連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.014:おしえて!アリン!(パブロフ 元町本店)

ポケンモマスターの道を歩み始めた、ヨコハマシティヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ。優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴを筆頭に個性豊かなポケンモ達を揃えた。新米トレーナーの登竜門・ビギナーズコンペへ向けファイトを重ねる日々を描く。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ムゲンシャ(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)

  

ビギナーズコンペも近づいてはいたが、キューティーコンテストへの準備も少しずつ進めていく必要があった。毎年春に開催されるこのコンテストには各地から多くのトレーナーとポケンモが参加し、見た目は勿論のこと、歌とダンスのパフォーマンス、個性的な一芸、トレーナーとの相性などで可愛さを競う。

  

「カビンゴちゃん、香水買ってきたよ〜」
「それは何だンゴ?」
「とても良い香りがするものよ。こうやってちょっと手首につけたり首に…ってカビンゴちゃん、首ないか」
「じゃあ肩にちょっとつけるンゴ。…良い香りだンゴ」
「でしょ?カビンゴちゃんの歩くそばから良い香りがふわりと舞って、みんなカビンゴちゃんにメロメロになるの」
「人気者だンゴ」
「今日はパブロフに行こう。おとぎの国みたいな空間でケーキが食べられるの」
「おとぎの国?どんなところだンゴ?」
「行ってみてのお楽しみ。絶対驚くと思うから!」

  

チャイナストリートに比較的近い場所ではあるがモトマチタウンにあるパブロフ。この日はそこそこの客入りであったが、目の前の大きな席が空いていたためすんなり通される。
「ンゴ!本当に御伽話の世界観だンゴ!」
「アリスのお茶会みたいで良い雰囲気だよね」

  

今回注文するのはケーキセット。パブロフ名物のパウンドケーキを5種類楽しむことができるもので、キューティーコンテストを目指すトレーナーおよびポケンモにも人気のセットである。ドリンクもついていて、スミレはオリジナルブレンドティーを、カビンゴはヴァレンタイン期間限定ブレンドのコーヒーを選んだ。

  

「はいカビンゴちゃん、写真撮るよ!ポーズとって!あら可愛い〜!カビンゴがコーヒーカップを持つと、角砂糖1粒のサイズ感だね」
「あれ、もしかしてカビンゴ使いのスミレちゃん?」
「えっ⁈アヤカさん⁈」

  

ヨコハマシティが誇るキューティーガイ・アヤカ(cv.佐々木彩夏)。人気アイドルグループのメンバーとして活動する中、2019年のキューティーコンテストにて、相棒のアリンと共に優勝を勝ち取っている。
「会場で観ましたよ、優勝の瞬間。大粒の涙流していらっしゃるのを見て、私も感動して泣いちゃいました。同じヨコハマシティのトレーナーとして誇りに思います」
「ありがとう、応援してくれて!私も見てますよ、スミレちゃんのインスタ」
「え〜見て下さってるんですか⁈ありがとうございます!カビンゴちゃんと出逢ってからフォロワーが50万人まで増えまして」
「そうだよね、やっぱ可愛いもんね。仲良くしている写真が本当に微笑ましい」
「たくさん褒めてもらえて嬉しいです〜」

  

その頃、可愛げの無いボケット団が店の前を通りかかる。
「甘っ!」
「どうしたミッチー?」
「甘い匂いがする。アザトトガールがいるわ!」
「違うでしょ、パウンドケーキの匂いよ」
「いーや、これはアザトトガールの匂い。甘々でみんなをダメにする匂いだ」
「そんなバカな。いる訳ないだろ!」
「まったく、ほら見てごらん!いるよいる!」
「あれ、しかもキューティーコンテスト覇者のアヤカと喋ってる」
「アザトトの分際で何よ、頭が高いわね」

  

「もしかして、カビンゴちゃんをキューティーコンテストに?」
「そうです!」
「結構チャレンジングだね」

  

アヤカがこう言うのも無理はない。キューティーコンテストの歴代優勝者を遡ってみると小柄なポケンモが多く名を連ね、一番大きいポケンモでもトレーナーの手で十分抱き抱えられるサイズである。カビンゴのような大柄ポケンモは(確かに人気だし可愛いのだが)決勝に残ることさえ異例であり、優勝を目指すなど言うものなら笑い者にされてもおかしくない。

  

「でもスミレちゃんのカビンゴは主に懐いているし毛並みも整えられている。あとは着飾った方が良いのかな。いつも裸で歩いてるの?」
「はい。いちおう洋服も買ってはいるんですけど、着るのあまり好きじゃないみたいで」
「出場するポケンモちゃんは普段からおめかしして街を歩いてる。ワンポイントでいいからアクセサリーはして出掛けると良いよ」
「カンカン帽なら被るンゴ」
「いいね!絶対可愛いと思うよ」

