さあ崖衣紋掛(Cliff Hanger)の背面飛び移り、女性初のクリアとなるか?…掴んだ!綱の手引き坂46のメイが女性で初めて掴んだ!
猫まっしぐらのメイ!緑のパイプに腰を掛けました!いよいよ第三砦最後の審判、最終管滑走(Pipe Slider)に挑みます。長いSASIKOの歴史において、女性がこのオレンジ色の管を触るのは初めてのこと。普段は無口でシャイでフワフワしているメイが、真剣な眼差しでゴール地点を見据えています。幼い頃からSASIKO出演を夢見てきた少女が今なんと、最終砦へ歩みを進めようとしています。数多の兵を飲み込んだ最終管滑走、メイは赤いゴールマットに体を乗せることができるのか?さあ管を掴んだ!華奢な体を前に前に進める!少し苦しそうな顔をしているがどうか?何とか終点まで到達した!後は管が後退しないように体を振る!ちょっと下がった!もう一度前へ。ゆっくり落ち着いて体を振る、振る、振る!そして飛んでいっ…
「…なんだ夢か。せっかく興奮してきたところだったのに。それにしても寒いな、これだから冬の朝は苦手だ」
女性アイドルグループ「綱の手引き坂46」特別アンバサダーのタテルはSASIKOのヘヴィーウォッチャー。タテルの生まれる2週間前に産声を上げ、魔城陥落を目指して人生を捧げる選手が多数現れ、ついにはフォーマットが各国に輸出され世界中からの注目を集めるアスレチック番組になった。日本国内では年末恒例の特番として制作され、有力選手は1年かけて体を仕上げ魔城陥落に挑む。
名もなき一般人の挑戦者が活躍する番組ではあるが、芸能人も多数挑戦する。その中で、綱の手引き坂46からもグループ随一の運動神経の持ち主・メイが送り込まれていた。メイの運動能力は果たしてどこまで通用するのか、考えるだけで心臓の鼓動が速くなるタテル。
「タテルさん、今日みんなでSASIKOの鑑賞会やるんですけど、来れますか?」
「行くよ!メイもいるでしょ?」
「はい!」
「ドキドキするよな。結果とかネタバレしてないもんね?」
「メイさんからは何も聞いてないです。今年こそ余弦波滑降を攻略して、第一砦クリアしてたら嬉しいなあ」
「メイはもっと先に行ける人だ。夢で見てるんだよ俺」
「崖衣紋掛掴んでいたら舞い上がりますね」
そしてSASIKOのオンエアが始まった。メイは100人中5人目の挑戦。タテル達の期待通り序盤の3障害をクリアしていく。
「去年よりもスピードアップしている!制限時間内のクリアあるぞこれ」
次はこの年より導入された新障害・二連金剛君(Twin Diamonds)。回転する菱形の台が2つ並んでいて走り抜けるものである。
「メイは奈良のチーターだから余裕っしょ。…アァーッ!」
2つ目の乗り移りに失敗し、2023年のメイのSASIKOは果ててしまった。見守っていたメンバー達の前で涙するメイ。
「やっぱり余弦波まで行きたかったよ〜」
「よく頑張ったよメイちゃん…」
メイを囲むメンバー達から一歩下がった場所で考え込むタテル。メイの運動能力は認めているが、SASIKOはそれが通用するほど甘い競技ではないことを痛感した。有力選手は人生をかけて練習していて、それでも魔城陥落は易々とさせてもらえない。ぽっと出のアイドルが合間にちょこっと練習しただけではクリアなど夢のまた夢である。
でもメイは今まで出会った女性の中でも群を抜いて魅力的な運動神経を持っている。女性に限れば芸能界で10本の指に入る運動おばけであるとタテルは云う。それなのに、メイは大したことない、と世間に後ろ指をさされたらどうしよう。悔しさの波紋が広がる感覚を抱えたまま、タテルは年を越した。
年明け早々、タテルの元にSMSが届いた。SASIKOの総合演出を務める辰巳からのメッセージであった。
突然の誘いですみません。今度松井田くんと前橋で食事するんですけど、タテルさんとメイちゃんも一緒に来ませんか?フランス料理の店でちょっとお高めなんですけど、良かったら是非。
「え…これってもしかして、メイが辰巳さんにハマってる⁈このチャンス逃す訳にはいかない!」
それを受けてタテルは帰省中のメイにLINEを送った。
「SASIKO総合演出の辰巳さんが松井田さんとフレンチ行くんだって。一緒に来ないか、って誘われたんだけど行く?」
「行きたいです!場所はどこですか?」
「前橋」
「前橋ってどこですか?」
「群馬だよ。群馬の県庁所在地」
「ちょっと遠いけど、せっかくの機会ですから行きましょう」
「よっしゃ!辰巳さんに言っておくね」

