連続氷菓小説『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』⑧(然花抄院/渋谷ヒカリエ)

不定期連載『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』
アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25、俗称「コイツ」)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19、俗称「アイツ」「天才」)を誘い出し、美味しい氷菓探しの旅をしている。

*時系は『独立戦争・上』の最中となっております。

  

ある日、タテルは綱の手引き坂公式YouTubeの企画と称してマリモを呼び出した。渋谷ヒカリエの8階にて。
「綱の手引き坂46のマリモです!ついにかき氷巡りが動画になりました〜!楽しみです!」
「マリモ、実はかき氷巡りは嘘です」
「何言ってるんですか。冗談よしてくださいよ」
「媚びてもダメ。今回はかき氷も食べますが、メインの企画は別にあります。その名もズバリ『アイツのゲッツナイツ』!でっきるかな、でっきるかな」
「どういうことですか…」
「アイツちゃん」
「YouTubeでまでその呼び方、やめてくださいよコイツさん」
「ゴホンゴホン。アイツちゃんのことが御茶ノ水愛花さんに見えて仕方ない、という声がたくさん上がっています」
「ぼかぼかに出ていらっしゃるあの愛花さんに、ですか?」
「そうだ。お嬢様で言動がぶっ飛んでいるところがそっくりだ」
「いやいやいや、烏滸がましいですよ」
「そんな愛花さんが一番可愛らしさを発揮している企画を、マリモにもやっていただこうかと思うわけです」

  

今からマリモには3つのゲームに挑戦していただきます。どれも簡単なチャレンジなので当たり前にできるとは思いますが、私タテルはマリモがそれぞれのゲームをクリアできる(ゲッツ)かできない(ナイツ)か予想します。マリモは3つ中2つ可で、私タテルは3つ中2つ予想的中で金貨を獲得です。

  

「片方のみが金貨獲得の場合、獲得しなかった方が2人分のかき氷を自腹です。両者獲得の場合は運営がお金を出し、両者獲得できなかった場合は個々人でお支払いください」
「待ってください、これってきっと最適解的なものありますよね」
「まああるだろうね。何をもって最適かは人それぞれだけど」

  

最初のチャレンジは「5mゴミ投げ」です。ゴミ箱より5m離れた位置から、丸めた0点のテストをゴミ箱に投げていただきます。
「ちょっと待ってください、0点のテストという設定要ります?」
「その方が面白いかなと思った」
「百歩譲って受け容れますけど」

  

「じゃあアイツちゃん、コールをお願いします」
「5mゴミ投げ、ゲッツかナイツか札をお上げ下さい!」
「ナイツで!」
「えぇ…」
「アイツはドジっ子だから絶対外すだろう」
「いいんですか、私のこと見くびって」
「望むところだ」
「ファイナルマリモ?」
「ファイナルアイツ!」
「だから、『アイツ』じゃないです!ファイナルマリモ?」
「ファイナル…マリモ」

  

結果、マリモの放った紙はゴミ箱より大きく右に逸れて落ちた。
「ほら言わんこっちゃない。ここまで大外しするとはさすがアイツ」
「ぷんぷん!」
「それはあなたがやることではない」

  

踏んだり蹴ったりのマリモを連れ、一旦かき氷を食べに行くことにした。ヒカリエの5階にある甘味処。日曜の真昼間ではあったが客は多くなく、その後コンスタントに来客はあったものの席数は多めでウェイティングは発生していなかった。
「アフタヌーンティー的なものもあるけど今日はかき氷食べましょう。飲み物もつくけど何にしようか」
「私オレンジジュースにします」
「マジ?宇治金時に一番合わなさそうな飲み物。しかも冷たいし」
「ノープロブララレムです」
「何か多いな。ここは和カフェだから俺は玄米茶にするぞ」

  

ずっしりとした鉄器にて供される玄米茶。美味しいのだが、鉄器から偶に旅館飯の固形燃料のような臭いがして気になってしまうタテル。
「妙なこと言わないでくださいよ。お鼻が敏感すぎますよコイツさん」
「悪かったな!」

  

主役の宇治金時。かき氷専門店では無いため氷の口溶けは並であるが、高潔な甘味処とあって流石に抹茶の味が濃い。濃いとは言っても直接的に濃い訳では無く、口の中で茶の感覚が広がっていく印象である。一方、何故だかわからないが渋みのあるのぺえとしたベースが口の中に形成され、タテルは再び違和感を覚える。
「何を仰るのですか。感覚が独特すぎますよコイツさん」
「ラップを爆音でかけて寝るようなアイツちゃんには言われたくないね」

  

8割方食べ終えたところで2つ目のゲームを行う。
「間違い探し!今から2つの絵を30秒見ていただいた後、3箇所ある違いをお答えください」
「間違い探しねぇ、結構難しいんだこれが」
「僕の予想は…ナイツ、できない!」
「おやおや、またナメられてしまいました私」
「俺もやってみたけどできなかった。だからアイツは尚更ね」
「お、私を燃やしにかかっていますね。絶対成功しますから!ファイナルマリモ?」
「ファイナルアイツ」
「認めません!ファイナルマリモ?」
「ファイナルマリモ」

  

間違い探しの絵をじっくり見るマリモ。しかし焦りの表情を隠せないでいた。
「30秒経過!それではアイツさん答えをお願いします」
「旗が長い短いと…」
裏返しにした絵をめくろうとするマリモ。
「何やってんのダメですよ」
「わからなすぎて」
「ナイツ!マリモはできませんでした!これで俺は2問正解で金貨獲得、アイツは2回ナイツで金貨獲得ならずです」
「ちょっと待ってください!もう1個やりましょう!」
「やっても無駄だろ…とは言うが面白そうなんだよな3つ目」
「じゃあ尚のことやりましょうよ」
「わかった。次マリモが成功したらマリモの2人分自腹は無しで!」
「やった!」

  

ヒカリエ8階の事務所みたいなエリアにある廊下が最後のチャレンジの舞台である。
「ぐるぐるバット真っ直ぐ歩行チャレンジ!」
「うわあ、苦手なやつだ」
「ぐるぐるバットで10回転していただき、こちらに敷かれたカーペットからはみ出すことなく30m先のかき氷スプーンを取れたら成功、ゲッツです」
「自腹額減らしたいですからね、本気でやりますよ!」
「さあサンダルを脱いで素足になりましたアイツ、くれぐれもワンピースには気をつけてくださいね。端ない真似はよして」
「あ、タテルさんの予想は?」
「ナイツ!できないと思います!」
「ナイツしか出す気ないですよね」
「見破られたか」
「余計燃えてきました。さっきまでの私とは違いますからね!ファイナルマリモ?」
「ファイナルアイツ!」

  

10回まわり終えたマリモは、バットから手を離すと同時に倒れ込んでしまった。
「全然ダメじゃん!期待を裏切らないアイツ!」
「ああ悔しい!」
「最高に面白かったよ、アイツちゃん」
「もう…」

  

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