連続百名店小説『ビリヤニ道』७:皆にビリヤニを振る舞う(ビリヤニ大澤/小川町)

人気女性アイドルグループ・綱の手引き坂46のメンバーであるナノは、在日ビリヤニ協会会長ジャンプールによって「ビリヤニ大使」に任命された。綱の手引き坂アンバサダーのタテルと協力しながら、ビリヤニの布教と美味しいビリヤニ作りに勤しむ。

  

審査会まで毎日3回はビリヤニを作り続ける2人。大量に作るため綱の手引き坂メンバーは毎日のようにビリヤニを食べさせられる。
「今日もビリヤニ⁈」
「さすがに飽きてきたよ」
「でもチキンとかマトンとかシーフードとか、具材に変化があるのは面白いね」
「私はマトンが好き〜」
「美味しいよ、審査員の人たちもきっと認めてくれるって!」

  

審査会の2日前、ジャンプールから最後に行く店を指定された。
「最後に行ってもらうのはビリヤニ大澤です」
「ここに来てジャパニーズ?」
「ビリヤニだけを売る思い切りの良い店で、7日前に予約必須。あっという間に予約が埋まってしまう名店です。今日は一生懸命予約を取りましたので、お2人には多くの学びを得てもらいたいです。ということでこれ着てください」
「えっ⁈」

  

サリーに着替えたナノとクルタに着替えたタテル。
「似合うなナノ」
「心が落ち着きますね。ナマステ〜」
「でも店では絶対浮くでしょ」
「さすがに本格的な格好で食べに来る人はいないと思います」
「安心してください。大澤氏は知り合いですから、2人がこの格好で来店することはちゃんと伝えてあります。美味しいビリヤニを探究していることも知らせました」

  

土曜の昼、小川町に繰り出した2人。インドの民族衣装に包まれた2人はよく目立つと思われたが、巷を歩く人は他人に無関心なので恥ずかしがることなど無かった。店の付近に到着したが、目立った看板は無く少し戸惑う。この日使用される具材「マトン」の文字、そして地下に繋がる階段を見て漸く場所を把握できた。
「わかりにくいですねここ。秘密基地みたいです」
「ワクワクするね」

昼夜それぞれ2回転(月火木ランチはテイクアウトのみ、日曜定休)で、1回転につき10人しか入れない狭き門。この店が初めてである2人は1回転目に入店する。

  

同じマトンでも日によって使う部位が違うらしく、この日はネックであった。かなり珍しい回に当たったようである。
「マトンはこの前も使ったけど、部位とか意識してなかったよね」
「そうですね。羊さんの首周りってどんな味なんでしょう」
「書いてあるよ。濃厚な赤身だって」

  

まず飲み物を注文するのだが、店主は圧倒的にコーラを推している。ビリヤニに合うよう凍る一歩手前まで冷やし、ビリヤニを食べている途中に頃合いを見計らって出してくれるという。その次にお勧めなのはミルクらしいが、その場にいる全員がコーラを注文するので誰も頼まないらしい。しかし流石いつでもどこでも変化球のナノ、周りに流されること無くミルクを注文した。

  

「このライタは食べやすい。ヨーグルトが良いのかな」
「野菜と合わせても違和感無いですもんね」

  

そして自慢のビリヤニが登場。白い部分もちゃんと味わってほしいとのことで単体で食べてみると、塩気が効いているくらいにしか感じられない。色のついた部分と一緒に食べてもまだよくわからないでいた。綺麗に作り過ぎなのか、と考えるタテル。

  

しかしマトンと合わせて食べると一気に美味しさが啓いた。マトンの臭みがフルーティーなスパイス使いで見事に消され、良質な脂が米を包む。
「病みつきになるね」
「ですね」
ナノは最低限の言葉のみ返し、目の前のビリヤニを夢中で頬張っていた。

  