  

No.39 アリン ぶりっ子派
アイドルポケンモ
妹キャラを演じることも多い反面、ファイトにおいてはサバサバとしていて芯の通った攻撃を繰り出す。十八番は山口百恵の『秋桜』など。

  

5種類あるケーキの中でも特に光っていたのは真ん中のシンプルなもの。バニラの香りがしっとりしたスポンジとガナッシュ(?)に溶け込み絶品である。右隣の林檎キャラメルも果肉が入り堂に入った味わい。その右の紅茶ケーキはガナッシュの厚みで滑らかに食べられる。

  

「あと大事なこととして、競うのは可愛さであって美しさではない。カビンゴちゃんは丸々としてていいけど、スミレちゃんはちょっと痩せすぎかな」
「糖質は制限してます。夜ご飯はいつもカリフラワーライスで」
「でも本当は大食いだンゴ。僕よりいっぱい食べれるンゴ」
「そうなの⁈じゃあ尚更だよ、我慢せず食べた方が良い」
「はい…」
「勿論ある程度見た目は整えるべきだけど、過度に節制したら可愛げが無くなってしまう」
「そうですよね。私勘違いしてました」
「大丈夫。一番目指そうとするとみんな勘違いしちゃうものよ。悩める時こそ初心を思い出して、自然な可愛さを意識するのよ」

  

「おいアザトトガール、何うぬぼれてるんだよ!」
「ぼ、ボケット団⁈」
「何をしにここに⁈」
「何をしにここに、と聞かれ(以下略)」

  

「おいアザトトガール、今日こそそのカビンゴをいただくぜ!」
「ついでにアリンも貰うぜ!」
「やめて!私の一生の伴侶よ!」
「その前にケーキをいただきね。アタイはモンブランを」
「ワタクシはチョコを」
「…栗の味が薄いな。これがモンブラン?」
「チョコももう少しスポンジの嵩を減らした方が…」

  

「おいボケット団よお!盗み食いすんな!」
「え、スミレちゃんがヤンキーになった…」
「盗んだ上に文句まで一丁前だのう。どんだけ生意気なんだテメェ?」
「あらぁ生意気なのはどちらで?」
「キューコンの優勝者と何を気軽に喋ってるのかな?」
「待ちなさい貴女達!スミレちゃんはキューティーコンテスト優勝を本気で目指してるのよ!」
「バカな。そのカビンゴで優勝なんてあり得ない」
「こんなに愛されて手入れもされてるカビンゴが、優勝を目指しちゃダメなの?」
「ダメダメ。デブすぎる」
「デブでも可愛いもんは可愛いんじゃ!そんなこともわからんのかのぅ?」
「意味がわからない。やっておしまいミッチー」
「よっしゃ。ワルリナ、だいじょばないだ!…おいどうした、早く技出せ」

  

「今日は調子が悪いみたいニャ」
「何だって⁈」
「仕方ない、私がコニシンを出すか…あれ、どこに行った?」
「あれ〜、2人とも自分のポケンモの面倒が見きれてないようですな」
「うるせぇ!もういいや、こうなったら無理矢理…」

  

「アリン、アーリンダヨーだ!」
アヤカのアリンの得意技を受けたボケット団は、呆気なく店外へ吹き飛ばされた。
「いやーんばかーん!」

  

1杯無料でおかわりできるコーヒーを、王様のように凭れながら嗜むカビンゴ。
「アヤカさんに会えて良かったンゴ」
「飄々としていて面白いカビンゴちゃんね。伸び伸び育てていて素敵だと思うよ」
「ありがとうございます」
「カビンゴちゃんはナチュラルが一番だね。余計なことをさせずに優しく育ててあげよう」
「そうですね。カビンゴちゃん、おめかしはどうする?」
「基本は裸が楽だンゴ。お洒落したかったら伝えるンゴ」
「了解。香水もしなくていいですかね?」
「ちゃんと体洗ってるもんね。それで十分だと思うよ。最終的には愛、これに尽きるね」
「今年はオブザーバー参加で皆さんの振る舞いを勉強させていただきますけど、来年のキューティーコンテスト、優勝目指して頑張ります」
「困った時はいつも相談乗るからね。私以来のヨコハマシティからのチャンピオン、獲ってください」
「カビンゴちゃん、頑張ろうね!」
「頑張るンゴ!」

  

キューティーコンテスト覇者の有難い言葉を聞いて、悠々自適にカビンゴを育成することを誓ったスミレ。強くて可愛いカビンゴトレーナーを目指して、今日もスミレは自分磨きを極める。

  

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