女性アイドルグループTO-NAの特別アンバサダー・タテルは、メンバーのカコニと共に東京テレビの旅番組に出演する。JR東日本のフリーきっぷ「キュンパス」で各地を回り、浮いたお金で食事などを楽しむご褒美のような企画。
☆旅のルール
1泊2日の旅で支払った金額(キュンパスの代金除く)の合計が、キュンパスにより浮いた運賃と±1000円以内であれば旅の費用全額を番組が負担。±5000円以上であれば演者が(キュンパス含む)全費用を負担。ただし移動の運賃は一切調べてはいけない。

目当ての焼鳥屋「hou」の予約時間が迫っていたが、少し余裕があったため近くにあるカズノリイケダを覗いてみる。食後イートインでケーキを戴こうという目論見であったが、ホワイトデー間近ということもあってか、イートインスペースが閉鎖されていた。
また、カズノリイケダが手がけるシーラカンスモナカを買おうとしたところ、そこから少し離れた場所にあるメゾンシーラカンスでのみの取り扱いということが判明した。行ってみると大行列ができていて、予約の時間間近のため泣く泣く断念した。
「シーラカンスモナカって有名なんですか?」
「有名だよ。京子のお母さんがよく買ってきてくださる」
「ああ、あれがそうなんだ!最近食べてないから買いたいですね」
「19時までか。それまでに戻って来られるかな?」


17:00、焼鳥屋に到着。全く飾り気のない小さなビルの階段を3階まで登ると店が現れる。カウンターをL字に囲んで着席する。

だいぶ酒が抜けてきたのでお清めを再開する。生ビール「SORACHI1984」は香り豊かで苦味・フルーティさがしっかりした、飲み応えのあるビールである。

コースは茶碗蒸しから始まる。余計なものは一切入っておらず、出汁で胃と心を癒す。
「お苦手なものありますか?」
「2人は大丈夫なんですけど、僕は内臓系避けたいです。あと気持ち火入れ強めで」
「かしこまりました」
「大酒した後だし、焼鳥で胃をやっちゃったことがあって」
「あらま」
「その時は20本以上食べて酒も4合とか5合とか」
「それは明らかに無茶ですね。せめてお酒は抑えないと」
「ボーナスも逃したことだし、飲みは控えよう」

最初の串は胸肉。がっしりとした肉質から、シュワっと溢れる脂。焼き台の前に立つ大将の腕には火傷の跡が多数あり、命をかけて焼いている様を感じ取れる。

女性陣にハツが提供されたが、内臓系を避けたタテルはふりそでを戴く。先ほどとは変わってムキムキの肉質。思い切りの良い火入れで却って肉が活き活きとする。
「カゲさん最近クイズ番組出ないですよね。寂しいです」
「役者業がメインだからね、今のところはセーブしてる。1回1回真剣に対策しようとすると、ものすごい時間がかかるんだよね」
「カゲもやっぱ真面目だよね。俺は居間で酒飲みながら観る気分でやってるもん」
「それであれだけ活躍できるのすごくないですか?」
「羨ましいですよ」
「勉強とか好きじゃなくて。気楽に愉しめる内が華なんだ俺にとっては」
「逆に私は勉強大好きですからね、気になることは何でも調べないと気が済まないです」
「クイズに対するスタンスの違い、聞いていて面白いです」
「カコニはどっち派かな?」
「そりゃカゲさん派ですよ」
「いいね。今何か勉強したいことある?」
「テキーラの話聞きたいです」
「了解!新幹線の中で話そうか」
「ちょっと!ウイスキーの話は…」
「それはいつでも聞けるので」
「あぁ…」

鎖骨辺りの部位、まつば。グニっとしたりコリっとしたり、さらに葱らしき小さな野菜を挟んで上には粒マスタード。食感のデパートである。
「皆さんどちらからいらっしゃったのですか?」隣にいた女性が問いかける。
「東京から来ました」
「あら、それは素晴らしい!仙台は満喫しましたか?」
「それがですね、午前中は秋田にいまして。仙台に来たの1時間前なんです」
「これからお楽しみになられるんですね」
「あ、いや、食べたら帰っちゃいます」
「そうなの?それは勿体無いわね」
「すみませんせっかちな旅で。地元の方ですか?」
「そうです地元です」

ここで野菜串の登場。スナップエンドウの青みを含んだ水分に、程よく振られた塩が溶け込む。
「村上屋餅店には行きましたよ」
「それは良きですね」
「カズノリイケダも覗いてみたんですけど、イートインやってなくて。駅ビル店で買って新幹線の中で食べようと思います」
「カズノリイケダならね、お父さんのお店もお勧めよ。和菓子屋さんなんだけどね」
「それは初耳でした」
「えーっとあれは確か、丸森町。東京からだとちょっと手前ね。シーラカンスモナカも、ここのバター最中から派生したものらしいよ」
「それはチェックしておかないと」

手羽先にはスパイスを振って。むしゃむしゃと貪るが、女性との会話が止まらない。
「石巻も良いわよ」
「良いですね海沿い。松島とか気仙沼とか気になります」
「お寿司とかは召し上がらないの?」
「あまり積極的には」
「残念だわ」
「でも調子良ければ食べますよ」
「ちょっとお腹が弱いんですよタテルさんは。嫌いじゃないですもんね」
「まあね。小松弥助の寿司は極上だった」
「あら、良いとこ行ってるじゃないの」
「宮城県内でお勧めの鮨屋ありますか?」
「鮨德かなぁ」
「今度3人で行ってみようか」

