連続百名店小説『みちのく酒びたり』第4陣(永楽食堂/秋田)

女性アイドルグループTO-NAの特別アンバサダー・タテルは、メンバーのカコニと共に東京テレビの旅番組に出演する。JR東日本のフリーきっぷ「キュンパス」で各地を回り、浮いたお金で食事などを楽しむご褒美のような企画だが、大雪の影響をもろに食らってしまい…
☆旅のルール
1泊2日の旅で支払った金額(キュンパスの代金除く)の合計が、キュンパスにより浮いた運賃と±1000円以内であれば旅の費用全額を番組が負担。±5000円以上であれば演者が(キュンパス含む)全費用を負担。ただし移動の運賃は一切調べてはいけない。

  

「えーマジかよ」
「行けると思ったのに!」
「でも車をどかせば動くよな。30分くらいならまあ」

  

タテルの希望的観測とは裏腹に、車の除去には2時間かかる見通しとの発表があった。これにより、どう足掻いても秋田での焼肉ランチには間に合わないことが確定した。
「最悪だ。どうしてこうハプニングがついてまわるのか」
「焼肉食べたかったです。でも仕方ないですよね…」
「青森方面は動いてるんだよな。こうなったら青森・盛岡経由だな」

  

10:57発の青森行きの普通列車に乗る2人。秋田の焼肉を逃した無念、大釈迦で止まるかもしれない不安、それに加えタテルは秋田でカゲを待たせてしまうことへの申し訳なさも抱え込む。
「本当に何もない雪原ですね」
「もうボーッと眺めるしかないね。あれこれ考えるの疲れた」
「そういう時間も大事ですよ。秋田には行けますもんね」
「ああ。油断は禁物だけどな」
「それにキュンパス使った大移動ですよ。弘前から秋田の運賃・新幹線代が全て予算になります」
「それは良き。秋田着いたら、焼肉分を巻き返すくらい豪遊しよう」

  

無事新青森駅に到着した2人。ここから乗り込むはやぶさは全席指定席だが、盛岡まで行く分には空いている席に座るか立ちで乗車することができる。キュンパスの影響か、新青森出発時点で席は埋まっていた。デッキの壁に凭れかかり休む2人。

  

その頃、サプライズゲストのカゲはこまちに乗り秋田へと向かっていた。タテルとカコニの合流が大幅に遅れることを知らされ渋い顔をする。
「え〜、それは残念です」
「ランチの炭火焼肉久、スタッフさんと楽しんで。永久ランチと牛タン頼んで新政飲んで、とタテルさんより」
「2人の分もしっかり味わってきます」

  

盛岡駅に到着したタテルとカコニ。少しでも早く秋田に着きたいところであるが、こまちへの乗り継ぎは50分弱あった。
「じゃあ昼ごはん!福田パン行こう」
「福田パン?」
「盛岡名物のコッペパンだよ。食事系も充実してるから昼食になる」
「美味しそうですね」
「ただ駅からちょっと遠いんだ。果たして間に合うのか…」

  

地図で調べてみると、福田パン本店は駅から1km以上離れていることが判明した。歩きのことだけ考えれば時間的に余裕があるようだが、店頭での購入に時間がかかる可能性も否定できない。
「でもやっぱ盛岡なら麺な気もしてきた」
「わんこそばとか冷麺とか」
「じゃじゃ麺は知ってる?」
「ジャージャー麺ですよね。知ってます」
「ジャージャーじゃなくてじゃじゃ。まあ似たようなものだけどね。あ、駅ビルの地下にあるみたいだ、行ってみよう」

  

しかしいざじゃじゃ麺屋に入ろうとすると混雑していた。おまけに麺の茹でるのに15分かかると言われる。
「こまち発車まで30分ですね。良い時間じゃないですか?」
「いや、ちょっと慌ただしくない?」
「そんなことないですよ。ちゃちゃっと食べれば」
「ソワソワしながら食べる飯は美味しくない」
「…」
カゲを待たせていることもあってか、無駄な焦りを見せ始めるタテル。時間に余裕はあるはずなのにじゃじゃ麺を早々に断念した。

