連続百名店小説『もう泣かないクイズアイドル』最終問題:これからも仲良くクイズしようぜ!(温石/焼津)

女性アイドルグループ「TO-NA」の頭脳派メンバー・コノは、東大卒のクイズ好きであるTO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)・タテルと共に、約1年ぶりのクイズ修行「プレッシャーSTEADY」に挑む。静岡を舞台に、予約困難天ぷら店・日本料理店での食事を懸けて、一般市民を巻き込みながら難題を解いてきた。

  

気づけば既に夕刻を迎えていた。温石の予約まで余裕はあったが、電車が止まって辿り着けないなどということがあってはならないため早めに焼津入りする。駅から2.5kmほどの道のりを、マジカルバナナなどしながらゆったり歩く。

  

辿り着いた先の親水公園で、辺りが暗くなるのを待ってみる。
「寒くない?」
「ちょっと寒くなってきましたね。靴下持ってきたので履こうかな」
「裸足じゃあ心許ないよね。あそこのベンチに座ろうか」

  

駿河湾を望むベンチ。平日の夕方、駅から離れた公園にいる人は疎らで、静かに海を眺めることができる。
「伊豆半島がちらっと見えるような気がする」
「岩があって見えづらいですけどね。ってか伊豆なんですか、あの方向?」
「東方面だからね。この辺の海は南向きのイメージ強いけど」
「ということは、夕陽はあっちの方に見えますね。相変わらず雲が分厚いですけど、少しずつ晴れてきてますね」
「ちょこっとだけでも夕焼け、見れるかもしれないね」
「雲の切れ間に見える夕焼け、美しいだろうな」

  

じっとしているとやっぱり寒いからと、公園内を歩き回ることにした2人。ここには恋人の聖地モニュメントがあって、鐘は焼津名産カツオの頭を模している。
「可愛らしい〜!恋人の聖地ですってタテルさん!」
「失恋したばかりの俺に何を言うんだ」
「新しい恋、探しましょう」
「俺とコノが恋人みたいな感じになってる。まだ現役アイドルなんだからやめなさい、コノ」
「でも私たちナイスコンビじゃないですか。難問を何問も捩じ伏せてきて」
「それは言えてる」
「タテルさんが優しくして下さったお陰で、私もリラックスして実力を出せたと思います」
「難しい問題バンバン正解してたよね。コノの実力はクイズの世界で通用する」
「通用しちゃいます?」
「するさ。今後も沢山やりたいね、プレステ旅」

  

釣り人のいる海辺から西の空を眺める。分厚い雲はだいぶ捌けてきて、2日目午前中以来の青空を視認する。街に吸い込まれる雲との境目には、青空に追われる太陽の後ろ姿が光る。
「綺麗ですね。うぅ…」
「泣いてるのか、コノ」
「涙腺は強くなったはずなんですけど、ここまで来ると堪えられない…」
「よく堪えてたと思う。コノだって本当は何回か、泣きたい場面あったろ?」
「ありました。泣けば楽になるって偉そうなこと言いましたけど、実は自分も堪えていて。○×で自分に順番が回った時のプレッシャー、尋常じゃなかったです」
「だよな。強い人だよコノは。緊張感を持ちつつ、それを微塵も感じさせないプレー。頼りになる」
「ありがとうございます…」
「そろそろ6時半だ。最高の夕餉が待ってるぞ、行こう」

  

焼津の銘酒・磯自慢の酒蔵を通過し住宅街に入る2人。何の変哲もない住宅街だが、ここに日本トップクラスの日本料理店がある。スタッフが2月1日の0時からTablecheckで争奪戦に参加し、2人のために勝ち取ってくれた予約枠。感謝の気持ちを丁寧に表明して暖簾を潜る。

  

「あ、靴脱ぐ店なんですね。良かった、靴下履いておいて」
「事前に調べておくべきだったな。失礼」
「いえいえ、4月上旬からサンダル履く人の方が珍しいので」

  

2人の席は入口に近い席であったが、謎に庭を横切り反対側へ遠回りさせられた。柱を支えにして足元のギャップを越えるというアスレチックを体験させられ、今回の夕餉における唯一の疑問符を抱えながら着席する。

  

コノが生ビールを注文する一方、最初から魚料理が提供されると踏んだタテルは早速磯自慢を貰う。純米吟醸大井川の恵み。口元に近づけた瞬間漂う清らかな香りから想像した通りラムネのような甘みを先ず覚える。それはメロンのような瓜らしさへと移ろい、最後にアルコールが突き上げて飲み手の身を引き締める。

