連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』107杯目(ご恩/野方)

人気女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」の元メンバー・京子と、綱の手引き坂→TO-NA特別アンバサダーを務めるグルメ芸人・タテル。2人がラーメンについて語り合うYouTubeチャンネル『僕たちはキョコってる』が人気を博している。
かねてよりバス旅に憧れていたタテルの夢を叶えようと、バスvs鉄道対決旅のオマージュ企画をYouTubeでやることになった。バスチームのタテルと鉄道チームの京子が都内の最新人気ラーメン4軒を巡りながら対決を繰り広げている。道中各チームにラーメン通芸人が1名ずつ加わり、鉄道チームにはなんと大物芸人「水行末の風来末」が参加している。

  

〜②時空→③ご恩〜

  

先にラーメンを食べ終えた鉄道チームは高井戸駅に向かって歩く。
「風来末さんって、電車乗ります?」
「乗らないね。専ら車移動だよ」
「風来末さんが電車乗ってたら大騒ぎですよ」
「いや、大騒ぎとまではいかないよ〜。京王線は昔よく乗ってたから懐かしい気持ちになる」
「いいですよね京王線。美味しいラーメン屋さんたくさんありますし」
「船越とか柴崎亭とかね」
「よくご存じですね。さすが風来末さん」
「いやいや、京子ちゃんには敵いませんよ」

  

鉄道チームが井の頭線に乗り込んだ頃、バスチームもラーメンを完食し次のチェックポイントへ向かう。
「次は環七沿いですね」
「待ってました、ラーメンストリートカンナナ!」
「路線図には野方のバス停も書いてあるけど…乗り継ぎが2回必要ですね」
「五日市街道営業所まで歩きます?」
「いえ、環七に出さえすれば、高円寺から王子神谷の方まで行ける都バス路線があるんですよ。それなら乗り継ぎ1回で済みます。柳窪からのバスとその路線が交わるのが…東高円寺駅ですね」
「すごい。これはバス乗り慣れた人のムーヴですね」
「たぶん鉄道チームとは良い勝負になると思います。一緒に勝ちましょう!」
「おう!」

  

鉄道チームは明大前駅で本線に乗り換え、新宿駅まで辿り着いた。ここから西武新宿線に乗り換えたいのだが、西武新宿駅への道のりがわからない。彷徨うこと10分。
「京子ちゃん、誰かに聞いた方がいいんじゃない?」
「そうですね。あそこの案内所で聞いてみます」
「すみません、西武新宿駅ってどっちですか?」
「一旦地上に出て、小田急ハルク目指してみてください。ハルクやユニクロのある通りを真っ直ぐ行くと青梅街道との大きな交差点があるので、そこを渡って右に行ってください」
的確な案内により何とか西武新宿駅に辿り着いたが、大きなタイムロスとなってしまった。

  

バスチームは若干の待ちがあったがスムーズに乗り継ぎ野方二丁目バス停に到着。ここから店までは2分で行けてしまう。

  

「京子は…いない!俺らがリードしてます!」
「よっしゃ!」
「おっ、ここでは食べるラーメンをくじで決めるみたいです。この店の2大名物、塩ラーメンと担々麺、どちらかを我々が、もう一方を遅れてくる鉄道チームが食べます」
「塩ラーメンも担々麺も食べたことあるよ。めっちゃ美味かった」
「楽しみですね。じゃあくじ引きましょう!」

  

バスチームが引き当てたのは塩ラーメンであった。
「ただし!食べていただくのは特製塩ラーメンです…ちょっと重いな」
「大丈夫、ここのチャーシューはめちゃ美味だからすぐ食べれちゃうよ」
「それなら良いですけど…」

  

ここも食券制は採っておらず口頭で注文をする。間も無く支払いを要求されるが、キャッシュレスには対応していない。
「現金触った手を拭きたい。ああどうしよう」
「化粧室借りればいいじゃん」
「そうでしたそうでした」

  

タテルがお手洗いから出てくると、遅れていた鉄道チームが到着した。
「あら随分と遅かったこと」
「もう意地悪すぎ!」吠える京子。「西武新宿駅が全然見つからなかった!」
「俺だったらJRで高田馬場まで行ってから乗り換えるけどね。悪手だったなご愁傷様」
「腹立つ〜」
「ほらほら、早く注文しないと時間の無駄だよ。鉄道チームは担々麺だからね!」
「担々麺!私めっちゃ大好きなんです」
「あでも担々麺の場合はライスも頼んで完食しないと先に進めません、ですって!」
「お腹いっぱいだよ…はあ過酷…」

  

バスチームの塩ラーメンが仕上がった。時空とは違い鶏の円やかな味を一番に感じ、塩自体の味わいもある。麺は若干太めで噛みごたえがあり、美味さを実感しつつスイスイと食べ切ることができる1杯である。
「こりゃ腹一杯でも入りますね。素晴らしい素晴らしい」
豚チャーシューは柔らかく程よい濃さの味付けで次から次へと食べたくなる。一方の鶏チャーシューは味付けが殆ど無いように思えるが、少し脂身っぽいところがあって甘みを感じる。メンマは出汁のように控えめな味わいである。

  

「完食!じゃあお先〜」
「ヤバい負けるかも私たち」

  

間髪入れず鉄道チームの担々麺が登場。空腹時に見ればとても食欲を唆られるものであるが、満腹の京子は萎えてしまう。
「京子ちゃん、お腹いっぱいだったら俺が少し食べてあげようか?」
「そうしていただけると嬉しいです」
「じゃあライスと麺、3分の1くらい貰うね」
「助かります…」

  

見た目は日本人に馴染み深い汁あり担々麺のようだが、たっぷり入った胡麻ペーストの密度が高く、まぜそばのように絡めて食べることになる。別添えで辣油もついてくるが、デフォルトで入っている分で十分辛い。ここまで2杯食べてきた胃にはずっしりくるが、ナッツおよび脂身も混じった粗挽き肉が味にメリハリをつけてくれるから美味しく食べられる。
「確かにこれくらいペーストが残ると、ライスで回収したくなるよね」

  

「風来末さんもう麺完食してる。凄すぎません?」
「やっぱ美味しいからね。師匠にも鍛えてもらったし、1日5杯は余裕だね」
「最高でどれくらい食べました?」
「福島に1泊2日で行って、合計12,3杯くらい食べたかな」
「すごっ」
「喜多方とか白河とか、師匠と一緒に巡ってさ、夜は皆で雑魚寝なんかして楽しかった」
「青春してますね」
「いい歳こいて大学生みたいなことしてるけど、こんなに夢中になれることがまだあったんだ、と思うと感慨深いよ。京子ちゃんもこれから色んなことに興味持ってみるといいよ」
「ありがとうございます。良い話聞けました…」

  

バスチームは野方二丁目バス停を出発していた。時刻表上では待ちを覚悟していたが、環七を走る路線はとかく遅れがちなため、間に合って乗車することができたのである。
「いい波来てるねタテル君。頼もしいよ」
「油断は禁物ですよ。このあと北区神谷町というバス停で乗り継いで引き続き環七を進み、西新井の辺りで東武バスに乗り換えですね。たぶん大師か栗原町で降りて乗り継ぎです」
「よく先のこと見通せるね。地元みたいにスラスラと」
「地元です」
「ああ地元なんだ!そりゃよくわかるよね」
「お任せください!必ず勝利に導いてみせます!」

  

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