  

「タテルさん、何をそんなに不安がってるんですか?食べたかったですじゃじゃ麺」
「東北の人って結構のんびりしてそうじゃん。出てくるの遅いよきっと」
「もしかして、ディスってます?」
「いや、そんなつもりは…」
「タテルさん落ち着いてください。今はお昼ごはん食べることを最優先にしましょう」
「土地の物食べたいんだよな。コンビニのおにぎりとかパンじゃ示しがつかないでしょ」
「でも店に入っている時間はないですよね」
「ないなぁ。仕方ない、駅の中入って探してみるか」

  

改札内で駅弁を探す2人だが、タテルは弁当を見ても食指が動かない。酒で荒れた胃に出来合いの食べ物をぶち込むと腹を崩してしまうのではないか、という強迫観念に駆られていたのである。
「これは違う、あれも違うし…」
「タテルさん、あそこにコッペパンありますよ!福田パンじゃないですか?」
「あ、これは間違いなく福田パンだ!塩麹チキン…ちゃんと火、入ってるよね?」
「入ってますよ。何を怖がっているんですか?」
「あんまデカい声で言うとあれだけどさ、近頃胃腸系のニュース色々あるからさ」
「そんなこと言ってたら何も食べられなくなりますよ。ほら、もう残り僅かです。早く買いましょう」
「買うか…」

  

出発の10分前にホームに降り立った。全くもって余裕のある到着である。しかしこれくらいの余裕がないと安心できないのがタテルの性である。
「5分前行動ですね。さすがタテルさん」
「京子に口うるさく言われてたからね。遅刻したらすぐ別れる、って」
「それでもちゃんと守るのは素晴らしいですよ。何だかんだ言って素直なんですね」
「恥ずかしいよ…」

  

東京から来たこまちに乗り込むと、早速デスクを拡げてコッペパンを頬張る。カコニに背中を押されて購入した塩麹チキンの味にタテルはご満悦であった。
「胡麻ダレ?の味が良いねぇ。チキンにしっかりその味が染みているし。ごぼうチップスも厚みがあって食べ応え満点だ」
「コッペパン自体も柔らかくて美味しいですよね。ああ、結構大きい」
「1個じゃ足りないと思ったけど、腹膨れてきたな。林檎の方は後で食べようっと」

  

「そういえば、夜ご飯も予約してあるんですか?」
「夜は日本酒を飲みまくります!」
「日本酒!楽しみです!」
「おそらく日本一日本酒の取り扱い種類が多い店だ。気付かぬうちに何合も飲んでしまうだろう」
「調子乗るとアブないですよ〜!」
「テンション上がってるじゃん。カコニってやっぱ呑兵衛だよね」
「普段見せないようにしてるんですけど…好きですね!」

  

車窓には雪深い奥羽山脈の険しい崖、峡谷を流れる本当に小さな小川、そして大曲に差し掛かる頃には一転してどこまでも続いていそうな平らな雪原が映る。そのどれもがタテルにとっては思い出深いものである。
「カゲの卒業旅行で秋田に来たのを思い出す訳よ。あんな雪山に放り出されたらどう生き延びようとか話し合ったりしたなぁ」
「タテルさんとカゲさんは波長合いそうですもんね。どちらもインテリで」
「インテリって言われる割には子供っぽいことしてるんだけどね。大曲の雪原で雪合戦したり」
「楽しそうじゃないですか」
「すぐ雪玉投げたくなっちゃうんだよ俺。昨晩も投げれば良かったね」
「何ですか、投げれば良かったって」
「ビチャビチャになっちゃうから、止めといて良かったよ」

  

