連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.011:カビンゴとカビンゴ?!(とんかつ檍 横浜馬車道店)

ヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレは、ポケンモマスターの道を歩み始めた。最初の手持ちポケンモになったのは、優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴであった。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ムゲンシャ(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)
ムテキロウ(アルティマ派)
・そもそも自分自身
スミレジェ(ぶりっ子派)

  

ある日の朝、いつものようにぶりっ子で起こされたカビンゴはお腹が空きすぎていた。いつもは朝ごはんに10個ラムボールを食べるところ、この日は倍の20個を平らげた。それでも美味しそうに笑顔で食べてくれるから、愛くるしくて堪らないのである。
「いっぱい食べて可愛いね!」
「たくさん用意してくれてありがとうだンゴ」
「今日はカビンゴちゃんのトレーニングだよ。誰とファイトやりたい?」
「僕、アブノーマル派とやりたいンゴ。相性の良し悪しは抜きにして、真の実力を試してみたいンゴ」
「了解!じゃあ街に出てみようか」

  

チャイナストリートを歩いていると突然、メロンパンを食べながら歩く太ったトレーナーがカットインしてきた。
「まいう〜」
「あれ、貴方はもしかして、マイウさん?」
「どうも、マイウ(cv.石塚英彦)です。メロンパン美味しいなぁ〜、中にチャーシューが入っていて、甘塩っぱさがクセになっちゃう。やめられないとまらない、もうデブ道まっしぐら」
「素敵です〜、生でマイウさんの食リポ聞けて」
「あれ、そういう貴女はカビンゴトレーナーのスミレちゃん?」
「嘘っ⁈私のこと知って下さってるとは」
「もちろん、噂になってるからね。同じカビンゴトレーナーとして、気にならずにはいられないでしょ〜」

  

マイウはグルメインフルエンサーとしては勿論のこと、カビンゴトレーナーとしても名を馳せている。フォルムが似ていることもあって、マイウとカビンゴのコンビは大人気。動画サイトのチャンネル登録者数は10万人を超えており、テレビにおいてはトレーナーとしての相方・ヒルオビよりも遥かに頻繁にカビンゴと共演している。

  

「でも僕がカビンゴと仲間になったのは30代後半。グルメを志して、デブタレント四天王のひとり、なんて呼ばれ始めた頃に現れてくれたんだ」
「食べるのが好きな人と一緒にいると喜びますもんね、カビンゴちゃんは」
「スミレちゃんは凄すぎる。18歳のカビンゴトレーナーなんて全世界見てもいない。ギネス記録ものだよ」
「私ってそんなにすごいことしてるんだ…」
「是非僕のカビンゴとファイトしてほしい!どう?」
「こちらこそ有り難いです、是非やらせてください」
「やった!でもその前に腹を満たしたい。美味しいとんかつ屋があるから皆で行こう」
「ンゴ!」

  

カビンゴとの出逢いについて話すスミレとマイウ。
「そうなんだ、遅刻せず博士の家に着いてたら出逢わなかったんだね」
「遅刻は良くないことですけど、災い転じて福となす、って感じですかね。マイウさんはどうやって出逢ったんですか?」
「ロケで漁船に乗せてもらった時なんだけど、海が大荒れで船が揺れて揺れて、僕だけ海に放り出されちゃったんだ」
「え⁈それは大変なことでしたね」
「冷たい海で溺れて死ぬんだろうな、って思っていたらカビンゴがやってきて、俺を背中に乗せて岸まで泳いでくれたんだ」
「そんなことがあるんだ…」
「カビンゴとの出逢いは不思議なことが多い。狙って手持ちにできる訳じゃないんだよね。幸運だったよ、僕もスミレちゃんも」

  

話が弾むうちにバシャストリートのとんかつ屋に到着した。カマタタウンの人気店「檍(あおき)」の支店であり、お昼時で行列ができていた。先に食券を購入する。
「よおし、カビンゴ達はかつ定食6種全部だ。で僕は上ロース200gで」
「あれ、マイウさん食べないんですね」
「いくら太ってるとはいえもう63だからね、一番量の少ないもので我慢だよ」
「じゃあ私はカビンゴちゃんに合わせて全部食べます!」
「ちょちょちょ、ちょっと待って。スミレちゃんも大食いなの?」
「大食いです。本気を出せばいくらでも食べちゃいます」
「あまりにもスタイル抜群だからびっくりしたよ」
「あとメンチカツもください。これはどの食券を買えば?」
「直接私にお支払いください。メンチカツですね」
「みんなもメンチカツ食べようね。マイウさんもですよ」
「僕も?まあメンチカツくらいなら足すか」

  

