連続百名店小説『ぶっ翔んでアダ地区』Fight 7(かどや/北千住)

東京22区と埼玉県に挟まれた場所にある「アダ地区」。東京都に属したい「アダ地区軍」「過激派組織オマーダ」と埼玉県に属したい「アダ解放戦線」の間で内紛が起こっており、「イカアダ」と呼ばれる怪獣も多くいて余所者を攻撃してくる。外務省からはほぼ全域に退避勧告が出されている危険地帯である。
中央区民と偽っているアダ地区民の建は、アダ地区の平和維持活動「都連アダ地区ミッション」の隊員。その活動のさなか、人気アイドルグループ「美麗一家」のメンバーが続々とアダ地区を訪れる。一方で、メンバーの1人・陽菜が行方不明になる事件が発生した。

  

次の日も美麗一家はアダ地区を訪れた。今度は建の家に招かれた。駅から離れているため建が防弾車で迎えに来る。
「いいか、マンションの外には出るな。まず煙草吸いが多いから空気が汚い。あと駅から遠いから昨夜みたいな自転車爆弾がわんさかいる」

  

5分ほど車を走らせると自転車爆弾が多数現れた。逆走や飛び出しなどは当たり前で、中には大通りの横断歩道でもないところを横断し出し、建の車を目にすると中央分離帯を真っ直ぐ進むという異常行動者もいた。
「何ですかアレ?」
「もし轢いてしまったら、建さんの責任になるんですよね?」
「ああそうだ。だから運転も用心せねばならぬ」「こんな挙動、都心ではお目にかかれないです」
「これがアダ地区クオリティだからな」

  

建の住むマンションの一室で作戦会議が行われる。
「テーブルがたつくね。ごめんな、アダ地区は地盤が弱いから」
「いえいえ大丈夫です。あ建さん、ジュースなんかいいです、水道水で大丈夫ですよ」
「むしろ水道水がダメだ。アダの水道水は臭くて飲めたもんじゃない」
「そうでしたか…」

  

「じゃあ早速会議を始めよう」
「はい。陽菜ちゃんは美穂さんと一緒なんですかね?」
「わからないがその可能性は高い」
「美穂さんもすごく可愛いから、2人まとめてオマーダの腰元にされてるかも」
「その線あるな」
「オマーダのアジトとかってあります?」
「あるけど、地区内各所に点在している。千住オマーダに綾瀬オマーダ、花畑オマーダに舎人オマーダ、鹿浜オマーダ。どれも駅から遠い場所に構えている」
「どのオマーダが連れ去ったかはわからないですよね…」
「わかんないねぇ。手当たり次第アジト周辺で聞き込むしか」
「でも危ないですよね」
「もちろんだ。怪しまれないようにな」

  

手始めに花畑へ向かうことにした一行。アダ地区内でも特に駅から離れた地帯である。
「さっきからやたらと仲睦まじそうな親子の看板見かけますけど」
「ああ、『スター不動産』ね。これ本物の社長とその息子さんなんだ」
「クセありますね。息子さんどういう気持ちなんだろう」
「嫌がってるらしい」
「…」
「あ、ここが『竹ノ塚歌劇団』の劇場ね」
「劇場って…ただの駅じゃないですか」
「深夜になると演者さん現れるから。か細い一本調子が好評なんだ」
「それ褒め言葉ですか?」
「上手いっていうか、面白い。でも治安悪いから君たちは聴きに行けない。ごめんな」

  

花畑アジトの少し手前で車を降りると早速日和が洗礼を受けた。
「うわ!何コレ…」
「どうした」
「生唾踏んじゃった!」
「通称『雪女の汗』だな。アダ地区の道端では当たり前のように落ちてるから気をつけろ」
「ああ、もう嫌なっちゃう!」

  

「すみません、この辺でよそ者の女性を連れた怪しい人見ませんでしたか?」
「わからんね。怪しい人なんてごまんといるからさ」
「ですよね…」
結局有力な手がかりは得られないまま昼食時となった。
「建さん、ラーメン食べたいです」
「来る途中に『くるまやラーメン』だっけ?ありましたよね」
「ダメだ!」
「やっぱり…」
「アダ地区内のチェーン店は危険だらけだ。床には残飯が落っこちてるし店員らは客前で大揉め、厠はアレまみれだし、何と言ってもガキ兵器が一番恐ろしい」
「また兵器ですか…」
「急に大声をあげるガキ爆竹、予測不能の動きで翻弄してくるガキネズミ花火、人に向かって咳を吹っかけるガキ生物兵器…」
「聞いてるだけで心が痛みます!」
「今日のところはこの団子で我慢してくれ。夜は焼鳥屋予約してあるから」

  

建が購入したのは宿場町通りの北の果てにある和菓子屋の団子。みたらし団子とあん団子以外は赤飯と大きめの餅しかない潔い店である。
団子の生地の練りはアダ地区らしく無骨であるが、えぐみやモソモソ感というものが不思議となく素直に受け入れられる。あん団子は柔らかさが目立つ一方、みたらしは焼きが入り微かな硬さが生まれている。どちらも餡は控えめであり、生地との一体感を楽しむ仕掛けになっている。

  

「これで満足か?」
「もうちょっと食べたいですね。結構小ぶりだったので」
「そっか、日和は大食いだもんな。まだ買ってあるから家戻ったら食おう」

  

続いて舎人アジトに向かう。
「え、じゃあテレビもそんなに見れないんですか?」
「制限厳しいね。国営放送以外の民放局は1局しかない。陽世ちゃんって鳥取の子だよね。何局あるっけ?」
「民放は3局あります」
「マジか。アダ地区はそれに加えて検閲も入るからキツい」
「それはツラいですね」
「人気の番組は時代劇、たけしさんの番組、『ジョプチューン』、『カネーの虎』、『愛より鞭の貧乏脱出大作戦』、『ガチチ○コ』」
「どれもハードボイルドな番組じゃないですか」
「唯一の救いは『マジすか学園5』が規制なしで観られることかな」
「それもなかなかキツいですって」

  

その後舎人や鹿浜を探索するも手がかりは得られず。
「オマーダからの解放は一日にしてならず。根気よくやろう」

  

一方その頃、宿場町通りではアダ地区ミッション品川区代表の茉莉と帆夏が調査を行っていた。しかしやれることはやられ尽くしていて、やることを見出せずカフェで休憩していた。
「あぁもう嫌になる。報告書に書くことなんてないわ、こんなの丸めてポイ!」
「フフッ、今の茉莉さんの顔面白すぎます」

  

その時、店の前を通りかかったイカアダ中坊が変顔を目撃し茉莉を取り囲む。
「お前オモロいな」
「もう一度やれよさっきの顔」
「え…」
「ガハハハハ、アホらしい!ちょっとこっち来いよ」
「あの…私仕事あるんで」
「俺様の言うこと聞けねぇのか⁈」
茉莉と帆夏は中坊らに引きずられ連れ去られていった。

  

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