そして食事会当日。前橋は群馬県の県庁所在地であるが、最大都市かつ交通の要衝は高崎であり、新幹線から本数少なめの在来線(両毛線)に乗り継ぐ必要があってちょっと面倒臭い。前橋駅から店までには、歩くには遠く、タクシーをワンメーター遣わすのも憚られる嫌な距離がある。
「バス乗ろうか。バス停2つだけだけど」
「時間も無いのでそうしましょうか」
国道50号を越えた先の坂下バス停から店に向かう。その道中は、一流フレンチがあるとは思えないくらいの歓楽街である。
Googleマップの案内に頼った結果、まえばしガレリアの裏手に回ってしまい焦る2人。

何とか表へ抜け、表参道や代々木にありそうな現代建築の中にある店への入口に到達した。
サーヴィスの人に案内された先は清潔感のある空間。カウンターは僅か4席で、広々としたキッチンが前に見える。一番入口側の席に松井田、その隣に辰巳が座っていて、メイとタテルが並んで座る。
「お待たせしてすみません辰巳さん松井田さん」
「大丈夫よ。突然の連絡にも関わらず来てくれてありがとう」
「メイちゃん久しぶり!」
「松井田さんに会えた…」
「え〜泣かないでよ!この前のライヴも楽しかったよ!」
「いつも来て下さってありがとうございます…」
「メイちゃんすごく感受性豊か。すっかり首ったけですよ」
まずはドリンクの注文から。いつもならワインペアリングを所望するのだが、30000円と聞いて腰が引けてしまう。ただ後から聞いた話によるとかなり豪勢なラインナップらしく、ボルドー5大シャトーのマルゴー、ソーテルヌの最高峰ディケムが出てくるとのことである。

そうとは知らないタテルとメイはとりあえずシャンパーニュを注文した。カゼ・ティボーの力強い1杯で暫く通す。

最初の料理はブリオッシュに黒いちじく、川場村のブッラータ、水上の生ハム「はもんみなかみ」を載せた豪華なフィンガーフード。色々載ってはいるが、黒トリュフバターの重さが余弦波滑降(Dragon Glider)1本目のようにずっしりくる。フレンチを食べ慣れていないメイは毛を逆立てて驚く。
「松井田くんのいないSASIKO、ちょっと寂しかったなぁ。復帰は考えていないの?」
「考えてないですね。家族とも決めたことなので…」
松井田は水上の温泉地で木工所を営む傍ら、セットを自宅や木工所の敷地に作成するSASIKOガチ勢である。有力選手の多くがはるばる訪れてセット練をする。SASIKOに出演が決まった芸能人も松井田の元で1回は練習し、希典坂46のMAPLE、そして綱の手引き坂46のメイは毎年訪れている。もちろん自分自身もセット練をし、選手として出場を重ねていた。しかし第一砦をクリアすることは叶わないでいた。
「寂しいです…」
「ごめんねメイちゃん。でもこれだけは譲れないんだ」
「メイ、選手の気持ちは尊重しようか。SASIKOマニアの俺でも踏み込んではいけない領域がある」
「はい…」

