連続氷菓小説『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』③(天野屋/御茶ノ水)

不定期連載『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』
アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25、通称「コイツ」)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19、通称「アイツ」「天才」)を誘い出し、美味しい氷菓探しの旅をしている。

  

今日の集合場所は御茶ノ水駅。2人は各々行きたいかき氷の店をピックアップしていた。
「タテルさんの行きたい店は『天野屋』さん…甘味処ですか?」
「そう。神田明神を代表する甘酒の名店だ」
「甘酒ですか。私そんなお酒飲めないです」
「糀の甘酒だからアルコールは入っていないさ。体にいいんだってよ」

  

聖橋を渡り交差点を少し右に行くと天野屋が見える。下町の民家然とした左手が喫茶部門への入口である。
「昔ながらの甘味処ですね。こじんまりとして」
「少し密な感じが、却って粋なのかもしれない」

  

かき氷はオーソドックスなものであれば550円とお手頃価格。ここは甘酒の店だから、タテルは他の味に目もくれず氷甘酒に的を絞った。一方のマリモは凝ったものを好むのでクリームあんみつのかき氷を選択し、その上で甘酒・くずもち・味噌おでん・おもちのセットを頼んだ。
「しょ、正気か?そんな食えるの?」
「だってタテルさんとじゃないとこういうところ来ませんから」
「マリモはいっつも洋物ばっか食ってるもんな。アサイーボウルとか」
「あんこも好きですよ!」
「イメージないな」
「私にどういうイメージ持っているんですか?」
「お嬢様」
「だから違いますって!」
「この前HIKAKINさんが買った家並みに豪邸なんでしょう?」
「ふざけないでください!」

  

茶化すタテルの元へかき氷がやってきた。甘酒が下に溜まっているが、氷が堆く盛られていて側面のガードもないため混ぜるのは困難である。かまくらのようにトンネルを掘り少しずつ内側を崩して食べるが、どうしてもこぼれてしまう。
それでも氷の削り方は専門店と遜色なく、米のかけらがたくさん入った、この店自慢の甘酒との親和性は高い。

  

「冷やし甘酒も乙なものよ。お風呂上がりに飲むと最高だって、ここの大女将さんが言っていた。君も家のサウナで整った後に飲むといいさ」
「家にサウナありません!」
「そう?」
「当たり前じゃないですか。でもお土産に買って帰ろうかな」
「気に入ってもらえて嬉しいよ。ってかすご。もう完食してる」
「美味しかったです。甘味処もいいですね、かき氷たくさんあって」
「でしょ。来年は甘味処のかき氷いっぱい楽しもう」
「来年…ですか?」
「専門店と違うから、夏が終わるとかき氷も終わっちゃうんだ」
「そうですよね…」
「まあまだやってるとこもあるから大丈夫。今度そこ行こう。それで、マリモちゃんの行きたいかき氷屋って?」
「サカノウエカフェです」
「えっ?前行ったじゃん」

  

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