海苔天の敷かれたささみの記憶は、会話の中に消え失せてしまった。
「七夕祭りに来てほしいわ」
「7月ですか」
「いや、陰暦の7月7日だから8月よ」
「行きたいですねぇ」
「興味津々じゃんカコニ。じゃああの店予約して…」
「食べることしか考えてない、タテルさん!」
「食べて七夕飾り見る。最高の旅ですね」

サンチュに載せられきたのはシビレ(胸腺)か。独特な弾力が愉快な食感である。
ここでビールが空いたため次の酒を所望する。日本酒は浴びるように飲んできたので、ここはワインを。白ワインを希望すると、ココファームの農民ドライとタケダワイナリー白の2種類が提案された。よく喋る女性に触発され、タテルの弁も立ち始める。
「ココファームは良いですよ。足利のワイナリーなんですけど、ワインの一番の本場フランスと肩を並べる力強さ。日本ワインが世界に通用する希望を見出した銘柄です」
「そうなの。じゃあ頼んでみようかしら」

一方のタテルらは、東北ツアーの趣旨に則り山形上山のタケダワイナリーを体験。白ワインとは銘打っているが色はピンクやオレンジに近く、味わいも紅茶のように色づいている。
「ココファーム、美味しいわ〜。さすが食べ歩きなされている方ね」
「いやぁ、スタンプラリーのように名店巡ってるだけです」
「素晴らしいわ。恋人さんはいらっしゃるの?」
少し戸惑うタテル。しかしそこは隠し事が嫌いな性分、正直に答える。
「いますけど、3月末で別れるんです」
「あらま。それは残念。でも大丈夫、貴方みたいな人ならすぐ新しい恋人、作れますよ」
「そうですかねぇ」
「今のうちにあちこち行ってお食事楽しんでおくといいわよ。結婚して子供ができたら行きづらくなるからね」
「確かにそうですよね」
子供が欲しくなくて京子と別れたタテルを、カコニがフォローする。
「結婚して子供産んで家事に子育て。それじゃ食べに行く時間無いですよね」
「そうよ。私も若いうちに色々行っておくべきだったわ」
「子連れだと旅行も大変だし、店に子供連れていくと迷惑かかりますもんね」
「高級店は行けないわね」
「つわりがあると全ての匂いが苦痛になるらしいです」
「そんな人もいるんだ!そりゃ大変だわ」
「美味いものは若いうちに食べておけ、心に刻んでおきます」

続いてはつくねだが、この店においては一口サイズのバーガーとして提供される。バンズは全粒粉っぽくて存在感が強い。普通のバンズの方が良い気もする。
「来週は湯河原、再来週は静岡に行きます」
「あら、随分と色んなところに」
「東京も良いんですけど、地方にも名店が多くて。周り何も無い場所に一軒家レストラン、とか流行りです」
「へぇ〜。私いつも東京に食べに行っちゃいますけど、地方にもあるんですね」
「秋田はすごいですよ。すごすぎて来月も行くつもりです」
「教えてほしいわ、どんな店行ったのか」
「すっかりお喋りに夢中ですね」
「でもあれだけ寡黙なタテルさんが人と喋るようになってる」
「確かに珍しいですね」
「人とふれあいしてこそ東テレの旅番組。使命感を感じたが故の行いだと思うよ」

続いては蓬麩を焼いて海苔と共に。
「横浜で何かお勧めありますか?」
「すみません!熱いうちに食べたいので少しお待ちを!」
「これは失礼」
少し緑が多すぎたか。味噌などを塗るとより多角的な味になるだろう。
「横浜は山下公園のイタリアンですね。ランチ〆のポモドーロが絶品です」
「あらそうなの。娘が横浜に住んでるから教えとくわ」
「横浜は東京の8割くらいの価格で美味いもの食べられますからね。お勧めです」

やげん軟骨が登場。強く火が入り、香ばしく仕上がる。

満腹が近づいてきたためストップを宣言。最後から2番目の串は大黒しめじ。兎に角デカい。そして水分が多い。スナック菓子のようにサクッと解れる。
女性は引き続きココファームから、赤ワイン農民ロッソを嗜む。
「ソムリエは目指さないんですか?」
「ワインは難しいですね。範囲が広すぎて」
「そうだよね難しいよね」
「国産ワインに的を絞って独自研究しようかな、なんて思ってます。後は専らウイスキー」
「大人な趣味してますね」
「3人でウイスキーバーに行こうかな、なんて話してます」
「色んなのありますもんね」
「本当はこの後バーに寄ってから帰りたかったんですけど、昨日飲みすぎちゃいまして」
「じゃあ今日は結構抑えめだ」
「その通りです。全然赤も飲みたいんですけどね」

タテルの食べる最後の串。部位は忘れたが、トマトの旨味とチーズが融合してめちゃくちゃ美味いことを覚えている。
「じゃあ私はこれにて。すみませんね、いっぱい喋りかけてしまって」
「いえいえ。みんなでワイワイ食べると、美味しさも2倍ですよ」
「御三方のワインは私の方につけておいてください」
「えっ、いいんですか⁈」
「勿論よ。良い店たくさん教わったので」
「ありがとうございます!」

3人は最後にラーメンを戴く。見た目は鶏白湯であるが味わいはあっさりしていて〆に相応しい。
「うそ、もう7時5分前⁈シーラカンスモナカが閉まっちゃう!」
「急いで会計してもらおう」
ワインを抜いて会計は1人8,000円。高級焼鳥としては標準的な支払い金額と言えよう。