連続百名店小説『ビリヤニ道』५:やはりカレーもほしい(アーンドラキッチン/御徒町)

人気女性アイドルグループ・綱の手引き坂46のメンバーであるナノは、在日ビリヤニ協会会長ジャンプールによって「ビリヤニ大使」に任命された。綱の手引き坂アンバサダーのタテルと協力しながら、ビリヤニの布教と美味しいビリヤニ作りに勤しむ。

  

「ああ、バンズ全然上手くできない!」
「ふっくら感が足りませんし、油の照りもないです」
「何で上手くできないの!」
「ゲーム中の『ワレ』が出そうです…」
苛立ちを隠せない2人。

  

「2人ともお疲れ様です」
「あ、お疲れ様です!」
「やっぱりね、カレーもつけたい。ビリヤニに合うカレー探してきて欲しいです」
「結局カレーも出すんですね」
「無ければ無いでいいんですけど、色々変化あった方が高評価いただけると思いまして」
「承知致しました。探しに行ってみます!」

  

訪れたのは御徒町駅南口にあるアーンドラキッチン。外観は何の変哲も無い街のインド料理屋である。
「これかな、アーンドラ・ビリヤニ・ミールス」
「盛り沢山ですね。食べ切れるかな…」

  

タテルはビールを飲みながら、ビリヤニ布教活動の行く先を憂う。
「正直さ、ビリヤニが話題になっている空気感無いんだよね。ビリヤニが一世風靡するヴィジョンが描けない」
「どうしたんですか、急に弱気になられて?」
「世の中にはどうしても動かせないもの、あるよな。未知のものを広めるのって、たった1人や2人の力じゃ不可能だと思う」
「そんなこと言わないで下さいよ!私をビリヤニ大使にして下さったジャンプールさん、悲しみますよ」
「わかってるよ。でも…」

  

下がった気分のまま戴くミールス。豆スープは豆の素朴な味がよく出ていて良い一方、野菜カレーは酸味が強すぎて単体で食べるしかない。マトンカレーとチキンカレーはそれなりの味だが方向性が似通っていて楽しみが半減している。
肝心のビリヤニだが、今まで食べてきたものと比べると断然薄味で、その割には量が多い。カレーに合わせて白米も別に用意されているから余計腹に溜まる。更に生の玉ねぎもついてきていて、これが結構辛く食べるのを躊躇う。

  

「駄目だ、お腹が荒れそう…」
「私も残してしまいました…」
「カレーは余計だ。ビリヤニに集中できない。ああ、テンション爆下がり…」

  

「タテルさん、元気田支店長!」
「いきなり何よ」
「元気田支店長!見てくださいこのコメント」
「初めてビリヤニ食べた!美味しかった!…嬉しいじゃないか」
「しかもこれ、某名門野球高校出身の俳優さん兼アーティストさんのコメントですよ!」
「マジ⁈」
「芸能界では確実にビリヤニブームが巻き起こっています。日本中に波及するのも時間の問題ですよ!」
「いいじゃんいいじゃん!」
タテルは前向きさを取り戻した。

  

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