15分程並んで入店する。カビンゴという巨体が2匹もいればそれはそれはよく目立つ。ボケット団が店の前を通りかかる。
「あれはカビンゴのお腹だ。しかも2匹いるし」
「どうせ1匹はアザトトガールのカビンゴだよな。もう1匹はよくわからないけど、この際2匹とも掻っ攫ってしまおうか」
「希少性高いカビンゴを2匹も手に入れれば、ボスも大喜びだニャ!掻っ攫ってやるニャ!」

  

ボケット団に見られていることを知らないスミレ一行はとんかつにありついた。マイウの頼んだロースカツは、カリッと揚がった衣がまず印象的。肉は柔らかく、脂がジュワッと溢れ出す。

  

ソースはトマトの旨味が少し濃いめであり、塩は3種類あるがどれを使ってもあまり変わりは無い気がする。

  

2匹のカビンゴは、お互い負けじとカツを口に放り込む。一方のマイウは、洋食屋で食べるような細かくミンチされたメンチカツを食べ切ると、大食いバトルの様子をにこやかに見守る。

  

「ま・い・うっ!」
「ウインクまでしちゃって、可愛いねスミレちゃん。しかしよく食べるな、カビンゴ達よりもペース速い」
「カビンゴちゃん、私に負けてるよ。はいガンバガンバ!」

  

スミレの大食い力にたじろぐカビンゴ。何とか喰らいつこうとするが、スミレのカビンゴが1/2、マイウのカビンゴが2/3を平らげた辺りで、スミレは完食まで3口程度の位置につけていた。
「もうすぐ完食だ!頑張れスミレ!」
「あーん。はぁ〜美味しかった、ごちそうさまでした」
「スミレちゃん万歳!見事な食べっぷり!カビンゴも頑張れ!」

  

「いつになったら席空けてくれるんですか!」
「ボケット団⁈何でここに⁈」
「何でここ(以下略)」

  

「カビンゴのくせに食べるの遅すぎ!はいはいどいたどいた」
「カビンゴがまだ食べてる途中でしょうが!」
「今日は北の国からごっこでちゅか、甘々アザトトガール?」
「あんだとゴルァ!」
「はーい、じょーずじょーず。じゃあそのカビンゴ2匹はいただきだね」
「はぁ⁈渡すもんですか」
「そうだそうだ。カビンゴは僕の大事なパートナーだ。攫われてたまるか」
「迷惑かける方が悪いんでしょ。何が大食い競争よ」
「残ってるのアタイらが食べさせてもらうからね」

  

ボケット団がカツに手を伸ばしたのを、カビンゴがピシャリとはたく。カビンゴにとって、食事の邪魔をされることは最も腹立たしいことなのだ。
「おいボケット団の皆さんよぉ、カビンゴのこと何もわかってないようですなぁ。それでいて掻っ攫おうなんて、図々しいにも程があるんじゃないかな?」
「うるせぇうるせぇ、アザトトガール!ミッチー、自慢のポケンモでカビンゴをやっちまいな!」
「あいよ!ダーク派のワルリナ、ダイジョバナイだ!」

  

「ンゴオォォォ!」
「フンッ!カビンゴなんて所詮アブノーマル派、技を軽減させる能力は無いんだよな」
「ミッチー、この調子でカビンゴを手にするニャ!」
「よっしゃいくぞ!ワルリナ、なにかをつかむだ!」

  

「ンゴ…」
「スミレちゃん!ちょっと耳貸して」マイウが何か言いたげである。
「…そんなのがあるんですね。面白そう。おいボケット団よぉ、こっちからも攻撃させてもらうぜ。カビンゴ2匹の合わせ技でのう」
「卑怯だろそんなの」
「卑怯なのはどっちだ。構わずやるぞ、マイウさんもご唱和ください」
「カビンゴ、サンドウィッチプレスだ!」
「え待って、それってもしかして!」

  

たっぷりのとんかつも入りかなりの重量となったカビンゴ2匹に圧縮されるボケット団一行。
「く、苦しい!息ができない!」
「離して〜!」

  

解放後、カビンゴ達はダブルキックでボケット団を蹴り出した。
「いやーんばかーん!」

  

残りのとんかつを食べ切り店を後にする一行。イセザキタウンへと続く広場にやってきた。
「じゃあカビンゴ同士でファイトしてみようか」
「負けませんよ。ね、カビンゴちゃん」
「眠いンゴ…」
「僕も眠いンゴ…」

  

道端で眠ってしまったカビンゴ共。
「仕方ないねこれは」
「そうですね。そこがカビンゴちゃんの可愛いところですから」

  

スミレは優しくホイッスルを鳴らす。
「カビンゴちゃん、ヴァイオレットカードです。よく食べて力をつけましたね」
「カビンゴへの愛情の注ぎ方が素晴らしいよ君は。間違いなく一流のトレーナーになれる。お友達になってください」
「光栄です!」

  

こうしてスミレは新たなカビンゴトレーナー仲間を得た。カビンゴを育てる者としての期待と責任を学ぶことができた、ある日曜の昼下がりであった。

  

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