連続氷菓小説『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』⑤(スペールフルッタ/茗荷谷)

不定期連載『アイツはゴーラーでコイツはジェラ』
アイドルグループ「綱の手引き坂46」の特別アンバサダーを務めるタテル(25、俗称「コイツ」)は、メンバー随一のゴーラー(かき氷好き)・マリモ(19、俗称「アイツ」「天才」)を誘い出し、美味しい氷菓探しの旅をしている。

  

文教地区であるはずの茗荷谷に「アイツ」がやってきた。
「Hey, Mr.KOITSU!」
「何で英語なんだよ…」
「国際人として英語話せるようにならないといけませんから」
「だからって今練習しなくても…それになぜ裸足なんだ。今日20℃だぞ」
「タテルさんだって半袖じゃないですか。お互い様ですね」
「やばいな…」
「KOITSU is KOITSU, and AITSU is AITSU. Let’s go!」

  

「Hey,タテルさん!How are you?」
「…あいむふぁいんせんきゅー」
「もう、ノリ悪いですよ」
「ダル絡みしてくんなよ。酔っ払ってる?」
「酔ってないわ。まだ19だわ」
「はぁ…」
とは言いつつもこれがマリモの本性。その本性を目の当たりにしたタテルは内心嬉しかった。

  

湯立坂をしばらく進むとジェラートの店が現れる。通りかかる人はこぞって「ジェラート屋だ」と口にするが、中に入る人は土曜の昼間であっても少なかった。
「意外と種類が少ないな。選び甲斐がない」
「Hey,タテルさん。『栗』って英語で何でしたっけ?」
「marronでしょ。英語使うならそれくらいわかれよ」
「Oh, my god!」
「スペシャルバナナ気になるな。マジカルバナナみたいだ。マジカルバナナ、バナナといったら黄色」
「黄色といったらレモン」
「レモンといったら梶井基次郎」
「かじいも…とじろうといったら…What?」
「マリモちゃんの負け!ゴチになります!」
「急に始めないで下さいよ!それに知らない人の名前出すなんてズルいです」
「知識による暴力〜」
「はぁ…」

  

タテルは和三盆栗(下)とスペシャルバナナ(上)のダブルにした。色合いが似ていて境目がわからない。バナナはまったりした酸味が特徴的だが、スペシャルと銘打つなら濃厚さに振ってほしい気もする。一方で栗はしっかり栗の味が出ている。和三盆らしさはわからなかったが立派な栗スイーツである。

  

気に入ったマリモは例によって2周目に突入。お腹の弱いタテルは見守るだけにした。
「Your stomach is mad.」
「それどういう意味ですか?」
「マリモちゃんの胃はバカである」
「やめてくださいよ〜」
「この前も言われてたやん。これからは自己紹介でこのフレーズ使いなさい」
「No! I’m genius!」
「細かいこと言うけど冠詞忘れてるよ。geniusは名詞」
「ああそうか…一応英検持ってるんですけどね」
「何級?」
「2級です」
「マジかよ…意外とやるやん」
「高校levelですからね」
「でもそれだけじゃ英語マスターとは言えないから。まだまだ修行が必要だな」
「はーい」
「じゃあ小石川植物園でも見に行こうか」
「いいですね、行きましょう!」

  

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