福井県出身の五木光子。東京で大好きなテレビ番組のADとして働いているが、過酷な労働についていけず怒られてばかり。気力体力を消耗し出世も見込めない中、やっと1週間の休みを取得できて初めての帰省。有名番組のADをしている娘を誇りに思う両親に、自分の置かれた状況を打ち明けることができずにいたが、仕事が辛いという本音を漸く打ち明けることができた。ただ、変質者Aに付きまとわれていることは打ち明けられずにいた。そして父と妹の長きにわたる確執もまた気がかりである。

建の手は辛うじて岩を掴んでいた。周りに居た人達が駆けつけて引き上げる。一方でAは建を落としたことにより動揺が生じ、光子には危害を加えず逃走を企てた。しかしこちらも周りの人々が取り押さえ、Aの身柄は最終的に警察へ引き渡された。
「お父さん!ズタズタやん、大丈夫?」
「俺は漁師や。これくらいの怪我慣れとるわ」
「骨折れとらん?」
「何言うとる。どこも痛くねえ」
「お父さん、かっこいい……」
愛が突然、聞き取れないくらいの声量で呟いた。
「愛ちゃん、今なんて言った?」
「え?いや、えーっと、何にも…」
「聞こえてたぞ、愛」
「お父さん⁈」
「何で聞き取んのよ」
「父親やからや」
愛の顔を涙が伝う。2人が十数年ぶりに交わした会話は、その場にいた家族全員の琴線に触れるものであった。そのきっかけが私の不埒な行いに起因しているのは何とも複雑なものであるが、何はともあれおめでたいことではある。

突端を後にして、今度は下の方に降りる。こちらでは間近に海を見ることができて、油断していると崖の隙間に押し寄せる波に裾を濡らされる。そんな海を見ながら父と妹は2人きりになった。
「思い出すねん、愛を漁船に乗せた時のこと」
「あったなあ。すぐ酔って寝込んだん」
「愛に漁師は務まらんな、って思ったな」
「最初からなる気ないし」
「女には厳しいわな」
「そうやって『女は』とか言うの止めて」
「何がアカンねん」
「アカンよ!男女であれこれ縛りつけない、それが現代の常識!」
「ようわからんわ、その感覚。俺は古い人間やからな……」
「でもその頑固一徹さに、私達は守られているのかな」
「何や急に」
「ごめんなさいお父さん。チンチクリン言われたこと根に持って、長い間口きかなくて」
「……こちらこそすまなかった。言葉選びが乱暴すぎて」
「お父さんがみっちゃんのこと護ってるのを見て確信した。私達のこと、ちゃんと大事にしてくれているんだな、って」
「当たり前や。不器用やから上手く伝えられへんけど、お前らのことは宝やと思っとる。……恥ずかしくてよう言えんわ」
「ありがとうお父さん。嬉しいよ私……」


