人気女性アイドルグループ・綱の手引き坂46のメンバーであるナノは、在日ビリヤニ協会会長ジャンプールによって「ビリヤニ大使」に任命された。綱の手引き坂アンバサダーのタテルと協力しながら、ビリヤニの布教と美味しいビリヤニ作りに勤しむ。
ある日、2人はライタ作りに勤しんでいた。
「辛い料理に対しては甘さ欲しいでしょ」
「そうですね。甘辛さんでメリハリがつきます」
「だからスイカやメロンを入れる」
「いちごやりんごも入れて…」
「あまりフルーツばかりだとデザート扱いされちゃう。野菜も入れないとね」
「それではぐるぐるピーマンしてみます?」
「出た、伝家の宝刀。ピーマンは苦味のアクセントになるね」
「にんじんドリブルも決めちゃいましょう」
「硬い方が食感のアクセントになるかな」
「ライタだけでもこんなにアイデアが出てくるとは、奥が深いですね」
「ナノさん、タテルさん」
「ジャンプールさん、お疲れ様です!」
「ビリヤニも面白いんだけど、おつまみも1つか2つ出したいんですよ」
「おつまみ?」
「せっかくだからインドの珍しいおつまみを出してみたいと思っています。そのために2人にはこのお店行ってもらいます」
「バンゲラズキッチン、ですか」
「日本の皆さんが訪れるインド料理屋の多くは北インド、またはネパールの料理を出しています。南インドの料理は少数ですが精鋭揃いなので是非体験してほしいと思います」
日曜日の昼、2人は銀座インズ2にあるこの店を訪問した。年末の休日以外なら満席になることは少ないが、予約して行く方が安全ではある。ジャンプールから指定された「ホリデーランチコース」を注文。食べログのメニュー欄には予約必須と書いてあるが、飛び込みでも注文は可能であった。セットドリンクにセサミココナッツシェイクを選び、未知との遭遇を心待ちにする。
「心がほっこりするドリンクですね」
「胡麻の味が効いている。それにしても高くない?インド料理で4000円出すの初めて」
「ですよね。インドカレーとナンのセットは1000円前後、ビリヤニ単体でもせいぜい2000円くらいです」
「土地代もあるのかな」
「でもお客さん多いですよね。好立地です」
まず供されるのはラッサム。後から辛さが押し寄せる酸辣湯のようなスープで、トマトの旨味が濃いので味わい深い。
「ラッサムは直線的すぎて苦手だけど、これなら飲める」
「赤い物好きのワレには堪らないのです」
「出た、ナノ独特の一人称」
「これは人様に見せても良い『ワレ』です」
「ダメな『ワレ』は?」
「ゲームしている時の『ワレ』ですね」
続いてタンドリーチキン。カレーペーストたっぷり、ミチミチの身でもパサついておらず美味しくいただける。添えられているサラダはとんかつの付け合わせのような普通のサラダである。
「未だ未知では無いね」
「でも次の料理名がマンガロールバンズとマンガロールバジ。これは謎ですね」
「マンガロールは地名っぽい。バンズはパン、バジはバジル?」
その正体は揚げパンであった。バンズの方は甘みと油のコクがあって、バジの方は塩気と香ばしい揚げで、おつまみとして最適の食べ物である。ココナッツペースト(チャットニー)のみっちりした甘みを加えても美味しい。
「これでしょこれ、ジャンプールさんが推したいのは!」
「絶対そうです!これを私達が作るのでしょうか…」
「工程は難しくないんじゃない?でもふっくら仕上がるか、味のバランスをとれるかが難しい」
ビリヤニが仕上がるまでの約20分間、マンガロールバンズ・バジについてLINEでジャンプールに訊ねてみる2人。
「ほうほう、良いところ目つけましたね。バナナをすり潰してヨーグルト・塩・砂糖と混ぜ、小麦粉とイーストを加えて練る。発酵したら油で揚げる。これがマンガロールバンズの作り方ね」
「これ絶対日本人に受けますよ!」
「それなら良かったです。でマンガロールバジの方はメジャーではないんですけど、塩気があるからもっとウケると思いますね」
「これは再現してみたいですね」
そしてメインのビリヤニは鮭のビリヤニ。今までのビリヤニと違って生の野菜は入っておらず食べやすい。味も濃いめでじわじわと辛さが押し寄せる。鮭の程良い脂で食べ応えも生まれ、素直に夢中になれるビリヤニである。
「今のところはこの味付けが一番理想かな」
「そうですね。じわじわ辛くなる感覚が良いですね」
「ビリヤニ音頭、踊りたくなるね」
「そういえばこの前綱の手引き坂公式TikTokに上げたビリヤニ音頭、某人気アニメ映画声優を務めた某女優兼アーティストからいいね戴いて驚きました」
「マジかよ⁈演技にも歌にも長けている人にいいね貰えた!」
「大きな味方がまた1人増えましたね。ビリヤニ布教活動、良い波乗ってます!」
デザートにしては小麦(?)の量が多く重いマンゴープディングを食べながら、タテルは少し不安げな表情を浮かべた。
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