連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.017:ビギコンかいまく!かいぶつのおでまし!(シシリヤ/日本大通り)

ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えた。新米トレーナーの登竜門・ビギナーズコンペがいよいよ開幕。最強ポケンモを数多く携えるスミレは、優勝を果たせるか?
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ユーカク(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)

  

ビギナーズコンペのヨコハマ大会は、チャイナストリートに程近いヨコハマスタジアムで開催される。普段は野球場として使用され、1塁側および3塁側には立派なウイング席が設けられ頂上からの見晴らしは抜群。多彩なフードを取り揃えた売店はビギコン時にも営業し大盛況となっている。

  

ここでビギナーズコンペのルールを説明しよう。単純なトーナメント方式で参加者は64名。トーナメントにするには随分と都合の良い数字であるが、ビギコンの参加受付は先着順であるため64人エントリーした時点で打ち止め、以降はキャンセル待ち受付となる。ちなみにスミレは今大会31番目のエントリーとなっている。
ファイトもシンプルに1匹対1匹の対戦。先攻後攻は公平にコイントスで決められる。対戦相手は各試合直前までお互い伏せられており、じゃんけんのような運要素も含んでいる。

  

大会前日、手持ちポケンモ総出で作戦会議をするスミレ母娘。
「スミちゃん、優勝するには6回勝たなければならない。手持ちはスミレジェちゃん含めて6匹だから、全員総出で挑んだ方がいいかもね」
「1日2戦は大変だもんね。そうなると順番が大事だね。どこで強いポケンモを出すか…」
「スミちゃん!あまり強い弱い比較すると、落ち込むポケンモちゃんが出ちゃうよ」
「本当だ!不用意な発言だった、ごめんみんな」
「大丈夫だンゴ。現実を知ることも大事だンゴ」

  

「そしたら最初はユーカクちゃんにいってもらおうかな」
「1段階進化をしていて勝つ確率の高いユーカクに切り込み隊長をしてもらい、後続に勢いをつける。良い作戦だと思うよ」
「その後はハムライピちゃん、スーミュラちゃん、ムテキロウちゃんの順でいきましょう。準決勝でカビンゴちゃんだね」
「決勝でスミレジェさん降臨かンゴ?楽しみだンゴ!」
「カビンゴちゃん私に繋げてね!遂に明日か〜、緊張するねママ」
「全然大丈夫だよ。スミちゃんとこのポケンモちゃん達なら絶対優勝できるよ。可愛く頑張ろうね」
「ありがとう!可愛く頑張るね」
「ンゴ!」
「カク〜!」
「ミュラ!」
「ライピッ!」
「ロォー!」

  

大会当日のハマスタ。ビギコンはチャンピオンシップなどの大会と比べると客入りが悪いことが多いが、今期のヨコハマ大会は異例の満員御礼であった。その理由は勿論、ビギナーであるにも関わらずカビンゴやムテキロウを持ち、自分自身も幻のポケンモであるスミレの参戦である。スタジアムに近づくと、待ち構えていた記者達に揉みくちゃにされる。
「ああスミレさん!本日はどういった作戦で臨みますか?」
「えーっと、それは…」
「優勝の確率は?」
「えーっと…」
「カビンゴ育成のコツは?」
「私も学んでいる途中ですので、大層なことは言えないです」
「貴女自身がポケンモであるというのはどういうことですか?」
「あぁ…」

  

「記者団の皆さん、ここはお引き取り下さい!」
声を上げたのはハマスタのオーナー・ナンバ(cv.南場智子)であった。
「大事なファイトを控えております。取材は慎んでください。スミレ様、こちらへどうぞ」
「ありがとうございます…」

  

無事控室に入れたスミレ一行。
「すみません、助けていただいて」
「いえいえ。今までも特定のトレーナーさんに記者が群がることはありましたからね。98年春のダイスケさんとか」
「ありましたねそんなこと」
「これだけ注目されていると、記者会見は開いた方が良いでしょう。セッティングと運営は私にお任せください。そして今日はファイトに集中していただければ、と思います」
「はい、よろしくお願いします!」

  

「麗らかな春の日、歴史と新しさが交錯するこのヨコハマより、新たなるスタートレーナーが現れる!ビギナーズコンペ2025春、今ここに開幕いたします!」
ナンバオーナーの開会宣言に湧き立つスタジアム。そして1回戦が始まる。32対戦を8ブロックに分け、1ブロック4試合を同時に実施する。スミレは第5ブロックに登場し、相手はハーブ派のマリナを繰り出してきた。先攻を取ったスミレが技を指示する。
「ユーカク、ナインダトイフだ!」
「マッリーナァーーー!」

  

「嘘でしょ、一撃で仕留めちゃった!」
「やっぱりスミレさん最強!」
観客はざわめきながらも、スミレの強さの虜になっていた。

  

カビンゴもピッツァを食べながら試合を見守っていた。スタジアムの近くにある、予約でいっぱいの有名店「シシリヤ」が特別に焼いて届けてくれたマルゲリータ。

  

生地には潤いがあってモチモチとした食感を楽しめる。敢えて水牛モッツァレラが載ったものにしたため、チーズの味わいは十二分に感じられる。
「僕はどちらかと言うとトマトを味わいたいンゴ。一番安いマルゲリータを、何十枚も食べる方が良かったかもしれないンゴ」

  

No.005 ユーカク ほむら派
おにたいじポケンモ
限界を超え闘う力を持っているので、勝つにはそれなりの根気が必要。オスは女装の能力を身につけている。

  