続いてはフラン(洋風茶碗蒸し)。北海道噴火湾で獲れたセイコガニをたっぷり入れ、卵は地卵の蔵一を使用。上州地鶏と金華ハムでコンソメをとり、柚子を香らせる。出汁の良さを感じつつ、蟹を堪能できる料理である。
「でも練習には来てね。雨と雪さえ無ければいつでもウェルカムさ」
「ありがとうございます」
「水上って結構雪深いですよね?」
「まあ降りはするけど、豪雪地帯って程では無いかな。雪かきすればいい感じにはなるよ」
「そうなんですね」
「水上まで毎回来るのは大変だから、千葉の串木野くんや外宮くんのセット借りてもいいかもね」
「外宮パークは本当にSASIKO選手だけの聖域ですよね。うちのメイも参加していいものなんでしょうか」
「いいんだよねこれが」

続いて群馬名物・焼きまんじゅうをアレンジした一皿。
「松井田くん、焼きまんじゅうってどんなのだっけ?」
「説明が難しいんですけど、パンみたいなものに甘めの味噌ダレを塗って焼いたものです」
「うちのグループだと、群馬育ちのニュウがよく食べてますね」
「ニュウちゃん、あの子もすごく良い人だよね」

ここでは味噌の代わりにさとうきびを煮詰めた「ボカ」というシロップを塗り、仕上げにフォアグラのテリーヌと白トリュフを載せた。一番強く感じる要素はフォアグラのコク。次いでまんじゅう生地のもちっとした食感を覚える。白トリュフが思うほど主張しない。
「今日一番伝えたかったこととして、メイちゃんには是非SASIKOの有力選手になってもらいたい。捌原くんっているじゃん」
「勿論知ってますよ。魔城陥落を2度成し遂げた新世代のリーダー」
「そんな捌原くんがメイちゃんのこと絶賛してるんだ」
「嬉しい…」また泣きそうになるメイ。
「最初出てくれた時、メイちゃんは他の女性アイドルよりも手前で落ちてしまったけど、捌原くんは最初のエリアでの動きをプロ並みと認めていた。そして翌年は余弦波滑降を触り、この前の回は第一砦クリアが現実味を帯びる速さで前半を駆け抜けた。捌原くんはずっと君に期待しているんだ」
「俺にとって捌原さんはヒーロー。誰も攻略できない雰囲気の強かった3期の魔城を陥落させた人ですからね。そんな捌原さんにメイのことを認知してもらえて、俺も感慨深いっす…」


ここからは群馬に拘らず全国各地から厳選した食材を調理する。まずは長崎ヤイトガツオの藁焼き。燻製にし、鮎の魚醤を塗って香りをプラス。青芯大根のマリネや蕪のピューレで彩る。通常の鰹よりも脂のコクがあり、臭みも無くて美味しく食べられる。
「俺今年北関東の3県庁所在地最高峰フレンチを全制覇したんですよ。水戸のオオツ、宇都宮のオトワ、そして今日ここ。全部レストランのためだけに遠征してます」
「タテルくん、想像以上にフッ軽なんだね」
「食い意地だけは張ってます。今言った2軒は地元の素材に拘っていますけど、ここは違うんですよね。シェフ、群馬の食材で全てやろうとは思わなかったんですか?上州和牛とか」
「実はオープン当初は群馬食材に拘っていたんです。でも意外と地元の方喜ばないんですよね。それで僕たちは、東京のように全国から食材を集めてやってます」
「確かに、ノリは完全にギロッポンですよね」
「この店の経営母体自体が東京で、前橋の地域振興をミッションとしてこの店を開いたんです。街並み見てわかると思うんですけど、前橋はどうも高崎より寂れているんですよ」
「確かに、夜の店だけが目立ってましたね」
「ですよね。だから東京クラスのフレンチを出して少しでも盛り上げようとしています。お医者さんが来てくれますね結構」
「群馬大学があるからか。あそこの医学部は有名だ」
「前橋で高級フレンチなんて無謀なチャレンジだ、と言われることもありますけど、何とかやってこれましたね」


続いて熊本の「藍うなぎ」に茄子のコンポートを載せて。透明なソースはトマトでできていて、花穂紫蘇や梅で群馬らしさを少し散らす。香ばしく焼かれた鰻の旨味と梅の味がよくマッチする。
SASIKOは世界的なコンテンツになった。特にアメリカでは日本以上の熱狂が生まれ、ヨーロッパやオーストラリアでも根強い人気となっている。遂にはロス五輪近代五種にSASIKOモチーフの障害物レースが採用されることとなった。
「こないだのSASIKOワールドカップも大盛り上がりでした。俺も観ていてすごく楽しかったですもん」
「あれは恒例行事にしたいよね。年末だけしかやらないのも寂しいし」
「海外勢の女性メンバー、強くないですか?アメリカのジェシージラフやオーストラリアのキャッツアイみたいな強カワ選手が日本にももっと欲しいです」
「そこで、なんだよ。2人にお願いしたいことは」


