女性アイドルグループ「TO-NA」の頭脳派メンバー・コノは、東大卒のクイズ好きであるTO-NA特別アンバサダー(≒チーフマネジャー)・タテルと共に、約1年ぶりのクイズ修行「プレッシャーSTEADY」に挑む。静岡を舞台に、予約困難天ぷら店・日本料理店での食事を懸けて、一般市民を巻き込みながら難題を解いていく。
☆ルール
静岡市内にある食べログ百名店を1軒満喫する度にくじを引き、そこに書かれた場所に到着して周りの人を6人集めたら出題スタート。回答順はコノ→タテル→一般の方々6名→コノ→タテル。
余韻に浸る間もなく浅間神社の参道入口へ戻る。どら焼きの名店「河内屋」は、焼き始めが11時半から12時半の間、終わりの時間もはっきりしない気まぐれ運用である。店の前に10人程の列ができていたため後続してみる。
「まだ大丈夫ですかね?」
「大丈夫だと思います」

2人が並び始めて5分程して、どら焼きを焼く店主が、今並んでいる人で終わりにしようか、と呟く。ギリギリ間に合った模様である。
「ここでの指定商品は焼きたてどら焼きを1人1個。コノ、お腹の具合は大丈夫?」
「ちょっといっぱいですね。でも何とか入ると思います」
「無理しないでね」
店主の生地を焼く様子を暫し眺める。鉄板(銅板かもしれない)の上に規則正しく生地を列べる。ひっくり返すと生地が少しプクっと膨らむ様には趣がある。焼き上がった生地にあんこを挟み、その場で食べる人には店主から直接手渡される。一度に5個まで注文が可能で、上限いっぱい頼む人が多いため列の進みは遅めである。ちなみに小さい子供でどら焼きを食べない人にはペロペロキャンディのサービスがあるようだ。
「食べないよねどら焼き?ん?食べる?食べるの。あそう…」
無口な子供の対応に苦慮した店主。飴などあげなければ良かった、などとぽつりこぼす。

一方で大人にはニッキ飴のサービスがあり、順番が来るまでの間舐めることにした。恐らく自家製ではないと思われるが、クラフトコーラをも思わせるスパイシーな感覚が堪らない。
しかし舐め始めたそばから急に回転が早くなり、飴が口に残った状態で順番が来てどら焼きを手にする羽目になってしまった。しかもタテルに渡されたどら焼きは、あんこが不安定で外に溢れ出すところであった。
「飴舐めたから回転速くなった。これでもし飴舐めてなければ待ちは長くなってたよな。どうして俺はいつも『丁度良い』に入り込めないのか」
小さな事で不運を感じてしまうセンシティブなタテルに、コノはかける言葉が見つからない。

気を取り直して(取り直せてない)、どら焼きを貪る。焼きたてということもあって、生地の蜂蜜っぽい甘みが立っている。生地がとにかく美味しい菓子である。あんこは緩めの仕上がりで立場が相対的に下となる。
「よぉし、河内屋さんクリア!じゃあ出題場所決めましょう!コノ、くじ引いて!」
「いや、ここはタテルさん引いてください」
「さっき近いところ当ててくれたコノの方がもってる。任せるよ」
「…わかりました。引きますね」
選ばれた場所は三保松原であった。2人がいるのは静岡駅周辺の地帯であり、三保松原までは距離がある。
「ごめんなさい。やっぱりそう上手くはいかないんだ…」
「しょうがないよ。しょうがない…」
落ち込むコノに、慰めの言葉ひとつかけられないタテル。コノは泣かないと決めているのだからそっとしておいてあげよう、という意図があったらしいが、その判断は適切であったのだろうか。
仕方ないので三保松原に向かう。JRでも行けるが、新静岡駅の方が近かったため静鉄を乗り通すこととする。
「静鉄という電車があること、全く知らなかった。しずてつはバスのイメージが強い」
「でも静岡鉄道、という名前だからやっぱ鉄道がメインですよね」
「そうだろうね」
車内にある観光マップを眺める2人。
「日本平ロープウェイ、久能山東照宮…この辺引いたらまた大移動だよな」
「できれば静岡駅周辺が良いですよね」
「新静岡セノバとかだったら嬉しいな。まさか山奥とかないでしょうね?」
「静岡に山奥の場所なんてあるんですか?」
「むしろ殆ど山奥だよ、北に行けば。南アルプスの険しい山間部。まあ無いと思うよ、鉄道は無いしバスも本数少ないだろうし」
新清水駅に到着。ここから三保松原へはさらにバスに乗る必要がある。しかも平日のため、三保松原に横付けする便は無く、三保松原入口バス停から1km強歩くこととなる。
「暑い!ジメジメしてるから汗が止まらない!」
「髪直したい…靴下まだ濡れてるし」
「キッチンペーパー持ってるけど、靴に入れてみる?案外吸ってくれるよ」
「ありがとうございます!よく持ち合わせてましたね」
「俺これで汗を拭くから。ハンカチとデオドラントシートの三刀流です」
「念入りですね」


