連続百名店小説『めざせポケンモマスター』No.009:ムテキロウのでんせつ(霧笛楼/元町・中華街)

ヤマシタタウンに住む18歳の少女・スミレ(cv.レジェ)。ポケンモマスターを夢見て旅を始めた。最初の手持ちポケンモになったのは、優しい心の持ち主にしか姿を見せない希少ポケンモ・カビンゴ(cv.タテル)であった。
☆スミレの手持ちポケンモ(現時点)
・外に出てスミレと共に歩く
カビンゴ(アブノーマル派)
・カプセルに入れて持ち歩き
ムゲンシャ(ほむら派)
スーミュラ(アイス派)
ハムライピ(ダーク派)

  

スミレがトレーナーデビューを果たして1ヶ月が経とうとしていた。その記念日を祝おうと、高級店のディナーを予約することにした。
「ママ、フランス料理なんてどうかな?」
「いいね!もしかしてアルティマ派のポケンモ狙ってる?」
「そうなの!強いポケンモをゲインして、手持ちポケンモの少なさによる不利を帳消しにしたいんだ」
「良い心構えよ」

  

アルティマ派は18あるポケンモの派の中でも最も強力で、弱点はアイス派・ぶりっ子派・アルティマ派の3つのみ。そのうちアイス派とアルティマ派は相手にとってもアルティマ派が弱点であるため相打ちとなり、強力なぶりっ子派ポケンモを立てない限りファイトで負かすのは難しい。そのため全トレーナーがゲインを夢見るものである。
しかしアルティマ派を手に入れることのできるクラブは高級フランス料理店に限られており、財の無いトレーナーは門前払いされる。仮に来店できたとしても、強力すぎてファイトに勝つことは困難を極める。

  

「ハッシシクラブかムテキロウクラブ、どっちが良いかな」
「スミレくん、スマホイトダだ。どちらのクラブでも得られるアルティマ派ポケンモはムテキロウだが、ムテキロウクラブのムテキロウは伝統の技法で育成されていてかなり強力だ。ゲインは決して容易ではないが、手に入れればトレーナーとして箔がつく。折角強いカビンゴを持っているのだから、果敢にファイトを挑むと良い」
「なるほど!みんな、ムテキロウクラブに挑むでいいかな?」
「のぞむところだンゴ!」

  

ディナー営業開始時刻である17:30に、下のフロアから入店したスミレ一家。モトマチタウンには冷たい雨が降っていたが、戦いへ向け気持ちを高めていたスミレは寧ろ暑さを感じる。広いダイニングの中、比較的外部から遮断された隅っこの席へ案内される。

  

「うわあ、皿に明治時代の人々が描かれている」
「我がムテキロウクラブは開港当時のヨコハマシティをイメージした作りとなっております。パリーによってムテキロウが数匹持ち込まれ、当時の貴族の方々が愛情込めて育て上げました。しかし世は軈て戦争に突入し、平和を愛するムテキロウの多くは海の彼方へと逃げ出してしまったのです」
「あらまあ…」
「ムテキロウ保護のため1981年に創立されたのがここムテキロウクラブです。それでも開港当初の遺伝子を引き継ぐムテキロウおよびその進化形は100匹に満たない状況です」
「だからゲインは難しいのか…」
「相当の資質を持つトレーナーでない限り、我々の大事なムテキロウは差し上げられません。まあまずは料理を楽しんでいただき、ファイトへの英気を養ってください」

  

乾杯酒には辛口白ワインを炭酸で割ったドイツカクテル「フーゴ」を選択する。キリッとしつつもワインのコクがあり、エルダーフラワーの香りに癒される。

  

アミューズは恵寿卵のフラン。口当たりは軽いが卵の味が濃厚。枝豆のコクと合わさって香ばしい旨味も感じる。

  

