連続百名店小説『ぶっ翔んでアダ地区』Fight 6(サニーダイナー本店/北千住)

東京22区と埼玉県に挟まれた場所にある「アダ地区」。東京都に属したい「アダ地区軍」「過激派組織オマーダ」と埼玉県に属したい「アダ解放戦線」の間で内紛が起こっており、「イカアダ」と呼ばれる怪獣も多くいて余所者を攻撃してくる。外務省からはほぼ全域に退避勧告が出されている危険地帯である。
中央区民と偽っているアダ地区民の建は、アダ地区の平和維持活動「都連アダ地区ミッション」の隊員。その活動のさなか、人気アイドルグループ「美麗一家」のメンバーが続々とアダ地区を訪れる。一方で、メンバーの1人・陽菜が行方不明になる事件が発生した。

  

陽菜失踪事件の真相が解明されないまま翌日、建はいつも通り八丁堀で寿司を握っていた。そこへ突如ピーという音が鳴ると、謎の部隊「EAT(Eliminate Ada from Tokyo)」がなだれ込んできた。

  

「EAT港区代表の翔だ」
「同じく豊島区代表の潤だ」
「お前、隠れアダ地区民だな!」
「おいおいなんだEATって…そもそも俺中央区民なんですけど!」
「嘘つくな。最新鋭のアダ探査機の目は誤魔化せねぇ!」
「白状しろ!」
「はいはい、オイラはアダ地区民ですよ〜だ」
「認めたね。じゃあこの店は畳んでもらおうか」
「何だと⁈」
「アダ臭がキツすぎる。近所迷惑なんだよ」
「特殊清掃が必要なレベル。費用出してもらうからな」
「兄ちゃん生意気だな。言っていいこと悪いことあるぞ」
「楯突くんですか?警察に突き出しますよ?」
「大人しく指示に従え!」
「アダ地区民は東京に来るんじゃねぇ、出てけ!」

  

EATに捲し立てられ、建一家は立ち退きを余儀なくされた。さらにアダ地区ミッションの隊員らにも外方を向かれ、建はアダ地区ミッションから除籍された。失意の建はスマホまで奪われ、手紙で美麗一家へメッセージを送る。

  

美麗一家のみんな、オイラは特殊部隊EATに見つかりアダ地区に幽閉された。アダ地区ミッションからも抜けることになった。今後オイラと会うにはアダ地区に来てもらうしかなくなった。
陽菜を救い出したいという気持ちは山々だが、オイラにできることはかなり限られる。オイラも全力は尽くすが、これからはアダ地区ミッションのメンバーを頼ってくれ。短い間だったけどありがとうな。健闘を祈る。

  

「建さん…嫌ですよそんな別れ」美玲は涙していた。
「でも後ろ盾ないんですよね。公的な組織の人に任せた方が確実ではないでしょうか?」冷静な陽世。
「私たち学んだでしょ。自分の身は自分で守るって、建さんの背中を見て学んだじゃない。アダ地区に行って建さん探して、陽菜を助けに行くよ」
「でも流石に私達だけでは…」
「建さんがよくいる場所、知ってますよ」日和が口を開く。「かき沼、っていう日本酒の店です」
「大丈夫、何回か行けば会えるよ」

  

こうして美玲・日和・陽世は積極的にかき沼を訪れるようになった。5回くらい足を運ぶが建には出会えない。その代わりマスターとは顔馴染みになり、建が来たら連絡してもらえることになった。

  

ある土曜日の夕方、遂に建がかき沼を訪れた。すぐに美麗一家メンバーに連絡が行き、両者はサニーダイナーの本店で落ち合う運びになった。

  

事件のあった宿場町通りから駅と反対方面に1本。老舗の天ぷら屋や綺麗めの小学校などがあり落ち着いた通りであったが、夕暮れ時になると変な声が聞こえてくるのがアダ地区である。

  