秋田駅に到着したのは15:04。旅の〆を飾る日本酒酒場は16:30の予約であるが、ここでこの旅2度目となるボーナスチャンスが提案される。
「ゲーム会場はセリオンです。調べてみてください」
「おっとこれは海辺ですね」
「多分バスだよこれ」
「セリオンまでの交通費が参加料代わりだと思っていただければ、と思います」
「なるほど。これってやらない選択肢もありますよね一応」
「まあそれはご自由に」
「やらないのはおかしいです。たぶん現時点でも『浮いたお金』以上に出費が多いと思います」
「それはそうだね。よし、セリオン行きましょう」

  

改札を出て西口へと進む。
「これはなまはげですね」
「そうそう。秋田駅ではなまはげがお出迎えしてくれます」
「悪い子はいねぇが!悪い子はいねぇが!」
「ん?聞き覚えのある声ですね」
「いたぞ!タテルさんとカコニちゃん!」

  

「かかか、カゲさん⁈」
「サプライズ大成功!」
「どういうことですかタテルさん?」
「カゲにもオファーしたんですけど、スケジュールの都合で今朝、東京から東北に来てくれました」
「プライベートでは何度も会ってるけど、仕事で絡むのは初めてだよね」
「そうですね。一緒に焼肉食べたかったです…」
「仕方ないよ。数年に一度の大雪だもんね」
「秋田も結構積もってる」
「降ったり止んだりしてます。でも雪って楽しいですね」
「ね。東京じゃ滅多に積もんないから」
「すごい。タテルさんとカゲさん、やっぱり波長が合ってますね…」
「よしっ!セリオンに行こう!えーっと、セリオン行きのバスは…」

  

「すみません、セリオンに行くバスはどこから出ますか?…4番のりば。ありがとうございます!」
「カゲが早速コミュ力発揮してる。俺にはできないな」
「タテルさんはもうちょっと頑張りましょうよ。旅番組はふれあいが大事だ、って仰ってましたよね」
「そうだけどさ…」

  

バスの中で、残しておいた林檎コッペを食べる3人。
「福田パンだ!盛岡名物」
「カゲさんも流石、物知りですね」
「有名だよ結構。この前も女の子の鉄道系YouTuberがキュンパス使って東北6県のご当地グルメを1日で全部巡ってて、岩手は福田パンだった」
「鉄道移動中でも手軽に食べられるもんね。ああこれ、小学生の時朝ごはんで食べてた朝食りんごヨーグルト思い出す」
「あの『りんご』って文字だけ手書き風になってるやつですよね?懐かしい〜」
「着眼点が細かすぎますよ」
「細かいところ見ちゃうんだよね俺ら」
「そうそう。芸人さんだって細かいところをイジって笑い取るでしょ。アンテナを敏感にしておきたい。まあそれで偶に疲れ果てちゃうんだけどね」

  

16時少し前にセリオンに到着。道の駅に加え、高さ100mの展望台を持つタワーがある観光名所である。しかしボーナスゲームは建物裏で行われる。

  

「こちらで行うゲームは雪合戦!我々スタッフ3人と御三方で対決していただきます。雪玉を当てられた人は退場。討ち取ったスタッフ1人につき1万円をボーナスとして支給します。そしてもし3人全員倒した場合、ボーナスの金額は5万円となります!」
「ごご、5万ですか⁈」
「もしかして、私たちだいぶオーバーしてるんじゃないですか?」
「そんな気がしてきた。昨日2人で8万くらい飲み食いしてると思う」
「贅沢しすぎですって」
「5万取らないと終わりだね。よっしゃ、頑張るぞ!」

  

戻りのバスまで時間がないため急いで戦いを始める。体の重たいタテルはすぐ当てられてしまい退場となる。しかし女性陣2人は抜群の運動神経を持っていて華麗に雪玉を躱す。

  

「いいぞいいぞ!なんか興奮してきた」ガヤを頑張るタテル。
「あと1人だ!カコニちゃん、挟み撃ちにしよう」
「了解ですカゲさん!」
「いくよ〜!…やったあ!3人全員当てました!」
「でかした、カゲ、カコニ!ごめんな、俺だけすぐ当てられちゃって」
「いえいえ。チームプレーですからね」

  

「あっ、ちょっと展望台からの景色観たいです。急いで上行きません?」
「行こうか!」

  

