女性アイドルグループ「TO-NA」の頭脳派メンバー・コノは、東大卒のクイズ好きであるTO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)・タテルと共に、約1年ぶりのクイズ修行「プレッシャーSTEADY」に挑む。静岡を舞台に、予約困難天ぷら店・日本料理店での食事を懸けて、一般市民を巻き込みながら難題を解いていく。
☆ルール
静岡市内にある食べログ百名店を1軒満喫する度にくじを引き、そこに書かれた場所に到着して周りの人を6人集めたら出題スタート。回答順はコノ→タテル→一般の方々6名→コノ→タテル。
翌日。焼津のなかむらには正午までに到着しなければならないのだが、朝食を摂れる百名店は存在せず、百名店を満喫して移動し問題をやる時間を考慮するとある1つの店に行く他ない状態であった。
「いしべやだね。安倍川もちの有名店っぽい」
「安倍川もちってどんなものですかね?名前は聞いたことあるけど」
「きなこ餅とあんころ餅の2種類を盛ったもののことを言うのかな?」
「そんな感じで良さげだと思いますけど」
「和菓子にうるさそうな京女コノの口に合うのか」
「何にでもうるさい江戸っ子タテルさんの口に合うのか」
軽く小競り合いをしたところでホテルのフロントに店のことを訊ねてみる。
「いしべやさんにはどうやって…」
「ああ、せきべやさんですねそれ。いしべ、じゃないです」
「そうでしたか。それは申し訳ない…」
「ここからだと静岡駅から中部国道線か丸子線のバスに乗って、安倍川橋で降りてください」
「ありがとうございます!」
安倍川橋方面へ向かうバスは本数が多めであり困ることは無かった。約10分で店に到着、客は誰もいなかった。

店主っぽい高齢男性と、少し若い女性店員の2人で慎ましく回している店。声をかけるのに少し躊躇する。注文口にはサンプルがディスプレイされていて、左からイートインの安倍川餅、からみ餅、持ち帰りの安倍川餅小中大。イートインの安倍川餅を注文したつもりであったが、店主が箱に餅を詰め始め少し焦るタテル。だが明らかに左手のイートイン安倍川餅の方に手を向けて注文していたのでちゃんとイートイン仕様で提供されると信じて待つ。

果たしてイートインの安倍川餅が提供された。緑茶も提供され、ほっと胸を撫で下ろす。できたての餅は程よく柔(やら)かく程よく弾む。甘さ控えめのあんこもまた柔らかめに仕上げており、餅と馴染むと蕩けるようである。きな粉には砂糖が塗してある。これが安倍川もちの大きな特徴であり、パサつきやすいきな粉をしっとり甘くさせてくれる。大豆を感じられるほどのきな粉の質ではないが、餅との親和性が高い。
そそくさと完食し出題場所決めを行う。ここでもし久能山や日本平など、清水方面の観光地が出てしまったらゴールに間に合わない可能性が高い。運命のくじはタテルが引くこととなった。
「…用宗海岸?聞いたことはあるけど方面的にはどっちだ?」
調べてみると、用宗は静岡駅から焼津方面へ2駅行ったところであることが判明。目的地と同じ方向に進めるというラッキーな展開である。
案内所で貰ったバス路線図を広げてみると、近くの駒形小学校前バス停から用宗行きのバスが出ていることが判明した。

急いでバス停に向かうと、次の便は20分後であったため、一旦安倍川橋を見学することにした。


「わあ!天気が良くて綺麗ですね」
「河口方面は開けているのに、反対見たらすぐそこに山がある。この土地ならではの光景だね」
「ジョギングされてる方が多いですね。サイクリングの人もいる。気持ち良いだろうな〜」
「今日は良い感じになりそう。取りたいね、最後の1問」
「クイズの強者に出会えますように!」

バスに揺られること30分弱。まるで南国のリゾート地のような街並みが広がる用宗に到着した。



「わああ!海が綺麗〜!」
「泣くなよコノ」
「大丈夫ですって。でも心は震えますね」
「ここまでくっきりとした水平線、初めて見るかもしれない。よし、調子が上向いている内に人集めよう!」

