ヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレは、ポケンモマスターの道を歩み始めた。最初の手持ちポケンモになったのは、優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴであった。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ムゲンシャ(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)
スミレのママは毎回のように登場しているが、ではパパはどこにいるのか。実はスミレパパは美味しいものを求め全国、いや世界中を回る「くいしん坊」である。家に帰ってくるのは僅か年数日で、スミレがポケンモマスターの道を歩み始めてからは2度目の帰還であった。
「ママ〜、もうすぐパパ帰ってくるね!」
「楽しみだね。ムテキロウ手持ちにしてること知ったらびっくりするんじゃない?」
「するね絶対。パパとポケンモファイトしてもらえるかな?」
「してもらおう。パパのクイテンは強いからね」
夕食時になり、スミレパパ(cv.宍戸開)が帰ってくる。黒のスーツケースを引く、カジュアルジャケットにジーパン、グラサンのイケオジ。スミレの手持ちポケンモも総出で、パパの帰宅を迎える。
「ただいま!」
「パパ〜!」
「おっ、相変わらずかわいこぶりっこが板についているね。あれ、コイツはもしかして?」
「ムテキロウ、ゲインしちゃいました!」
「すごいじゃないか!素人が手にできるポケンモじゃないよな」
「一緒に霧笛楼行ってね、貰えたんだよね」
「じゃあもう純正のムテキロウだ。たまげたなあ」
「パパがお仕事頑張ってくれているお陰だよ。いつもありがとうございます」
久しぶりに3人揃って食卓を囲むスミレ一家。話題はスミレのトレーナーとしての活躍ぶりと相成る。
「遠い地でも時たま話題に上ってるぞ、弱冠18でカビンゴを操る女性トレーナーがいるって」
「やっぱりそうなんだ。私のこと知ってる人、多いんだね」
「そうだ。だから期待に応えるよう努力をしなければならない。ビギコンも近いんだろ、ファイトは重ねてるかい?」
「それが、あまりできていなくて…」
「いかんなそれは。カビンゴもムテキロウもゲインしておいて、ファイトをさせないというのは持ち腐れだ。1日午前午後2回は何かしらファイトしないと」
「そうだよね…」
「よし、明日は俺がファイトしてあげよう」
「もしかして、パパ自慢のクイテンと?」
「そうだ。牛鍋食う前に一丁やろうか、バンコクブリッジ渡った先の広場で」
「楽しみ!」
「せっかくだからムテキロウとやらせてもらうよ。育成に時間かかるからな」
「しっかりやるよ、パパ」
「ロオォ!」
「他のポケンモちゃん達も連れて行っていい?」
「勿論だ。いっぱいいた方が賑やかろう」
翌朝、家から海沿いを歩くこと15分、ブリックストックス(現実世界でいう赤レンガ倉庫)に続くバンコクブリッジが現れた。その袂にあるのが、120年の伝統のある牛鍋屋「荒井屋」の支店。ここに一家総出ですき焼きを食べに行くのが、パパが帰ってきた時の恒例行事である。
その前にムテキロウのファイトをする。橋を渡って広場に向かうが、何故かボケット団の一味もその近くに潜んでいた。
「ああもうヨレヨレだよこのユニフォーム。いつになったら新調してもらえるのかな」
「してもらえる訳ねぇだろ!大した成果もあげてないのに」
「誰のせいだろうね、サッチーさん?」
「アタイだと言いたいのか⁈んな訳あるか、ミッチーのせいだろ」
「私は何もおかしなことしてません」
「じゃあ…ドラネコのせいだな」
「ニャーのせいだと⁈目立ったこと一つもしてないニャ!させてもらえてないニャ!」
