連続氷菓小説『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』⑩(Vinefru/東銀座)

アイドルグループ「TO-NA」の特別アンバサダーを務めるタテル(俗称「コイツ」)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(俗称「アイツ」「天才」)を誘い出し、美味しい氷菓探しの旅をしている。

  

ある日の夕方、メンバー全員が参加するミーティングにて。
「朗報だ。明日の夕方、予約困難フレンチの予約が取れた」
「えっ、すごい!」
「予約困難って聞くだけでワクワクしますね」
「まったく、能天気だなお前らは。行けるのは1人だけです」
「え〜⁈」
「仕方ないでしょ、2人枠しか取れなかったんだから。連れて行く人は公正にルーレットで決めます!」
「全然公正じゃないですよね?決めてますよね連れて行く人」
「お前らオリンピックに毒されすぎだ。まあいいや、出でよルーレット!」

  

「…完全に柔道団体のアレじゃないですか。やってますね」
「何がだよ。大学で学んだプログラミングの技術を使って作ったオリジナルルーレットだ」
「余計怪しいですって」
「ずべこべ言うならみんな連れて行かないからな。聖なるルーレットは静粛に回さねばならぬ」
屁理屈でメンバーを黙らせルーレットを回す。

  

止まったのはマリモであった。
「フレンチとmarryした20歳!マリモおめでとう!」
「ほらやっぱり決めてたじゃん」
「幼少期フランス育ちだから選んだんでしょ」
「どうせフレンチの味わからないだろ、ってナメてるでしょ私たちのこと!」
「スケベな顔しやがって、小遊三師匠かぶれが!」
「それは今関係無いだろ。とにかく相手はマリモです。スケジュール問題無い?」
「はい問題無いです。有難いですフレンチにお誘いいただけて」

  

翌日、何故か東銀座でマリモと待ち合わせしたタテル。
「マリモ、フレンチの前にかき氷はアリ?」
「アリです!ここだとビネフルですか?」
「そうそう。あまり予習はしてないけど、良い店かね?」
「当たり前じゃないですか!タテルさん絶対好きだと思いますよこういうの」

  

急で狭い階段を3階まで上る。真夏の暑い日であったら身に応える仕様である。店内に入ろうとすると、予約はあるか、と店員に訊かれた。
「しまった、予約忘れてました…」
「マジか…」
「あでも大丈夫です、飛び入りで来る方の方が多いので」
幸い席は半分以上空いており、すぐ入店することができた。それでも退店する頃には一気に満席となって待ち列も発生していたから、予約して行くことを推奨する。

  

「ホントだ、俺の好きなフルーツ系だ。よく俺の好み知ってたね」
「タテルさんってかき氷屋さん行くといっつもフルーツ系頼んでますよね?だからわかるんです」
「わかりやすい男でごめんよ」
「じゃあ今日はシャインマスカット…じゃなくてクイーンルージュになってる」
「クイーンルージュってもしかしてあれかな、赤いシャインマスカット的なやつ」
「そんなのあるんですか?」
「やっぱりそうだ。長野で作ってるって」
「へぇ〜、これは面白いですね」
「名前は違うけど、山梨でもそういうの作ってる、って聞いたことある。山梨大使の君なら知ってそうなものを」
「知らなかったです」
「ダメだなアイツちゃん」
「何ですかコイツさん」
「せっかくマリモに止まるよう設定したのに」
「やっぱり不正してたんですか、あのルーレット⁈」
「してた」
「何やってるんですかコイツさん」
「やりたかったんだよ。あのルーレットは茶化さないと。本当は日本が金メダルだったんだから」
「それはそうですけど…」
「モヤモヤを晴らすにはどんどん笑いものにしないと。嫌なことがあったら笑いに変える、それが俺のモットーだ」

  

クイーンルージュとフルーツハーブティーのかき氷が到着。早速クイーンルージュを口にしてみると、シャインマスカットの要素を感じつつ、それ以上に甘味が凝縮されており期待通りの味であった。
ベースとなる氷の口溶けも良くて、ヨーグルトソースの濃い味と抜群のコンビネーションを見せる。下にフルーツハーブティーの要素があるが、味はどちらかと言うとサングリアのように感じられた。これら濃い要素の中でも、クイーンルージュの力は確と感じられるのであった。上だけでなく中にも果実が沢山入っていたから大満足であった。

  

「赤いシャインマスカットに遭遇するとは、すごい食体験だったなあ。メインイヴェントへの期待感が高まる」
「でもまだちょっと時間ありますね。どうします?」
「カラオケでも行こうか。歌って腹を空かそう」

  

門前仲町のカラオケボックスに1時間半入り浸り、良い時間になったので店に向かう。

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