一方、ボケット団のいつもの三人は団長のミクラに呼び出されていた。
「お前らいつになったらポケンモ持ってくるんだ?」
「ははあ、大変申し訳ございません!サッチーがいつもモタモタしてるから」
「はぁ⁈ミッチーが余計なことするからでしょ」
「ニャーは悪くないニャ。2人が悪いニャ」
「お前ら何責任転嫁しようとしてる。そんな調子だからポケンモを捕まえられないんだ」
「…」
「そんなお前らに敢えて重大任務を与える。成功すれば報酬アップ、だが失敗すれば牢屋行きかもな」
「そんな…闇バイトじゃないですか!」
「お前らには闇が一番お似合いだよ。今までろくに仕事してこなかったんだから、捨て身の覚悟でいってらっしゃい。豪華な食事だけしてのうのうと手ぶらで帰ってきたら許さないからな」
「ははあ!」

  

スミレ一家はこの店のスペシャリテ・アオリイカのブランマンジェを楽しんでいた。3層仕立てで、下からブランマンジェ、アオリイカの微塵切り、人参・粟・タイムのゼリー寄せ。イカの旨味が初手からダイレクトに押し寄せ、マッシュルームのソースがアシストする。

  

するとボケット団の三人が入店してきた。ドレスコードは無い店であるが、いつものボケット団ユニフォームではさすがに浮いてしまうため普通の服装で来店した。そのためスミレ一家は気づいていない。
「ボスったら、無茶な要求しやがって」
「でもムテキロウゲインに成功したら何億も稼げるわよ。全集中で臨もう」
「タイミングはしっかり見極めるニャ」

  

フォアグラ・リードヴォー・ラングスティーヌのソテーは、トーカマーケット(十日市場)産の米で作ったリゾットに載せて。ハンガリー産のフォアグラは濃厚だが脂っこさが控えめで食べやすい。リードヴォーはカリッと焼かれていてわかりやすい旨さ。ラングスティーヌは綺麗な身の締まりと旨味が特徴的。ライスでそれらを受け止めるのはこの国の民の悦びである。濃い具材達を蕪や山椒の味でさっぱり受け止めるのも良きである。

「どちらかというとビストロの料理っぽいけど、これが美味しいんだよね」
「ンゴ」

  

No.147 ムテキロウ アルティマ派
ぶんめいかいかポケンモ
ヨコハマ開港と共にこの国に持ち込まれた希少なポケンモ。優しい心の持ち主にはとことん心を開く。

  

「ムテキロウは2段階進化するんだよね。ムテキリュウを経て最後がリュウグンジ」
「リュウグンジはレジェンドポケンモを除けばシュトー地方最強のポケンモ。育成は時間かかるけど、最強のアタッカーかつ守護神になってくれる」
「リュウグンジは争いを治めてくれる偉大なポケンモです。リュウグンジの前では誰もが平伏し悪行を中止する。その場にいる皆を抱擁して優しさをもたらします」
「素敵なポケンモちゃんね。リュウグンジ使いになりたい…」
「ですがムテキロウをリュウグンジに進化させるのは容易ではありません。我々でさえ、40数年の歴史の中でリュウグンジまで育て上げられたのは5匹のみ。全国を見てもリュウグンジは希少生物です」
「なるほど…」
「ここでムテキロウを獲得したトレーナー様も現状多くがムテキリュウ止まりとのことです」
「その前にムテキロウをゲインできるか、ですよね。しっかり作戦練らないと…」

  

ゴージャスな魚介料理のお出ましである。オマール海老の蒸し煮は思いっきり殻付きでありナイフ捌きの実力が試される。
スミレは赤紫のザワークラウトみたいなものの酸っぱい香りにたじろいだ。これが少しオマール海老の味わいを邪魔しているようである。
一方で手前のグリルは流石の技術。帆立の火の入り方は絶妙であり、ヤナギバチメという魚は身が詰まっていながらパサつきが無く、旨味もよく感じられて驚いた。

  

「スマホイトダだ。ムテキロウクラブでムテキロウに勝利しゲインした人の割合は1.3%。非常に厳しい勝負である。ただ君にはアイス派のスーミュラがいる。そして何より、…な」
「どういうことだろう」

  

するとここで料理長が各テーブルを挨拶しに回り始めた。そのお供にはリュウグンジがいて、自慢のとおぼえを披露する。
「すごい…」

  