曇り空が割れ始め、一閃の陽射しが洋上を照らす。付き纏っていた男が捕まり、父と妹の確執が解消した私の現況に呼応しているようであった。勿論私の仕事のできなさまでもが解消した訳ではない。ただ大きなモヤモヤが2つ晴れたことへの安堵感はこの上ない。帰郷してから、いや、福井を旅立ったあの日以来初めて、心からの安らぎを得た。
駐車場へ戻りスマホを確認すると、正さんから返信があった。Aに付き纏われていないか心配して、遥々福井まで来ていたのである。東尋坊の突端でAに襲われたことを話すと、会って直接謝罪をしたいと申し出た。
1時間後、芦原温泉の足湯で待つ私達一家の元へ正さんがやってきた。姿を見つけた途端走り出してきて、入ってくるやいなや土下座するものだから驚いてしまう。
「この度は、光子さんを危険な目に遭わせてしまいすみませんでした!全部私の不徳の致すところです!」
「急に土下座されても飲み込めへん。説明をしてくれ」
正さんは私をクラブに誘ったこと、クラブ社長の息子Aに私を紹介したこと、そのAが女性問題を起こしていた人であることなどを具に説明した。
「そんな不届者に娘を紹介するなんて、どういう神経しとるんや!」
「ごめんなさい……本当にごめんなさい」
「お父さん!そんな怒らんでも。悪いのはクラブに行ってしまった私や」
「関係ねえ!俺の大事な娘をよくも!」
「建!そんなムキになんな。正さん謝っとるやろ」
祖母までもが父を窘め出した。
「昔から頑固でよ。少しは歩み寄らんかい」
「母さん……」
「正さん、よう見とるで。穏やかで控えめで人傷つけること言わんし、安心して観られるタレントさんや。よう見てみ、綺麗な目しとるやろ」
「母さんの言う通りやな……正さん、悪い人やない」
「そんな……本当に申し訳ないですよ」
「断りきれんかったんやな。大変やで、優しさを利用する奴っちゃ、都会にはようけおるからな」
「正さん。非礼を詫びます。でも一つだけ言わしてください。優しさだけじゃ生きていけんのがこの世界や。駄目なもんは駄目きっぱり言う、それだけは守りや。正さんならその辺の線引き、わかっとると思うからのう」
「仰る通りです。良くないことは良くないと言えるよう、精進します」
「わかってくれたらええ。ゆっくり福井を楽しみなさい」
芦原を出発せねばならない時刻となった。今回の帰郷における最後の夕食に、父は福井市内の高級日本料理店を予約してくれていた。父母と3人で行く予定であったが、母は枠を妹に譲った。父と娘達の時間を尊重する、とのことであった。代わりに母は祖母の家に留まり、着の身着のまま飛んできた正さんをもてなすことにした。
福井駅から城址を挟んで約1kmの地点に構える立派な町家がその日本料理店である。カウンター席に座ると漂う柚子の芳香。冬の風物詩である。この時期に食べておきたい食材といえば越前蟹であり、そのフルコースを頼む客も多いのだが、流石に我が家の経済状況では6万円を出す勇気が出ない。それでも父は奮発して3.3万円(実際には蟹も出てきて、そのせいか2,000円上乗せされて3.5万になっていたようだと父が言っていた)のコースを押さえてくれていた。そして全員で日本酒のペアリング(7,800円)を注文。後述するが普通に購入すると1本1万円を超えるものや、そもそも入手困難な物も登場するためかなりお買い得である。妹にとって初めての父との飲酒はとことん贅を尽くしたものとなった。

ペアリングの前に、席に置いてある盃に振る舞い酒が注がれる。福井を代表する日本酒「黒龍」の干支ボトル。複雑みのあるフルーティな酒。やはり黒龍は郷土の自慢である。

そんな故郷大好きの私であっても知らなかった福井および北陸の日本酒が続々と登場する。まずは福井市内から、常山の「槽場初詰 随一」。米の旨みがとにかく濃厚で力強い1杯となっている。そしてその奥では板前が蟹を解体していた。

1品目から豪勢に、越前蟹を載せた七草おこわ。器には温めた柚子皮を使用。蟹はほぐし身だけでなくぶつ切りも載っていて、早速食べ応えのある品であった。
この店の料理は伝統を守りつつ力強いものに仕上がっており、日本料理に慣れていない人でも良さを理解できるものである。
普段は威厳のある父が珍しくおどおどしていた。どうやら高級な店に来るのは初めてらしい。我が家の経済状況を鑑みれば、高級店など易々と来られる訳が無い。越前蟹だって、父は漁で沢山獲るが、少しでも金を稼ぎたいから殆ど売ってしまい、家庭に並ぶのは月に1度、規格外の雌だけである。
「皆よう食うよな越前蟹」
「私やって食べたい。ひとつくらい持ち帰ってよ」
「売ったら金になるんだ。悠長なこと言うな」
「じゃあ私の初任給でご馳走する」
「それなら喜んで」
「足りんかったらうちからも出すで」
「ええよ。今までお父さんには迷惑かけてきたし、ここは私が、ね」

