ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えたが、新米トレーナーの登竜門・ビギナーズコンペでは世間の期待に応えられずベスト4止まりであった。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ユーカク(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)
「しょうがない、一旦スイーツでも食べに行くンゴ。美味しいモンブランがあるンゴ」
「この世界にもあるんだ?」
「搾りたての本格派モンブランだンゴ。みんな喜んで食べるンゴ」

4ごうとうの入口横にある、カビンゴのさとで圧倒的人気を誇るスイーツ店。この日もカビンゴが沢山カフェスペースに集まってモンブランなどを味わっていた。
「可愛い〜!お客さんがみんなカビンゴちゃんなのね!」
「カビンゴのさとだから当たり前ンゴ。ほら、みんなスミレさんとスミレママさんに興味津々ンゴ」
ぬしこそ拒絶したが、寛大なカビンゴはスミレとそのカビンゴに好意的な目で見るものである。
「ンゴンゴ、ンゴ!」
「ンゴンゴ。ンゴンゴンゴ、ンゴンゴ!」
「なんて毛並みの良いカビンゴなんだ、麗しいトレーナーさんと一緒にキラキラ発光している、ずっと眺めていたい!ですって。良かったねスミちゃんカビンゴちゃん」
「ンゴ!」
スミレのカビンゴが代表してスタッフ(カビンゴ)に注文。水、そしてカトラリー各種は全てセルフサービスである。ものぐさなイメージの強いカビンゴだが意外と忠実であり、自発的に取りに行って綺麗に揃えるものである。
「カビンゴちゃんありがとう。珍しいね、フォークまでセルフなの」
「確かにそうだンゴ。スミレさんとカフェ行くと、みんな持ってきてくれるから驚いたンゴ」

スミレは飲み物に冷たい北欧紅茶を選んでいた。花の香りがバニラのようであり、高級ブティックに入った気分を覚える。
「カビンゴちゃんってお洒落だよね。こんなフローラルなお茶飲むんだもん」
「僕たちはお花が好きンゴ。花飾りを作ってみんなで交換して頭につけたりするンゴ」
「へぇ〜、素敵だねそれ!」
「スミレさんも花の名前だから運命感じたンゴ」
「嬉しい!ママありがとう、スミレって名付けてくれて」
「良かったわね。そうだ、黒カビンゴちゃんにも花飾り、作ってあげたらどう?」
「作りたい!」
「良いことだンゴ。僕からお渡しするンゴ」
「モンブラン食べ終わったらお花畑行きましょう」

そこへモンブランがやってきた。注文を受けてから栗を搾る本格的なモンブランであり、栗のまったりした味が濃い。メレンゲも水分移行が発生していないためサクッと香ばしく、栗・クリーム・メレンゲを貫いて食べると、大柄カビンゴも唸るパワフルさである。
「幸せだねここのカビンゴちゃん達、美味しいモンブラン食べられて」
「モンブランは栗だけじゃないンゴ。栗の獲れない時期は落花生、夏にはとうもろこしもあるンゴ」
「カビンゴちゃんは美食家なんだね」
「量は沢山食べるけど季節感を大事にする、ぬしさんの教えンゴ」
「ぬしさんが?」
「ンゴ。人間に対しては心を開かないけど、カビンゴのことは静かに、でも確かに想ってくださる方ンゴ」
「仕方ないよね。仰っていることは正しいから」
「職人気質なんだね」
カフェの外をぬしが通りかかった。そしてスミレ一行を見つけると、顔を赤くして店内に入ってきた。
「そなた達、こっちに来なさい」
「えっ?私何か悪いことしました?」
「いいからこっちへ」
「そなた達、ここのモンブランはカビンゴのためのものだ。人間が食べるでない」
「でもカビンゴちゃん達は、一緒に食べよう、ってウェルカムでしたよ」
「それがいけないんだよ。人間と関わりを持って、どんな悪影響が出るかわからない。カビンゴは、外界からの邪魔を受けずのんびり暮らす生き物だ。人間と相容れることなんてできない」
「そんなことないですよ!私とこのカビンゴちゃんの相性はピカイチです!世界一強い絆で結ばれているんです!」
「そなたの言うことは信用できない。今度こそ出ていきなさい」
「……」
