連続百名店小説『もう泣かないクイズアイドル』第3問:ずべこべ言わずクイズしようぜ!(水塩土菜/日吉町(静岡))

女性アイドルグループ「TO-NA」の頭脳派メンバー・コノは、東大卒のクイズ好きであるTO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)・タテルと共に、約1年ぶりのクイズ修行「プレッシャーSTEADY」に挑む。静岡を舞台に、予約困難天ぷら店・日本料理店での食事を懸けて、一般市民を巻き込みながら難題を解いていく。
☆ルール
静岡市内にある食べログ百名店を1軒満喫する度にくじを引き、そこに書かれた場所に到着して周りの人を6人集めたら出題スタート。回答順はコノ→タテル→一般の方々6名→コノ→タテル。

  

帰りも三保松原からバス停まで短くない距離を歩き、意外と混雑するバスにやはり短くない時間揺られる。新清水駅のある通りに入る時の信号があまりにも不親切で、そこを右折するだけで5分ほどロスしてしまう。新静岡から往復2時間もかからない想定でいたが、結局3時間弱もかけてしまった。

  

静岡駅に戻った2人はホテルにチェックインし、部屋で靴と靴下を乾かしつつ休憩とする。いつも予定を詰め込みすぎて同行者を困らせるタテルも、この時ばかりはしっかり休みを取る。

  

2時間弱休んで、2人はロビーに再集合した。
「あれ、コノが遂にサンダルデビューしましたね」
「暑いかな、と思ってサンダル持参してたんです。スニーカーが濡れたから丁度良かった〜」
「さすがTO-NAの裸足族」
「タテルさん足を見過ぎですよ。何が面白いんですか?」
「綺麗だから。コノはしっかり足の爪整えてるもんね」
「ストレッチのついでに爪チェックしてますからね」
「あのストレッチ動画は毎日のように観てる。視聴者の皆さんも是非ご覧ください、コノの綺麗な足裏が観られます」
「撫でると幸せになれるよ〜」
「ビリケンか!」

  

静鉄日吉町駅方面へ歩いて行く2人。駅を越え、信号を1つ通り過ぎるととんかつ屋「水塩土菜」が現れる。予約可の店ではあるが、夜であれば飛び込みでも入りやすいようで、2人は大きなテーブルの2席に通された。

  

この店におけるスタッフからの指定メニューは無く、各々好きな定食を選ぶ。あまりお腹が空いていない2人はハーフ定食に目を付け、タテルはハーフの三色美彩を選択した。

  

「最近のクイズ番組、やたらと大衆向けになってきてるじゃん。俺ああいうの嫌いなんだよね」
「はっきり言いますね」
「この前だってコノ、明確な根拠が無く雰囲気だけで答えさせる問題で誤答したでしょ?」
「クロックムッシュの件ですか?でもあれは答えたかったですね」
「まあ俺はクロックムッシュだと察せたけど。でもどうしてその答えに辿り着くのか、客観的な説明が難しい。これを間違えただけで『コノはクイズができない人だ』なんて叩かれたら堪ったもんじゃないからね」
「エゴサする勇気出なかったです」
「でしょ。だからもっと知識で解ける問題に挑んで、実力を発揮したい」
「実力かぁ。タテルさんほど知識入ってないからそれはそれで苦戦しそう」
「コノは勉強熱心だから大丈夫だよ。どこかで必ず結果は出る。その点、プレッシャーSTEADYは大きいチャンスだったよね。先頭の人が続々と後半の問題答えてクイズスターになっていく様、観ていて気持ち良かった。コノにもその1人になってもらいたくて、そしたらさっき見事それをやってくれたよね」
「あれは本当に偶々です」
「でも素晴らしいよ。やっぱりコノは頼りになる」

  