展望台には無料で登れる。エレベーターの上昇速度は遅くてバスの時間が気になるところだが文句を言ってはいけない。外の景色が見えるのでゆったり待つ。

  

「うわぁ、何この水平線!」
「奥に行くに連れ綺麗になっていく青、これは美しい」
「分厚い雪雲の隙間から太陽の光が覗いている。初めて見る空模様だ」

  

「すみません、お話伺ってもいいですか?」
「えっ、カゲさんだ!こんな私で良ければ是非!」
「ありがとうございます!カップルですか?」
「そうです!今日もちょっとデートで」
「いいですねえ!もしかしてこの後バス乗ります?」
「乗ります!さっき乗られていましたよね?」
「はい!私たちも乗っていきます!」
「本当ですか⁈いいですかずっとお話ししてても?」
「もちろんです!」

  

「普段デートではどこ行くんですか?」
「イオンモールですかね」
「やっぱそうだよね、イオンモールは最強だ」
「映画も観れるしサイゼもあるし、何でも揃っちゃいます」

  

「いやあ、カゲのコミュ力目の当たりにすると絶句だわ」
「ですね。私たちも見習わないとですね」
「できないよ俺。人の恋に踏み込む度胸がない」
「タテルさんは実際に恋してるじゃないですか。絶対良いアドバイスできますよ」
「無理無理。すぐデリカシー無いこと言う。駅前とか川反エリアに美味しい店沢山あるのに何故イオンなの、とか」
「本当にデリカシーないですねそれ」
「だろ。だから練習しないと」

  

混雑するバスに揺られ、30分弱で秋田駅の少し手前・買物市場(フォンテ裏)に到着した。ここからまた少し南下すると現れるのが、日本酒の聖地こと「永楽」である。タテルとカゲは2年前に共に訪れて以来2度目の訪問となる。
「あれ?前来た時から移転してますね?」
「そうそう。前の店は手狭だったからね、広いところに移転したんだ。あの黒い建物かな」

  

開店と同時刻の16:30に予約していたが、セリオンに行ったため15分程遅れての到着となった。
「いやあすみません、予約時間遅らせてもらって」
「いえいえ。日本酒、たっぷり飲んでいってください」

  

移転してからも壁一面にブワァっと貼られた日本酒メニューは健在である。しかし昨今の物価高や日本酒人気のせいか、レア物の価格は上がっていた。
「記憶にあるところだと十四代の七垂二十貫(60ml)、前は1050円だったのに今は2500円か」
「2倍以上ですね」
「でも前が格安すぎたんだと思います。新政も十四代も、当たり前に飲めるものじゃないからね」
「そうなんだよ。東京の高級店で飲んだら定価の何倍になることやら」

  

ビールなどには目もくれず、早速新政のColorsシリーズ3種類を60mlずつ頼むタテル。
白はエクリュ。果実味があって綺麗な仕上がりだが、背景もきちんとあるのが新政の強みである。
緑はヴィリジアン。エクリュよりもどっしりしていて、食事と合わせると味わいが開く印象。
ピンクはコスモス。引き締まった味わいが特徴的である。

  

お通しは2種類。オクラの入った胡麻だれ豚しゃぶと、醤油の効いた出汁で戴くとろろ昆布としらす載せ豆腐である。どちらも確とした味つけで酒が進む。
「カゲさん、ネギとオクラ食べてもらっていいですか?」
「了解。カコニちゃん野菜苦手だもんね」
「昨日も野菜がいっぱい出てきて。でもタテルさんが説得してくれて、少しだけなら食べられました」
「高級店で食べる野菜は美味いからな。野菜の良さがわかるようになったら立派な大人だ」
「あれタテルさん、何ネギ残してるんですか?」
「ホントだ。タテルさんだって嫌いな野菜あるじゃないですか」
「ネギはな、クセが強くて日本酒の味を邪魔するんだ」
「そうですか?私は気にならないですよ」
「舌が敏感なんですよねタテルさん」
「舌というか鼻というか」
「ソムリエとか唎酒師とか向いてるんじゃないですか?」
「そっちに向く敏感さは持ち合わせてないんだよな。俺の感性独特だし、なんだかなぁ…」

