連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』103杯目(MENSHO/護国寺)

グルメすぎる東大卒芸人・タテルと、人気アイドルグループ「綱の手引き坂46(現:TO-NA)」の元メンバーで現在は宝刀芸能所属の俳優・佐藤京子。2人共1997年生まれの同い年で、生まれも育ちも東京。ラーメンYouTuber『僕たちはキョコってる』として活躍している2人の、ラーメンと共に育まれる恋のお話。

  

「まあ俺も金髪にしたことあるけどね」
「嘘でしょ⁈タテルくんの金髪なんて想像つかない」
「だよな。7年前、誕生日祝いにサプライズで染められた」
「どんなサプライズよ」
「バイト仲間の女の子達に『これから髪を染めてやる』って言われてさ。何色にされるんだろうってヒヤヒヤして、親に電話したよね」
「それは確かに怖い。いきなりピンクとかされたら嫌だもんね」
「金髪で良かったよ。意外と気に入ってたんだ。写真見てみる?」

  

「おいいじゃん、今より痩せてたんだね」
「まあそうだね。標準体型より少し太いくらいだった」
「ねえねえ、痩せたらタテルくんもまた金髪にしてみない?」
「悪くないね。将来のこと何も考えなくて良かった金髪時代、懐かしいなあ」
「私たぶん年明けには黒髪に戻すから、交代でタテルくん金髪だね。それまでに10kgは痩せよう」
「ラジャー!」

  

3日後、三ノ輪の家に筋トレマシーンが多数届く。
「えーっと、ラットプルダウンを背景としてここにレッグプレスと…
「タテルくん、随分大掛かりなことするんだね」
「なるべく幅取らないように気をつけたつもりだけど…」
「怒ってないよ。私も体力作りのために筋トレやりたかったし」
「良かった…」
「でも私に隠れてエロ筋トレ動画観るのは禁止」
「おいおい、なぜそれを…」
「つけっぱなしになってたよ!器具の配置、完全にその動画参考にしてるでしょ」
「観たのかよ」
「観たのかよ、って何⁈どうしてエロ動画観るわけ⁈」
「抑えられないんだよ!」
「…まあ私も頑張るから、今後は観ないようにね」
「わかったよ」

  

なにか納得したのか、素直に京子の注意を受け入れるタテル。そして次のラーメン自腹を懸けた対決を行う。
「ぶら下がり対決!より長くぶら下がっていられた方の勝ちです」
「まあ俺らSASIKOのヘヴィウォッチャーですからね、ぶら下がりくらいはできないと」
「これ私結構不利じゃありません?私だけ粉つけていいとかないんですか?」
「ダメ!有利不利を大きく左右する。SASIKOの有力選手でさえタンマ無いとぶら下がれない」
「そうなの?」
「それに俺カラダ重いし。ハンデ無しで十分平等です」

  

まずは京子の挑戦。僅か5秒で手を離してしまった。
「全然ダメだ〜、やっぱ粉欲しかった!」
「京子の筋力じゃ粉あっても無理だ。もう結果は見えたね」
タテルはシューズとソックスを脱ぐなど、できる限り重さを取り除いた。さらにバーをジュンサカで握り、形だけはすっかりSASIKOの選手である。

  

「よーいスタート!…ああダメだ!」
「全然耐えれてないじゃん!真面目にやってよ」
「マジでムリ!京子以上に筋力が足りてない俺!」
「こんな低レベルの試合、恥ずかしいよ。いいです、今回は各々支払いましょう」
「ありがとう。お互い筋トレ頑張ろうね」

  

今回やってきた店は護国寺にある「MENSHO」。土曜日の12時少し前に到着したところすんなり入店することができたが、その後混雑し始めたので早めに行くに越したことはない。実は普通のラーメン以上に担々麺が好きだと云う2人は、左上の法則など無視して和牛担々麺を選択した。

  

「ぼんさいさいの男の人が結婚だって」
「ぼんさいさいってカップルYouTuberだよね」
「そうなんだ。あまり知らないけど」
「あ、お相手の方は相方じゃないのね」
「へぇ、そういうこともあるんだ」
「カップルYouTuberって意外とそういうことある…んだよね」

  

思えば自分達もカップルYouTuberである。カップルYouTuberは別れる、という悪しき傾向があるから、自分達も結ばれないで終わる運命なのかもしれない。タテルはそれを恐れていた。
「だからさ、俺らもそろそろしない?」
「何を?」
「ほらアレだよ、アレ。デカい声で言うことじゃないけどさ…」
「もしかして、そういうこと?」
「そう」
「いやぁ、今はちょっとね…いずれ通る道であることはわかってるけど」

  

色好い返事を貰えないまま担々麺がやってきた。胡麻の味が濃く、少しの酸味で締まりをなすスープは高級中華のクオリティである。そうなると麺はもう少し柔らかい方が馴染むと思う。
和牛自体は脂の旨味もあって美味しいのだが、担々麺と合わせて何か起こるという程では無い。高級食材というのはわかっているが、もう2,3枚載っていれば真価を理解できそうである。それでも旨味が凝縮された正義の焼きトマトが載っていて最終的には満足であった。

  

肉丼には様々なチャーシューが賽の目切れになって入っており、特製醤油ラーメンへの期待を窺える。
「ま私たちももう27歳だし、しなきゃいけないとは思ってる。でもちょっと怖い気持ちはある」
「そっか。俺ちょっと焦ったかもな。このままずっと2人で居たい思いが溢れ出しすぎた」
「それはもちろんだよ。アレするしないで壊れるような関係性じゃないでしょ」
「だよな…」
「いってきますのチューならずっとしてあげるから。これからも愛してるよ」
「ああ。ずっと愛してる」

  

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