いいところであったがオマール海老のポワレが仕上がったため戴く。アメリケーヌソースをかけ、下には飛騨のブランド米「龍の瞳」を使ったリゾットを敷いている。しっかり火入れした正統派のオマール海老料理で間違いのない美味しさである。メイも漸く高級店の雰囲気に慣れてきた模様である。
「メイちゃんには、有力選手からの手厚いサポートを受けてもらいます。まずは日本人女性初の第三砦進出を、現在の日本人女性最強選手・小島あやめと競っていただきたい。そして、最終的には魔城陥落を決めてほしい」
「…私が、ですか?」
「もちろんだよ。ここにいるみんなが、メイちゃんのポテンシャルを信じている」
「メイちゃんなら絶対やれるよ!俺も見たいんだ、メイちゃんが崖衣紋掛(Cliff Hanger)掴むところ」
「…頑張ります!」
「ありがとう。結果が出なくても3〜4回くらいは出れるようにしておくから。不安がらず練習してな」

メイの次回大会への出場がほぼ確実になったところで白ワインを所望する。カリヨンのモンテリーブラン。シャルドネ100%で果実味が凝縮されており、バターによく合うタイプである。


そこへパイ包みスープが登場。具材はフォアグラに加え、兵庫の鱧や松茸も入っていて土瓶蒸しの要素もある。贅沢な具材の数々に夢中になる一方、剥がし方がよくわからなかった2人は糖質制限を口実にパイを少し残してしまう。
「タテルくんもメイちゃんのサポート、よろしくね。君がSASIKOに詳しいことはスタッフの間でも有名だよ」
「そうなんですか⁈ありがたいですね〜。自分は運動音痴だからやんや言うことしかできないですけど」
「分析力は相当すごいんじゃない?さすが東大卒」
「SASIKO公式YouTubeで毎回コメント書いてますよねタテルくん」
「松井田さんも見てるんですか?つい書きたくなっちゃうんですよね〜」
「スタッフみんな毎回楽しみにしている。選手の動きもよく見ているし、素人目線からのコメントもあって面白い」
反立壁は天辺を掴めれば皆ヒョイっと上がれているけど、これ当たり前じゃないんだよな。体持ち上げるのって腕力や脚の柔軟性がないと難しい。体育館のステージ使って試してみるといいよ。
「言われたらそうだよね。昨日公開されたアイドル予選会でも苦労してる子多かった」
「たまに独特な切り口すぎてハテナが浮かぶこともあるけど、それもまた楽しんでるんだよな俺。だからメイちゃん、タテルくんの言うことも聞くんだぞ」
「わかりました〜」