続いては大野市から怪獣の花唄、ではなくて究極の花垣。入りは控えめに思えたが、深くて綺麗なコクが確とある。

寒い日の体に沁みるみぞれ椀が出てきた。具材は若狭の甘鯛、伝統野菜の勝山水菜、能登のくちこ。甘鯛が美味しいのは当然として、勝山水菜のねっとりとした感覚がとても面白い。野菜の美味しさが解るようになると、大人になった実感が湧くものである。同じく大人の嗜みとして、酒の摘みにもなるばちこも初めて食べる。少し塩味の詰まった鮭、とでも味を喩えようか。クセも無くずっと食べていたい珍味である。
この店の店員はてきぱきと動けていて良い。大将は威厳を発揮しているが、下の人達が要領良く動けているので心配は無用である。今日はバタバタしてすみません、と大将から言われたがそんなことは無く、いつも外食すると店員に口煩い父も終始穏やかであった。

ここからお造りが2品続く。まずは若狭の鰤を辛味大根と共におろし蕎麦感覚で。辛味大根の辛味と鰤の脂、個性の強い両者が合わさると良い塩梅になる。

同じ若狭の早瀬浦は単体で飲むとやや弱いが、鰤の余韻で旨みの大立ち回り。これがペアリングの醍醐味である。


この日入ってきた越前岬の無濾過酒と共に次の造りは、若狭のメジマグロには芥子を載せて。そして歯触りがコリコリした新鮮な鯵。さらに雲丹までオマケされてしまった。なんとパワフルなのだろう。酒が進んで仕方ない。
「正さん、みっちゃんにお似合いやない?」
父が突飛なことを言い出した。先程まで過度に叱り飛ばしていた相手を急に恋愛対象に勧めるなんて落差が激しい。
しかし似合っていると言われれば似合っているのかもしれない。奥手な正さんが珍しく話しかけ、しかもクラブに誘い出したのは好意の表れなのかもしれない。勿論私自身も正さんのことは好きだし、誠実な対応をしたから信じて良い相手だと思っている。

色々考えているうちに次の酒が運ばれてきた。黒龍が八海山、木戸泉とコラボした刻の奏。熟成による鼈甲みが粕汁に合う。

凌ぎの粕汁には常山の酒粕を使用。越前蟹の真薯を浮かべている。真薯からはしっかり蟹の味が溢れ惚れてしまう。永平寺の銀杏は噛めば噛むほど銀杏のクセ。これがまた堪らない。
「何故恐竜見てる時言ってくれんかった、付き纏いのこと?」
「……勇気が出ませんでした」
「お前はホンマ隠す癖あるよな。悩みあるなら話さんと。1人で発散するなんて無理やって」
「ごめんなさい」
「みっちゃんの傍には誰か居た方がええ。やから正さん勧めるんや」
「せやな。現場で唯一優しくしてくれる人やもん。でもええんかな、優しさに甘えて……」
———

最早恒例となった、高級店でコースを楽しみながらのクライマックスシーン撮影。劇中の人物と同じコースを食す、主人公役のクラゲ、妹役のバンビ(以上女性アイドルグループ「TO-NA」メンバー)、父役のタテル(TO-NAプロデューサー)。この日は個室において越前蟹フルコースの注文が入っており、立派な越前蟹が次々と解体されていく様子に釘付けになる。
「あれは成功者のご馳走」
「どこまでいけば成功者になりますかね?」
「紅白に3年連続出場してもなお、翌年の紅白出場が十分みえたら」
「おお、高い目標……」
「でもDIVerseは4年出ましたもんね」
「そうそう。クラゲ達が本格的に活動し始めた頃縁切られて」
「悔しかったですね。出たいです今年こそ。おばあちゃんに観てもらいたい……」
「私もお母さんに。今年が最後のチャンスかもしれないし……」

ペアリングの日本酒は福井県以外の北陸地方からも登場する。富山のIWA5。公式では洋梨やらプラムやら20種類くらい味の要素が挙げられているが、これもまた基盤たる米の香りが濃いタイプに思えた。