「ニャーニャーうるさいニャ!…うわ最悪、口調が伝染っちゃった!」
「最悪とはニャンだ!おい、アザトトガール一家が来たぞ!」
「待って、見慣れない男がいる…」
「今からスミレのムテキロウと俺のクイテンのファイトを行う。先に目を回した方の負けだ」
「最高のファイトにしましょうね」
「先攻はスミレに譲る。さあ位置について」
「いけムテキロウ、ゴッズチャイルドだ!」
「クイテーン!」
「さすがムテキロウだな。でも強くなる余地はだいぶ残ってるね。痛みを味わいなさい。クイテン、だいちのいぶきだ!」
「ロオォォォ!」
「強い…」
「バード派最強にしてシンプルな技だ。素材の味を活かす、ポケンモ育成の基本だ」
「よぉしムテキロウ、ドラゲナイだ!」
「クイテーン!」
「そうだ、そういうことだ!」
「ありがとうパパ!」
「パパ⁈」驚くボケット団。
「あれがアザトトガールのパパ…」
「いかにも金持ちそうなコーデ」
「こちとらヨレヨレパッツパツのダサダサユニフォームよ」
「おい慎め!どこでボスが聞いてるかわかんねえぞ」
「つい本音が…とにかくアザトト一家のポケンモ全部奪ってやる!」
「待て。今まで全部奪おうとして失敗してきてるだろ」
「そうニャ!それにムテキロウを捕まえたら今度こそおニャニャニャ!」
「ちゃんと喋れ」
「お縄ニャ!」
「だからって怯むわけ?そんなのアタイららしくないな」
「いやでも確実に1匹だけでも奪ってやった方がいいだろ」
「ミッチーはひ弱だな。ガツンといくんだガツンと」
「いつまでそんなこと言ってんの⁈そろそろ収穫ないと、ボスに首切られるよ」
「そうニャ!今日はクイテンに的を絞るニャ!」
No.44 クイテン ハーブ派/アース派
くいしんぼうポケンモ
野菜の声が聴こえるスペックを持つ。野菜と共にサーフィンやスキーを楽しむのが生き甲斐らしい。
「さあクイテン、チェルノーゼムだ!」
「ロオォォォ!」
「まだまだ!ムテキロウ、ミ…えっ⁈」
「俺のクイテンが!」
「ボケット団、またお前らか!」
「またお前らかと聞かれ(以下略)」
「クイテンはアタイらがいただいた」
「おいおい、勝手なことするな!」
「こんな甘々なアザトトガールを育てた奴に、ろくな育成ができる訳ない。俺らに育ててもらった方が幸せに決まってる」
「なんと傲慢な」
「おいボケット団よぉ、アタイは百歩譲っていいにしても、親に向かってその態度取られたらただじゃおけねぇな」
「待て待て、ママ、いつスミレにヤンキー口調教えた?」
「ナチュラルよ。ボケット団と対峙するとああなっちゃうの」
「父親の前でもヤンキーごっこかい。どこまでバカなんだいキミは」
「おい、自慢の娘に何だねその態度は」
「うるせぇ、レアキャラのくせに!」
「スミレ、やっちまいなさいこやつらを」
「わかった。ムテキロウ、ボケット団に向かってミスターカラだ!」
「その手にはのるか!…あれ、体が勝手に動き出す」
「なんで勝手に尻振りダンスしちゃうの〜!」
「やめるニャ恥ずかしいニャ」
「おい観衆、見てんじゃねぇよ!」
「今だ、クイテンを檻から出してあげて!」
ムテキロウの念力で無事脱出できたクイテン。ボケット団にとどめをさす。
「クイテン、あいつらにゆきしたにんじんだ!」
「ヒョエ〜、どうしていつもこうなるの〜!」
「いやーんばかーん!」
「まったく、ファイトの邪魔をする奴がいるんだな」
「いつも来るの、あの人達」
「まあでもよく追い返せたよ。実力十分だ。勝負ついてないけどもう時間だね」
「じゃあちょっとこれだけ。ムテキロウちゃんにヴァイオレットカードです!」
「なんだそれは」
「頑張ったみんなに出すカードだよ」
「なるほど、そうやって頑張りを認めてあげるのか。さすがスミレ、優しい子だよ。よし、牛鍋行こうか」