  

引き続き新政を開拓するタテル。県外では滅多にお目にかかれないであろう卯兵衛は、大方の日本酒にあるような重さを感じつつも、綺麗に喉へ流れていくのが面白い。
こちらも希少性の高いNo.6シリーズからX-type。これまでのものとは明らかに違うフローラルな香り。白ワインの趣もある唯一無二の味わいと言える。ちなみにこの日はS-typeとR-typeの取り扱いが無かった。
「永楽でも取り扱いが無いとは意外だ」
「それだけ人気なんですね。すぐ無くなっちゃう」
「前来た時はもうちょっと種類多かったような。紫八咫とか」
「後で調べてみたら、あれ相当レア物だったようですね。出会えたらラッキーですよ」
「貴醸酒で仕込む貴醸酒だもんな。そりゃプレミアがつくよ」

  

ここで各々頼んでいた摘みが登場する。まずは前回タテルとカゲも注文したイワシポテトフライ。前よりポテトの分量がちょっと多く感じたが、名物たり得る品である。

  

カキ酢やだだみ(白子)刺を楽しむ女性陣を尻目に、生の魚介類を避けるタテルはメヒカリの唐揚げを食べる。丸々と太っていてふわふわした身が味わい深い。衣の油が身の脂と親和しているようだ。これも日本酒によく合うものである。

  

「カゲ、オファー受けてくれてありがとう」
「当たり前ですよ。TO-NAのメンバーと共演できるし、タテルさんとも再会できる。またとない機会だと思いまして」
「久しぶりに会えて嬉しいよ」
「タテルさん元気にされていて良かったです。TO-NA騒動の時は本当に心配したので…」
「それは俺のセリフだよ。大事な古巣を一時はメチャクチャにしてしまってすまなかった」
「いえいえ。真摯にみんなと向き合って再建されて、タテルさんの信念の強さを実感しました。カコニちゃんもよく頑張ったよ」
「あの時はもう二度と卒業生の皆さんに顔向けできないと思ってました。だからここまで這い上がって来られて嬉しい…」
「愛すべきみんなを守って自分の夢も叶えた。辛いし心苦しかったけど、茨の道を選んで本当に良かったと思う」

  

タテルが次に選んだのは十四代より2種。槽垂れはラインナップの中では圧倒的安価(60ml500円)であるが、蜜のようにとろっと蕩ける一級品である。
2番目に安い(60ml1700円)中取り大吟醸山田錦。メロンのような旨味で十四代ブランドの貫禄を見せつける。

  

「タテルさん何杯飲みました?」
「3,2,2って頼んだから7杯だね。これでも抑えてる方だよ」
「もっと抑えましょう。旅のルール忘れてません?」
「いいじゃん。せっかく久しぶりにカゲと秋田来たんだぜ。はみ出しまくろうぜ」
「カコニちゃん、私もはみ出したい。タテルさんが全部払ってくれますもんね」
「俺が全部⁈聞いてないよ」
「この旅におけるリーダーですよね?はみ出すのなら払っていただきたいです」
「よっしゃ、俺が全責任持つ!」

  

次は秋田から離れ岡山御前酒の飲み比べ。雄町菩提酛1859は辛口と銘打っているが、円みも感じられる味わい。逆ににごりからは見た目には想像できないキレを感じる。等外雄町50は女性的なお洒落さのある軽やかなものであった。

  