  

そして大将が入場。コンロに火をつける。一方で給仕の若い女性が一人ひとりの客に対し、料理の量は普通で良いか確認しに回る。
「俺は普通で良いけど、コノはどうする?」
「節制中ではありますけど、せっかく来たので…普通にします」
「ご褒美だしね。我慢せずたくさん味わおう」

  

鯵の胡瓜巻き。綺麗な円形に仕上げ綺麗に胡瓜を巻くという芸に新鮮みを覚える。魚にそれほど明るくないタテルは、鯵より寧ろ胡瓜のシャキシャキした食感と爽やかな青い味、胡麻の香りにレベルの違いを見出す。

  

折角の晩餐ではあるが、スタッフから単語帳を渡される2人。
「今日使用する食材を店主から聞き出し、スタッフが漢字表記と英名を調べて纏めました。ここにきて勉強かよ…」
「でも楽しそう」
「まあやってみるか。早速アジから。漢字では魚へんに参る(鯵)。どうしてそう書くか、には諸説ありますが、3月が旬だから三の大字である参を充てた、または美味しくて参っちゃうの参る、という説があります」
「参っちゃう、は可愛らしいですね」
「あくまでも話半分ということで。英語ではhorse mackerel。mackerel単体ではサバを意味します」
「あまり聞き馴染みないですね」
「魚の英語表記は習わないからね、クイズでもあまり出題されない」
「日本ではメジャーな魚が英語圏には存在しない、なんてこともありますもんね」

  

2人が知識を仕入れている間、助手の女性が熱々の炭を焚べている。後ほど登場する焼魚に向けた準備である。

  

ハモと山うどの生つくね。下に菜の花のお浸し。上に載ったフライド山うど(?)の香ばしさが、ハモのコクを少し引き立てる。
「ハモって夏の食べ物ですよね。春に食べるの珍しい」
「俺も思った。温暖化の影響かな」
「タテルさん、ハモ食べます?東京の人はあまり食べなさそうで」
「日常では食べないね。フレンチで食べることが多い」
「フレンチで出てくるんですか?意外ですね」
「湯引きして柑橘のソースを合わせたり、フリットにしてみたり」
「京都での食べ方とそこまで変わらないですね」
「淡白な魚だから色んな味に染めやすいんだよね。バター系のソースとか合いそう」
「でもやっぱり梅肉ですね」
「そんなハモは漢字で魚へんに豊か(鱧)、英語表記は敢えて知らなくても良いかとは思いますが鰻っぽい見た目から連想してpike eelという言い方をするらしい」

  

焼津でとれたアカムツに昆布出汁、椎茸と蕨、山椒の芽。とにかく控えめの調味であり、魚本来の美味しさに集中できる。自家製豆板醤で味変すると途端に解り易い味わいになり、柔軟な食べ合わせの提案に感心する。
「アカムツとはつまりのどぐろのこと」
「のどぐろって、あの高級な?」
「そうそう、脂が乗っていて、又の名を白身のトロというやつ」
「知って食べると余計美味しいです」
「漢字でムツは、陸という字のへんを魚へんにしたもの(鯥)です。仲睦まじい、の睦という字とも同じつくりですね」
「読み方的には後者の方から連想するのが良さそうですね」
「陸の方も、東北地方の旧国名『陸奥』から連想できそう。英語で赤鯥はrosy seabassと言います」

  

酒は引き続き磯自慢から、純米大吟醸春しぼり。冷たい口当たりから旨味を探す行為が、冬から春への移ろいをなぞるようで趣深い。
「俺のイメージだと、磯自慢ってクールな味わいなんだよね。フルーティであま〜い流行りの日本酒とは距離を置いている気がする」
「それはそれで良いですね。キリッとした日本酒の方が食事の邪魔しないですし」
「ここで飲む磯自慢は口当たりがしんとして美しい。さすが超超一流店、管理がしっかりしてるんだろうね」
「じゃあ私もひと通り飲もうかな」

  