その時、カフェの方から未曾有の大きさの物音がした。ぬしとスミレ一行は現場に急行する。
「か、カビンゴちゃん⁈ぺっしゃんこになっちゃってる……」
「何てことだ……」
言葉を失うスミレとぬし。傍に目を遣ると、そこにはボケット団がいた。
「もしかして、あんたらが?」
「もしかしてあんたらが、と言われたら!」
「答えてあげるが使命なり!」
「世界の腐敗を防ぐため」
「世界の秩序を守るため」
「不器用でヘタレな悪を貫く」
「ちょっと憎めぬ敵役」
「ミッチー!」
「サッチー!」
「陸海空を駆け回るボケット団の二人には」
「スノウカントリー白い明日が待ってるぜ」
「ニャンちゃって!」
「また人間か。どうして人間はこうも厄介事を」
「ごちゃごちゃうるさいわね!ここにいるカビンゴは全部アタイらがいただきよ!」
「この最先端布団圧縮機でペラペラにしてやったぜ。殺してはないから安心しなさい、おじさん」
「元に戻せ、外敵共よ」
「おいボケット団よお、人の心ねえのか!」
「ヤンスミ(=ヤンキー化したスミレ)には飽きたぜ。よおしどんどん圧縮して竿に吊るせ」
「こんだけカビンゴいたらボスも大喜びだな。億万長者ももう夢じゃないぜ!」
「腕が鳴るニャ〜!」
怒りに震えるスミレ達。ボケット団は構わずスミレのカビンゴに圧縮機の口を当てる。
「みんな、カビンゴちゃん達を救って!」
スミレがカプセルを放って手持ちのポケンモを繰り出す。
「ハムライピ、ひがしむくさむらいだ!」
「ライピ」
ボケット団員は刀を避けることに気を取られる。
「スーミュラ、スコシモサムクナイワで圧縮機を凍らして」
「ミュラー!」
スミレのカビンゴに向けられた圧縮機が冷凍され、出力が止まった。
「ムテキロウ、ごろうのいぶきでカビンゴちゃんを膨らまして」
「ロウゥゥ!」
ボケットUFOに吊るされたカビンゴが復活しUFOが揺らぐ。
「うわっ!でけえんだよコイツら!」
「ユーカク、ナインダトイフで竿を燃やして」
「カクッ!」
竿が溶け、カビンゴ達は地上に復帰した。ボケット団のドラネコは落ちてきたカビンゴの下敷きとなる。
「ドラネコのくせに足遅えな!」
「こうなったらアザトトガールのカビンゴだけでも!」
「じゃあサッチーのコリシンで」
「……持ってきてない」
「嘘でしょ⁈準備が悪いわね!」
「そういうサッチーは、サムリナ持ってきてるんだろうね?」
「無いわよ。圧縮機とUFOで確実に攫えると思ったから!」
「準備悪いのそっちじゃないか!人のこと言えるの?」
「アンタがもっと真剣に見張っていれば!」
「あたしゃいつだって真剣よ!」
「じゃあポケンモも備えてこいよ!甘々アザトトガールでさえフル装備だったじゃん!」
「カビンゴ、バカモーンだ!」
「ンーーー、ゴオォォォォ!」
「アタイら結局隙だらけ〜!」
「人のこと言えな〜い!」
「いやーんばかーん!」
カビンゴのさとの平和は、スミレとそのポケンモ達により護られた。スミレのカビンゴは一躍ヒーローとしてさとのカビンゴ達から崇め奉られ、終いには百匹のカビンゴに胴上げされた。
一方のスミレ母娘は、相変わらず胴上げの集団から距離を置き佇む黒カビンゴのために、花畑で花飾りを作りに行く。
「黒に映えるのは、やっぱり白いお花だよね」
「そうだね。ワンポイントでピンクのお花入れても面白いかも」
「そしたらこの百合と……」
「そこで何をやっておられる。早く出ていってくれ」
「ぬしさん⁈……私、ボケット団からカビンゴちゃん達救ったんですよ?それでも私のこと、信じていただけないのですか?」
スミレの問いかけに、ぬしは首を縦に振る。
「……何故ですか?」
「そもそもそなた達が来なければ、さとのカビンゴ達が危険に曝されることは無かった。対応には感謝するが、二度とさとには来ないでもらいたい」
「面倒なことに巻き込んでしまったことは申し訳なく思っています。でも、貴方はどうしてそこまで人を憎むのでしょうか」
「何度言えば解る。カビンゴ、そしてポケンモ本来の生態を脅かすからだ。ファイトに取り憑かれ無茶な飼育をする。人間の勝手な都合で消耗させられるポケンモが不憫でならない。あちらを見てみなさい。そなたのカビンゴ、さとのカビンゴ皆に懐かれている。このままさとで暮らさせてあげた方が幸せだと思うよ」