定食がやってきた。ヒレカツ・コロッケ・エビフライと豪華なラインナップ。キャベツは自家製味噌ドレッシングをかけて食べる。味噌の味わいはよくわからなかった。
ヒレカツが絶品。肉質がとても綺麗で雑味も無い。火をしっかり通しながらも硬くなっていない。
コロッケはじゃがいもがしっかり立っているものの、ヒレカツほどの感動は無い。
一方でエビフライはどうしたものか、臭みや砂利の感覚が残ってしまっている。よく見ると、背腸が十分に取り除ききれていなかったようである。偶々と思いたいが、この見立てが正しかったとしたら即改めるべき事案だと思う(誤解なら申し訳ないです)。
「でも美味しかったですねヒレカツ」
「それは紛うことなき事実だ。今度はヒレとロース頼んでシェアしたいね」
「冷酒とおつまみも楽しみたい、ってタテルさん言いそう」
「丁度言おうとしてた。見透かされていたか」
「今日は頼んでませんけど、すぐお酒飲もうとしますもんね」
「否定はできないね。旅先ではどうも飲みたくなる。次の問題を取れば、焼津の磯自慢が俺らを待ってるぜ」

  

百名店を堪能したため次の出題場所を決めるくじを引く。今回はタテルが引く担当となった。
「20時になると出題できなくなるんだよね。頼む、近場出てこい!」

  

選ばれたのは静岡を象徴するハンバーグチェーン「さわやか」であった。どこの店舗でも良く、向かった先でハンバーグを食べる必要は無い。
「この近くでさわやか、ありますか?」
「新静岡駅です。新静岡セノバのレストランフロアにあります」
「ありがとうございます!」

  

僅か1駅ではあるが静鉄に乗りセノバへ急ぐ。5階のレストランフロアにさわやかはあり、本日分の整理券発行は終了となっていた。
「順番待ってる人を巻き込もうか」
「了解です」

  

第3問 ドボン問題 日本人が受賞・就任・達成したことのある項目を選べ
①メジャーリーグMVP
②FIFA最優秀選手賞
③ミシュランガイドパリ3つ星
④テニス4大大会優勝
⑤オリンピック金メダル5個以上獲得
⑥ハーバード大学教授
⑦七大陸最高峰全登頂
⑧8,000メートル峰全座登頂
⑨国連難民高等弁務官
⑩国際司法裁判所所長
⑪有人月面着陸
「これをクリアしたらお2人は明日焼津で天ぷらランチです!」
「イケる!絶対イケる!確実なところから!」

  

タテルが発破をかけたところでコノから回答スタート。手堅くメジャーリーグMVPを選択。次のタテルも、得意ジャンルであるパリ3つ星を選択。さわやか待ちの6人にしっかり繋いだ。
「これは大丈夫でしょ、月面着陸!」

  

ドボンを踏んでしまった一般人ゾーン1人目の回答者。
「ごめんなさい!」
「ドンマイです!」
「気持ちは解りますよ、行ってそうですもんね」
「有人月面着陸はアメリカだけしかやっていない、無人機ならSLIMが去年着陸を成功させている、ということです」
「そうだったのか…勉強不足ですみません」
「いえいえ、こちらこそ巻き込んでしまってすみません」
「この件は誰も責めないであげてください!視聴者の皆さんもね!」

  

撮影を止めて、ホテルへ戻る道すがら。
「コノはドボンわかってた?」
「はい。月面着陸の話は小1クイズで出てもおかしくないと思うので、しっかり対策してました」
「俺も避けられたと思う。でも選んじゃうよね、宇宙に行く日本人飛行士も多いし」
「気持ちわかります。初めて知った時は『あ、いないんだ』ってなりましたもんね」
ホテルに到着してロビーに入ろうとした時、コノの表情が少し曇る。
「初めて私たち以外で失敗になりましたね」
「そういえばそうだったな」
「こうなった時、どうフォローしてあげれば良かったのでしょう。無理言って参加してくださったのに、自責の念に駆られていたら…」

  

泣きそうな顔になるコノ。
「私やっぱりあの人のこと不安になってきました。ハンバーグ代出してあげた方が…」
「それは違うんじゃないかな。その前例作ると、わざと間違えてお情け貰おうとする人が出かねない」
「そうですか…」
「要らないお情けは止めよう。クイズで誤答してしまった事実は受け入れていただいて、勉強になったな、って思っていただければ。ただスタッフさん、ケアだけはしっかり頼みます。うるせえ視聴者が『こんなのもわからんのか』って叩いてくると思うので」
「それは勿論です」
「よろしくお願いします。じゃあ今日最後のコメント撮りしましょう!」

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