ここでメインとなるきりたんぽ鍋が登場。1人サイズで出してくれるのはすごく有難いことである。
「カゲさん、上に載ってるの食べてもらって良いですか?」
「芹か。タテルさん好きそうですよね」
「好きだよ。本当は芹サラダも頼みたかったくらい」
「じゃあタテルさんに沢山あげます」
「やった!じゃあ先ずはスープから。おっ、これは濃くて美味しいですわぁ。醤油が効いてる。もしかしてしょっつる?」
「しょっつるって何でしたっけ?」カコニが問う。
「魚醤の一種。ナンプラーみたいなもの」
「なるほど」
「でもタテルさん、しょっつる鍋もありますよね?」
「あるね」
「きりたんぽにしょっつるって入るのかな、と思いまして」
「どうなんだろう?確かにしょっつるの味したけど」
ちなみにきりたんぽ鍋にはしょっつるを入れないのが一般的である。
「お、これははっきりわかる。この黄色みが強い皮は比内地鶏に違いない」
「すごい弾力ですね。美味しい」
「そしてきりたんぽよ。米粒が立っていて、でも蕩ける食感で。出汁が染みてより旨くなってる」
「油揚げ、舞茸に白滝。具材たっぷりで食べ応え満点ですね。これで850円?安い!」
「カコニ、そこは『やす〜い!』って言わないと」
「モノマネは恥ずかしいです!」

  

タテルが次に目をつけたのは、1合1200円以下(赤い下線がついているものは対象外)の日本酒を3種類選び60mlずつ飲める利き酒セット。1合からしか提供されない日本酒を少しずつ飲みたい時に重宝するシステムである。少しでも得をしたいタテルはボーダーライン1200円のものから高清水の嘉兆、刈穂の大吟醸、でもやっぱ1200円に縛られるのも嫌だからまんさくの花亀ゴールド1000円を。この辺まで来るとすっかり上機嫌になって、細かなテイスティングをしている余裕は無くなってしまった。

  

最初はビールから入っていたカゲとカコニも、日本酒に切り替えてからはタテル以上に飲むペースが速くなる。気づけば全員が4合を突破した。
「日本酒たっぷり揃えていて、食べ物まで美味しい。最高ですね」
「でしょ。十四代をガブガブ飲むのは厳しくなったけど、それ以外にも素晴らしい酒が多い。つい飲みすぎちゃうね」
「あまり飲めない人でも食事が充実してるから来やすいよね。ほら、ラーメンとかカレーもある」
「ホントだ。まあ食堂だもんねここ。シンプル晩飯にも使えるのか」
「じゃあ私は稲庭うどんとカレーを」
「まだ食べるの⁈」
「炭水化物で〆ると酔いも回りにくくなるので!」
「よく食うな。おっさんの昼飯じゃん」
「カコニちゃんは大食いだもんね。だから身長も大きいんだ」
「たぶん今年中には180cm…」
「そのボケ止めてください。2回目ですよ!」

  

タテルの頼んだ最後の食べ物、タラフライが到着。身の締まった個体をフライにしているようで、魚の身をどっしりと噛み締める。味は淡白なため、タルタルソースで適宜補強する。

  

「カゲとカコニにお知らせです。東京行き最終の新幹線発車まであと30分。時間的にもあと2杯が限度でしょう」
「あっという間ですね。まだまだ飲めるのに」
「カコニちゃんがこんなに酒豪だとは思わなかった」
「普段は抑えてますからね!」
「TO-NAハウスには日本酒、クラフトビール、ワイン、あとウイスキーも常備してる。定期的に打ち上げやってるんだ」
「楽しそう〜」
「カゲさんも予定合ったら来てくださいよ。卒業生ならいつでもウェルカムです!」
「行く行く!ドラマ撮影も終わって少し落ち着いてきたし」

  

3人で続いて頼んだ日本酒は新政アッシュ。相変わらず綺麗な飲み口ではあるが、色々飲んできた後だと印象に残りづらい。新政のホームページによると長期の冷蔵保存で本領を発揮するらしいので、飲み頃はもう少し後なのかもしれない。

  

「カコニちゃん絶賛〆の食事中でございます。俺は具沢山きりたんぽ鍋のお陰でもう腹パンっす」
「秋田来たらやっぱ稲庭うどんですよ」
「稲庭うどんは貰い物でよく食べるからな。俺はパスしちゃうんだよね」
「うどん少しもらって、きりたんぽ鍋の汁に浸して食べたらどうでしょう?」
「美味しいかもね」
「俺はいいからカゲだけ食べて。美味しそうではあるけどとにかく満腹で」
「この3人の中で最も少食なのが大柄なタテルさんという不思議」
「2人が大食いなだけだい」