三保松原に到着。ビジターセンター「みほしるべ」で髪を整えた後、松の茂る林を通り抜け海岸に出ると観光客がちらほらといる。しかしその多くが外国人であり、クイズに参加して力になってくれそうな人を探すことに難儀する。

「そりゃそうだよな、曇り空で富士山が見えないのに来る人、少ないに決まってる」
「私も観たかったですよ富士山。はあ、何でこんな天気の時に引いてしまったんだろう…」
「でも晴れ間も覗いてるからな、ワンチャン見えても良さそうだな」

ふらふらと海岸を歩いてみたが、とうとう富士山を拝むことは叶わなかった。大きな砂利や散乱していた木の枝に足をとられ体力も消耗する。
「富士山は諦めて、クイズに集中しよう。ビジターセンターに戻ればいくらか人はいるでしょう」
「職員さんとかいらっしゃれば巻き込めそうですね」
みほしるべに戻ってみると、目論見通り日本人の観光客が十分いた。知識に自信のある人を集め第2問が始まる。
第2問 社会 約100年前に世界を席巻していた人物の名を答えよ(「?」の数と正解の文字数は必ずしも一致しない)
「今年は昭和100年、そしてラジオ放送が始まって100年という節目が注目されています。100年前に思いを馳せる問題、いってみましょう」
①数多くの会社を設立した実業家 1万円札の肖像 ???
②イギリス出身の喜劇王 『黄金狂時代』??リン
③ナチス親衛隊設立 『我が闘争』???
④詩人・童謡作詞家 『証城寺の狸囃子』『シャボン玉』野口??
⑤実業家 後の東急電鉄を創始 五???
⑥小説家 『檸檬』???郎
⑦第24代内閣総理大臣 治安維持法・普通選挙法発布 加藤??
⑧東京放送局初代総裁 関東大震災の復興に尽力 ??平
⑨ドイツの物理学者 行列力学を確立 ハ???
⑩実業家 味の素の創始者 ???
「⑨、なんとなくわかるかも。ハイゼンベルク?やったあ!」
ファインプレーを見せたコノに触発されたタテルは⑩を池田菊苗と答えてみるも不正解。それでも⑧に切り替え、放送100周年の象徴たる後藤新平を見事言い当てた。
さらに一般人たちが後半の問題を続々と駆逐し、①と⑤を残してコノに回ってきた。
「え〜待って、⑤はわかんない!すみません①で、渋沢栄一さん」
「任せなさい、⑤は五島慶太です」
抜群のチームワークで見事2連勝を飾った。あと1問クリアで天ぷらにありつけることになり、今までの暗い雰囲気が嘘かのように手を取り合って回る2人。
「ありがとうコノ!⑨を答えるなんてお見事だよ!」
「タテルさんもグッジョブです!」
「この前結婚式で名前が出てきて調べてたから丁度良かった。それにしてもこちらのタナカさん、⑩を答えてくださって。助かりました!」
「何でご存じだったんですか?」
「僕、味の素の社員なので!」
「何という幸運!」
「この方に巡り会うために運取っておいたんですよここまで」
「そうだな。これは大きい勝利だ」
「皆さん是非静岡旅楽しんでください!私たちも美味しい天ぷら堪能してきます!」
まだ1問取らなければならないことなどすっかり忘れ、曇り空に向かって勝利の雄叫びをあげる2人なのであった。
その他正解
②チャップリン ③ヒトラー ④野口雨情 ⑥梶井基次郎 ⑦加藤高明 ⑩鈴木三郎助