連続百名店小説『ぶっ翔んでアダ地区』Fight 5(ここのつ/北千住)

東京22区と埼玉県に挟まれた場所にある「アダ地区」。東京都に属したい「アダ地区軍」「過激派組織オマーダ」と埼玉県に属したい「アダ解放戦線」の間で内紛が起こっており、「イカアダ」と呼ばれる怪獣も多くいて余所者を攻撃してくる。外務省からは退避勧告も出されている危険地帯である。
中央区民と偽っているアダ地区民の建は、アダ地区の平和維持活動「都連アダ地区ミッション」の隊員。その活動のさなか、人気アイドルグループ「美麗一家」のメンバーが続々とアダ地区を訪れるようになる。

  

「陽菜と連絡がとれない!電話かけても電源が切られていて…」
日和は不安に駆られた。家にいた美玲と陽世も同じく狼狽えており、マネージャー含め4人で急遽陽世の家に集まることにした。
「陽菜ちゃん、埼玉でロケしてましたよね」
「そのロケの休憩に行ったきり戻って来なくて」
「もしかして、この世とおさらばしたかったのか…」
「変な想像しないで!陽菜ちゃんに限ってそんなことは…」
「ただ一つ情報として、ロケ地周辺では真昼間にも関わらずうるさいバイクが走ってたって」
「埼玉のどの辺ですか?」
「川口のオートレース場」
「川口ってことは、アダ地区の隣?」
「そういえば埼玉大使の美穂さんも今日アダ地区で連れ去られた…」
「もしかして、陽菜ちゃんもオマーダの餌食に…」
「可能性はあるかもな」
「じゃあ建さんに連絡してみます」
「建さん?」
「アダ地区で平和維持活動をしている方です。私たち皆知り合いで」

  

その頃、建はアダ地区ミッション北区代表・雄一と共に宿場町通りを実況見分していた。
「雄一さんは現場見てないですよね」
「うん。駆けつけた時にはもういなくなってた」
「そうですか…えっ⁈美麗一家の陽菜ちゃんが行方不明⁈」
「美麗一家がどうかした?」
「最近美麗一家の事案が続いてるじゃないですか。今回も関係ありそうで」

  

そこへ板橋区代表の吾郎・みなみ・佳代がやってきた。
「吾郎さん、お疲れ様です」
「いやあ参ったね。これはかなり大事だよ」
「もしかして、現場に居合わせていましたか?」
「ええ。美穂さんが拉致された時、オマーダが別の女の子を出しにしていました」
「それでその女の子が道連れにされて…」
「それってもしかして、美麗一家の陽菜ではなかったですか?」
「ああ、言われてみれば似てるかも!でもどうして?」
「陽菜が行方不明になってると連絡が来まして。最近やたらと美麗一家のメンバーがアダ地区で危険な目に遭っているじゃないですか。だからワンチャン関係あるのかなって」
「でもアダ地区内では連れ去り事件など日常茶飯事だからな。陽菜が被害者だと断定することはできない」
「そうですよね…」
「とりあえず今日のところは俺ら板橋チームに任せておけ。雄一くんと建くんは上がっていいぞ」
「よろしくお願いします!」

  

北千住駅に戻ると、そこにはなぜか美玲がいた。
「おい何してんだ。ここは危険だって言っただろ」
「だって陽菜ちゃんがどっか行っちゃって…」
「オマーダの仕業っぽくはあるが確定はしてない。それに今は美穂連れ去り事件で情勢が悪化してる。すぐ帰るんだ」
「帰れません!不安で仕方ないんです!」
「困ったな…じゃあ事件現場とは逆の東口行こうか」

  

東京電機大学や足立学園のある東口は、西口と比べると治安は良い方である。それでも飲み屋が沢山あるため、酔っ払いイカアダに捕まらないよう気をつける必要がある。
「あぶね!」
「気をつけろ。アダ地区において歩きスマホは文化だから」
「何を夢中になってるんでしょう」
「何も考えちゃいない。しかも初冬なのに裸足だったし、これはイカアダ中のイカアダよ」

  

ロータリーのある交差点を左に曲がりしばらく歩くと、シェルターに設定された定食屋が現れる。夕飯時で混んでいたが、少し待って入れた。
「ここは『レバにら』が名物だ。苦手じゃなければ注文するといい」
「はい」

  

「建さん、陽菜はどこに…」
「まだ確定してないんだって」
「でも可能性はあるんですよ。川口でロケしている間に拐われたみたいで」
「川口…あそこはアダ地区との結びつきが強い地だ」
「ですよね?」
「ああ、イカアダはギャンブル好きだからな。川口のオートレースなんてアダ地区民の巣窟だ。何ならそこのスター選手だってアダ地区出身だ」
「やっぱり…」
「確定してないと言ったが、俺はアダ地区民の仕業だと信じてる。そういうことする奴絶対アダ地区民しかいない。本当にごめんな、我らがアダ地区民が…」
「建さんはどうにかしようとしてくれてる。謝らなくていいんですって…」

  

そこへやってきたレバにら唐揚げハーフ&ハーフ定食。レバニラとは言っても鶏のレバーであり、臭みはほとんどない割にフォアグラに近い濃厚さがありご飯が進む。唐揚げは外がしっとり、中はふんわりと揚がっていて、これはこれでアリだと思う。傍を固める春雨サラダや味噌汁にも余念がないが、唯一漬物に関しては中華風にした方がレバニラとの調和が取れる気がする。

  

「美穂連れ去り事件に関してはアダ地区ミッションの別班が調べてくれてる。詳細がわかり次第連絡する」
「はい」
「もし陽菜が関わっているようなら、キミたち美麗一家メンバーに協力を仰ぐこともある」
「もちろん。可愛い陽菜ちゃんを守るためなら何でもします」
「勇気あるな。厳しい闘いになると思うから、アダ地区のことをよく学んで、体力をつけておくように」

  

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