連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』106杯目(時空/高井戸)

人気女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」の元メンバー・京子と、綱の手引き坂→TO-NA特別アンバサダーを務めるグルメ芸人・タテル。2人がラーメンについて語り合うYouTubeチャンネル『僕たちはキョコってる』が人気を博している。
かねてよりバス旅に憧れていたタテルの夢を叶えようと、バスvs鉄道対決旅のオマージュ企画をYouTubeでやることになった。バスチームのタテルと鉄道チームの京子によるバトルの行方は。

  

〜①えーちゃん食堂→②時空〜

  

鉄道チームの京子はタテルの進言(詭弁)を無視し不動前から東急目黒線に乗る。目黒で山手線に乗り換え、渋谷で今度は京王井の頭線に乗り換える。
「え待って、井の頭線ってこんな遠いの?」
地下が絡まない乗り換えのためまだマシであったが、池袋を庭とする京子にとって渋谷ダンジョンは不慣れで戸惑う。
「急行と各駅、どっち乗ればいいのかな…ここは手堅く各駅にしておこう」

  

一方のバスチーム。タテルは先程のラーメンの待ち時間で東急バスの路線図を観察していたが、バスだけで北上する方法を見出せないでいた。
「不動尊参道からは渋谷行きのみ。東に行っちゃう。とりあえずこれ乗って大鳥神社前まで行って乗り換えるか否かなんだよな」
北へ行くのは三軒茶屋行きか弦巻営業所行き。だが三軒茶屋からはこれ以上北上できそうにない。弦巻から環八を北上するか、バス路線が豊富な渋谷でじっくり考えるか。バス会社の管轄が変わるため情報収集は困難を極める。

  

「待てよ、確か渋谷から阿佐ヶ谷に行く都バスがあったぞ。阿佐ヶ谷ならだいぶチェックポイントに近づける」
余計なことはせず、そのままバスを渋谷まで乗り通す。タテルの記憶通り阿佐ヶ谷駅行きの都バス路線が存在していたためとりあえず乗り込む。そしてバス旅には欠かせないアイテム「東京都の道路地図」を手に取る。
「これ見ると、バス旅してるな、って感覚になりますね。バス停が地図に載っているから便利ですよ。柳窪はここか。五日市街道沿いにあるから手前へ辿っていくと…杉並車庫でぶつかる」

  

乗り継ぎ情報は信号待ちの間に運転手に訊ねるものである。しかしバス会社が変わるため、知らねえよと一蹴される可能性もある。臆病なタテルはなかなか聞き出せない。

  

京子は各駅停車で手堅く高井戸駅に到着した。駅を出ると、突如ある男性に声をかけられた。
「京子ちゃん!」
「…えっ⁈水行末の風来末さん⁈」
「久しぶり。『明朝もナゾトレ』の収録以来だね」
「覚えていてくださったんですか?ありがとうございます…」
「早速ラーメン食べに行きましょうか!楽しみで仕方ない!」
「私もすごく楽しみです!」

  

時空までは駅から1km弱の道のり。アイスブレイクをするには丁度良い距離である。
「風来末さんつい最近ですよね、ラーメンにハマったの」
「そうそう。富士テレビのプロデューサーに色々教えてもらってね、いつの間にかラーメンフリークになっていた」
「フレークですか?」
「フレークじゃなくてフリーク。マニア、ってこと」
「私ビックリしましたもん。こんな大物芸人さんにラーメンの魅力知ってもらえて感激してます」
「すごい言ってくれるじゃん。ラーメンは本当に奥深くて楽しい」
「1日に4杯とか5杯食べてますもんね。よく食べれますね」
「美味しいからね。健康のこと考えなきゃいけない年頃だけど、やめられないねこれは〜」

  

京子と風来末が和気藹々としている頃、タテルは漸くバス運転手に乗り継ぎの確認をする決心がついた。
「柳窪バス停ってわかります?五日市街道にある」
「わかりますよ。杉並車庫で乗り継ぎですね」
「ありがとうございます!」
あっさりルートが見え胸を撫で下ろすタテル。乗り継ぎもスムーズであり、11時10分に柳窪バス停に到着する。

  