続いては愛知県の離島・日間賀島の鰆を焦がしバターソースで。さらに北海道仙鳳趾の牡蠣をペーストにして載せ、最後に菜の花っぽいヨーロッパ野菜「チーマ・ディ・ラーパ」をあしらう。2つの魚介、そしてソースの濃厚な味わいで満足度がものすごく高い。
「タテルくん、今までのSASIKOの中で一番好きなシーンは?」
「第8回の小杉圭さんの第三砦です。最終砦の雨の中登っていく姿も良いんですけど、因縁の障害をクリアして、ゴール地点の赤マットを踏み締め雄叫びを上げるまでの流れがもう神がかっていて」
「俺も観てました。カッコいいですよね」
「公式YouTubeに上がってるやつ何回観たことか。それでここからが独自の視点なんですけど、小杉さんは数少ない、第三砦を裸足でクリアした人です」
「独特すぎる着眼点」
「崖衣紋掛(Cliff Hanger)を前にして靴と靴下を脱ぎ本気モード。それを越え精神統一して最終管滑走(Pipe Slider)へ。足を揃え綺麗に体を振り、最後は両足でゴールマットを挟み込むようにして着地に成功しました」
「状況がありありと蘇るね。さすがSASIKOマニア」
「同じように裸足で最終管滑走に挑んだのがあの第10回のミスターSASIKO・山田GATSBYです。彼も同じようなスタイルで着地に挑みましたが、小杉さんより体の振りが弱めだったためか、手でマットを掴む余裕がなく滑り落ちてしまいました」
「それもよく覚えてます。実況も含めて」
「山田さんは第6回でも最終管滑走に挑み、その時の足元は地下足袋でした。まああの時は振りは良かったのですが勢いを殺せず、着地時に右に転げ落ちてしまったのですが。もしこの第10回を地下足袋で挑んでいたら、足のグリップが効いて体を持ち上げることができて、沼地に悔しさの波紋が広がることも無かった。素人の考えるタラレバではありますけど、そんなことを考えるのも一興なんですよね」
「すごい。まさか裸足かどうかだけでこんなに話を繋げてくるとは」
「最近いないですもんね、裸足で挑む人」
「原則禁止にしてるからね。安全面を考慮して」
「懸垂などぶら下がり系は少しでも重さを取り除いてやるものだ、という話はよく聞きますけどね。でも最近は第三砦を上裸で挑む人すら少ない」
「ヨッシーくらいだもんね」
「演出も含め、昔から比べるとだいぶ洗練されてきましたね」

SASIKO談義に花が咲いたところで、肉料理に合わせた赤ワインを持ってきてもらう。ブルゴーニュはニュイ・サン・ジョルジュより、2021メオ・カミュゼ。軽めだが華やかさのあるブルゴーニュらしい1杯である。


肉料理は青森県産「銀の鴨」。目の前に置かれた網で炭火焼きにして仕上げてくれる。臭みのないクリアな肉質である。そこにグアンチェーレ、トリュフ含めた茸を合わせコクもプラス。そしてフレンチではまず使わないわさびを載せ、これが鴨肉の清澄な味わいをより引き立たせる。
「お腹いっぱい〜」あどけない言い方をするメイ。
「不思議でしょ。こんなにヘラヘラして子供っぽいのに動きはキレキレなの」
「ギャップ萌えだね」
「綱の手引き坂にはギャップで魅せるメンバーが多いので、辰巳さんも是非お見知りおきお願いします」
「あいよ。他にも運動できる子は居る?」
「若手メンバーだとパルとリオですね。パルは赤ちゃんのように懐くけどバリバリの野球少女、リオは市船チアで鍛えた全力少女です」
「そうなんだ。もしメイちゃんが結果出せたら出場させてあげるよ」
「私頑張んなきゃ」
「一緒に頑張ろうな、メイ」


デザートは山口県産「がんね栗」のモンブラン。栗の素朴な味わいを十二分に表現しつつ、カカオのチュイル(少しクッキーっぽいチョコレート)が苦味のアクセントを加える。下にはスカイツリーのお膝元で人気の東毛酪農パスチャライズド牛乳を使ったジェラートを添えている。

本体価格30000円のコースにワイン3杯頼んで、会計は1人あたり45000円弱となった。メイは勿論タテルにとっても、これほどの金額を1回の食事で支払ったことは無かった。
「最後に言っておこう。タテルくんも理解しているとは思うが、セット練だけしていてもSASIKOは攻略できない」
「勿論ですとも。セット練だけで魔城陥落できるなら皆してますもん」
「次回のSASIKOにも新たな障害を導入予定だ。また、既存の障害にもマイナーチェンジを加え、体力を削る仕組みにする。セット練では身につかない、普遍的な運動能力を培う必要もあるということだ」
「二連金剛君で落ちてしまったところをみるに、メイには未だ伸び代がある訳だな」
「そうですね。どうやって鍛えましょう…」
「それは松井田くん含めてサポートするから」
「過酷なトレーニングになると思うけど、頑張ってついてきてね」
「はい!」
こうして2024年のメイのSASIKOが始まった。帰りの新幹線の中で、メイは自宅でできるトレーニングを考え、タテルは有力選手達の練習メニューを調べ上げた。
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