイリストにメイクをやってもらい、持ってきてもらった衣裳に着替えて撮影に臨む。着替えの最中、タテルはガガに胸の内を明かす。
「明るくなったよねタテルくん、2,3年前と比べて」
「俺もそう思います。陰気臭かった俺を変えてくれたのは京子でした。付き合って暫くは圧倒的スターの京子と比較しちゃって落ち込むことも多かったけど、一緒に動画とって慰め合って時にぶつかり合う、その中で自信を得ることができたんですよ」
「本音を曝け出せる相手がいるって良いよね。しかもそれが恋人っていうのがまたエモい」
「ガガさん、恋って良いもんですよ」
「タテル君に言われるとは思わなかったよ」
「俺も言うとは思いませんでしたよ。一度でも自分を捧げて良いと思えた、そんな相手とまさか出逢えた奇跡、一生忘れないです」
先に支度を終えて、撮影スタジオで待機するタテル。

  

「ちょっと待って…」
白とピンクのフリルに身を包み、久しぶりに前髪を降ろしハーフツインを決めた京子が現れた。その姿を見たタテルは、惚れ込むがあまり涙した。
「何て可愛いんだろう…」
「やめてよタテルくん。こっちまで涙出てくる…」
「あらら。泣いた跡が写っちゃうねこれ」
「それでも良いです」
「それが私たちらしいよね」
「…まあ、いいっか。撮影する時は笑顔で頼むよ」

  

泣き腫らした2人が自然体の笑顔で写る一枚。2人にとって、生涯にわたる宝物と相成った。

  

NEXT

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です