のどぐろの柚子味噌(?)、池田町の大根(?)、摘みがてら自家製唐墨も。火はしっかり入っているが硬くなりすぎず綺麗な焼き魚。酒のアテにぴったりである。
福井県出身のクラゲであるが、演じる光子(嶺北出身)とは違い嶺南の人間であり、普段使いの言葉は関西弁に近い。そのため脚本も関西弁のノリで書いてしまったと云う。
「本当は違うんですよね。嶺北は福井弁として独立した存在で」
「北陸との結びつきが強いからね」
「関西弁に近い方がセリフ発しやすいと思ってデフォルメしちゃいました」
「私驚いたんですけど、タテルさん関西弁お上手すぎません?」
「ああ。江戸っ子やけど普通に喋れるで」
「矛盾してますねぇ、『江戸っ子やけど』」
「中学の時よく関西弁使ってさ」
「東京ですよね?」
「バリバリ都立校やで。キャラつけたくてさ、なんでやねんとかなにすんねんとか言うて」
「でも結果人気者になったんですよね」
「功を奏したね。この映画観てくださる方々にも勧めよう、関西弁での会話を」
「要らないです!」

石川県白山で醸される吉田蔵uレイヤード。貴醸酒の類ではあるが爽やかな飲み心地。

そこへ合わせるのは白子ポン酢。これがとても濃厚でミルキーで、磯のニュアンスもある。ポン酢も効いてはいるが、白子本来の味を活かす加減で抑えている。

そして遂に、通常コースにも蟹そのものが到来する。脚の蟹肉を箸で引っ掻いて取り出す。ちびちび食べると、やや水で薄まったような感覚があり蟹らしさを感じないものである。
「タテルさん、一気にいった方が良いです」
「そのようだな」
もう1本は全量を掻き出し、さらに貝柱を食べる時に得た「解すと旨味の接地面が増える」というナレッジを適用して一気に頬張る。こうすると蟹を食べている実感がはっきりとして堪らなく美味しい。

さらに蟹味噌。これはもう分かりやすく蟹。内臓の味わいが最初強いがだんだん蟹らしい旨味に覆われる。

お供するは不思議な日本酒、白岳仙の秘色2020。水楢樽熟成がかかっているからかウイスキーのような味がする。蟹味噌の濃厚さに立ち向かったのは強烈な個性であった。
蟹味噌を甲羅ごと焼いて、蟹肉をそこにくぐらせたり日本酒で割ったりして食べるのは蟹コースの特権。いつかその贅沢が叶うよう精進したいところである。
「蟹獲っても全部売っちゃう、って件あるじゃん。実際のとこどうなの?」
「私のお父さん蟹獲ってなくてですね…」
「そうだっけ?」
「でも偶に紛れ込むことはありますね。2回くらいありました、持って帰ってこれたこと」
「その時は蟹刺し焼き蟹茹で蟹蟹天ぷら…」
「やりません。茹でてお終いです」
「かに道楽じゃないんですからタテルさん」
「流石に家じゃしないか。憧れてるんだ、1杯丸ごと食い尽くすやつ」
「嬉しいですね。そうやって福井に興味持ってもらえるの」
「何しろ米が美味かった。だから入れたもんね、米が美味くて故郷に誇り持つ件」
「そうなんですよ。コシヒカリ発祥の地は福井、これは皆さんに知っていただきたい」
「ソースカツ丼美味しかったです」
「蕎麦が美味いのも福井の強みだよな。けんぞう蕎麦選んで良かった」
「恐竜博物館や東尋坊も楽しかったです。これ観たらみんな、福井に行きたくなるんだろうな」
「嶺北も良きですけど、我が嶺南にも是非」
「三方五湖とか気比松原とかね」
「今度クラゲさんの帰省について行きたいです」
「いいよ。おばあちゃんにも会わせてあげる」
「やった!」

