連続百名店小説『東京ラーメンストーリー』夏休み厚木SP 3杯目(厚木本丸亭/本厚木)

綱の手引き坂46特別アンバサダーを務めるタテル(25)は、エースメンバー・京子(25)とラーメンYouTube『僕たちはキョコってる』を運営している。いつもは都内のラーメン店を巡っているが、今回は夏休み特別編として、同じグループのメンバー・スズカ(22)と厚木市内のラーメンを食べ尽くす。

  

宿に逃げ戻った4人は男性陣の部屋に集合しました。
「たしかに聞こえたよね、『見殺しにする気か!』って…」
「まぢがいないゴホッゴホッ…」
「タテルさん、声枯れてる!」
「さげびすぎだがも…」
「こんな怖いことあります⁈」
「おばけの存在なんて信じてなかったのに…」
ビビりなタテルはもちろん、肝が据わっているスズカ、人の怪談話の腰を折りがちな京子も流石に怖気づいています。
「タテルさんどういうことですかこれ?」
「お得意の科学的思考で解決してよ」
「何で俺のせい?得意じゃないし…」
「まあ落ち着いて」スタッフ大石田はひとり冷静でした。
「落ち着けませんってこの状況で」
「考えたって仕方ないでしょ。もう寝よう。スズカ寝不足なんでしょ」
「そうですけど…寝れませんよ」
「とりあえず解散!」

  

「タテルさん、テレビ消してください」
「嫌です。怖くて眠れない」
「部屋を真っ暗にしてよく寝なさい。声枯れてるんだから」
「何でそんな冷静でいられるんですか?信じらんなゴホッゴホッ…」

  

女性陣もまた、眠れないでいました。前日4時間睡眠のスズカも、体の疲れとは裏腹に目が冴えてしまいます。
〽︎帰りたくなったよ 君が待つ街へ
「スズカちゃん、気持ちはわかったから歌うより寝た方がいいよ」
「寝たいけど寝れないです」
「そうだよね…」

  

スズカは部屋の外にある洗面所に向かいました。すると暗い廊下に一点の光が浮かび、しゃがれ声が聞こえました。
「ギャーーー!」
「ギャーーー!」

  

ガラガラ声の正体は、YouTubeを観ながら歩くタテルでした。スズカに驚かれ悲鳴を上げます。
「驚かさないでくださいよ〜!」
「暗い廊下、お供なしで歩くの無理だって」
「気持ちわかりますけど。もう限界です帰りたい…」
スズカは遂に号泣し始めました。
「怖いよな。眠れないよな」
「眠れないです…」
「そういう時は寝ようとしても無駄だ。そうだ、温泉は24時間営業だよね。入りに行こうか」

  

そうして2人は温泉に入ることにしました。スズカは例によって犬神家スタイルで入浴します。これで少しは安らぎを得られたようです。

  

「ああダメだ、すぐ目が覚める。あれ、スズカちゃんどこ行った…?」
京子も温泉に向かうことにしました。

  

〽︎まっ暗で何も見えない 怖くても大丈夫
歌で自分を鼓舞しながら暗い廊下を歩みます。大浴場の入口に差し掛かった時のことでした。
「ヒャーーーーー!」大浴場の方から悲鳴がしました。
「ヒーー!もう何よ…」

  

大浴場に入る京子。するとそこに、スズカが倒れていました。
「スズカ⁈大丈夫⁈ねぇスズカ⁈スズカってば!」
タテルも悲鳴を聞き慌て出します。
「おい!何が起きた⁈」
「タテルくん?スズカが…スズカが倒れた!」
「何だって⁈おいスズカ、しっかりしろ!」

  

タテルは急いで服を着てAEDを探しに行きます。一刻を争う事態、暗い廊下が怖いとか言っている暇はありません。
と、その時。スズカが目を覚ましました。
「スズカ⁈」
「京子さん…」
「無事で良かった…」
どうやらスズカは湯から上がった際に立ちくらみを起こして転倒し、その衝撃も相まって失神したようです。脱水症状を起こしていたと思われるので、もし京子やタテルが異変に気づいていなければ命の危険もあったかもしれないのです。
「立てる?」
「はい…ああ痛い!」
「腰やっちゃった?」
「パラダイスしちゃいました…」

  

AEDを手にし外で待つタテル。
「ああ、無事でよかった…」
「でもスズカちゃん腰痛めちゃって歩けない」
「マジかよ…」
「タテルくん、おんぶしてあげて」
「俺が⁈ムリムリ、色々問題あるよ」
「お願いします…」
「しょうがないなあ」

