連続氷菓小説『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』⑨(TSUJI/北千住)

不定期連載『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』
アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25、俗称「コイツ」)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19、俗称「アイツ」「天才」)を誘い出し、美味しい氷菓探しの旅をしている。

  

「パルちゃんおはよー」
「おはよー。今度の火曜、休みでしょ?かき氷食べに行こうよ」
「いいね」
「でさ、今北千住駅で私の構内放送が流れてるんだ。せっかくだから聞きに行きたいなぁ、って思ってて」
「うんうん」
「北千住の付近で美味しいかき氷屋さんあったら最高だよね」
「そしたらいつもの椛屋がいいんじゃない?あでもあそこ火曜休みだ…」
「さすがに無いか」
「いや待って、北千住にも何かあった気がする…あこれこれ!TSUJIさん」
「美味しそう!これは食べ応えありそうだね」

  

「北千住のTSUJI?俺も行きたい」
「タテルさんおはようございます。行ったことあるんですか?」
「行こうとはしたけど行けてない。ここいっつも混んでてさ、常時10人前後は並んでるかな」
「それだけ人気の店、ということですね」
「俺、火曜はシフト勤務で午前中空いてるんだ。平日の開店直後ならそんな混んでないと思うし、お供させていただこうかな」
「勿論良いですよ!じゃあ10:45、北千住駅西口マルイ前で待ち合わせ」

  

火曜日。あろうことか皆待ち合わせ時刻に遅れてやってきた。
「遅れた理由を聞こうじゃないか、アイツちゃんソイツちゃん」
「ソイツちゃんって、私のことですか⁈」目を丸くするパル。
「コイツさんだって遅れたじゃないですか」
「俺は寝坊しただけだ」
「良くないじゃないですか」
「じゃあアイツちゃんはどうなんだよ」
「喧嘩しないで、早く行きましょうよ!」
「そうだな…」

  

宿場町通りをひたすら北上する一行。
「北千住来るのは『ぶっ翔んでアダ地区』の撮影以来ですね。懐かしい…」
「ここがドンレミーですね。テレビでよく特集してますよね、格安でスイーツが買えるって」
「擦られすぎな気もするけどね。俺には合わない」
「コイツさんの舌が肥えているだけです!」
「もう!」
「仲良いですね2人とも。あ、ここロケ地ですよね」
「焼鳥屋ね。ここから物語はクライマックスに入っていった」

  

さらに劇中に登場した団子を売る店「かどや」も現れたが、火曜定休のため思い出を振り返ることは能わず。
「宿場町通りの終わりが見えてきた。かき氷は角にあるからね」
「楽しみ〜」

  

出遅れたせいで既に満席となっており、外にも2組の待ちが発生していた。
「先客入ったばかりだから、結構待ちますかね」
「タテルさん時間大丈夫ですか?」
「13時には三ノ輪に帰らないといけないけど、さすがに大丈夫だろう」

  

この日は夏の陽気で、外の金属製ベンチは熱を帯びていた。陽射しを遮るものも特に無く、マリモとパルは日傘を差すことにした。
「良かった日焼け止めクリーム買ってきて。家に置いてきちゃったから」
「しっかりしてよ。ただでさえ遅れていたのに」
「開店前に着いていたとて、1巡目に入れる保証は無かったかもしれません。結構中狭いみたいですね」
「4席しかないのか」
「しかもベビーカー、または3人以上が座れる席は1つのみみたいです」
「そりゃ行列になる訳だ」
「店員さんも少なくて、かき氷出てくるまで時間かかりそうですよ」
「これで1人2杯食べる奴がいたら余計遅くなるよ」
「タテルさん、他人事みたいに言ってますけど私達も2杯食べるんですよ」
「本気かよ…結構ヴォリュームありそうだぜ、値段も高いし」
「確かに2000円超は珍しい。マリモちゃん、1杯でいいんじゃない?」
「そしたら全員の2杯目、私が奢りますよ」
「奢りなら食べちゃおうかな♪」

  