予約していたバンコクブリッジ袂の荒井屋に入店する。靴を脱ぎ、畳のある個室に入る。ちなみに当日席もあるにはあるが2人掛けテーブル4席のみのようで、飛び込み客や(事前予約ができない)おひとりさまは開店と同時に行くことを推奨する。


逆に言えば1人でも牛鍋を楽しむことは可能で、牛鍋とお食事のセット(今回紹介するのはこっちのあおり)、或いは少し肉の量が少ないが小鉢のついた開化牛鍋膳を選べる。

「俺はビール飲ませてもらうよ。普通のビールじゃ物足りないからね、ゆずラガーにしようかな」
「さすがお父さん」
「スミレも20歳になったら一緒に酒飲もうな。初めての酒何飲むとか決めてる?」
「決めてない」
「ヴァイオレットフィズなんてどうだンゴ?」
「え〜、何それ?」
「パルフェタムールというすみれのお酒を使ったカクテルだンゴ。甘くてセクシーで、スミレさんにお似合いだンゴ」
「ハムライピ(私が作ってあげる)!」
「ハハハ。カビンゴもなかなかませてるね」

まず前座として頼んだ牛煮込みが登場。厚みはあるが柔らかく煮込まれており、昔らしい少し野生みのある肉の旨味を堪能できる。つゆはさすがシュトー(関東)地方流の甘さ濃さである。

「これは酒お代わりだな。ウイスキーは…シーバスがある。ロックは無いのかな。まあ牛鍋が濃い味だからハイボールでいいか」

「うむ、良き香り。ファイトの後のハイボールは美味いね」
「ポケンモちゃん達〜、もうすぐお肉来るからね、楽しみだね!」
「ンゴ!」
「ロォ!」
「でも牛鍋の食べ方、よくわからないンゴ」
「大丈夫だよ〜、店員さんが最初の1枚は作ってくれるから」
「思う存分食べなさい。カビンゴは眠くならない程度にな」
「気をつけるンゴ」

牛鍋がやってきた。程よく霜降りが入った肉が1人120gあるから満足感は高い。店員が良い火加減で仕立ててくれた最初の肉は少し厚みがあり、そこから脂が弾け出てたいそう美味しい。これこそが理想の牛鍋というかすき焼きである。
「カビンゴ、何ゆっくり食べてんだ。火を止めないと」
「ンゴ…」
「止めてあげるね」
「スミレさん、ありがとうだンゴ…」
「いいかカビンゴ。火が入りすぎたら、せっかく美味しい肉が硬くなる。ある程度煮えたら火を止めないと」
「心得てなかったンゴ…」
「まあ初めてだったからね。次からは気をつけるといいよ」
———
アフレコ現場でも全く同じ事象が発生していた。こちらは1人1つずつ鍋を用意してもらって牛鍋を楽しんでいたが、カビンゴ役のタテルが火を通しすぎていた。
「やっちまった、肉が硬くなった…」
「グルメで噂のタテルさんが珍しくたじろいでいる」
「あらら、勿体無いことしちゃったね」
「鍋に不得手なことがバレた…」
「タテルくん、君は確かにフレンチやイタリアンに慣れていると聞いた。アドリブですみれリキュール出してきたのも良かったと思う。だけどな、お洒落なものだけじゃなく、みんなが楽しめるような食も極めた方が良いよ」
「そうですよね、鍋は弱点でした」
「孤独のグルメもいいけど、ご近所さんも集めて大勢で食うグルメも楽しんでこそ、最高のくいしん坊だ」
「はい!もっと究めます!ありがとうございます!」
———
午後にはカビンゴとクイテンのファイトが行われた。
「カビンゴ、あさまてっきゅうだ!」
「クイテーーーーーーーーーーン!」
「クイテンの目が回った…スミレのカビンゴ、あんたの勝ちだ」
「やったあ!よく頑張ったねカビンゴちゃん」
「ンゴォ!」
するとスミレパパがホイッスルとカードを手に取る。カビンゴとスミレに向けて吹き、ヴァイオレットカードを差し出した。
「こんな感じでいいのかな?」
「嬉しい〜、パパに認めてもらえるなんて」
「ちょっと偉そうな態度とってすまなかったな。立派に成長してるじゃないか、感心したよ」
「ありがとうパパ」
「でもファイト不足は否めないからな。キューティーコンテストも目指すとは聞いているけど、ポケンモの基本はファイトだ。これからは積極的にファイトをやる、いいね?」
「はい!」
その日の夜のフライトでカロン地方に飛び立つため、スミレパパは夕方には家を出発しなければならなかった。
「短い時間でごめんな」
「本当はもっと一緒にいてほしい。でも帰ってきてくれて嬉しかった」
「そう思ってくれたなら良かったよ。パパこれからお仕事頑張る。スミレも立派なポケンモトレーナーになって、世界中の人々をあっと言わせてな」
「頑張るね」
「また半年後かな、会うの楽しみにしてるよ。じゃあな」
「じゃあねパパ。お仕事頑張ってね〜!」
父親との短いひと時を過ごし、更に自信をつけたスミレとそのポケンモ達。より成長した姿で父親に会えるよう、スミレは今日も積極的にファイトを重ねてゆく。
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