連続妄想食べログ小説『クイズ王街道、驀。』Q9:永遠を冀う。

東大卒の肩書きを活かしクイズ番組でも大活躍するグルメタレント・TATERU(25)が、「宮崎美子の再来」と持て囃される気鋭のクイズアイドル・カゲ(綱の手引き坂46)と繰り広げる東北1泊2日の旅。ついに最終回。

さくらんぼ東根駅から新幹線に乗り込んだタテル。タテルの心臓の鼓動は速くなっていった。

多数の乗客が乗り込む山形駅。するとタテルの席の隣に、1人の女性が座ってきた。
「タテルさん、スーツケース忘れてますよ」

声の主は、カゲであった。
「明白に不自然な紙、貼ってありましたよ。タテルさんの行程全部バレバレです。正直もうちょっと壮大な謎解きを期待していたんですけどね」
「合格だカゲ。ついて来い」タテルはいつものように一方通行の態度を取る。
「はい、土産の梅菓子。東根で買ってきた。両親用のつもりだったけど、よく考えたらオカンあまり好きそうじゃなかった。裸でごめんな」

米沢駅に着いた。
「さあ大団円を決めに行こう。此処迄来たら…」
「米沢牛!」
しかし空振りの不安は未だ拭いきれていない。山勝ちな米沢、都心ではまず見ることのない、鴉の大群が行手を阻む。
「うわ烏だよやだよ、飛ぶ鳥怖い通れない…」
「大丈夫ですよタテルさん、私たちこうしてまた会えたじゃないですか。この道行って、米沢牛屋さんに行くのが正解ですよ」

カラスに襲われることなく、2人は米沢牛亭ぐっどに到着した。5時の開店まで5分あったが、休業のお知らせは無し、店内の灯りも点いていた。大団円を決める舞台は整った。
開店と同時に入店。平日の早い時間なので他客はいなかった。2人きりの時間を暫し堪能する。
「メニュー沢山あるね。私はサーロインステーキしゃぶしゃぶセット300gにする。あ、安心して。自分の分は自分で払うから」
「…よく食うな。俺もうそんなに和牛を食える歳じゃないし、なんかよくわからん。よし、『Goodなおすすめ』にしよう」

高畠ワインを飲みつつ待っていると、汽の立つ鉄板が来た。たっぷりの甘藍の上に、米沢牛のランプが鎮座していた。
肉を1口食べた瞬間、タテルは突如として目に涙を浮かべた。暫く言葉に詰まる。
「良かれと思って厳しい当たりもしたけど、あんたホントすごい子だよ。こんな奥さんがほしい…」
「タテルさん…」カゲもまた、涙ぐんでいた。

これまで何度も酸い目に遭ってきたこの旅。程よい霜降りの旨味が、タテルの傷を医してくれた。今まで食べ物で泣いたことはなかったタテルには、初めての感情だった。
ステーキの付け合わせとしては異端である甘藍も、良質な肉汁を吸って白飯が進む御数へと変貌する。それでいて口をさっぱりさせる役割は残っているから、肉と交互に食べれば脂の諄さも抑えられる。味噌汁や高畠ワインは薄めであるが、どこか控えめな米沢牛ステーキの脇役としては丁度良いのかもしれない。

徐々に客が増えてきたが、悦に浸り続けたい2人。
「まだ食えるな。よし、肉団子も発注だ」

この肉団子は奇跡だ。150円もしないのに、肉の旨味がぎっしり詰まっている。少し冷たいくらいの温度帯が、餡の酸味甘味のバランスを適正にしている。

「カゲのいない旅、全然楽しくなかった。やっぱ巡り合った俺らは奇跡なんだ」
店を出るともう日は落ちていた。米沢の遥かなる夜空を背に、紐育の如く早押し台が置かれていた。
「最後のクイズは俺も参加する。俺とカゲのタイマンだ。出でよ、天の声!」

最終ステージはハヤオシです。10問先取、お手つきはマイナス1ポイントです
「あ、聞こえた!山形弁の可愛らしいおばちゃんの声!」
「水の文化系TV楽しかった!ありがとう!」

問題!イタリア語で「山」と「神」…
「モンテディオ山形!」
正解!カゲちゃん1ポイント!
「こりゃムリだ。俺サッカーはわからん!」
「へへ。ラッキー問題とっちゃいました」詼けるカゲ。

問題!ズバリ、2の10じ…
「1024!」
タテルくんお見事!
「東大生ならこれくらい覚えて当然です」
「6の10乗なら覚えていたのに…」

「シャンプー!」
タテルくん正解!
「いちご!」
カゲちゃん正解!
和気藹々としつつも、一進一退の攻防が続いた。9-9で迎えた次の問題。

問題!『何度でも』はドリ…
「日向坂46!」

お見事!10-9でカゲちゃんの勝ち!タテルくん0.02秒差で負け!

「いやぁ押し負けた!」
「タテルさんに勝てて光栄です!楽しかった、この旅!」
「俺も楽しかったよ」
「自分、まだまだ知らないことだらけ。世の中のありとあらゆるもの、もっと知りたいな、って思いました」
「俺もだカゲ。自分には足りていないものがたくさんある。この旅を通して気づけた」
「これからも2人でいろんなこと、お勉強しましょう」
「うん!ありがとうな、カゲ」

タテルくん、カゲちゃん、遖!2人共仲良くね!

東京へ帰る2人を、米沢の天の声は明るく送り出した。

—完—

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