マダイの刺身が4枚。2枚を塩と山葵で、残りを醤油と山葵で戴いた。引き締まった身で味わいも濃い。醤油には何か柑橘が効いているようで、鯛の甘みをより引き出してくれる。
「タイは英語でsea bream。漢字では魚へんに周(鯛)が一般的ですが、ここは敢えてもう一つの漢字を紹介。魚へんに召しあがるの召し(鮉)とも書きます」
「これは全くの初耳ですね」
「こちらはタイ科に属する魚類の総称らしい。馴染みのある方の鯛は主に真鯛を指します」
「今食べてるものですね」
「魚へんに召しの方の鮉は常用漢字どころか、漢検でも出てこない漢字。クイズで問われる機会は無いだろう」
「あったとしても西大后(≒東大王)の難読オセロくらいですかね」
「番組は終わっちゃったけど、あれはマニアック度が際限なく上がっていってたからね。対策しても対策しても完璧にはできない、SASIKO(≒SASUKE)みたいなものだよ」

  

サワラの炙りは塩と山葵で。脂乗りがとても良く、炙った皮目の香ばしさも相まって美味しく戴く。ここにも夏が旬であるはずの茗荷が添えられていた。
「サワラの一般的な漢字は魚へんに春ですね。そしてタテル様が最初の問題で見事正解した…自分で読み上げるの恥ずかしいな」
「立派でしたよ。あれがあったからこそ天ぷらにありつけましたし」
「馬鮫魚、という表記もあります。これは中国語由来なんだそう」
「難読漢字も突き詰めると中国語クイズになるんですね」
「三鞭酒と書いてシャンパン、とかね。ちょっと無理がある」
「あと円舞曲がワルツとか」
「もはや英語問題だよね。別にえんぶきょくと読んでも間違いじゃないけど。あ、鰆の英名は(Japanese) Spanish mackerel。スペインの鯖、っていうことですかね」

  

続いて登場した魚はタチウオ。蓮根で包み揚げしてある。蓮根のまったり感と太刀魚の旨味がシナジー効果を生み、火の入った物が好きなタテルは一気に気持ちを昂らせる。
「タチウオはフワフワした身が美味しいよね。神経締めして4日くらい置いておくと良いとか」
「獲ってすぐ、じゃないんですね」
「そうみたいね。そんなタチウオ、一番有名な漢字表記は太刀魚ですが、その他にも3通り書き方があります」
「出ましたそのパターン。覚えておくと鼻高々ですよね」
「そうだな。まずわかりやすいのは立つ魚で立魚。そして帯魚という表記もある」
「帯のような見た目だから、ですかね?」
「これも中国語由来らしい。そして1文字表記もあって、3文字表記から刀を拝借して魛と書く」
「それは楽ですね。手書きの時はそれ使おうっと」
「読んでもらえるかな〜。察しはつくだろうけど。英名はlargehead hairtailが一般的ですが、帯魚に因みbeltfishでも通るみたい」
「知識がリンクした。これで間違いなく印象に残りますね」

  

磯自慢3杯目は大吟醸一滴入魂。これはオーソドックスな磯自慢の味わいであり、料理と合わせて花開く。

  

伊勢海老のおこわ。海老の火入れはミディアムレアだが、味噌を使ったリゾット風の飯がどう考えても美味い。上に載った蕗味噌の苦い香りがアクセントとなっている。
「伊勢海老、英語では日本のロブスター、ということでJapanese lobsterとしてみます。そして漢字では2文字で書けます!」
「どこをどうやったら2文字になるのでしょう」
「まず海老を1文字で書くと、暇の日へんを虫へんに変えたものになります」
「暇の日へんを虫…ああ、何か見たことありますね」
「でしょ。そこに、見た目からつけたのかな、簡単な方の竜の字を添えて竜蝦と書きます」
「初見じゃ絶対に読めないですね」
「当て字みたいなとこあるからね。キラキラネーム的な」
「アハハ。言いますねタテルさん」
「だって青竜蝦でシャコだぞ。こんなん読むのもっと困難やん」
「親父ギャグ飛ばした」
「もっというと1文字でも書けます。魚へんに高」
「ありそうでない漢字」
「JIS第4水準の漢字でございます」
「それって、相当マニアックな漢字ということですか?」
「そうみたい。1,2,3とあっての4だからね。他に有名どころは𩸽くらいかな。魚へんに花」
「それは対策してきました。結構マニアックなんですね」

  

ズッキーニをじっくり炭火焼きし、小玉ねぎの醤油漬けを添えて。ズッキーニがとにかくシズる。それをそのまま味わっても、そのエキスを玉ねぎで染めてズッキーニに纏わすのも最高である。