  

「最後もう1杯いけそうですね」
「高いのいっちゃおう!」満面の笑みでカゲが言う。
「十四代の60ml3000円クラス、いっちゃう?」
「いっちゃいましょう!」

  

定価でさえ2万円を超え、ネットでは十何万円で取引されている幻の日本酒・万虹。氷温熟成されたお陰か、ひんやり美しい口当たりから穏やかに溶け出す旨味。夜の大曲の雪原のように美しい1杯で、3000円の重みをぐっと噛み締めた。

  

「良いフィニッシュ決められましたね」
「やっぱり永楽は最高の酒場だ!」
「はみ出していても恨みっこ無し。俺は払う気満々だぞ!」

  

最後の会計をスタッフが済ませ、新幹線発車5分前に秋田駅に到着。ホームの自販機で王林ジュースを購入し新幹線に乗り込んだ。結果発表は上野駅で行うとのことで、しこたま日本酒を飲んだ3人は大曲のスイッチバックを越えるとすぐ眠りについてしまった。

  

「ああ、なんか地味に頭痛ぇ」
「大丈夫ですかタテルさん?」
「大丈夫だよ。大丈夫だけどなんか1点だけが地味に痛ぇんだよ」
「家帰ったらゆっくり休んでください。明日の夜はMステですからね」
「ノベルティのティッシュ、かみ心地良いからね。這ってでも貰いに行くさ」

  

上野駅地下3階の無駄に広いコンコースにて結果発表を行う。
「まずはキュンパス移動により浮いたお金から!」

  

上野〜青森〜小柳 35,860円
小柳〜青森 540円
上野〜秋田(カゲ) 18,010円
弘前〜新青森〜盛岡 14,220円
盛岡〜秋田 9,240円
秋田〜上野(3人分) 54,030円
キュンパス(2日用×2、1日用×1) -46,000円
合計85,900円

  

「続いてキュンパスの代金を除いた、この旅を通して使った実費!」

  

ブーケ・ド・フランス 37,928円
カフェラテ(M×1、メガ×1) 570円
シードル試飲 600円
青森〜青森南警察署前 1,640円
浪岡〜弘前BT 1,000円
宿泊代 14,368円
ダ サスィーノ 55,308円
グレンモア 13,510円
ヘパリーゼ×2 596円
福田パン 1,170円
秋田〜セリオン 1,320円
セリオン〜買物市場 1,320円
永楽 44,510円
王林ジュース×3 570円
ボーナスチャンス① -22,000円
ボーナスチャンス② -50,000円

  

「合計金額は…102,410円!16,510円足が出たということで、タテルさん旅の費用全額支払いです!」
「やっぱそうなるよな…」
「ちなみにボーナス無ければ88,510円オーバーになってました」
「嘘でしょ⁈」
「こんなことならボーナス無い方が面白かった!」
「え、ちなみにボーナス72,000円分は自腹額に入りませんよね?」
「入ります」
「ちょちょ待て、それは聞いてないぞ」
「自腹総額が、キュンパス代も含めまして220,410円でございます〜」
「ゴチじゃん完全に。しかもスペシャル回の」
「設定3万とか」
「ダメだね、キュンパス使うと欲望のリミッターが解除されちゃう」
「理知的にやるつもりが、気付いたら飲みまくっちゃいましたね」
「でも楽しかった。今回大雪のせいでカゲと合流遅れたでしょ?もうちょっと長い時間を共にしたかった」
「私もです。焼肉も一緒に食べたかった」
「だからさ、もう一度旅しない?」
「やりましょうか」
「やりましょうやりましょう!」

  

こうして3人とスタッフ達はすぐさまスケジュール調整を行い、3/12,13で2回目のキュンパス旅を収録する運びとなった。

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