「ええぇーがぁおぉーひとぉーのわぁーてぇーをつなごおおーっ!」
「何だこの歌⁈」
「アダ地区に似つかわしくないですね」
「がなり立てるような歌詞じゃないって」
「コラ!そういうこと言わない!」

  

「…建さん⁈」
「アダ地区民を冒涜するとマジで殺されるからな。たとえ冗談であっても、アダ地区民は真に受けるから」
「もう会えないと思ってた…」
「話聞け。ってか何泣いてるんだ。ここは危ない、ハンバーガー屋に入るぞ」

  

美玲が初めてアダ地区で襲われた日ルミネで食べたハンバーガー。その本店がここにある。狭い店内ではあるが客は1組しかおらず、余裕で4人席を確保した。
あの時あったサイド・ドリンク一律300円システムは廃止されていた。バーガー単品の値段に400円足すことによりポテトとソフトドリンクがつく、という何の変哲もないシステムである。
「日和と陽世は初めてだからサニーかてりやきがオススメね。オイラはフライドチキンバーガー試そうかな」

  

アメリカンサイズのトロピカルソーダ。アダ地区らしくない、穏やかで混じり気のない味である。
「いやあ参ったよ。アダ地区はシンプルに居心地悪いんだ」
「まあこれだけ荒れていたら住みたくはないですよね」
「せっかく中央区民になれると思ったのに…アダ地区には何の娯楽もない」
「カラオケとか映画とか楽しめるじゃないですか」
「あるけど新しいものが入ってこない。映画は北野映画か白黒映画のみ。歌は浅草キッド以外はキャンディーズ以前まで。美麗一家の推し活なんてできるわけなくて…」

  

涙ぐむ建につられ、美玲も涙した。
「建さん、私たちのこと大好きなんですね…」
「ああ大好きだ。オイラ強がってるけど、好きで仕方ないんだ。こうやって再会できて嬉しいんだよ」
「私たちも建さんには感謝しかありません。陽菜ちゃんのこと、一緒に救い出しましょう」

  

フライドチキンバーガーがやってきた。台湾の夜市、ほどではないがヴォリュームのあるフライドチキン。ケンタッキーのものとはスケールが違う。
単体で食べると塩気が強めだが、バンズや具材と合わせることにより丁度良い存在感に収束する。野菜の水分や蒸気により衣がしなるが、元々が強固な衣であるから問題ない。サニーバーガーのような一体感はないものの、新境地を見た夜であった。

  

「じゃあ早速聞き込みしてみるか。店員さんすみません、宿場町通りの事件について何か知っていることありますか?」
「わからないです」
「そうですよね…辛抱強く聞き込みするしか」

  

北千住駅方面へ歩いていく途中でも聞き込みを続ける建。イカアダを引いてしまうと命の危険があるが、建には雰囲気だけでイカアダか否かを判別する能力が備わっている。
「建さん、それにしてもここら辺オシャレな飲食店が多いですね」
「そうなんだよ。しかも意外と賑わっている。予約無しだと入れないくらい」
「いつか行きたいですね」
「シェルターには認定されてないからダメだ。平和を取り戻すまでは我慢だぞ…って、おい!駅はそっち方向じゃないって、陽世」

  

「…うわっ!」
陽世の側を自転車らしきものが掠めた。
「危ない…うわっ!また来たよ…」
「あの路地は千住ミルディス2号館の駐輪場に直結してる。『自爆弾』が絶え間なく飛んでくる場所だぞ」
「ごめんなさい…」命辛々逃げ帰って来た陽世。
「自爆弾、正式名称『自転車爆弾』は殺傷能力が高い。自爆弾とは言うけど攻撃者はバカだから死なないし」
「恐ろしい…」
「陽世ちゃんは運動神経優れてるからいいけど、見境なく飛んで来る自転車爆弾を避けるのは並大抵のことじゃないからな」
「以後気をつけます、すみませんでした!」
「可愛い子たちを死なす訳にはいかないからな」

  

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