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「すごい!」
「えっ⁈何でここに…」
リュウグンジの声を担当していたのは京子であった。
「レジェちゃん久しぶり」
「嬉しいです〜。卒業されてから全然会えてなかったから」
「わっ!」
「京子、これが今グループ内で流行っている『レジェのバックハグ』だ。びっくりさせてごめんな」
「いいじゃん。TO-NAらしくて落ち着くよ」
「嬉しいです〜、京子さんと一緒に声優やれるなんて」
「こちらこそだよ。台本読んだけどすごく良い話で、呼んでもらえてめっちゃ嬉しい」
「アフレコ終わったらみんなでSKY-HI屋行こうか。今日から味噌チゲラーメン販売開始だからさ」
「もうそんな季節か。楽しみだね」

  

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「リュウグンジは非常に希少なポケンモとなっております。今のとおぼえに緊張感を覚えた方もおられるかもしれませんが、普通にしていれば危害を加えることはございません。ただし、あまりにも目に余る行為をすれば大技『バカモーン』を食らって彼方へ吹き飛ばされるのでご用心を」
「うわ…」息を呑むボケット団。
「これは相当隠密にやらないと怖いな」
「捕まる捕まらない以前に死ぬかもしれない」
「今日こそは喧嘩しないよ。協力しなければ命は無い」
「そうね。もう負けてばかりの私たちではない」
そう言って三人は固く握手を交わした。

  

No.149 リュウグンジ アルティマ/フライ派
かんろくポケンモ
イカつい見た目をしているが、平和と愛する人を守る気持ちは誰よりも強い。歩行者専用道路を大きなピザ片手に走る自転車には容赦しない。

  

肉料理1品目は京鴨胸肉のローストに葱。ここまで濃い味の料理が続いていたが、こちらは日本料理のように控えめな味付けである。

  

「使えるポケンモちゃんは1匹よね。スーミュラにするかカビンゴにするか悩ましい」
「スーミュラちゃんはアイス派だからアルティマ派の弱点を突ける。でも同時に弱点を突かれるから、アブノーマル派のカビンゴちゃんで地道に攻めるか」
「ミュラ、ミュラ…」
「自信無いかスーミュラちゃん。でもね、ファイトを経験しないと強くなれないの」
「負けても大丈夫だンゴ。相手の弱点を突くのがセオリーだから、今日はスーミュラに任せるンゴ」
「ミュラ!」
「相変わらずあのアザトガールはお気楽さんね。ムテキロウと戦うことの重大さを知らないみたいよ」
「今日は構ってる暇無いわ。絡んでいたらまた私たち収穫無しよ」
「でもさ!…ごめんなさい、今日はいがみ合わないんだった」
「ムテキロウを攫う、それだけに集中するニャ!」

  

肉料理2品目は国産牛ロースのステーキ。ペリグーソース(トリュフを入れたデミグラスソース)で仕上げており、実にクラシカルな味わいである。奥にある林檎のソースを馴染ませると重さが軽減され、満腹になりかけの状態でも食べ疲れない。右奥にある付け合わせは甘さ控えめのスイートポテトみたいなものである。

  

「ではそろそろファイトの準備をいたしましょう。今回対戦いただくムテキロウです」
「ローーーーー!」
「強そう…でも勝ってみせる!」
「それではファイトフィールドに移動しましょう。スミレ様、スーミュラ様、こちらへどうぞ」

  

強力なムテキロウの前で怯えるスーミュラ。
「ミュラミュラ…」
「全然大丈夫だよ、スーミュラちゃんならできるよ」
「ミュラ…」
「それではファイト開始!まずはスーミュラ様から!」
「ミュラー!」
ムテキロウはアイス派の技により多少のダメージを受けたものの、未だかなりの余力があるようであった。ムテキロウのターン、アルティマ派の技が繰り出されスーミュラは大ダメージを負った。次また技を受ければ力尽きる状態である。

  

「大変です!我々のムテキロウ達が…」
店員の1人が叫ぶ。
「大きな檻に囚われました!」
「どういうことだ⁈」
「檻が動いています。恐らく何者かが連れ去ろうと…」
「行ってみる。すみませんスミレ様、ファイトは一旦中止で」
「私も行きます!」

  

その頃、自席で待機していたカビンゴは中座から戻ってくる途中でテーブルに体をぶつけてしまう。ぶつけられたテーブルの客はコントローラーらしきものを衝撃で落としてしまう。
「ごめんなさい、うちのカビンゴちゃんが」
駆け寄るスミレママ。
「何か見たことある顔ね。あ、ボケット団だ!」
「おい余計なことを!」
「おいボケット団!」店員が駆けつける。「そのコントローラーは何だ!」

