グルメすぎる東大卒芸人・タテルと、人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバーで現在は宝刀芸能所属の俳優・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のお話。
シーズン23:バスvs鉄道
「太川陽介さんみたいな旅マスターになる」
これはかつて京子の家を訪れた時に書き出した、タテルが掲げている夢の一つである。キョコってるを運営するスタッフ大石田は、ラーメン動画との絡みでこれを実現させてあげたいと考えていた。
「タテルさん京子さん、ちょっとご相談が。タテルさんがかつてバス旅やりたいって話してたじゃないですか」
「したした。もしかしてオファー来た?」
「残念、オファーは来てないです。ただいつ来てもいいように練習しておくのはアリかと思うのです」
「どういうことだろう」
「キョコってるでバスvs鉄道対決旅をやります!」
「何それ面白そう!」
「バスチームは路線バス、鉄道チームは路面電車・新交通システム含む鉄道のみを使って移動します。道中立ち寄るチェックポイントは、キョコってるらしく全てラーメン店とします。その内訳は当日スタート地点にて発表するので予習はできません」
「なるほど、下調べしちゃうと予定調和になっちゃうもんね」
「先にゴールに着いたチームが勝利となります。負けたチームは全てのチェックポイントにおける食事代を全額自腹とします」
「うわあ、絶対負けたくない!」
「タテルさんはバスチーム、京子さんは鉄道チームです。難易度的にはバスの方が圧倒的に高いと思いますが、太川さんに憧れるタテルさんのことですから、熱戦を展開してくれると信じています」
「のぞむところだ。負けないからな京子」
「私だって」
いつもはラブラブな2人も、対決当日(木曜日)の朝はお互い一言も交わさず、スタート地点の東京駅丸の内口広場までやってきた。
「まず基本ルールの確認です。インターネットを使っての検索は禁止です。原始的ではありますが路線図や案内所を活用して情報を仕入れてください。タクシーも一切使用不可です。鉄道チームは運賃以外の追加料金のかかる列車には乗れません」
「はい」
「各チェックポイントでは1人1杯を完食してください。完食しないと次に進めません。それではチェックポイントと最寄りのバス停/駅を発表します」
①えーちゃん食堂(不動尊参道/不動前)
②塩そば 時空(柳窪/高井戸)
③らぁめん ご恩(野方二丁目/野方)
④つけ麺 和 東京本店(竹の塚駅西口/竹ノ塚)
「4軒かあ!重いよ!」
「これめっちゃ私不利じゃん。4杯も食べきれないよ」
「本家対決旅でお馴染みの長距離徒歩は発生しない見込みです。その分こちらは大食いで過酷さを演出します。頑張ってついてきてくださいね。そしてチェックポイントの位置を記した地図も配給します」
「なるほど、23区でも外側の方をぐるっと回るわけね」
「鉄道は一直線で行けない。これならバスと鉄道が互角になるね」
「そうかな?いくらなんでもバスの方が遅いよ」
「まあやってみればわかるよ」
「そしてゴール地点は、最後のチェックポイントに着いた段階で発表します」
「水元公園とかかな。駅からだいぶ遠い」
「なんで私を痛めつけようとするの!」
「最後の方は俺のホームだし、絶対勝てます!」
「タテルくんを良い気にはさせません!」
7:30、いよいよ対決が始まる。京子はすぐさま駅に入り山手線に乗る。
「え東京駅って意外と人降りないんだ…満員電車キツい」
東京駅は降りる客以上に中距離電車からの乗り換え客が乗り込むため、有楽町まで行かないと空かないものである。新橋で混み浜松町・田町で少し空き、品川・大崎で混み五反田で空く。
一方のタテルは迷わず目的のバス停に向かう。
「第1チェックポイントまでのルートは見えております。恐らく1本で近くまで行けるでしょう、目黒駅経由の東急バスで。わからんのは渋滞の具合」
都心から離れる方向ではあるが、途中までは都心ど真ん中を走るため混雑は避けられない。焦りを見せるタテルだが、ひたすらバスが前進するのを待つのみである。

チェックポイントに先着したのは、大方の読み通り鉄道チームの京子であった。山手線と東急目黒線を乗り継ぎ40分程度、8:20前到着で11人の待ちであった。歩道橋傍まで延びていた列に接続する。
タテルは15分程遅れて到着した。しかし京子が並び始めてから列に接続する客は疎らであり、京子とタテルは案外近いところで相見えることになった。
「あれ京子、思ったより遅かったじゃないの」
「意外と早かったねタテルくん。到着前に売り切れで失格になるかと思っていたよ」
「そんなアホくさいオチあり得ない。平日だし、9時前後に着けばありつけはする」
「でも私より遅かったね。バスじゃ限界があるよ」
「ナメてると痛い目に遭うぞ」

店内は広そうに見えるが、カウンター6席のみ。回転は良くも悪くもない。最終的に着丼までは35分程度であった。
先に入店する京子が食券を購入する。
「ラーメンかチャーシューメンか。まあこの後もたくさん食べるし、ラーメンにするか」
席が一気に空いたため、タテルも時間差僅かでちゃっかり入店した。
「性に合わない早起きまでして来た訳だし、まあまあ腹減ってるし、チャーシューメンにしちゃおうかな」


出てきたチャーシューメンは、予想以上に肉が多かった。醤油スープからは鰹節の良い香り、そしてコクも感じられるし、手揉み麺は鰹節の香りを纏って入ってくる。しかし味濃いめのチャーシューが大挙すると、スープの良さを打ち消してしまうのだ。
「ノーマルのラーメンにするべきだった…この調子じゃ後3杯食えない…」
「あらまだ食べてるのタテルくん?」
「肉が多い…」
「やっちゃったねタテルくん。お先〜」
「あ、帰りは目黒駅から行くといいよ」
「何その助言。わかった、私をハメようとしてるでしょ」
図星のタテル。えーちゃん食堂は目黒駅から徒歩圏内にあるが、途中の雅叙園から先は心臓破りの坂になっている。駅へ戻る際は上りとなるため、歩いて行くと体力を消耗する。その事情を知らないだろうと踏んで、タテルは京子に目黒駅へ歩くよう仕向けようとしたが、意地悪したがりなタテルの性格を京子は見抜いている。
「悪いけど付き合ってる暇ないから。お先〜」
「ちぇっ。煽られるのって腹立つね」
NEXT