50分待って漸く入店できた3人。
「しょうがない、区役所での用事が長引いて始業遅れます、って一報入れとくか」
「ワルイコですね、コイツさん」
「誰のせいでこうなったのかな、アイツちゃん」
「やっぱり仲良い。それにしても北千住って、足立区とは思えないくらいお洒落な街ですよね」
「だよね。昔ながらの店もあれば本格派のビストロもある。遊びに行く場所としては悪くないかもね」
「撮影で食べたサニーダイナーさんのハンバーガー、美味しかったなぁ。ミレイさんが食べていたレバニラも美味しそうです」
「かき氷食べ終わったら一緒に行かない?」
「マリモちゃん、さすがにかき氷2杯食べた後は厳しいよ」
「アイツちゃんは胃がバカすぎる」
「やめてくださいコイツさん」
「また始まった…」

  

3人が食べる最初のかき氷は、食事系としても成立し得る「だだちゃ」。ずんだの味わいは単体で食べると確かにあるが、氷との相性はそこまで良いわけではなく、他の具材と合わさるとあまり目立たなくなる。
氷の口溶けは良い方である。味噌味のミルクが染みていて、これがなかなかクセになる。
おこしは乾いたものではなくキャラメルみたいに粘度があるタイプ。豆も硬めで、心構えができていないと歯を挫いてしまいそうである。
「あ、これが青海苔?」
「そうだった。かき氷に海苔なんて合わせないよね普通」
「百戦錬磨の私でも海苔は初めてです。楽しみだな」
チーズのまろみの中にいるためか、氷の口溶けとかなり相性が良い青海苔のクリーム。それでも少し海苔感が強いと思ったタテルは最後の方で全部混ぜてしまう。すると程良い青海苔の香りでフィニッシュを決められるのであった。

  

「美味しかった〜」
「でも結構腹溜まったな。2杯目いけるかな…」
「タテルさん、弱気になっちゃダメですよ。私は食べれる、私は食べれる、って暗示かけて下さい」
「宗教みたいだな」
「絶対変わりますから!文句言わないでやって下さい」
「わかったよ…」

  

2杯目は各々違う品を注文した。玄人のマリモは新じゃがを、まだ初心者のパルはかぼちゃを選択した。

  

ブルーチーズ好きのタテルはゴルゴンゾーラを選んだ。ゴルゴンゾーラクリームの味が濃く、氷との親和性も意外と高い。季節の果実が入っているのが特徴で、この日は台湾パイン。果実がごろごろ入っているが、一口で食べるには大きすぎる。ただでさえ尖った酸味が冷えたことにより更に尖り、たっぷりかかった黒胡椒が喉にとどめをさす。バジルクランブル・バジルクリームも入っているが、ここまでくると化学反応を生み出せない。また、嵩があるため下の方は重さで氷がダマになりやすい。

  

さらにトッピングとして酒粕クリームを追加していたが、これまたかなり強めの味で、下戸であれば酔っ払ってしまう可能性すらある。ただでさえこの店のかき氷は濃いめなので、下手にトッピングを追加すると持て余してしまいかねない。
「変化はあって面白いけど、味の作り方はサカノウエカフェに及ばない。ちょっとしつこいお味かな」
「やめてください。ネネちゃんママがうさぎ殴りますよ」
「あなたの自己責任ですからね、コイツさん」
「いやあそれほどでも〜」
「褒めてない!」

  

パルの音声案内を聴きに北千住駅へ戻る一行。
「私正直足立区って怖いところだと思ってて。でもそんなこと全くなくてホッとしました」
「北千住は大学生も多くて住みやすくなっているね。荒川越えた先は『ぶっ翔んでアダ地区』の雰囲気残ってるけど」
「この作品の縁があって、北千住駅で音声放送やらせてもらえることになったんですよね」
「まあそういうことかな」
「感慨深いです」
「良かったね。パルのことを皆に知ってもらえる良い機会だと思う」
「かき氷も美味しかったし、今後いっぱい訪れたいと思います」
「その際は俺もお供させてもらおうかな」

  

北千住駅構内へ戻ってきた一行。
「放送ってどれくらいの頻度で流れるんでしたっけ?」
「15分に1回だね」
「意外と少ないな…」
「あ!本職で緊急事案発生だって…もう戻らないとダメだ!」
「残念ですね」
「聴くチャンスはいくらでもあるからな。じゃあまた明日!」
「あ〜あ、行っちゃった…」

  

今日も北千住駅をご利用いただきありがとうございます。綱の手引き坂46のパルです。…

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