  

タテルは何とかスズカを部屋に帰し横たわらせます。脱水症状があったので自販機でスポーツドリンクを買い飲ませました。
「後は京子に任せた。少しでも異変があったら呼んで」
「わかった」
「スズカ、ちゃんと寝ろよ。疲労溜まりすぎなんだよ」
「ご迷惑おかけしてすみません…」

  

翌朝。
「タテルさん眠そうですね。やっぱ眠れませんでした?」一人熟睡した大石田は何の気なしに問います。
「大石田さんは気楽でいいですよね。夜中大変だったんですよ」
「え?」
「スズカがお風呂場で転んで失神してたんです」
「マジで⁈」
「腰打っちゃったから俺がおぶって…」
「そんなことがあったとは…」

  

「スズカちゃん、動ける?」
「はい、何とか…でも運転はムリかもしれないです」
「困ったな…大石田さんって免許持ってるのかな」

  

「ごめん、俺運転できません」
「えっ⁈じゃあ誰が運転するの?」
「俺しかいないよ、ね…」手を挙げたのはタテルでした。
「免許持ってるんだ」
「だけどペーパーだよ。この前ちょこっとマリモちゃんを乗せたくらいだし、長距離の運転は自信ない…」
「でもタテルさんしかいないからね。悪いけど頼みます」
「大丈夫かな…」タテルは大きな不安に襲われました。

  

京子の太ももに足を載せてもらい、スズカは後部座席に横たわります。
「あぁ、事故起こしそう。みんな、来世でまた会おう」タテルは未だ弱気です。
「やめてよそういうこと言うの」
「だって怖いんだもん。くねくねした山道、幹線道路、高速に至っては全く初めて…」
「でもしょうがないでしょ!やるしかない!」
「…」

  

〽︎残酷な天使のように少年よ神話になれ〜
京子がタテルの耳元に自慢の歌声を吹き込みます。
「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…」
「タテルくん、エヴァーに乗れ!」
「エヴァー、発進!」

  

勇気を振り絞りエヴァーを発進させたタテル。ひとたび動かしてみれば怖いことはなかった。約40分の道のり、何事もなく本丸亭に到着する。

  

「バックも完璧です。タテルさん、やればできるじゃないですか」
「良かった無事に着けて。京子、決心のきっかけ与えてくれてありがとう」
「油断しないで。この後もよろしくね」

  

平日の開店直後だったため行列はありませんでした。これが休日ともなれば普通に行列ができますし、今シーズンのお盆休みに至っては完売で早仕舞いしたほど人気の店です。
この店の名物は塩ラーメン。本丸か赤丸という一風堂を思い起こさせる選択肢がありますが、初めての人なら本丸を頼みましょう。

  

「あ、公式LINEの友だち登録で塩味玉サービスだって」
「やろうやろう。タダで貰えるものは貰うんだぞ。それにしてもスズカ、腰大丈夫か?」
「おかげさまで少し良くなりました。でも長時間座るのはキツいです」
「みんな寝不足気味だし、マッサージ受けに行かない?」
「いいね」
「アウトレットの近くにマッサージ店見つけた。予約してみるね」

  

無事予約が取れたところでラーメンがやってきました。前日に行った2軒とは違い、太さが不均一の手打ち麺です。塩ラーメンとは概して麺の強さにスープが負けがちなものですが、ピロピロした麺が旨味をしっかり絡め取り、麺とスープが融合した素晴らしい1杯になっています。チャーシューも食べ応えがありつつ赤身と脂が蕩けます。塩味玉は見た目普通のゆで卵ですが、塩味が決まっており旨いです。

  

タテルはご飯も頼みました。炊き込みご飯の上に肉とキムチが載っています。炊き込みご飯である必要性の有無はさておき、どう考えても美味しい組み合わせです。

  

美味しいラーメンを食べ満腹になった一同は、マッサージ店まで20分ほどの道のりを進みます。運転手タテルは自らを奮い立たせるため、この旅最大のハイトーンを響かせます。

  

〽︎紅に染まったこの俺を慰める奴はもういない

  

  

しかしタテルさん、歌に夢中になりすぎていませんか?

  

初心者ドライバーなのにスズカに褒められて、調子に乗っていませんか?

  

そして何より、寝不足のまま運転していませんか?

  

そのまま放っておくと、大変なことになりますよ…

  

  

「あぶねぇ!」

  

  

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