炊き合わせの生姜餡掛けにも蟹肉が入っている。芋と大根(蕪だったかも?)、そして肉厚な椎茸からは強い旨味を感じる。

そして最後に出てきた日本酒は一本義の第一義諦。袋吊りで得られるピュアな甘み旨みはまさに、道を外れぬ純米大吟醸。父の真っ直ぐな生き方、ヒロインの柔らかな愛らしさ。両方の要素をこの日本酒から感じ取れる。愈愈ラストシーンの撮影に臨む一同。
———

土鍋ご飯が炊き上がった。嘘のように感動した福井の白米とも、間も無く暫しの別れである。

〆の食事は3品提供される。先ずはじゃこと唐墨をおかずにして食べる。勿論米が美味い。一方でじゃこと唐墨自体はあまり強さを感じない。先程もろに唐墨を食べてしまった副作用なのかもしれない。

続いては山かけメジマグロ丼として戴く。さっぱりと、とろろの良さを感じながら掻き込む。

最後は若狭牛と牛蒡の時雨煮。一番わかりやすく美味しい飯である。味付けも素直に具材に染みて、牛丼感覚で食べてしまう。
「美味かった。漁師冥利に尽きるで、獲った魚が大事に調理されて」
「お父さんの獲った魚で喜ぶ人、いっぱいおるんやね」
「喜ぶ顔を想像するだけで……アカン、気恥ずかしい。変なこと言わすな」
「変やないって」
父と妹のすっかり仄々したやり取りに共鳴する私。私も下っ端ではあるがテレビ番組を制作していて、それを観て笑顔になってくれる視聴者はごまんといる。自分の仕事に誇りを持つ父の横顔を見て、私も真っ直ぐ業務に向き合う覚悟を決めた。劣等感に苛まれていては誇りなど持てない。できなくてもいいから自信を持つ。好きを原動力に仕事をこなす。そうしていれば道を外れる暇など無いだろう。漸く晴れやかな気持ちで故郷を後にできる。

水菓子は苺と蜜柑、そして干し柿のアイスクリームを添えて。干し柿とは意外に味が弱くて打ち消されやすいものであるが、今回はスモーキーさ等を覚えその個性を味わうことに成功した。
「ありがとうお父さん。私達のために漁頑張ってくれて」
「嬉しいこと言うな。かまってやれんかったこと、ほんま申し訳ない」
「私からもありがとう。安心して東京に帰れるよ」
「どういうことだ」
「お父さんの仕事への想い聞いて、誰かの笑顔のために働こう、ってなった。それなら辛い仕事でも、やっていける気がするんだ」
「そうかい。ならええ。でも困ったら相談するんやぞ。また抱え込んで厄介なことになったら許さんからな」
「はい!」
その夜、母も実家に戻ってきて遂に4人一家団欒の時を過ごした。先ずは私の担当番組『すぐ調べる課』を観て、その後も父はクイズ番組を観ながら不正解を連呼して妹に茶化されたり、ドラマを観て泣いたりと、民放の番組を堪能していた。NHKしか観なかった昔からは想像もつかない。
福井を発ったのは翌日の正午過ぎであった。福井駅まで送ってもらい高速バス乗り場の近くで降ろしてもらった。
「新幹線使ってもええのに」
「今はアカン。一人前になったら使うよ」
「まったく。痩せ我慢せんでも」
「次帰ってくる時は、新幹線使えるようになりたいな。隠し事もなく、心からの笑顔で降り立てるように」
「あわよくば、大事な人を連れてきてな」
「お米送るからいっぱい食べるんよ」
「わかった。連絡もまめにする」
「頑張ってねお姉ちゃん」
「ありがとう」
「頑張れ、みっちゃん!」
内気な父親が気持ちを昂らせて送り出してくれた。堪らなく嬉しくて、涙がなかなか止まらない。それでもずっと泣くのも違うと思い、仕事への前向きな意欲で己をあやした。
職場に復帰すると、撮影現場は依然として苛烈であったが、鋼のメンタルを手にした私は見違える程に能力を伸ばしていた。上司からきつく言われることも減り、ディレクターへの昇進の機運も愈愈高まってきた。仕事を辞めることなどもう考えていない。福井で過ごした7日間は確実に、私の糧となっていた。
—完—