  

「JIS規格にある漢字は2004年版で11,233字。Unicodeにある漢字はもっと多くて9万字超とのこと」
「漢字マスターへの道は遠いですね…」
「英語なんてアルファベット26文字だけの組み合わせだよな」
「欧米の方で漢字の読み書きができる人って、余程の天才か努力家なんでしょうね」
「英語わかんな〜い!なんて言っている場合じゃないね。ズッキーニは英語でもほぼそのままzucchini、漢字で書くなら蔓無南瓜です」

  

金目鯛の鱗焼きは実山椒醤油と共に。皮はカリカリと、完全には火を通していない身は厚みと弾力も楽しめる。
「金目鯛はキンメダイ科に属します。つまり真鯛などとの鯛とは別の部類になります」
「餃子の王将と大阪王将みたいなものですね」
「その喩えさっと出てくるのすごいな。頭の回転、俺より速いかも」
「そうですか?」
「俺は瞬発力が無い。知識はあるけど咄嗟に気の利いたこと言えない」
「まあ確かにタテルさん、ボケを挟むタイミングがワンテンポ遅い気はしてました」
「指摘されちゃった。もっと間とか学んで鍛えないとな。金目鯛、英語ではalfonsinoです」

  

白アスパラの炊き合わせとトマト。出汁がよく染み、穂先は芋のように柔らかく解ける。緑のアスパラではできない芸当である。一方トマトは生のようであり、安いやつにあるような水臭さも無く心地良い甘味のフルーツトマトである。
「トマト、一番メジャーな漢字表記は蕃茄ですね。わかりやすいのだと赤茄子というのもあります」
「それだと覚えやすいですね」

  

間も無くして白アスパラの出汁が登場。まるでポタージュのような味の濃さである。
「アスパラガスの漢字表記は思いつく?」
「えーっと、竜…髭…菜?」
「よくできました。しっかり対策してる」
「3文字系は重点的にやりました。鹿尾菜はひじき、雪花菜はおからとか」
「押さえておきたいところをしっかり踏めていて良きだね。アスパラは他に石刁柏とも書きます」
「真ん中だけ見慣れない字だ」
「これも中国語由来の漢名ですね。和名だと和蘭独活、松葉独活と言います」
「ウドの仲間なんですね」
「形が似てるだけかな。アスパラは苦くないし。太陽に当てず育てるとホワイトアスパラになる」

  

この日扱いのあった磯自慢を制覇したため、菊川の森本酒造から純米勘作り65を。

  

そして炊き立てのご飯が供される。酒を飲んでいる人には塩を振ることを勧められる。炊き立てらしくとろっとしながらも、粒の立ちがはっきりしているところが一流の証である。
「タテルさんって、自分でご飯炊けます?」
「馬鹿にするな。炊けないよ」
「やっぱり炊けないじゃないですか」
「米のとぎ方とか炊飯器の使い方とかわかんない」
「教えましょうか?」
「教えて。京都の女性に教わるとさぞ、水分量の丁度良くて粒立ったご飯が炊けそう」
「ハードル上げますね。そんな大それたこと教えられないです」
「やるなら本気でやりたい。仕上がりに妥協したくない」
「教わる身で文句言わないでください!」

  

イワシのつみれ、筍、スナップエンドウの炊き合わせ、芹焼き。イワシの鉄分を存分に活かしたつみれとなっている。
「タテルさん珍しく渋い表情ですね」
「鉄の味があまり得意じゃなくて。芹の苦味や筍の甘みがもう少し強いと中和できたかな」
「私は大好きですけどね。タテルさん敏感だから」
「そんなイワシは鰯以外にも鰮という表記があります。京子と初めて一緒に食べに行ったラーメン屋の名前にも使われていて、個人的には…」
「大丈夫ですか?終わった恋思い出しました?」
「ふぅ…」
「落ち着きましょう。英語ではsardine、オイルサーディンのサーディンですね」

  

〆のご飯は出始めたばかりの桜海老を筍と合わせて。遠くからでも桜海老の香ばしさを感じ、タテルもトラウマから抜け出すことができた。

  

実際によそわれて食べてみても濃い桜海老の味。筍も薄く切られていると甘みを感じやすい。これはいくらでも食べていたい飯である。

  