半分程食べ切ったところでコカコーラが登場。マイナス4℃の過冷却状態でがぶ飲みする贅沢は何にも代え難い。スパイシーなビリヤニとの相性も最高である。
「ああ美味しかった。何度でも通いたくなるね」
「タテル様、ナノ様。ジャンプールさんから話は聞きました。ぜひお2人のビリヤニを食べさせてください。うちのキッチン使って作って良いので」
「ありがとうございます!」

  

2回転目の営業が行われている裏で、審査会に出すビリヤニを試作する2人。営業が終わったところで、店主による試食が行われた。
「マトンビリヤニね。入りの香りは良いぞ」
「緊張しますね…」
「なるほど。確かによくできているよ」
「ありがとうございます!」
「スパイス使い、炊き方、心得ているね。マトンがちょっと臭みあって硬いのが気になるかな。いつもどういう処理してる?」
「こうこうこうして…」
「そうなっちゃうよね。実際はこうこうこうした方が柔らかくなって臭みも抑えられる」
「ビリヤニのプロにアドヴァイスいただけて嬉しいです」
「いえいえ。このビリヤニならきっと、審査員の皆様を喜ばせることができますよ。後は楽しい気持ちで作ること、忘れないでくださいね」
「はい!」

  

審査会当日、2人は言われた通り楽しくビリヤニを作る。
「もう慣れたものだね」
「アンパンマンさんを作る時みたいに心込めて、美味しいなぁれ、美味しくなぁれ」
「ナノらしいな。ビリヤニもきっと喜んでいるよ」

  

炊き上がり10分前、TBBSのスタジオに入る2人。そこには7人の審査員が一列になって、マンガロールバンズを食べながら待機していた。2人に一番近い席には某関西大御所女芸人が鎮座していた。
「かかかか、上沼恵美子さん⁈」
「ナノちゃん、私が○カバヤシくんと人気実力ともに互角言うてたのは何事や!」
「はっ…」泣きそうになるナノ。
「というのは冗談やで。知ってるよ、ナノちゃんオモロい子やって」
「ありがとうございます…」
「今日は美味しいビリヤニ、楽しみにしてるよ」

  

炊き上がったマトンビリヤニの鍋を持ってくるタテル。
「さあ皆さん、お召し上がりください!」
「香りええわぁ〜」
「これは美味しそうですね」
「皆さん、今からよそいますがくれぐれも混ぜないよう気をつけてください。色むらがあるのがビリヤニの特色です」

  

「さあ審査員の皆さん、これはジョプチューンではございません。素直なリアクションを見せていただければと思います」
「いただきます。…あぁ美味しい!」
「多彩なスパイスの香り・辛さがじわじわと広がっていきます」
「マトンすごく美味しい。チキンとは違う魅力がある」
「キンキンに冷えたコーラとの相性も抜群です!ビリヤニ音頭、歌いたくなりますね」
「ライタの中にスイカが入ってる!」
「甘すぎると良くないと思い、外側に近い部分を中心に入れました。ちなみに熊本産です」
「嬉しいです!」

  

「さあ査定のお時間です。今回2人が作ったビリヤニを食べて、ビリヤニ布教活動に協力したいと思った方は札をお上げください」

  

全員が札を上げる。
「やったー!」
「やりましたー!」
「ビリヤニってなかなか試す機会ないですけど、とても美味しいんだなって思いました。夕方のニュースでビリヤニ特集したいですね」
「おじいちゃんになってもまだ、知らない美味しい食べ物がある。これは感動ですね」
「良かったなナノ!頑張った甲斐がある」
「感動します…」
「皆さんの力で、この国にビリヤニを広められると思います。今日のこの一瞬は大きな一歩になりました」
「ビリヤニが日常食になるように、私達も皆さんと一緒に布教活動頑張りたいと思います。じゃあ最後に上白石萌音さん、一緒にビリヤニ音頭踊ってください!」
「勿論ですとも!」

  

—完—

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