午前中は丸々1回戦の消化に費やされ、次の出番となる2回戦には1時過ぎの登場となった。相手は第二の人生にポケンモトレーナーの道を選んだ、定年退職したての男性。手持ちポケンモは奇しくもホッペーであった。
「ハムライピなら大丈夫。仙人のホッペーと良い勝負したんだもん」
「ピー!」

  

先攻はホッペーから。
「いけホッペー、キンミヤわりだ!」

  

「ピピピッピ!」
「ノーダメージだ!何という根性」
「いけハムライピ、ひがしむくさむらいだ!」

  

「ペ〜!」
「強すぎる…いけホッペー、アメリカンストームだ!」
「フライ派の技だ!でも大丈夫。いけハムライピ、ハムハムほうてんだ!」

  

「ペ〜〜〜〜!」
「ホッペー、ファイト不能!ハムライピの勝ち!」
「やった!」
「うれピ」

  

さらに3回戦、スーミュラがアクア派ジェシビを2ターンで下し、スミレはベスト8へ難なく駒を進めた。

  

スタジアムの自室でロゼスパークリングワイン片手に観戦するナンバオーナーも、スミレの活躍ぶりに舌を巻く。その隣には、98年春のビギコンで圧倒的なパフォーマンスを見せたダイスケ(cv.松坂大輔)がいた。

  

「2ターンで勝利を決めるとは、やはり只者ではないわね。ダイスケくんもそう思うでしょ?」
「思います。あの時の自分を見ているようです」
「300円のかぼちゃサラダも、普段は何てこと無いのに特別に感じるわ。ワインが進む」
「でも何があるかわかりませんからね。私自身も全ての闘いを圧勝できた訳ではありませんし、次の相手は恐らく…」
「エノキド博士のご子息だわ。これは良いライヴァルになりそうね」

  

準々決勝からは4試合ではなく2試合同時開催となる。スタジアムをより広く使えるようになり、作戦にも変化が生まれ得る。最初のブロックにて、スミレとミゲル・エノキドの好敵手対決が組まれた。
「あれぇ、スミ〜レくんじゃん。始まりの朝寝坊したくせに何ちやほやされてるんだか」
「悪い?」
「ああ悪いさ。何カビンゴやらムテキロウやら手に入れてるんだ」
「実力です。絶対負けません」
「俺のポケンモ見てもそれ言えるのかい?ヒタチノキの最終進化・ヒタチヤマだ!」
「嘘でしょ…」
「驚いたか。僅か半年で最終進化してやったぜ」

  

ナンバオーナーは、酒をミルトの水割りに変えて闘いを見守る。
「ブルーベリーのお酒ですか?」
「いや、どちらかと言うとハーブっぽい味。美味しいよ、飲んでみる?」
「飲んでみます!あ、そのお摘みも美味しそうですね。海老とポテトを串に刺して、バジルマヨですかね?」

  

「そうよ。海老の身がしっかり締まっていて、バジルの香りもクセになるのよ。欲を言えばポテトは温かい方が良いかな」
「それにしても2段階進化ポケンモの最終進化がビギコンに登場するのは異例ですね。僕だってヒタチバナにするのが精一杯でした」
「スミレちゃんの人気はすごいけど、ミゲルくんだって注目されるべきよね。これは面白い闘いになりそうだわ」

  

「私はムテキロウで勝負よ」
「笑っちゃうね。珍しいだけで強くはない。スミ〜レくん、そろそろお風呂沸かしておいたら〜?」
「負けない。絶対負けないから」

  

先攻はスミレが獲得した。
「いけムテキロウ、ザンギリタタキだ!」

「ヤッマ!」
「ハハン、何も効いてないっす。いけヒタチヤマ、アオバのジョーだ!」
「ロオォ〜!」

  

「ここまでほぼノーダメージだったスミレちゃんのポケンモが…」
「ここまで勝ち上がるとあるんですよね。私もピーエル氏と1時間の熱闘やりましたよ。2戦分の力出しました」
「耐えられるか、スミレちゃん…」

  

「いけムテキロウ、ドクターコトーだ!」
「ヤマヤマ!」
「全然効いてないようだね。ファイトに向けた育成やり込んでないな。小手先の技なんて効かねぇよ。いけヒタチヤマ、たこなぐりだ!」

  

「ロロロロ、ロォ!」
「ムテキロウ、大丈夫?」
「ロゥ…」
「さあ早いところ諦めなさい。ビギコンでムテキロウと当たるなんて珍しいから期待してたけど、こんな弱っちいとはね。まあやるというならやるけど、無駄な力使いたくないからもう降参してもらえると助かるよ」

  

「人気がない理由がわかったわ。ミゲルは態度が大きくて口が悪い」
「ちょっと良くないですねそういう闘い方。どっちが勝つかわからなくなってきました」
「それはどういうことかしら?」
「まあ、そういうことです」

  

ムテキロウは体を震わせていた。怒りと悔しさによるものと思われる。スミレはその気持ちを察知し、例のあの技を繰り出す。
「今だムテキロウ、バカモーンよ!」
「バッカモーーーン!」
「ヤマアーーーーー!」

  

「ヒタチヤマ、ファイト不能!ムテキロウの勝ち!」
「ど、どういうことだ…」
「ミゲルさんは負けました」
「わかってるよそんなこと。でも受け入れられねぇ」
「私のムテキロウは最強のポケンモのひとりです。ナメられては困ります、それだけ!」
「クッソー!」

  

「驕りたかぶる人は痛い目を見る。そういうことです」
「理解しました。ダイスケくんは良い人だもんね」
「いえいえ。それにミゲルくんはポケンモへの愛が不十分です。スミレさんを見習って、心入れ替えて強くなってほしいですね」

  

その頃、とある一団がスタジアムに到着しようとしていた。

  

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