そしてこの手の店では定番のおかわりを勧められる。同じ桜海老のご飯に加え、漬け鰤を載せた白飯も用意されている。自分から生魚を選ぶことを避けたいタテルは桜海老を選択する一方、コノは鰤御飯を選んだ。
「いや待てよ、めちゃくちゃ美味そうじゃん」
「へへーん。あるものは食べておきたいですからね」
「別に嫌いな訳じゃないし。お腹崩してスケジュールに穴を空けないために我慢してるだけだ。リスク管理できる俺は立派な…」
「ん〜、何だこの鰤、すっごく美味しい〜。涙出てきますね…」
「嘘でしょ、ガチ泣きしてる?」
「美味しすぎてもう…」
心が揺らぐタテル。早いところ桜海老御飯を完食すると、大将直々にお代わりを勧められた。
「鰤、お願いします」

  

何とも美白な身をしたブリであろう。臭みなど無く、白飯を巻き取って頬張ると綺麗な脂が溢れ出してこの上なく美味いものとなる。
「頑張ってきて良かった…挫けなくて良かった…」
コノを半ば白い目で見ていたタテルの涙腺が決壊する。
「改めてありがとう、一緒に戦ってくれて」
「クイズ楽しんで美味しいもの食べて、思い出になりますね…本当にありがとうございます」

  

水菓子は苺。スーパーで買うものにはない凛とした濃い甘さ。日常で食べるものとは明らかに違う美味しさである。
「いちおう最後に苺の話を。漢字3文字表記だと?」
「覆盆子、ですね!」
「さすが3文字マスター。これくらい押さえておけば今のクイズ番組で大活躍できる。英語のstrawberryは、諸説あるけど下に麦わらを敷いて育てたからstrawをつけているらしい」
「面白くてわかりやすい語源ですね」

  

塔のように突っ立つ玉子カステラ。まるでカスタードのようにクリーミーな一方、カステラのアイデンティティである卵と黒糖の甘さも忘れない。
「カステラは和製英語でしょうか?」
「あれ確かポルトガル語由来でしたよね」
「そうそう。英語だとsponge cakeになるみたいね。漢字表記は卵糖などがあるそう」
「楽器やスポーツ中心に、外来語の漢字表記もひと通り押さえてきました
「クイズ王を目指す上での必須科目だね」
「球を蹴るから蹴球(サッカー)、手で空気を操って音を出すからから手風琴(アコーディオン)。意味を考えながら憶えるとやりやすいです」
「知識を仕入れるのって楽しいね」

  

最後は店主自身が抹茶を立ててゆったりとした食後を演出する。その日のうちに帰京したい2人であったが、静岡からの東京行き新幹線の最終は22:29発のため、無理なく21時半くらいまでは寛いでいられる。

  

食事代はTablecheckにて事前決済、飲み物代もそこに登録したクレカに請求される。タテル分の飲食代は25,740円であった。

  

「旅はここで終了となりますので、帰りはルール上使えなかったタクシーを利用して焼津駅まで戻っても良いです」
「じゃあそうしようか。新幹線乗り遅れると大変だし」
焼津駅までは歩けば1.5km強だが、タクシーだと直線では行けないため1,000円はかかってしまう。まあ2人にとっては、経費で落ちるものなので気にすることなど無いのだが。
東京行きの新幹線に無事乗り込むと、2人は晩酌などするつもりは無くてすぐ眠ってしまった。

  

「じゃあ俺はこのまま家帰るね」
「了解です!」
「あそうだ、コノに1つ重要な話があるんだった」
「まさか、またラジオ絡みの?」
「そうだ。ニホン放送が送るクリスマスの定番特番といえば?」
「ミュージックチャリティーソン、ですか?」
「今年のメインパーソナリティに、コノが抜擢されました!」
「嘘でしょ⁈めっちゃ嬉しい…」
「女性アイドルではかつては希典坂のSHIRO、IMCの豊橋みなみも担当したパーソナリティを、今年は是非心優しくて知的で面白いコノに務めてほしいとオファーをいただきました。勿論やるよね?」
「やります!え〜、私が遂にパーソナリティやるんだ…」
感極まり目を潤ませるコノ。
「夢だったもんな。これでコノは文句無しのラジオスターだ」
「一生懸命頑張ります。今日は本当に幸せな1日だ…」

  

一流クイズプレイヤーにして一流ラジオスターのコノ。富士の頂を目指して、今日も知識を仕入れトークのネタを探す。

  

—完—

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