連続百名店小説『キミにはハマが似合ってる。』第1話:待ち合わせ場所いつもの桜木町(ミセスエリザベスマフィン/桜木町)

人で溢れる日曜日のJR桜木町駅。女性アイドルグループ「TO-NA(旧称:綱の手引き坂46)」のメンバー・アヤはロープウェイの入口付近で、TO-NA特別アンバサダーの男・タテルと待ち合わせをしていた。
「アヤ、おはよう!待たせちゃった?」
「いや、私も3分前に来たばっか」
「良かった。じゃあどこから行こうか」
「まだ朝ごはん食べてないんだよね」
「俺はそもそも食べない派だけど、食べるんだったら付き合うよ」
「ありがとう。じゃあとりあえずランドマークタワー向かおうか」

  

アヤは間も無くTO-NAを卒業する。秦野の出身だが、夢に見る姿の良さと美形で、誰よりも横浜が似合う女性である。タテルも以前アヤと横浜デートに繰り出し、あまりの楽しさで予定外に一夜を明かした。アヤは最後の思い出作りにと、タテルとの横浜デートを切望していた。

  

ただタテルは綱の手引き坂時代のメンバー・京子と付き合っており、アヤとのデートには少し葛藤があった。
「京子からはOK貰った」
「それは良かった」
「でも条件がひとつ。泊まりは無しね。今日中には帰る。この前みたいに一夜を共にしてはいけない」
「それで十分よ。こうやってデートできるだけでも嬉しいもん」
「だね。その代わり2回行っていいってことだったから」

  

ランドマークプラザに着いた2人。月並みではなさそうな飲食店も多数入居している中、洒落たお菓子を求めて2人はマフィンの店に流れ着いた。
「ラッキー!空いてる!ここ休日はいつも行列できてるんだよね」
「俺マフィンとか食べないからスルーしてた。食べたことあるんだ」
「いや、ない。だから入ろう」
「マフィンか…まあ入るか」

  

そこには思った以上に多彩なフレーバーが並んでいた。具材もたっぷりの模様で、ノーマルのマフィンを好かないタテルでも安心のラインナップである。

  

「タテルくん、気が進まない割にはたくさん買ってるじゃん。食べ切れるの?」
「だって美味しそうなんだもん」
「また太っちゃうよ〜」
「今日はいいんだよ、チートデイだから」
「タテルくんは年中チートデイでしょ」
「バレた?」

  

イートインの席を確保し、まずは神奈川らしく湘南ゴールドのマフィンから。柑橘の華やかさはあるが、生地の卵感の方が若干強く感じたタテル。

  

一方バナナマフィンは、バナナの味がフレッシュで最後まで持続する。生地の重さにもだんだん慣れてきたタテル。

  

「それにしてもアヤ、相変わらず食べる量抑えているよね。いっつもサラダ食べてるじゃん」
「やっぱり太りたくないからね」
「この前のデート、アホみたいに大食いしてアホみたいに大酒飲んでたけど」
「あの後大変だったんだからね。むくみがすごかったし、体重も1kg増えたし」
「元が細いんだから1kgくらい…」
「良くない。チートデイなんて嘘。だから私はブルーベリーマフィン1個だけにしたの。なのにタテルくんはバクバク食べてて羨ましい…」
「やせ我慢するなって。食べたい物を我慢する方が体に悪い」
「でも…」
「俺達のデートのモットーは何だ?夢のようなデート、だったろ?」
「そうだけど」
「現実では後ろめたいことをやって良いひと時なんだ。我慢することない」
「…」
「ダメ押しをすると、痩せ型の人は筋肉が足りなくて心臓に負担がかかり、脂肪が足りなくて菌・ウイルス・がん細胞への抵抗力に乏しい。少しは太ってくれ」
「まったく、理屈くさいんだから…」
「という訳だから、このクッキー半分食おうぜ」
「タテルくんには負けたわ。食べるよ」

  

アメリカとかではよくありそうなチョコチップクッキー。ワイルドな印象とは裏腹にチョコがフローラルなもので、荒野に咲く花のように美しかった。
「美味しい〜。タテルくんありがとう、私我慢しなくて良かった」
「だろ。今日はこの後もたくさん食べるからな」
「少しは手加減してね。気をつけないとすぐ大食いしちゃうから私」
「わかったよ」

  

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