「ここで暮らした方が幸せ……」
ビギコンで負けに泣き、白い目で見られる現況。口にこそしていないが、カビンゴはもうファイトをしたくないのかもしれない。人々の注目を浴びる日々を止め、さとでのんびり過ごしたいのかもしれない。
「お別れを言う時間ならあげるから、翌朝までにはここを出ていきなさい」
その夜、特別に用意された3ごうとうの部屋に宿泊するスミレ母娘。気持ち良く眠るカビンゴの横で、広い野原のある場所を眺めていた。
「ママ、私カビンゴちゃんとお別れする。ぬしさんの言う通りだと思うんだ。自分には荷が重すぎる、カビンゴの育成なんて。このまま私みたいな未熟者と一緒にいても、挫折と世間からの批判を味わうだけだもん。だったらさとで悠々自適に暮らす方がずっと幸せだよね」
「そうね……寂しくはなるけど、スミちゃんがそう思うのなら私は止めない。スミちゃんの決断を尊重するわ」
「短い間だったけど本当に楽しかった、カビンゴちゃんとの日々」
突如落ちた穴の先で出逢ったカビンゴ。食べ物は大量に食うし、命令に背いて寝ちゃったりしたけど、スミレは文句一つ言わず愛情を注いだ。「付き合おう!」の声を目覚ましとし、街を歩いて美味しいもの食べてポケンモとトレーニングし、家に帰ったら丁寧に体を洗ってあげる。自慢のセンスでおめかしまでしてあげた。サッカー観戦、大食い対決、雨の屋外での順番待ち、思い出を挙げればキリがない。
「これでいいんだ、カビンゴちゃんの幸せのためには……」
溢れる涙を拭わんと、スミレはカビンゴの腹に顔をうずめ眠った。
そして翌朝、スミレは最後の挨拶を伝えようとカビンゴを起こそうとする。しかし「付き合おう」の一言が出ない。別れを選んだ以上もう付き合うことはできない、本心でないことを口にするのは憚られるからである。
もうすぐぬしとの約束の時間である。スミレ達は感謝の想いを込めてカビンゴを撫で、手紙を残して部屋を出る。そしてぬしの待つ昨日と同じスイーツ店に向かった。
「カビンゴちゃんは、ここに置いていきます」
「それは良かった。ここを出る前に、ひとつ何か食べていくか?」
「いいんですか?」
「聞き入れてくれたお礼だ。できたてのサヴァランでも食べていきなさい」

裏でフランベした後提供されるサヴァラン。見た目はカヌレっぽくもある。シロップが最初はかなり甘く感じるがそのうち慣れる。レモンっぽい酸味のある柑橘の粒が点在しており、それと合わせて食べるとバランスがとれる。
「あれ?あの黒いカビンゴちゃん、この店のスタッフなんですね」
「そうだ。あのカビンゴは群れるのが苦手だ。目立つことも好きじゃないのだが、今日は花飾りをしていた」
「その花飾り、もしかして私達の?」
「そなたのカビンゴが持ってきたらしいよ。黒カビンゴが可哀想だからって作ったの?」
「はい」
「相変わらず余計なことするね。喜んでいるようだからいいけど、やっぱり人間の行為はいただけない」
「……」
「じゃあ出口に案内する。ついてきなさい」
トンネルの入口、つまりカビンゴのさとの出口に到着した。
「人間の世界は大変だと思うけど頑張りなさい。残りのポケンモ達、責任持って育成するんだよ」
「お騒がせして失礼しました。カビンゴちゃんの平和をお守りください」
「車の後ろがぽっかり空いてしまった。寂しい。でもそれでいいの。いいんだから……」
車のエンジンをかけたその時、後ろから振動を感じ取る。置き手紙を読んだスミレのカビンゴが涙ながらに追いかけてきたのである。
「ンゴ、ンゴ!」
「カビンゴちゃん⁈……いや、もう手放すって決めたんだから。カビンゴちゃんダメ!来ちゃダメ!あなたはそこで幸せに暮らすの!」
「ンゴ……」
「そんなの嫌?でもダメ!ぬしさんの元で、お友達と楽しく暮らすの!今までありがとう……さよなら!」
そこへ黒いカビンゴが追いついてきた。ぬしに対し何かを呟く。
「僕は確かに言ったよ、カビンゴが人間と居るのは良くないと」
「ンゴンゴ、ンゴ!」
(訳:スミレさんのカビンゴは優しい。こんな僕にでも話しかけてくれたから。きっとスミレさんにいっぱい愛情注いでもらったんだと思う!)