「あれ、もしかしてあの人…」
「タテル君どうも!ぷ団の礒野です」
「芸人界No.1ラーメン通の礒野さんだ!大好きですぷ団さんのコント!」
「ありがとうねタテル君。今日はラーメンいっぱい食べれるって聞いて楽しみにしてたよ」
「3杯ですけどいけます?」
「まあいけるんじゃない?ラーメン通ならそれくらい余裕っしょ」
「風来末さんなんて1日で5杯連食してますもんね」
「風来末さんね。最近すごくハマってらっしゃって嬉しいっすよ。いつかは一緒にラーメン旅を…あれ、あそこにいるの風来末さん⁈」

  

鉄道チームは10:45に先着し、前から3番目と4番目をキープしていた。
「おい礒野!遅いじゃないか」
「ちょっと待ってくださいよ、何で風来末さんがいらっしゃるんですか⁈」
「いや呼ばれたから。ラーメン沢山食べれるって聞いてオファー引き受けたんだよ」
「俺の存在霞むんですけど…」
「それにしてもタテルくん、意外と早かったね。差が無くなっちゃった…」

  

11:15頃に列に並んだバスチームは前から7番目と8番目。ギリギリ1巡目に入店できる位置であった。
「何これ不平等じゃん。鉄道チームのリード潰す仕様でしょ」
「俺の華麗な乗り継ぎが無かったら、バスチームは1巡目逃してたし。スタッフ貶すより俺褒めるんだね」
「はぁ?めっちゃ腹立つ」
「タテル君ってすごいビッグマウスなんだね」
「そうなんですよ風来末さん。なんかあるとすぐ私のことバカにするんです」
「そういう京子もビッグマウスだろ」
「ちょっと!そんなことない!」
「ハハ。本当に仲良しなんだね2人とも」

  

11:30に開店、鉄道チームとバスチームの面々が入店を果たす。こちらは食券制の店ではなく、注文は口頭で行う。
「じゃあ俺は特製塩そばで」
「味玉入ってないんですけど大丈夫ですか?」
「そうでしたね。じゃあ味玉も追加で」
「あじゃあ私は特製じゃない塩そばで、味玉追加でお願いします」

  

先頭から4人注文したところで会計が始まる。キャッシュレス支払いを推奨されているので積極的に活用しよう。

  

「ここは店主の遍歴がドラマチックなんだよね」
風来末がこの店の豆知識を披露する。
「店主は元々天ぷら職人だったけど、ある時お父様が病で倒れて、故郷広島に帰り看病したが亡くなった。形見のバイクで瀬戸内海を見に行った際食べた塩そばが美味しくて、ラーメン屋に転身したんだって」
「えめっちゃエモいです」
「でしょ?こういうストーリーを知って食べると、また美味いのよ」
「へぇ、勉強になります!」

  

京子と歓談する風来末に嫉妬を抱いていたタテルにも注文の順番が回ってきた。
「京子と同じにしよう。それにしても食べきれるかな。1軒目のチャーシューメンが重かったからまだそこまでお腹空いてない…」
「タテル君、あまり食べれないとわかってるんだったらチャーシューメンじゃなくて普通のラーメンにすべきだったんじゃない?」
「ごめんなさい…せっかく早起きしてえーちゃん食堂来たから」
「でも完食しないと次進めないんでしょ。後先考えようぜ」

  

「タテル君怒られてるね」
「タテルくんマイペース過ぎるんですよ。お仕事はちゃんとやってると思うけど、家ではいつもダラダラしてます」
「太川さんみたいになりたいって言ってたけど、本当は蛭子さんなんだね」
「アハハハ!言えてますねそれ!アハハハ」
「すごいツボってる…」

  

お待ちかねの塩そばがやってきた。スープからは鯖節をはじめとした魚介系乾物のやさしい風味が特に感じられる。一方麺を啜り上げると、ポルチーニらしき官能的な香りがして驚く。それでもスープを口に運べば節の正統な味に戻れる。
「香りを重視しがちなミシュランが評価するのも納得ですね」
「タテル君、食リポは上手だよね」
「褒めていただけて嬉しいです」

  

一方でチャーシューは硬さが目立つ。スープと麺がすごく良い分、ここももう少ししっとり仕上がっていると最強であろう。

  

「へぇ〜、山本由伸選手も来てるんだ」
「美味しいもんね、来ててもおかしくはない」
「あの〜すみません、それご本人じゃなくてモノマネ芸人さんのサインでして…」
「あ本当だ、『由伸』じゃなくて『申伸』になってる」
「礒野さんしっかりしてくださいよ〜、見ればわかるじゃないですか〜」
「呑気だなタテル君」

  

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