連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』104杯目(三ん寅/江戸川橋)

グルメすぎる東大卒芸人・タテルと、人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバーで現在は宝刀芸能所属の俳優・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のお話。

  

翌日、タテルはジャックルビー伊東とPOISONスリルバンビーナ田森に遭遇した。深夜番組『オールナイト不比等』出演時以来の再会である。
「おータテル君。大変だったな独立騒動」
「参りましたよ、死にかけましたからね。残念です、オールナイト不比等終わってしまって」
「冬元先生の後ろ盾無くなったからね…」
「もっとガンガンにエロいことやりたかったです。そうだ、ちょっとご相談がありまして」
「どうした?」
「どうやったら激しい夜を過ごせますかね?」
「激しい夜?急にどうした?」
「ちょっと…したくなっちゃって」
「なるほど。そんなこと考えるようになるなんて、タテル君も一皮剥けたね」
「1年前の君からは想像もできないよ」
「ですよね。恋すらしないと思っていたのに、まさか京子と出逢ってここまでの関係になるとは」
「でもね、今は我慢が必要かも」
「せやな。ちょっと甘くないかな?」
「したいという気持ちがあるなら、どうやったらできるようになるか考えてからしないと」
「説教臭くてごめんやけど、俺らもそうやってやってきたから」
「なるほど、もっとあそこをああするとか」
「そうそう。あれを削ぎ落とすとか」
「痛そう…だけど通らないといけない道ですもんね」
「いいね。それくらいやっておけば冬のうちにできそうやん」
「暖房の効いた部屋でやるの、最高だぜ」
「ムンムンしてきた!あざす!」

  

少し寒くなったある日の午後1時、撮影現場から中抜けしてきた京子はタテルと合流し、江戸川橋の味噌ラーメン店「三ん寅」の行列に並ぶ。
「ピークずらして来たのにすごい行列」
「どうやらロット制だな」
「1ロット何人なんだろう」
「…口コミ調べたけどよくわからないな。でもどうせ俺らはロットの先頭なんだろうな。10分くらい後から来た客と同じタイミングなんだろうなどうせ」
「何ぶつぶつ言ってるのタテルくん。いいじゃんそれくらい」
「負けた気がして嫌なんだよ」
「そんなうつうつしくするから負けるの。前向こう、ほらっ!」

  

タテルの下がった顎をくいっと上げる京子。
「悪い気はしないな」
「満たされないことがあったら何でも言って。私が満たしてあげるから」
「ありがとう。頼もしいよ京子は」

  

タテルのネガティヴな予測通りロットの先頭になってしまったが、40分弱並んで食べる味噌ラーメンは美味しいものであった。コクだけでなく苦味や透明感など、味噌の多面的な魅力を表現している。発色の良い麺もスープと調和していて、生姜のアクセントもまた良い。

  

「あったかいラーメン食べたから、ホッカホカの夜を過ごせそうだよ」
「それどういうこと?」
「情熱的で伝説的な夜、過ごしたいな」
「よくわからない…」

  

その夜、京子は袋をぶら下げて帰ってきた。
「タテルくん、美味しそうな苺があったから買ってきたよ!」
「苺?ちょっと早くない?」
「練乳まで貰っちゃった。つけて食べると甘いですよ、って」
「俺は飛べるデブだ。練乳なんて飛べないデブの食い物、邪道だな」
「本当は舐めたいんじゃないの?」
「そんなことない」
「誤魔化そうとしても無駄だよ。食べたそうな顔してる」
「…」
「よし決まり!今から用意するね〜」

  

「あ美味しい。やっぱ練乳かけると変わるね」
「素材の味を補う練乳。いいね」
「タテルくんの食べ方変わってる。何で上からかじるの?」
「下の方が甘いから。美味しいものは残しておくタイプなんだ」
「へぇ〜。あそうだ、もうちょっと食べる?今度はいちごミルクにしよう」
「良いね。真っ白なミルクに溺れちゃおう」
「それともう一つ。やっぱやろうか、情熱的で伝説的な夜」
「…いいのか?」
「覚悟はできた。タテルくんのこと満たしてあげる、って約束したし」
「…ありがとうだよ」
「じゃあ動画編集終わったら一緒に、ね」

  

こうして2人は伝説的な夜を過ごし、タテルは二度とエロ動画を観なくなったと云う。

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