「そう言われてもね……」
「ン〜ゴ、ンゴ!」
(訳:スミレさんは信じて良い人間だ。彼女の下なら人間界でも幸せでいられる、そう伝えてほしい!)
続けてカビンゴの大群が押し寄せ、黒カビンゴの主張に同調した。
「ンゴンゴンゴ、ンゴンゴ」
(訳:ぬしさんはいつも僕達のことを支えてくれて嬉しい。でも人間も信じてほしい)
「……カビンゴの言うことは、信じてやらない訳にはいかないな。そこまで言うなら聞き入れないとだ。スミレさん、色々言って悪かった。貴女のカビンゴが悲しむ姿を見て、引き離すなんて良くないと反省したよ。やっぱり貴女はカビンゴと暮らした方が良い。連れて帰りなさい」
「ぬしさん……」
「僕はスミレさんと世界一目指したいンゴ。一緒にいたいンゴ」
スミレは涙を振り撒きカビンゴの方へ走っていった。
「カビンゴちゃん……ごめんね、置いていこうとして。やっぱ一緒が良いよね」
「そうだンゴ。また『付き合おう』って言って起こして欲しいンゴ」
「勿論よ。ふわふわのお腹でまた寝かせてね!」
「ンゴ!」
「貴女のことを拒否してすまなかった。何かあったらまた来てね。一生大切にしてください」
「はい!」
大勢のカビンゴ達に見送られ、スミレ一行はトンネルへと入っていった。
速報です。コメンテーターとしても活躍している比較ポケンモ学者・イマダ容疑者が、ポケンモ虐待の容疑で逮捕されました。イマダ容疑者はポケンモに対し殴る蹴るなどの暴行を日常的に行っていたとされていますが、容疑を否認しているとのことです。
「ポケンモちゃん達、可哀想……」
「博士号取得時の論文にも捏造の疑惑が出ているらしいわよ。こんな人の言うこと、真に受ける価値無かったわね」
「そうだね。落ち込んで損したよ」
「スミちゃんは可愛いんだから、自分らしくやればいいのよ。カビンゴちゃんも、明日からスミちゃんと可愛く頑張ろうね」
「頑張るンゴ。これからもよろしくだンゴ」
「よろしくね、カビンゴちゃん」
一度別れを考えたことにより、却って絆の強さを再確認したスミレとカビンゴ。次なる戦いに向け、仲間のポケンモと共に新たな一歩を踏み出す。
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この話のアフレコ後、ゲスト声優による歌唱が行われた。透き通った声とエモーショナルな詞に自然と涙が溢れる。
「皆さんの優しさがよく反映された、心温まる素作品ですね。素晴らしい」
「ありがとうございます……TO-NAショックを乗り切ってめざンモを再開できました。皆さんのご理解、感謝感激雨霰です!」
「今後も皆さんと共に、クスッと笑えて時に泣けるめざンモを盛り上げていきましょう!よろしくお願いします!」