  

「そのコントローラーは何だと言われたら!」
(口上は省略)

「ムテキロウ達は私たちのものよ!」
「私たちが育てた方が早くリュウグンジまで進化させられる。アンタらのやり方は古臭いんだよ!」
「何だって…」
「ママ〜、こっちにいるよムテキロウちゃん達!」

  

スミレ一行と店員達、そしてボケット団が檻の前に集結する。
「ムテキロウ・ムテキリュウ・リュウグンジは絶滅危惧種で保護しなければならない。貴方達がやっていることは重罪です」
「それくらい分かってるわよ。ならもっと厳重に管理しなさいよ。盗む隙を与えている方が罪深い」
「だからって盗んでいいことになる訳なかろう。返しなさい、アオシマー呼ぶぞ」
「ヤンキーごっこはおやめなさい、甘々アザトガールちゃん」
「ンゴ…」

  

ムゲンシャは檻を熱していたが、耐熱性があったため効果は無かった。スーミュラは先程のファイトで疲弊しており、ハムライピも檻を切り刻もうとするが暖簾に腕押しである。
「どうしたカビンゴちゃん?顔が赤いよ」
「ンゴ、ンゴオォォォォ!」

  

カビンゴから繰り出された技はアルティマ派のバカモーンであった。カビンゴ自身はアルティマ派でないため威力は2割減であるが、それでもボケット団は遠くへ吹き飛ばされていった。
「いやーんばかーん!」

  

檻も開放され、囚われていたムテキロウ達も救出された。
「グーングーン!」
「うちのリュウグンジが褒めております。カビンゴ様のバカモーン、強くて美しいと」
「ありがとうございます」
「このカビンゴ様は大したものです。末永く大事に育成してください。それではファイトの続きを…」
「待ってください。出場ポケンモを変えることは可能でしょうか?」
「良いでしょう。カビンゴ様ですか?」
「いえ、私です」
「スミレ様ご自身で対決ですか⁈」
「実は私、ぶりっ子派のポケンモなんです」
「ど、どういうことですか」
「スマホイトダからも言われたんです。あなたの持てる力全て、ぶつけてこいと」
「…まあ戦いますけど」

  

「いきます、ぶりっ子派の技、だいじょうぶい!」
「ローーーーー!」
「嘘でしょ…何でトレーナーがあんなすごいぶりっ子派の技を…」
「日々鏡の前で見え方を研究した成果です」誇り高そうに述べるスミレママ。
「御見逸れしました…」
「最後にもう一度、だいじょうぶい!」
「ローーー…」
「ムテキロウ、戦意喪失!スミレ様の勝利!」
「私、勝ったの?嬉しい〜!」

  

勝利の余韻冷めぬ内にデザートを戴く。カマンベールチーズのパイサンド、キャラメルムースと赤白ワインゼリーで彩った洋梨のコンポート、マロンのムースの盛り合わせ。派手さは無いが万人が美味しいと思えるものである。

  

「貴女は立派なポケンモです。シュトー地方の151番目のポケンモに認定しましょう」
「ンゴ」
「名前はどうします?伝説級のスミレ様ですから、スミレジェなんてどうでしょう?」
「良いと思います」

  

No.151 スミレジェ ぶりっ子派
だいじょうぶポケンモ
甘々の言動でトレーナーもポケンモもたやすく虜にする。付き合ってくれないとヤンキー化してメンチを切ってくるので注意だ。

  

「我がクラブ自慢のムテキロウ、大切に育ててください」
「ありがとうございます。頑張ってリュウグンジまで育て上げますね」
「困ったことあったらいつでも相談に乗りますよ」
「はい!」

  

カビンゴ、ムゲンシャ、スーミュラ、ハムライピ、ムテキロウ、そして自分自身。6匹の強力なポケンモを揃えたスミレはビギナーズコンペへ向け準備を進める。その様子はまた後日見ていくこととしよう。ポケンモマスターへの道は輝きだし、スミレは全力でその道を走ってく。

  

(SEASON1 おわり)

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