連続百名店小説『ビリヤニ道』२:本場のムードを体験する(カーン・ケバブ・ビリヤニ/新橋)

人気女性アイドルグループ・綱の手引き坂46のメンバーであるナノは、在日ビリヤニ協会会長ジャンプールによって「ビリヤニ大使」に任命された。綱の手引き坂アンバサダーのタテルと協力しながら、ビリヤニの布教と美味しいビリヤニ作りに勤しむ。

  

ある日の朝、テレビ局の楽屋にいたナノとマネジャー。
「ビ、ビ、ビリヤニ、ビリヤニ!」
「ナノちゃん何歌ってるの?」
「これですか?『ビリヤニ音頭』です」
「ナノちゃんらしいね」
「ビリヤニを広めるためにはイメージソングが必要と思いまして」
「ノリノリだね」
「ビリヤニ大使、ですから!」

  

番組収録の休憩中、ナノはビリヤニ音頭の続きを口ずさんでいた。
「ナノちゃん、その曲何?」キャンディサテライト和泉が食いつく。
「ビリヤニ音頭です」
「ビリヤニ?」
「最近流行りのインド料理です。例えるなら炊き込みご飯ですね」進行の某キー局報道番組担当アナウンサーが解説する。
「そうですそうです!よくお食べになるんですか?」
「2回くらい食べたことあります」
「実は私『ビリヤニ大使』に任命されまして、ビリヤニの良さを世の中に発信する活動をしているんです」
「へぇ、ビリヤニ大使か」キャンディサテライト一幸が頷く。
「オススメのビリヤニある?」
「実は未だ1軒しか行ってなくて…」
「ビリヤニ大使なのに⁈」
「任命されたばかりで、ビリヤニのことあまりわかっていないんです」
「そうなんだ。じゃあこれからに期待だね」
「たのしみ〜!」

  

一幸の後押しを受けたナノはその夜、タテルと新橋で落ち合った。銀座八丁目、博品館の建物の6階に目的の店はある。
「店員さんは皆インドの方ですかね」
「インド、って言い切っていいのか。ビリヤニは元々パキスタン発祥らしい」
「パキスタンですか?」
「インドの西隣。仲はあまり良くない」
「それはお気の毒に…」

 

ビリヤニを注文し、豆煎餅が登場。香ばしい塩気に辛いアチャールが載っておりラッシーが進む進む。
「ん〜、美味しいです〜」
「ナノちゃん辛いもの大好きだもんね」
「大好きですよ。これも作ってみたいですね」
「アチャールは良いとして、豆煎餅は手作りできるものなのかな。ジャンプールさんに訊いてみようか」

  

そして本題のチキンビリヤニ。先日のエリックサウス以上に米の色、そしてスパイスの多様性がある。ひしひしと伝わる辛さに、ラッシーは底をついた。
未だ20歳になっていないナノと一緒の席で飲むのは忍びないとわかりつつも、タテルはビールを追加した。

  

「ああ、辛い物にはやっぱビールよね」
「ビールですか…大人の味って感じがしますけど」
「このビールは軽めだね。暑い国だからサラッと飲める方が良いんだろう」

  

ただ、どうやら量が多いようで、食べ進める内に疲れの色を見せ始める2人。さらにタテルは具材に疑問を呈する。
「生の玉ねぎは辛いし、刻まれたパクチーは満遍なく入ってるし」
「嫌いではないですけど、ちょっと量が多いですね」
「アチャールも似通った味で口直しにならない。俺らには本格的過ぎるな」
「でも向こうのテーブルの方、私達より早く平らげました」
「テクニシャンだな。俺らまだまだだな」

  

翌日、会長ジャンプールに報告を行う2人。
「ビリヤニ、とても美味しいです」
「それは良かった。お口に合わなかったらどうしようと思った」
「美味しいっちゃ美味しいんですけど、ちょっと違和感も覚えまして…」
「言って言って。日本人にハマるビリヤニ作りたいから」
「カーンケバブさんで食べたビリヤニには生野菜が載っていたのですが…」
「ああ玉ねぎとかね。それがどうした?」
「ちょっと辛いかな、って思いまして。スパイスの華やかさを邪魔しているように思いました」
「そうお感じですか…」
「辛いアチャールとして食べれば口直しにちょうど良いと思います」
「なるほどね」
「パクチーもあまり使わない方が食べやすいです」
「日本人ってパクチーを沢山食べません?タイの人が嫌悪感示すくらい」
「全員じゃないですよ。クセが強いですし、苦手な人多いです」
「私ナノが話を纏めると、パクチーは無し、生の玉ねぎはアチャールにして豆煎餅と一緒に食べたい、ということです」
「豆煎餅って、パパドのこと?いいところに目をつけたね」
「あれ美味しいですよね。手作りしたいね、って2人で話していたんです」
「手作り?よし、じゃあやるか」

  

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