連続百名店小説『みっちゃん』第二話(福井では冬の定番!水羊かん)

福井県出身の五木光子。東京で大好きなテレビ番組のADとして働いているが、過酷な労働についていけず怒られてばかり。気力体力を消耗し出世も見込めない中、やっと1週間の休みを取得できて初めての帰省。有名番組のADをしている娘を誇りに思う両親に、自分の置かれた状況を打ち明けることができずにいた。

  

 翌朝目覚めた私は、少しマシな笑顔を親に見せることができた。未だADとしての未熟さを打ち明けることはできない状態であったが、一先ず休みを満喫する気分にはなったようである。

  

 家族を紹介しよう。まず私は五木光子。家族や友達からは専ら「みっちゃん」と呼ばれている。父の名前は建。漁師をしている。先述した通り厳格で昔気質ではあるが根は優しい人である。母の名前は真美子。こちらはわかりやすく優しい。怒った姿を見せたことがない。そして愛という妹が1人いるのだが、大阪の大学に通うため一人暮らししているから今は実家に居ない。

  

 目覚めの水を汲む序でに冷蔵庫の中をざっと見る。水羊かんがストックしてあるかを確認したかったからである。全国的には夏の和菓子というイメージが強い水羊羹であるが、こと福井県では炬燵に入りながら食べる冬の風物詩として定着している。一般的な水羊羹とは違ってこし餡と寒天を混ぜて固めたものであり、水分多めで糖度が低いため夏場では保存が利かない。

  

 我が家での定番はえがわの水羊かん。小豆餡というよりかは黒糖の味が終始勝っていると思うが、偶に後味が小豆の野生味だったりする。サラッと入るがコクがしっかりある、愛されて当然の味である。
 こうしてえがわの水ようかんを食べながらテレビ番組を観るのが楽しくて、テレビ業界に身を投じることを決めた。好きな番組はレッドカーペット、ピカルの定理、エンタの神様。こう並べてみるとお笑いが好きなようである。いいともは毎日録画して学校から帰ったら観ていたし、ゴッドタンは土曜深夜だから夜更かししてこっそり楽しんでいた。
 厳格な父が居る場ではNHKしか視聴を許されなかったが、漁に出て不在している時や酒飲んで寝落ちする隙が多かったのであまり問題にはしていなかった。寧ろ父が起きている時は偶の団欒を楽しんでいた。やがて妹が父と口をきかなくなるのだが。

  

「愛は帰ってこないよね?」
「そうね。電話はしてるけど、バイトが忙しくて帰れないんだって」
「全然帰ってきてない?」
「帰ってきてない」
「お父さんとも相変わらず?」
「そうよ。いい加減素直になればいいのに」

  

 妹の愛が父と険悪になり始めたのは、愛が10歳の頃のある晩であった。例によって酒が入っていた父は、算数のテストで37点しか取れなかった愛を説教し始めた。しかし父も算数は苦手であり、人のこと言えないだろと妹が反論。激昂した父は妹のことをチンチクリンと揶揄。これが決定打となり妹は大号泣。寝室に籠ってしまい、父も流石にまずいと思ったのか、酔いが醒め浮かない顔をしていた。
「愛、さっきはごめんな。チンチクリンなんて言うて」
「……」
「怒っとんのか」
「……」
「何か言いなさい」
「……」
 翌朝になれば怒りも忘れてくれるだろう、と楽観視していた父であったが、妹の心の傷は想像以上に深かった。来る日も来る日も、父の歩み寄りを妹は無言で突っ撥ねる。1週間経てば、1ヶ月経てば、1年経てば……と希望を見い出そうとしては裏切られ、父が妹に返答の来ない問いかけをしている様は見るに堪えない気まずさを醸し出していた。

  

 私からも妹に和解を提案はしてみた。
「ねえ愛、お父さんに一言くらい返してあげたら?」
「嫌だ」
「確かに酷いこと言われたけどさ、こうも長い間無視するのは見ていて辛いよ」
「私のことだから。放っといて!」
 自分までもが妹との関係性を断絶するような事態は避けねばならない。母も私も深く追及することはできなかった。

  

 昼食にはこれまたご無沙汰のボルガライスを、自分で車を運転して母と食べに行った。その序でに海岸をドライヴしたり馴染みの和菓子屋で羽二重餅を買ったり、最後にはスーパーに寄って夕飯の食材を購入したりと、故郷での日常を満喫していた。
 父が帰ってきて夕食。母の手料理を囲む。ケンミンショーでスタッフがお邪魔する家庭……ほど人数は多くないが多幸感では負けていないと思う。鯖を丸々1匹串に刺して焼いたもの、分厚い竹田の油揚げを角切りにして小松菜と炒めたもの、へしこは茶漬けにもできるように。サラダにはベーコンや温玉を載せてお洒落なカフェ風に。少々作りすぎではあるが、久しぶりの味に箸が止まらなくなり余裕で完食してしまった。

  

 食後のデザートは再び水羊かん。今度は久保田の水羊かんが出てきた。えがわより柔らかく、水のようにスッと溶けていく。味は小豆寄りで、皮のシャクシャクした食感も残っている。水羊かんは千差万別。我が家ではえがわか久保田が定番になってしまっているが、いずれ色々なメーカーの水羊かんを食べ比べてみよう。

  

久保田の水羊かんの写真が白飛びしていたため、ふくい南青山291で食べた時の写真も載せておきます

「あとどれくらいしたら、みっちゃんの番組できるんかね?」
突如発せられた父からの問い。妹のことを案じていたら、自分の苦しい境遇を打ち明ける是非などすっかり失念していた。
「時と場合に依るけど、20年はかかるかも」
「そんなかかるんか」
「当たり前よ。競争激しいもんね」
「俺が生きとる間に観たいな、みっちゃんの作る番組」
「早くできるように頑張るよ」
嘘みたいなことを述べてその場を取り繕った。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です