快晴の青海原をバックに列を成すコノ・タテルと一般人6名。まるで高校生クイズの決勝戦のような壮観の中、運命の1問が出題される。
第4問 英語 「し」で始まる日本語に和訳しなさい
①salt
②island
③newspaper
④consumption tax
⑤turkey
⑥bookmark
⑦shellfish gathering
⑧humidity
⑨japan
⑩Ignorance is bliss. (ことわざ)
「英語かあ。これ結構荒れそうだな」
「皆さん解けるものからいってください!」
コノからスタート。「貝や魚を集めること」と推測がついた⑦を「潮干狩り」と回答し見事正解。続くタテルは⑨を選択。「漆器」と答え見事ファインプレー。
しかし一般人たちは軒並み英語が不得手であり、再びコノに回ってきた時残っていたのは⑧と⑩であった。焦りと不安で泣きそうな表情のコノ。
「コノ、俺が渡した攻略ノート読んだか?内容思い出せ」
そこにはプレッシャーSTEADYマニアのタテルが纏めた、各教科・ジャンルの傾向と対策が記されてあった。
・国語
漢字の読みが出ることが殆ど。特定の文字から始まる読み、は知らなくても推測で当てられることが多い。漢字を観察したり、送り仮名からヒントを得たり。野生の勘が通用することもある。伊集院さんのように粘り強く。
・社会
主に歴史上の人物の、たまに地理の知識を、直で問うてくる。都道府県・国ネタは最悪当てずっぽう乱打でも良いが、歴史問題は知識の積み重ねで太刀打ちするしかない。大河ドラマ、最近は朝ドラも参考になるかな?現代史は映像の世紀、残った古代史(明治時代もか?)は分量そんなに多くないから大学受験の参考書で補う。
・英語
短めの1単語は知識ゲーかもしれないが、知っている単語を組み合わせたモノは英語より寧ろ日本語の単語を探し当てる作業。⑩で出ることわざ・慣用句・四字熟語は特にその傾向が強く、何なら⑧とか⑨より答えやすいかも。
「粘るなら⑩だ。『し』で始まることわざ、ignoreは確か『無視する』…知らぬが仏!やったあ!」
「⑧は湿度!」
残り3秒で見事クリア。無事天ぷらランチを獲得した。手を取り合って回る2人。
「良かったぞコノ。よく粘った!」
「タテルさんのサポートが無かったら何もできなかったと思います」
「知識系の⑧⑨を俺がカバーして推測系の⑦⑩をコノに託した。抜群のチームワークでいけたな」
「諦めず考え抜いて良かったです」
「俺も、コノのこと信じて良かった。やっぱり頼りになるぜ。はあ、これで美味しい天ぷらが食えるぞ!皆さんも、決して当たり前に解ける問題群では無かったところ、しっかり繋いでくださってありがとうございました!」
「お疲れ様です!美味しい天ぷら、食べてきてください!」
「本当に本当に感謝です!いってきます!」
「と言いつつ未だ時間あるので、少し用宗を観光しよっか」

海岸通りにあるジェラテリア「LA PALETTE」で、少し熱った体を冷やすことにする。静岡食材を使ったジェラートが選り取り見取りで、タテルはその中から3種類を小さい方のサイズ(テイスター)で、コノは予めカップに入っているお酒ジェラートから磯自慢を選択した。
「コノが酒系いった。珍しい」
「テキーラ飲めるくらいにはお酒好きですけどね私」
「そういえば貰ってたよなテキーラ。コノも酒豪なんだ」
「違いますって。タテルさんやカコニちゃんほど飲みません」

タテルが選んだ3種のフレーバー。一番下には県産のくるみ。木の実という印象が強いが、みたらしのような強い旨味、そしてフローラルな一面も引き出された最高傑作。仙台村上屋でも感じたことであるが、くるみこそが最もスイーツとしての可能性を秘めたナッツだと思う。ピスタチオ一強の時代は終わりである。
続いて、これまた県産のネーブルオレンジをパリパリチョコと合わせたオランジェット。皮も果肉も存在感を存分に感じることができる。チョコもコクがあり浮いた話ひとつ聞かない。一体感があってやはり傑作である。
そして変わり種は用宗名産しらすのジェラート。しらすのグニグニした感覚は確かにあるのだが、ヨーグルトジェラートと合わせているからか魚臭さは無い。トルコ料理、およびビリヤニと共に食べるライタを想像するとしっくりくるであろう。しらすの旨味を上手くデザートに落とし込めていると思えた。
「コノには1口サーヴィスの苺ジェラートをあげるよ」
「ありがとうございます!あ、まさしく苺ですね。爽やかで美味しい〜」
「良い店来たよ。クイズ正解してジェラート食って、この後高級天ぷらだよ。なんて最高の旅なんだ」
「頑張ったご褒美ですね。頭使った後のグルメは沁みます」
「コノは地頭が良い。ちゃんと推測で正解できていたしね」
「タテルさんのjapanは驚きました」
「japanは漆器、chinaは磁器や陶器」
「これは印象に残りますね。面白い雑学です」
「こういう知識の暴力をやりたい、と俺は言ったけど、手がかりを掴んで推測で答えに辿り着くのもやっぱ面白いや。前者の路線に憧れる人も多いけど、コノには後者の路線を歩んでほしいな」
「そうですね。私も推理する方が好きです」
「人として生きる力も養えるからね。よし、これで上手く役割分担できた。天ぷら楽しんで、第2ラウンドへの英気を養うぞ」